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2006.09.04

「秋霜の撃 勘定吟味役異聞」 貫く正義の意志

 勘定吟味役にして一放流の達人・水城聡四郎の活躍を描く経済伝奇時代剣豪小説シリーズの第三弾は、徳川六代将軍・家宣の死に始まる権力争いの闇を描いた内容となっています。

 家宣が亡くなり、後ろ盾を無くしたかに見えた新井白石は、七代将軍・家継の傅育係・間部越前守と手を結び保身を図りつつも、越前守の失脚を狙います。
 その手段として目を付けたのは、家宣の墓所決定の経緯。墓所が早々に増上寺と定められた経緯に疑念を抱いた白石は、聡四郎に調査を命令、困難な探索に手を焼く聡四郎ですが、更に彼を尾張藩士たちが執拗に襲撃します。
 白石、間部越前守、尾張藩、紀伊藩、そして失脚したはずのあの巨魁…次代の権力を巡る暗闘に巻き込まれた聡四郎の運命や如何に!?

 …という趣向の本書ですが、とにかく強く印象に残るのは聡四郎の苦闘ぶり。元々上田作品の主人公は、権力という名の虎の尾を踏みに行く男たちばかりですが、その中でも群を抜いて厳しい立場にあるように思えます。
 何せ上司である白石は、己の理想に燃える権力亡者というべき一番厄介なタイプの人物で、しかもその権力は落ち目という状態。ただでさえ同僚から白眼視されてきた聡四郎は、なお一層孤立する羽目となりますが、焦る白石からのプレッシャーも強まる一方。
 そして敵に回すのは紀国屋文左衛門や柳沢吉保といった大物揃い、そこに更に御三家筆頭の尾張藩まで加わり、四面楚歌という言葉も生ぬるいほどであります。

 そんな苦境にあっても、彼がまっすぐに立って闘い続けることができるのは、彼が、自分が信じる正義のために闘っているという強い信念を持ち、更にその彼の想いを諒として力を貸し、共に闘おうという仲間たちがあってこそ。
 このようなヒーロー設定も、上田作品には共通であるのですが、しかし、先に述べたとおり、主人公が苦境にあればあるほど、主人公の正義の意志と、それを支える仲間たちの心意気が、気高く、そしてまた痛快に感じられるのです。
 
 そしてその正義の意志は、遂に本作では、我欲に走り始めた上司である白石に対しても向けられることになります。それがこの先、さらなる苦境へと聡四郎を追い込むことは容易に想像がつきますが、しかし、世間知らずの部屋住みの若者だった主人公が、世間の裏表をつぶさに眺めることによりここまで成長したかと、シリーズの読者としてはハラハラしつつも、ニヤリとしたい気分です。

 内容的には、一つの疑惑を解き明かしつつも、まだ謎は多く、さらに聡四郎にとって師の代からの宿敵(これがまたなかなか通好みの流派)までもが登場、シリーズとしての興趣も満点な本作、次の巻が今から楽しみです。


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