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2006.09.10

「服部半蔵秘録」 荒山徹の単行本未収録短編その一

 荒山徹氏には何篇か単行本に収録されていない作品があるのですが、この短編もその一つ。「金髪くノ一絶頂作戦」という近年稀にみるダメタイトルがつけられていますが、これがその実、なかなかに良くできた作品でありました。

 主人公は長崎奉行に仕える忍者・筌堂塔太郎。実は五代目服部半蔵の名を継ぐ彼ですが、家は三代目の代にお取り潰しになって以来すっかり落ち目で、細々と暮らしている状態です。と、そこに、聖母マリアの告げで服部半蔵を探して来日したというオランダ人女性ミランダが現れたことで、彼の運命は大変転することに。
 話を聞いてみれば、船乗りである恋人が海で消息を絶って以来、欠かさず神に祈りを捧げてきた彼女のもとにある日聖母マリアが現れ(いや、現れちゃったんだからしょうがない)、恋人たちが朝鮮にいること、そして彼らを救い出すためには、服部半蔵なる者の助力が必要と告げたのこと。最初は厄介ごとを持ち込んだミランダ暗殺の命を受けた塔太郎ですが、彼女の美しさに目が眩んだか、彼女に助力して朝鮮に向かうことになります。

 と、その前に彼がミランダに使ったのは、服部忍法の奥義「魂すすり」。満月の晩に独自の技で高ぶらせた女人と交わることによりその魂魄を吸引し、その魂を己の体に携行すると共に、相手の姿に変身することを可能とするこの術により、ミランダの魂を宿し、また自由にその姿に変身可能となった塔太郎が、朝鮮に住む配下(沙也可は徳川の草だった!)から聞いたのは信じられないような事実。
 かつて船が難破した末、朝鮮に流れ着いたオランダ人たちは、朝鮮が鎖国体制を引いていたが故に帰国を許されず朝鮮に抑留され、非人間的な扱いの下、死の恐怖に怯えながら露命を繋いでいたのでありました。そしてミランダの恋人たちのグループと接触した塔太郎は、彼らが日本に向い、オランダ商館に助けを求めるための船を求めるために文字通り一肌脱ぐことになります。

 好色な高官に飛騨忍法「つつさらし」(魂すすりで女人に化身して交わった男の陰茎を奪ってしまう術)を仕掛けて船を脅し取り、これで何とかオランダ人たちの命が救われたかに見えた時、立ち塞がったのは二人の妖術剣士(やっぱりここでも妖術かい! と思いきや、うち一人は「太閤呪殺陣」に登場した妖術師の縁者でした。しかもさりげなく登場するプルガサリ)。救いを眼前にしつつも起きてしまった悲劇に、そして人を人とも思わぬ朝鮮政府の非道に、塔太郎は――

 といったお話で、終盤の展開は詳しくは書きませんが、この先の熱く、そして哀しい展開は、全くもっておバカなタイトルからは想像もつかないほどで、不覚にも感動させられました。
 特に、非道な妖術剣士との対決に臨んで、塔太郎が怒りと哀しみとともに「服部半蔵、推参!」と叫ぶシーンには、こちらも感情移入しまくりで大いにテンションが上がりました。なるほど、ここで服部半蔵の名乗りを上げることにより、犠牲となったオランダ人たちに、かつて権力者に弊履の如く捨てられた過去の半蔵の姿を重ねているのね、などとわかったようなことを書くまでもなく、名シーンと断言してよいかと思います。

 その一方で、ラストに描かれるミランダと半蔵が仕掛けた、朝鮮亡国の呪いのインパクトたるや、破壊力抜群。日本と朝鮮とオランダという、あまり縁のなさそうな三国の歴史を思い起こして、まさかまさかと思っていたネタがラストに炸裂、折角いい話書いてるんだからもうちょっと考えようよと思いつつも、ああやっぱりこの人はどこまで行ってもアレなんだ…とちょっと安心したようなそうでないような。

 も一つ蛇足を承知で書けば、本作、構成や展開に強く山田風太郎の短編忍法帖の香りを感じました。ごく普通の(?)忍者がある日一風変わったトラブルシュートを命じられ、珍忍法を操って行動するうちに己自身の意志と意地で動くようになり、やがてその行動が歴史上の事件となって結実する――そんな山風忍法帖の一つのパターンに、本作はぴたりとはまっていると、まあそんな風に感じられました。
 私は単にブッ飛んだ、常識外れな時代伝奇小説を書くというだけの理由でもって、荒山氏を山風先生や他の諸氏と並べることには強い違和感を覚えますが、本作を読むと――意図していたかしていないかは別として――やはり山風先生の影響は大きかったのかな、と今更ながらに感じた次第です。


「服部半蔵秘録 金髪くノ一絶頂作戦」(荒山徹 「小説新潮」2003年5月号掲載)

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コメント

 何気に気になるのは、
「これが魔風海峡の世界観も継いでるかどうか」で砂。
続編があるのなら、そこから新・高麗七忍衆との絡みが
出たら嬉しげなとこなんですがのう。

 それにしても、タイトルだけだと
「忍法金メダル作戦」に匹敵するくらいのシロモノと
思うところですが、斯様な傑物だったのですか。

 「服部半蔵、推参!」

 を早く味わいたいところですのう。

投稿: 神無月久音 | 2006.09.13 01:57

うーんどうなんでしょう>魔風海峡

ちなみに「鳳凰の黙示録」にも真田十勇士が登場しますが、あまりの扱いのひどさに涙しました。

それはさておき、この作品、掲載号がいわゆるEROい小説特集号で、それでこんなことになったみだいです。
単行本に収録されるときには確実にタイトル変更されるでしょうね。

投稿: 三田主水 | 2006.09.14 01:02

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