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2006.09.28

「少年忍者風よ」 社会変革者としての忍者

 あの横山光輝先生と、「流され者」の葉山伸(羽山信樹)がコンビを組んだという時代コミックファン垂涎の本作、長らく幻の作品となっておりましたが、この度めでたく単行本化(それも文庫として)の運びとなりました。ファンとしては嬉しいかぎりです。

 時は幕末、身が軽いことを除けばごく平凡な腕白小僧だった風太が、町で不思議な術を操る男――牙波羅と出会うところから物語は始まります。好奇心から牙波羅の課す試練を次々とクリアしていく風太は、己が自然を操る忍者・鈴鹿衆の血を引くことを知ります。が、その時両親が何者かに殺害され(実は覚悟の自決)、犯人が幕府の伊賀忍者と告げられた風太は、牙波羅と旅立ちます。
 そして牙波羅が風太を預けたのは、多摩の天然理心流道場。若き日の近藤勇らと修行する風太ですが、その中で土方歳三は、風太の持つ殺伐の気に惹かれ、いつか彼を斬る日を夢見て風太に苛烈な稽古をつけるのでした。
 が、道場に山崎烝が顔を見せたことで状況は一変。実は伊賀者であった山崎は、風太が鈴鹿衆の末裔と気づき、彼を抹殺すべく伊賀者たちが風太のもとに殺到することとなります。土方の助けもあり、かろうじて窮地を切り抜けた風太ですが、道場を離れて何処かへ姿を消すのでした。
 ――というのが第一部のあらすじ。その後、物語は京都を舞台とし、鈴鹿衆の一員として桂小五郎らを助ける風太が、土方と池田屋事件を背景に激突する第二部、そして両親の仇(と彼が信じ込んだ)・伊賀者たちとの決戦を描く第三部と続きます。

 横山作品としては非常に珍しい幕末を舞台とした本作は、ジャンルとしては上記のあらすじの通り、忍者ものという分類になりますが、他の横山作品の忍者ものとは一風変わった味付けとなっています。
 主人公・風太が属する忍者・鈴鹿衆の特徴は、自然と親しみ、そして自然を武器と――たとえば鳥獣を自在に操るなど――すること。その鈴鹿衆が幕府から厳しく弾圧され、伊賀者をはじめとする公儀隠密と死闘を繰り広げてきたのは、ひとえに彼らの理想が、万民が平等に暮らせる世の構築であったため。
 風太が伊賀者と戦う理由こそ復讐のためではありますが、しかしその背後にあるのは一種のイデオロギー、社会変革の意志であり、この点が本作の大きな特徴であると言えるでしょうか。そしてこれはやはり、原作者たる葉山氏のカラーが強いのではないかと思います。

 そのため、というわけでもないでしょうが――一応の区切りはついているものの――明らかに中途で終了してしまっている本作。
 ストーリーの点で考えると、復讐という目的を果たし、同時にそれが虚構のものであったことを知った風太が、真に鈴鹿衆として目覚め行動していく様と、土方と新撰組、そして幕府の落日の様が平行して描かれる構想ではなかったか、そしてラストはやはり五稜郭で風太が土方の死を看取るのではなかったか?
 ――と、勝手に予想するのですが、それは妄想としても、社会変革者としての忍者という、むしろ白土三平作品的存在を、この先連載が続いていれば、横山先生が如何に描いていたのか…中絶がかえすがえすも悔やまれます。


 などと論じた後に、真面目な横山ファンの方から怒られそうなお話でなんですが、本作の土方のキャラクターは、ちょっと危険人物。風太に寄せる執念が、客観的に見ても尋常でなく(他の登場人物幾人かからも指摘されているほど)、風太のことを考えた後に、いらだちをを静めるため頭から井戸水を被るシーンなど、どう見ても特殊な趣味の方です。
 しかも、ケガをした風太に「まったく心配かけさせおって」(ここでハッと気付いて)「いやだれもおまえのことなど心配しとらん(中略)おまえをきるのはおれだ だからだれにもてだしはさせん」とテンプレ通りのツンデレぶりを見せつけてくれるのには感動すら覚えました。
 第二部でも、成長した風太との再会に執着するあまり、それを邪魔した(土方ビジョン)山南と真剣勝負を始めてしまう土方さん。果たして連載が続いていれば土方さんはどこまで行ってしまったのか、もしかして風太のために新撰組が滅んだんじゃないかと不安になるほどですが、そういう意味からも、中絶が悔やまれることです。


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