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2006.08.07

「東山殿御庭」 一休、ぬばたまの闇を往く(その1)

 朝松健の一休シリーズ最新作として発売された本書。一休シリーズは活劇色の強い長篇と、怪奇色の強い短編が存在しますが(最近は幻想色の強い「暁けの蛍」という作品もありますが)、本書は後者を五編収録した短編集。いずれも「異形コレクション」にて発表された、いわばお題ありきの作品なのですが、どの作品も、そのお題に応えつつ、そんな縛りを一切感じさせない独立した作品としてきっちりと成立している、作者ならではの見事な室町伝奇ホラーなのには感心させられます。
 以下、一作ごとに採り上げて簡単に解説いたします(タイトル脇のカッコ内は、収録された「異形コレクション」のテーマ名)。

「尊氏膏」(「蒐集家」)
 奇病に取り憑かれた鎌倉公方足利持氏を救うため、治療薬たる尊氏膏を求めて奥秩父に向かった一休が見た、尊氏膏の「原料」とは――と、狂気の蒐集家の集めた「もの」の恐怖(というか「もの」が…)を描いた本作。一言で言えば、いきなり地獄。
 奇病と、その治療薬の材料を得るために人を捕らえ、苛む者という構図は、やはり真っ先に「神州纐纈城」が浮かぶわけですが、しかし、本作ではそんなこちらの予想を(厭な方向に)飛び越えて、作者ならではの、恐ろしく絢爛なまでにビジュアライズされた恐怖と狂気の世界を描き出していて圧倒されます。
 特に中盤以降、転がり落ちるように地獄絵図が展開されていく様は、作者のいい意味で悪趣味な一面が出たものと申せましょうか。ただただ圧倒されます。

「邪笑う闇」(「獣人」)
 とある山麓の鄙びた里を訪れた一休が、「しゃが様」なる魔物と対決するも…という内容の本作は、本書の中では比較的ストレートな怪異を扱った作品。年に一人、里の娘を要求する魔物を退治する旅の僧、というのは、民話などによくあるモチーフですが、もちろんよくある内容で終わらないのが朝松作品。
 「異形」収録時に初読した際に強く印象に残りましたが、それまで描かれてきた肉体に対する恐怖が、一転、ラスト間際で精神に、魂に対する恐怖へと変貌する呼吸は見事かと思います。

「甤」(「アジアン怪綺」)
 題名の「甤」は、「豕」に「生」まれるという意味(…うぇっ)の字。そんな不思議な題名の本作は、異国人や臑に傷持つ者たちが集まった小浜の港を舞台にした悪夢めいた作品、そのインパクトでは本書で一番ではないでしょうか。
 助けを求める一人の道士と出会った一休。師の愛妾と駆け落ちしてきた彼ですが、美しい恋人には師におぞましい呪いをかけられたというのです。そこで一休はその呪いと対峙せんとするのですが――。不実な美女の肉体にかけられた呪いと言えば、真っ先に浮かぶのは谷崎潤一郎の「人面疽」ですが、本作はそれを遙かに上回る、地獄としかいいようのない世界が展開されます。
 その呪いの正体については、さすがにここで明かすわけにはいきませんが、異人の吹き溜まりたる小浜(この描写がなかなか魅力的で、本作のみで終わらせるのが勿体ないほど)の者たちに不自然なまでに避けられる道士と恋人、美女の潜む蔵に充満する悪臭、蔵の周囲に埋められた女の…と、恐怖をじわじわと煽っておいて、ラストでドン! と一気に明かされるその姿たるや――本作ばかりは、己の想像力の限界に感謝したいところです。


 残る二編については、また後ほど。


「東山殿御庭」(朝松健 講談社) Amazon bk1

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コメント

おひさしぶりです。
「甤」ですね。
テキストエディタかメモ帳でエンコードをUTF-8にセットしてからコピーすると、出るはずなんですが。
本文はUTF-8なので、出ると思うのですが、コメントだと変わっちゃうところもあるので、「?」に化けるかな?
もし、化けちゃったら、このコメント、削除してください。

おひさしぶりの書き込みが、こんなつまんない内容で申し訳ないです。

投稿: 未来 | 2006.08.07 13:59

「甤」出ました! すごい!
どうもありがとうございます。チャレンジしてみないであきらめてはいけないですね。どうもありがとうございます。

投稿: 三田主水 | 2006.08.08 00:17

甤に、どこかで似たようなものを最近見ました。幕府お抱えの巫術師の右腕だった妖艶な神官が魔の残留思念に魅入られ魔道に落ちる話です。

投稿: チュンリー | 2011.08.02 01:21

チュンリー様:
なんでしたかね、そのお話…確かにどこかで見たような…うう、気になります

投稿: 三田主水 | 2011.08.03 23:48

その話は、魔に乗り移られた神官は、魅入られたからと言って悪になったわけではなく、動物に餌を与えたりもしていました。
似た話は、魔界転生やサムライスピリッツなどがありますね。
憑依譚は、結構読むとはまりますよね。

投稿: チュンリー | 2011.08.05 03:19

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