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2006.10.30

「陰陽師鬼一法眼 鬼女之巻」 そして最強の鬼女が

 さて、あまり間を空けずに紹介、シリーズ第五巻「鬼女の巻」は、前の巻から引き続き、混沌たる鎌倉で重ねられる御家人たちの潰し合いの果て、遂に二代将軍頼家が鎌倉を逐われるまでが描かれます。

 前の巻の感想にも書きましたが、やはり陰謀・暗闘を続ける鎌倉武士たちの姿が、実に生き生きとしていて、ある意味魅力的とすら感じられる本作。
 もちろん争いの火種となるのは、相変わらず悪巧みを続ける後白河天狗と牛若天狗の干渉ではあるのですが、既に事態は坂道を転がる雪玉が加速度的に巨大化していくが如く、人間たち自身の手で争いが拡大していく様には、歴史というもののダイナミズムを感じさせられます。

 さて、この巻の副題となっている「鬼女」とは、その争いの中に見え隠れする、恐ろしくも哀しい女性たちの姿。争いの陰で犠牲となり、あるいは争いの火に油を注ぐ女性たちが、遂には人を捨てて鬼と化す、そんな鬼女が、この巻では幾人も登場することになります。
 屈強な武士ですら、己の血を流さなければ生きていけぬ時代、己に罪科なくとも罪に問われ命を奪われかねぬ時代にあって、女性が自身の想いを貫いて生きるというのは至難の一言。その中で心強き者のみが、鬼と化すことにより、自分自身を辛うじて保ち得るというのは、ある意味古今東西を問わず共通の真実なのかも知れませんが、しかし、やはりどうにもやりきれない気持ちになったことです。

 ちなみに、この巻に登場した中で最強の鬼女は――予想していた方も多いと思いますが――北条政子その人。幕府を、北条家を守り育てるためであれば、己の子であっても親であっても、夫であっても同族であっても利用し、棄てることを顧みないその姿は、場をひっかき回した割には法眼にあっさりと退場させられた女天狗・大鏡がかわいらしくみえるほどでありました。
 ことに、シリーズ当初から登場しており、まだ「鬼」ではなかった頃の姿から描かれていただけに、一層痛ましいものを感じさせられます。

 正直なところ、あいかわらず法眼が傍観者・狂言回しに毛の生えたような立ち位置にいる(要所要所では活躍しているんですけれども。バカ兵器で梶原軍を壊滅させたり)あたり、すっきりしないものも感じるのですが、それでもなお不思議な魅力を感じさせる作品であることです。


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