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2006.09.20

「世話焼き家老星合笑兵衛 悲願の硝煙」 ノーブレス・オブリージュとしての武士道

 以前紹介した際に、是非とも続編を! と希望した「世話焼き家老星合笑兵衛 竜虎の剣」の続編がとうとう登場しました。江戸に居を移した星合家の面々が、将軍吉宗暗殺の陰謀阻止をはじめとする難題の数々に、世話焼きスピリットで立ち向かいます。

 前作で幕府への藩政返納という一大事を成し遂げた元・倉立藩の家老である笑兵衛は、江戸に出て悠々自適の生活。しかし子供たちは、深川で女郎屋を営む長女・蛍を除いては、慣れぬ生活に焦る毎日。
 そんなある日、次女・桜が知り合ったのは、甲賀組の亀石又八という老人。吉宗による御庭番創設により、隠密としてリストラされてしまったこの老人に同情した桜は、父に彼らの身の立て方を相談することにします。
 一方、笑兵衛の方には、尾張藩が吉宗暗殺を企んでいるとの情報が。折しも山王天下祭を目前に控え、将軍の警護
に頭を悩ます大岡越前守も、一目置く笑兵衛に相談を持ちかけます。
 星合家の面々の奔走により、徐々に明らかになる将軍暗殺計画。が、そこには現在の境遇に不満を持つ、又八の息子・喜一郎が加わっていたのでした。さらに、尾張藩に協力する大盗賊・雲霧仁左衛門一味までも登場。複雑に状況が絡み合う中、果たして星合家は吉宗を、そして亀石家の人々を救うことができるのか!?

 というのが今回のあらすじですが、前作とはまたベクトルが異なるものの、一見不可能に見えるミッションに、笑兵衛を中心とした星合家の人々が立ち向かうというスタイルは本作も同様。
 単に吉宗暗殺計画を阻むだけならばまだ難しくないものの、不遇をかこち、血気のあまり将軍暗殺の実行犯に選ばれてしまった喜一郎を、罪におとさず救わなければならないのだからややこしい。さらにこれにリストラされた甲賀組の面々に活躍の場所を与える話もあって、何をどうすればよいのか、まったくもって難問としか言いようがありません。

 が、星合家の面々、そしてその仲間たちを見ていると、その難問も決して解けないものではないと思えてくるのが不思議。笑兵衛の引いた設計図の下、それぞれがそれぞれの持てる力を発揮して活躍し、陰謀を覆していく様は実に痛快です(にしてもクライマックスで描かれる暗殺阻止の秘策のあまりの豪快さには、はじめびっくり、次に爆笑してしまいましたが…)。

 しかし何よりも痛快で気持ちよいのは、笑兵衛の、そして星合家の人々の精神の気高さでしょう。
 世話焼きは道楽、と言い切る笑兵衛は、一見太平楽なお節介焼きに見えますが、しかしその世話焼きに命と、己の持てる知恵と業の全てをかけて悔い無しなのが彼の生きざま。そしてそしてまた――それが戦う力を持たぬ庶民のためであればあるほど、彼の世話焼きスピリットは奮い立ちます。
 そんな笑兵衛のユニークなメンタリティを生み出したのは、彼が家老を勤めていた倉立藩が、そもそもが家康に仕えた職人たちが祖となったものであり、身分の隔てなく、各人が己の持てる技術と、それを活かすことに誇りを持つ気風があるため。それゆえ、笑兵衛、そして倉立藩に生まれ育った彼の子供たちが、己の持てる力を、その力を持たぬ人々のために――世話焼きという名で――ためらいなく使えるのは、彼らにとっては当然の行いではあるのですが、しかし同時に、封建社会においては異端ながら、人間として賞賛すべき心の表れがそこにはあります。
 そしてそれは一方で、単なる支配者の理論としてでなく、ノーブレス・オブリージュとしての武士道――笑兵衛はそんな大上段に振りかぶった表現を笑い飛ばすかもしれませんが――というべきものであり、実に気持ちよく、そして現代人の我々にとって素直に共感できる気高い精神と言えます。

 もう一つ、これは物語上のテクニックとして感心したのは、星合家という一つの家族を中心に据えることにより、バランスよく様々な年代のキャラクターを登場させていること。この一人一人が、実に個性的・魅力的で、老若男女、様々な層の読者が手に取ったとしても、それぞれが魅力を感じ、共感できるようになっているのはうまい物語設計かと思います。
 また、キャラクターの立たせ方には、作者のもう一つの活躍分野であるライトノベルの骨法が働いているのではと感じますが、これは偏見かしら。

 正直なところ、上記の通り様々な難問を設定することにより――もちろんそれは最終的に一つの流れに収束するわけですが――物語の軸が少しぼやけたきらいはありますが、全体の魅力からすれば小さなものと言ってよいでしょう。まだまだ黒幕・強敵は健在のようですし、これからも星合家の痛快な世話焼きを期待したいと思います。


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