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2006.10.18

「風流奉行」 名奉行、WとMの難題を裁く!?

 山岡荘八先生というと、やはり真っ先に頭に浮かぶのは「徳川家康」(柳生数奇としては「春の坂道」でしょうが)。サラリーマンの必読書と言われたこの作品の作者とあれば、当然生真面目なお人であって、その他の作品もきっと皆真面目な御本なのでしょう…と思ってしまうところですが、さにあらず。山岡先生は、洒落や笑いというものもよっくとご存知の方なんですよ、ということをしっかりと教えてくれるこの作品。実に約四十年間復刊されていなかった幻の作品が、ここに堂々復活です。

 さてこの「風流奉行」という題名、ここで指しているのは大岡越前守忠相その人。大岡越前と言えば、加藤剛のイメージが強いせいか、これまた謹厳実直で、大変にお堅い人物という印象ですが、本書のお奉行様は、人情に通じるのはもちろんのこと、男女の(本書の表現を借りれば「WとMの」)機微にも通じた、さばけたお方です。
 そんなお奉行のもとに持ち込まれるのは、いずれも不可解な怪事件である上に、WとMの悩みが複雑に絡んだ難物ばかり。「法」という、ある意味、そうした悩みと最も遠いところにあるものを駆使して、果たして如何にお裁きを下すのか、というのが本書の眼目であります。

 夏でもひんやりと冷たい肌を持つ美女を囲っているとあらぬ疑いをかけられた越前が真相を探る「添い寝籠」、邪念を持って近づけば女体に変じてしまうという美形役者との愛欲地獄にとらわれた青年僧を描いた「業平灯籠」、アレが大きすぎる医者がようやく見つけたパートナーとのかけおち資金を奪われた上に、パートナーまで消えてしまった謎を解く「かけおち奇薬」、家の中間と通じた武家の妾、自らを稲荷の眷族と称する彼女と越前がお白州で真っ向対決する「おいらん裁き」、質草がいつの間にか越前の名の質札がつけられた全裸の美女に変じていたという怪事件が、意外な方向にスケールアップしていく「美人そろばん」と、本書に収められた五つの作品は、いずれ劣らぬ怪事件。
 もっとも、どれも、事件の当事者たちにとっては全く持って深刻ながらも、端で見ていると、ごめんやっぱり笑っちゃう、といった態の妙な事件ばかりではあるのですが、しかし、それだけに単に謎を解くだけでなく、きっちりと人の心の中の問題にまでお裁きをつけねばなりません。

 そんなある意味所轄外の難事件まで、納得のお裁きをつけてしまうお奉行様のアクロバティックな手腕は、実に痛快であると同時にハートウォーミングなものがあって、読んでいて実に楽しい時間を過ごすことができました。
 そして――そんなお奉行様の、真面目ながらも情に通じた、スマートな大人ぶりを見ていると、何だか山岡先生ご自身とダブって見えてくるような気持ちになったことです。

 バカミス+艶笑譚といった趣向の本書、万人にお勧めできるとは必ずしも言えませんが(特に妙齢の女性とか)、しかし幻の作品として埋もれさせておくのはあまりにももったいない話。物語の舞台である享保期と同様、改革改革と騒がしいばかりで日々の暮らしが味気なくなりつつある今のような時代こそ、本書のような愛すべき作品が読まれていって欲しいものだと思います。

 そしてまた――書き下ろし新作ももちろん結構ですが――おそらくはまだ無数に眠っているであろう本書のような埋もれた名作群に、本書をきっかけとして、読者も出版社も目を向けてくれればと、心から願う次第であります。


「風流奉行」(山岡荘八 徳間文庫) Amazon bk1

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