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2006.08.03

「大剣豪」 パロディーという現実認識

 パロディ・パスティーシュで鳴らす清水義範氏の作品の中から、時代ものを集めた短編集。収録された作品の傾向は二つ、お得意のパロディ地獄で時代劇の世界を描いた作品群と、基本的にパロディ抜きの真っ当な(?)作品群に分かれています。

 まず第一のグループ、表題作「大剣豪」をはじめとする「笠地蔵峠」「大江戸花見侍」「ザ・チャンバラ」のパロディ群は、どこかで見たようなシチュエーションに、どこかで見たようなキャラクターたちが、これでもかと言わんばかりに詰め込まれて、とにかく難しいことを考えたら負けの、いい意味で実にしょーもない作品ばかり。ノリで言えば、ほりのぶゆきの時代劇パロディ漫画に近いものがある、と言えば、何となくおわかりいただけるかと。
 個人的には、この中で一番楽しませていただいたのは「笠地蔵峠」。タイトルを見れば一目瞭然、中里介山の「大菩薩峠」のパロディたる本作、文体も原典に則して「ですます」調で、巡礼の老爺が、主人公に理由もなしに斬られるシーンから始まり、主人公の机龍之助ならぬ抽出梁之助の魂の遍歴が始まるわけですが…違うのは、物語の進行速度が原典の十数倍、いや数十倍あること。そのスピード感たるや、それ自体がパロディといえるほどなのですが、それで時空が歪んだのか、とんでもないゲストが登場してある意味夢の対決となったところで…という展開にはもう口アングリでありました。

 一方、ぐっとシリアスな作品群の方。実は本書を手にしたのは、ここに収められた「天正鉄仮面」を読みたかったのですが、これが期待通りの面白さでありました。
 主人公はあの大盗石川五右衛門。ふとしたことから細川幽斎邸におかしな動きがあることを知った彼は、興味からその謎を追いますが、背後に秀吉の影があることに気づきます。なおも謎を追う五右衛門は、謎の人物が幽斎邸から大坂城に移送されたことを知り、遂に大坂城にまで忍び込みます。
 が、そこで出会ったのは、鉄仮面を被せられた一人の人物。賓客の如き扱いを受けながらも仮面の虜囚となったこの人物の正体は…もちろんここでは触れませんが、短編ながら堂々たる大伝奇で、ラストで二つの史実につながるあたりも含めて唸らされました。

 そしてまた、それ以外の非伝奇小説についても、期待以上の面白さでありました。特に、信長の囲碁相手であった僧が語る信長像「三劫無勝負」、タイトル通りの人物から見た山内一豊の出世ぶりを描く「山内一豊の隣人」などは、人知の及ばぬ歴史の巨大な力を目の当たりにした思いを抱かされましたが、何よりも感心させられたのは、作者のその歴史を語る手法です。
 ここに収められた作品の多くに共通するのは、歴史上のある人物、ある事件を描くのに、第三者の目を通していること。上記二作品はもちろんのこと、舅から見た太閤記である「どえりゃあ婿さ」も同様ですし、さらに言えば「天正鉄仮面」もまた、五右衛門の目から見た秀吉像が克明に描かれておりました。

 物事を描く際、真っ正面から直接的に描くよりも、なにがしかのフィルターを通して描いた方が、不思議なことにかえってクリアにその対象の本質が見えることがしばしばありますが、ここで作者が取った手法はまさにそれでありましょう。

 そしてまた――そのフィルター越しに物事を描く手法に、笑いというスパイスを加えれば、パロディというものになります。
 なるほど、パロディは作者一流の現実認識の手段せあったか、と非パロディ作品というフィルターを通すことにより、今更ながらに(本当、今更…)気づかされた次第です。


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