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2006.10.09

「高麗秘帖 朝鮮出兵異聞」(再録)

 時は慶長二年、かつて亀船により日本の水軍を打ち破った英雄・李舜臣は、政争に巻き込まれて囚われの身となっていた。再び朝鮮に侵攻するにあたり、舜臣の再起を恐れる藤堂高虎らは、彼を暗殺すべく異能の戦士たちを放つ。これに対し、朝鮮との講和を望む小西行長は、この計画を阻止すべく、同じく配下を派遣するのだった。舜臣の、そして壊滅寸前の朝鮮水軍の運命は如何に。

 重厚な伝奇エンターテイメントの大傑作。李舜臣を狙う者と守る者、二手に分かれた山風チックな日本の忍者同士の死闘がメインですが、李舜臣を中心として、日本と朝鮮それぞれの登場人物たちの信念、生き様が様々に現れ、消えていく様は、ドラマとして超一流と言って差し支えないと思われます。

 それにしても秀吉の朝鮮侵略と言えば、ある意味、日韓併合以上に――特にエンターテイメントとしては――難しい題材だと思いますが、日本と朝鮮(そして明)の登場人物それぞれの美しい部分も醜い部分も、讃えるべき部分も蔑むべき部分も、分け隔てすることなくしっかりと描き出すことにより(小西行長は格好良すぎる気もしますが)、歴史ものとしてもエンターテイメントとしても、レベルの高いところで成立しているのがこの作品の素晴らしいところ。波瀾万丈な時代伝奇小説を展開しながら、理不尽な力(それが物理的なものであれ目に見えない歴史の流れというものであれ)に対して自らの信念を貫き通そうとする姿勢に、国というもの…そして性別というものは関係ないという、当たり前でありながらなかなか気付かない真実をしっかりと描き出す様には、非常に好感が持てますし、決して完全なハッピーエンドとは言い難い結末であっても爽やかさを感じさせるのは、こういった点によるのでしょう。

 ちなみに私は文禄・慶長の役の戦史の詳細についてはほとんど知らなかったのですが――開き直るわけではないですが――クライマックスの大決戦については、むしろ知らなくてよかったとすら思ってしまいました。結末のわからない戦いほど手に汗握るものはないですから…

 そしても一つ。最後の一行を読んだら、この作者の次の作品も読みたくてたまらなくなりました。というか必ず読まねば!


「高麗秘帖 朝鮮出兵異聞」(荒山徹 祥伝社文庫) Amazon bk1

 …この頃の荒山先生はまだマトモだったんだなあ

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