« 「BEAST OF EAST」 眩暈するほどの絢爛豪華な伝奇絵巻 | トップページ | 「白狐魔記 源平の風」 狐の瞳にうつるもの »

2006.08.05

「織江緋之介見参 孤影の太刀」 過去と現在を貫く妄執

 織江緋之介シリーズ第三弾は、宿敵松平伊豆守の執拗な攻撃をかわしつつ、緋之介が保科正之の娘の変死事件と、江戸で頻発する鷹匠の怪死事件の、二つの謎に挑みます。

 あいも変わらず吉原で暮らす緋之介に、親友である徳川光圀が依頼したのは、光圀の妹・沙弓の幼馴染みであり保科正之の娘・媛姫の、嫁ぎ先での不自然な死の真相の調査。表だっては動けぬ光圀らに代わり探索に当たる緋之介ですが、大名家の奥向きのことであり、探索は遅々として進まず。それどころか、鷹匠が引き起こした刃傷沙汰に巻き込まれ、思わぬ敵を増やすことになります。

 果たして媛姫の死は事件なのか事故なのか。頻発する鷹匠絡みの事件の原因は何なのか。そして、この両者の間に関係はあるのか…
 己の命が旦夕に迫ったことを悟り、これまで以上に執拗かつ陰湿に迫る松平伊豆守の攻撃をかわしつつ、一歩一歩二つの事件の真相に迫っていく 緋之介が見たのは、数十年の過去と現在の権力者の妄執というべきもの。
 これまでの作品においても、作者は、史実の伝奇的な解釈を通して、権力に憑かれた者の醜さ・邪悪さとそれに対する怒りを描いてきましたが、その姿勢は本作でも変わりません。本作では松平伊豆守と対立し、その地位を狙う存在として阿部備前守が登場しますが、敵の敵は味方ならず、緒戦は同じ穴の狢である備前守に組みすることなく、緋之介は孤影を落としつつ往くこととなります。

 正直なところ、シリーズ第二作においては、キャラクターの描写が今ひとつの印象があったのですが、本作は上で述べたような「上田節」を抑えつつ、キャラクターそれぞれが躍動感を持って描かれており、充分以上に楽しむことができました。
 そして、更なる権力者との対峙の道を選びつつ、一人の女性の幸せを守るために戦うことを決意する緋之介の姿は、時代劇ヒーローとして、そして一人の男として非常に魅力的であり、彼の行く先をこれからも見届けたいと思った次第です。

 なお、本作では、緋之介を導く存在として、もう一つの小野一刀流の流祖であり、緋之介の叔父である小野忠也が登場。なるほど、この人物がいたか! と、人物チョイスの妙に感心させられると同時に、まさに剣鬼ともいうべきこの人物のパーソナリティーに戦慄させられたことです。
 まだ出番は多くありませんが、果たして物語にどう絡んでくるか、こちらの行く先も楽しみです。

「織江緋之介見参 孤影の太刀」(上田秀人 徳間文庫) Amazon bk1

関連記事
 悲恋の太刀 織江緋之介見参
 待望の続編、なのだけれど 「不忘の太刀 織江緋之介見参」

|

« 「BEAST OF EAST」 眩暈するほどの絢爛豪華な伝奇絵巻 | トップページ | 「白狐魔記 源平の風」 狐の瞳にうつるもの »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/11278489

この記事へのトラックバック一覧です: 「織江緋之介見参 孤影の太刀」 過去と現在を貫く妄執:

« 「BEAST OF EAST」 眩暈するほどの絢爛豪華な伝奇絵巻 | トップページ | 「白狐魔記 源平の風」 狐の瞳にうつるもの »