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2006.09.15

「忍法剣士伝」 作者の自己評価とは裏腹の快作

 いきなりで恐縮ですが、山田風太郎先生の自己評価は少し辛すぎる(あるいは評価軸がちょっとずれている)のではないかというのは、ファンであれば一度は感じたことがあるのではないかと思うのですが、私個人がそれを一番感じたのがこの「忍法剣士伝」。戦国末期を舞台に、十二人の超一流の剣豪が一人の美姫を挟んで死闘を繰り広げる剣豪小説の白眉であります。

 舞台となるのは戦国の名門・北畠家。当主・北畠具教は自身が卜伝流を極め、秘剣“一の太刀”を修めたという剣豪大名でありますが、織田信長の猛攻の前に家の運命は風前の灯火、具教を慕う当代随一の武芸者十二人が集結するも、事態はいかんともし難く、心ならずも信長の愚鈍な次男を、北畠の姫君・旗姫の婿に迎えざるを得ない次第となります。
 が、そこに横槍を入れたのが北畠家に仕えていた忍者・飯綱七郎太。旗姫に邪恋を抱き、そして武芸者たちに怨みを持つ七郎太は、かの果心居士の下で会得した「びしゃるな如来」なる幻法を旗姫にかけたのでありました。その効果は――姫を見た男たちは皆色欲に狂い、しかして一定の距離に近づくと精を漏らしてしまうというもの。
 七郎太の執念たるやおそるべし、北畠家を護るはずの十二人の武芸者は、一転して旗姫を狙う餓狼と化す始末。七郎太の弟弟子であり、密かに姫を慕う忍者・木造京馬は、姫を連れて――もちろん彼も術の効果を受けるわけなのですが――十二人の武芸者の攻撃を交わしつつの逃避行に出ることになる、というのが基本的な設定であります。

 しかしいかに京馬が優れた忍者とて、基本的に十二人の武芸者>>>(超えられない壁)>>>忍者な本作、真っ向から立ち向かったのでは到底敵うはずもありません。そこで彼が採った策は…武芸者たちを互いに相争わせること。元より、姫を奪うことが目的の武芸者たちにとって、自分以外はライバルであり――そして何より、天下一を目指して腕を磨く彼らにとって、姫のこと抜きにしても他の武芸者との対決は、むしろ本望と言えます。
 そこで繰り広げられるのは以下の六組のスペシャルマッチ。最初に本作を「剣豪小説」と述べたのはまさにこの点に因ります。

林崎甚助  対 片山伯耆守
諸岡一羽  対 富田勢源
宮本無二斎 対 吉岡拳法
宝蔵院胤栄 対 柳生石舟斎
鐘巻自斎  対 伊藤弥五郎
上泉伊勢守 対 塚原卜伝

いずれも、時代小説ファン、剣豪小説ファンであれば、思わず天を仰いで嘆息したくなるような組み合わせ、元より山風作品には一種の「対決の美学」というか、要するに「これとこれを組み合わせると面白いよね」という点において凄まじい冴えがあるわけですが、本作でもそれは遺憾なく発揮されていると言えましょう。上記の六つの対決は、いずれも明確なテーマが設定されており、そのテーマを間に置いて対峙しあう二人の剣士の武術の――ひいては生き様のぶつかり合いは、見事という他ありません。

 が…山風先生の自己評価では相当低いのですね、本作。同工異曲を何よりも嫌う先生のこと、剣豪対決というシチュエーションにオリジナリティを感じなかったのかな、と思いますが、少なくともこれ単独で読んだ場合の面白さ、完成度という点では、他の作品におさおさひけを取るものではない、と私は思っております(ただ、オチ(○○○○の叛心の芽生えるきっかけ)はあまりにもベタかなあ、と感じてはいますが)。

 まあ、ぶっちゃけた話、角川文庫版の佐伯俊男先生の表紙イラストがあまりにも素晴らしいのが(いや、本当に格好良いんだこれが)、私の評価が甘くなる一因のような気がしないでもないですが、それはさておき、山風ファンはもちろんのこと、最近あれやこれやの作品の影響で剣豪というものに興味を持ち始めた方には特にお薦めしたい作品です。


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コメント

身も「忍法剣士伝」は屈指の名作と感じており申した。いずれこの作品、および忍法について、一部、香山滋と山田風太郎との潜在意識下のライバル心など交えて論じたく思う次第。

投稿: 机デスクノ介 | 2006.09.16 18:52

ご賛同いただき恐縮です。それにしても山田風太郎と香山滋とは非常に興味深い取り合わせ。いずれお話をうかがえる日を楽しみにしております。

投稿: 三田主水 | 2006.09.17 22:22

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