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2006.08.12

「旗本花咲男」 幻のヒーローここに復活!

 約十五年前に発表された作者幻の作品が、なんとベスト時代文庫から復活。それも、雑誌掲載のみ&未発表分も含めた完全版上下巻としての刊行です。
 「なんと」と書いたのは、本作が、ライトノベルという言葉もまだない(なかったよな?)頃に早川書房から刊行されていた若年層(ハヤカワ的にはYAと呼ぶべきか)向け小説誌「ハヤカワHi!」に連載されていた作品ゆえ。その作品がバリバリの時代小説文庫から復活するというのは、内容的には不思議ではないのですが、当時を知る者としては不思議な気分になりました。

 と、ジジイの昔語りは置いておくとして、タイトルだけ見れば言うまでもなく「旗本退屈男」のパロディと思える本作。主人公の名は茶乙女留主水介(ちゃおとめ・るもんどのすけ)、額には臀部の割れ目に似た桃割きず、必殺の諸屁流真顔くずしの使い手で将軍から殿中放屁御免の御墨付を頂戴したとあらば、これはどうみても人呼んで旗本退屈男こと、早乙女主水之介のパロディなのですが…実はパロディなのはこのくらいで、その実は非常に真っ当な(?)ユーモア活劇時代小説であります。

 太平の世の旗本らしく(?)暢気で太平楽な留主水介ですが、生まれついての好奇心ゆえかはたまたそういう星の巡り合わせなのか、将軍吉宗の御落胤・鰻一坊の出現、大盗・日本左衛門の跳梁などなど次から次へと難事件・怪事件に巻き込まれることに。
 かくて留主水介の尻が唸りをあげ、先祖代々の放屁術が大活躍することとなるのですが、そんな主人公の荒唐無稽ぶりと裏腹に、登場人物や舞台背景、起きる事件のディテールは実にきちんと描かれていて、下手な時代小説など及びもつかぬほどのしっかりした作品となっているのには驚かされました。

 旗本退屈男のパロディ主人公が、放屁術で暴れ回ると書くと、どうにも馬鹿馬鹿しい、現実離れした作品のように思えるかもしれませんが、それ以外の部分をきっちりと描き込むことにより、その第一印象をうまく緩和するとともに、物語の生々しい部分、どぎつい部分(登場する悪人の所業の中には、他でも滅多にお目にかかれないような凶悪無惨なものもあったりして)を巧みにオブラートに包んで、ひたすら明るく楽しい物語として成立させている本作。
 どんなにシリアスな、重い物語であっても、どこか爽やかさを感じさせる作者の作風は、この頃から培われてきたのだなあと感心いたしました。

 ちなみにここで恥を忍んで白状すると、ハヤカワ文庫から最初に単行本化(今回の文庫の上巻に相当)されたのを読んだ際には、このまっとうさが目立ってかえって面白いと思えなかったのですが、あれは我ながらまったくもって見る目がなかったわいと、今更ながらに冷や汗をかいた次第(一点言い訳をすると、YA向け雑誌・YAレーベルの文庫で展開するような作品ではなかったよなあ…とは今でも感じます。あれはYAファン、時代小説ファン双方にとって残念な出会いだったような)。

 何はともあれ、ながらく幻の作品となっていた本作が、完全版となって復活したのはまことにめでたいお話。宮本ファンはもちろんのこと、楽しく面白い・明るい気分になれる時代小説をお探しの方には強くお勧めいたします。


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