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2006.09.01

「白狐魔記 蒙古の波」 狐が見つめる人間の、武士の姿

 人に変化する術を身につけた狐・白狐魔丸から見た人間の歴史を描く「白狐魔記」の第二巻は、源平合戦の時代を描いた前作からだいぶ時は流れて文永・弘安期――すなわち元寇を背景としています。

 人間の力で活動したためか、深い眠りに襲われた白狐魔丸が目覚めてみれば時は文永の頃。京に出た白狐魔丸は、そこで六波羅探題南方の北条時輔の郎党・小平太と知り合い、時輔の食客となります。が、時輔は弟・時宗に攻められて小平太も戦死。彼の死を看取った白狐魔丸は、絵を好んだ小平太の友人である竹崎季長という武士を探す旅に出ることとなります。
 ようやく九州で季長を探し当てた白狐魔丸ですが、時はまさに元の来襲寸前。白狐魔丸は、不思議な人間味を見せる季長を守って力を発揮し、白狐魔丸の師である仙人が起こした神風により元も撃退されます。
 それから月日は流れ、白駒山に戻って修行に励む白狐魔丸の前に現れたのは、モンゴルからやって来た妖狼ブルテ・チョノ。白狐魔丸同様人に変じる力を持つ彼は、何故か白狐魔丸のことを昔から知っており、白狐魔丸に見せるものがあると告げます。彼の言葉に興味を覚えた白狐魔丸が、博多に侵攻してきた元の船で見たものは、元の日本侵略の真の目的…

 というストーリーの本作、白狐魔丸から見た人間の、なかんづく武士の姿を描くと同時に、謎の妖狼ブルテ・チョノという、白狐魔丸とある意味同様の存在との出会いと対決、そしてその中で明かされる元の――国祖チンギス・ハンの頃から企図されていたという日本侵略の目的といった、伝奇エンターテイメントとしての要素も色濃くあって、本作の対象年齢からだいぶ上の私でも楽しむことができました。

 正直なところ、眠りについて目覚めてみたら85年後、という展開は工エエェェ(;´Д` )ェェエエ工という印象ですし、白狐魔丸の武士に対する思いも非常に一方的に見えてしまうのですが、前者は長いタイムスパンの長編連作シリーズとして成立させるために仕方ない措置かと思いますし、後者は、まあ文字通り人間経験の浅い狐君のことだからまあいいか、と勝手に納得。

 そんな細かい(?)ところよりも、本作で楽しむべきは上記の伝奇的趣向と、もう一つ、白狐魔丸の友人となる人間の武士・竹崎季長のキャラクターでしょう。歴史に興味のある方であればニヤリとするであろうこの人物、史実では二度に渡る元寇に対し最前線で活躍した武士であり、また歴史の教科書にも載っている「蒙古襲来絵詞」を遺した方でありますが、本作での描かれ方はそれを踏まえたユニークなものとなっています。
 絵を描くことを愛し、その絵を通じて知り合った友・小平太の非業の死には涙を流して悲しむ。その一方で、元の侵攻に対しては、自分の領地獲得のために戦い、目立ちまくって手柄をあげてみせると息巻く、喜怒哀楽の豊かな、まさしく人間くさいキャラクターとして描かれており、白狐魔丸ならずとも好感を覚えます。
 彼のあまり武士らしくないメンタリティーは、己の主義主張で人を殺し、殺される武士嫌いの白狐魔丸にとっては非常に不思議なものであり、白狐魔丸の人間観・武士観に――すなわち「白狐魔記」という物語のテーマに――影響を与える存在であると同時に、そんな人間くさい動機とは正反対の、冷徹で一種機械的とすら言えるブルテ・チョノ(とその背後にいた人物)の行動原理と対比して描かれたものと言えるのでしょう。

 何はともあれ、再び深い眠りについた白狐魔丸。シリーズ第三巻は南北朝時代、そしてつい最近刊行された第四巻では織田信長の時代と、次々と戦乱の時代を目撃していくようですが、その中で白狐魔丸が、人間という存在、人間の作る歴史をどのように見つめていくのか、私も引き続き目撃させてもらおうと思います。


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