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2006.09.30

「処刑御史」ノンストップアクションの快作、だけど…

 友達に貸すことになったので、その前にもう一度読み返してみましたのでその印象を。あらすじなどは以前の記事をご参照下さい。
 以前にも書きましたが、東北生まれで関東育ちの私としては(後者はあんまり関係ない)正直なところ伊藤博文が大嫌いなので、果たして冷静に最後まで読めるかしらんと思いましたが(正直、こちらの方の複雑な心境はよくわかります)、大丈夫、普通によくできたノンストップアクションの快作でした。

 まあ、別に伊藤博文が生きても死んでも、俺には関係ないし~とか、さんざん本の中で格好良いこと言っても史実では結局…じゃないのよ、とある意味伝奇時代劇ファン失格なツッコミをしたくもなりますが、そういうひねくれた見方を止めれば素直に面白く読める作品であります。明らかに「仮面の忍者赤影」リスペクトなシーンもありましたし、電気百足など一体脳髄のどこを絞ればこんなアイディアが生まれるのだ、というネタもあり、荒山ファンであれば問題なく楽しめるかと思います(同じく歴史上の人物が主人公であった「魔岩伝説」に比べると、物語中での主人公の成長・葛藤があまり明確でないのが気になるところではありますが、これは物語の構造が大きく異なる以上、言いがかりに近いものでありましょう)。

 個人的に印象に残ったのは、処刑御史最後の一人にして短銃の名手・応七が異常に格好良く描かれていること。この応七の「正体」は、少しでも近代史に(あるいは伊藤博文の生涯に)興味のある方であれば気づかれるかと思いますが、他の処刑御史のメンバーが人外の妖術師だったり傲岸な両班だったり(…あ、応七も両班の出だ)するのと異なり、ある種のリアリストにして義士として描かれており、物語の終盤、当時の――彼の生きた時代から五十一年前の――朝鮮に渡って彼が抱く感慨は、さほど文章を割かれているわけではないですが、重く残るものがあります。
 そして、ラスト近くで彼が取った行動を見れば、彼が物語の中で、主人公と等値のものとして描かれているのがわかります。(歴史的・政治的に微妙なネタで)滅茶苦茶やっているようでいて、こういったところでバランスを取ってくるあたり、やはり荒山先生は見事だと唸らざるを得ません。

 と、感心する一方で、個人的には、「歴史上の著名人を殺しちゃってもリセットすれば大丈夫!」というのはあまり連発しないで欲しいというのが心からの願いです。歴史の重みもへったくれもないですしね(もちろん、「実は○○○○は死んでいた!」というのは、「実は生きていた!」と同じくらい伝奇時代劇の定番ネタであることを理解した上で言っております。リセットが嫌いなだけ)。
 あと、どうせ殺るなら既に亡くなった方でなく、まだご存命の作家の方をネタにしましょうよ!(例えば対談したあの方とか)…と無責任なことを言いたくなりました。

 何だかまとまりがなくなりましたが、最後に一つ。冷静に考えてみると荒山作品って女性キャラにあんまり面白みがないのですが、今回のヒロイン・雪蓮には色々な意味でちょっと引いたなあ…正直、あんまりお近づきになりたくないタイプです(女性読者は彼女に対してどんな印象を抱くのか、ちょっと興味があります)。
 雪蓮は男たちに(ある意味朝鮮にも)ひどいことしたよね(´・ω・`)


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コメント

雪蓮か。私も確かに近づきたくないですね。荒山ヒロインというのは、国家や政治よりも個人の愛情や感情を重視するのが長所として描かれている気がして、それが男性から見た女性の理想なのかな、という気がします(現実には政治的な女性もたくさん存在するものですが、まあフィクションですし)。だからこそ日本人男性と韓人女性カップルが多いのかとも。
でも時々それがやりすぎだったり、単調過ぎることもありますね。まさしく雪蓮がその悪しき一例のような気がしました。

投稿: 吉梨 | 2006.10.01 22:48

吉梨様、コメントありがとうございます。

確かに荒山ヒロインは、男から見た(理想の)女性像という印象が強いですね。都合が良い、とまでは言い過ぎかと思いますが、もうちょっと別の形で女性の業のようなものを書いてもらえたら…と思います。
雪蓮の場合は、それに加えて主義主張の振れ幅が極端なのと、使う技が技なのでどうにも印象が…という気がします。

投稿: 三田主水 | 2006.10.02 22:55

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