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2006.08.17

「名作日本の怪談」 四大怪談ここに集結

 何時もながらに怪奇・伝奇の世界に一種アカデミックなようなそうでないような角度から切り込んで下さる我らが志村有弘先生の手になる新作は、夏らしく怪談、それもタイトル自体は広く人口に膾炙しながらもその全体像を知る方は存外少ない名作怪談集です。

 収録されたのは「四谷怪談」「牡丹灯籠」「皿屋敷」「乳房榎」と四大怪談とも言うべきメジャーどころ(新刊情報では「五大怪談」となっていたのはキニシナイ!)。
 「乳房榎」はちょっとあれかも知れませんが、その他三編については日本人であればほとんどの方がご存じの怪談かと思いますが、しかし例えば南北の「東海道四谷怪談」が如何なる構成の作品であるか、あるいは円朝の「怪談牡丹灯籠」の全体像がどのような姿であるか、ということになると、これは首を傾げる人も多いかと思います。

 かく言う私もあまり偉そうなことは言えず、「東海道四谷怪談」については朧気に、「怪談牡丹灯籠」については途中まで(なぜ途中までかと言えば、ここ数年桂歌丸師匠が少しずつ高座にかけているのを聴いていたのですがそれがまだ完結していないので)しか知らない状態で、恥ずかしながら本書を読んで、こういう内容だったのか! と感心した次第です。

 そういう意味では誠に結構な本書なのですが、しかし、いつものことながら簡明である意味淡々とした文章ゆえに、純粋な怪談としての味わいがどれだけあるかと言えば、これは正直微妙な印象があります(もっともこれは文体のためというよりは、舞台上で演じられる/語られるために作られた作品を文章化することから来る構造的な問題も大きいかと)。

 また、こちらは完全に原典由来の問題ですが、因果因縁と忠義孝心によるデコレーションが、現代人の目から見るといささか鼻につくように感じられるかもしれません。
 もっとも、忠義や仁愛といった感情とは無縁の人間が織りなす人間地獄絵図とも言うべき「四谷怪談」は、それ故に現代の我々の心にダイレクトに響くものがありますし、「牡丹灯籠」のお露と新三郎の物語が前半で終わり、後は色と欲で動く人間たちの物語となる構成も、かえってお露の純粋な感情を際だたせているようで、興味深く感じられます。

 帯に短し襷に長しの観もなくはない本書ですが、しかしこれだけ安価で名作怪談の原典に、それも四編も接することができるのはとてもありがたいことですし、更に深く原典に触れ、原典について考えるステップとしても意味を持つ一冊かと思います。


「名作日本の怪談 四谷怪談・牡丹灯篭・皿屋敷・乳房榎」(志村有弘編 角川ソフィア文庫) Amazon bk1

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