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2006.10.13

「陰陽師鬼一法眼 切千役之巻」 鬼一法眼、真の力を顕す?

 久々紹介、藤木稟の「陰陽師鬼一法眼」シリーズの第四巻。文庫化を待っていたけれどもなかなか出ないので遂にノベルズに手を出してしまいました。この巻では、頼朝亡き後の鎌倉で野心家・陰謀家・妖怪・天狗入り乱れての混乱がいよいよ深まっていくことになりますが、さて、その中で鬼一法眼はどう動くか? というところです。

 物語は、源頼朝の突然の死から始まります。しかし彼の周囲の者たちはそれを悼むどころかこれを奇貨として勢力伸長に励む始末。まさに鎌倉を呪う後白河帝と牛若の怨霊の思うつぼ、というところですが、ここで重い腰を上げたのが法眼。これ以上事態をややこしくされてはかなわんと、冥界に下り、閻魔大王を出し抜いて頼朝の魂が地獄に行くのを阻みます。
 面白くないのは後白河帝、邪魔な法眼の動きを封じるため、一度抜けば千人の首を落とす魔刀・切千役を彼が持つとの噂を流し、侍たちと法眼と争わせることを画策。さらに、配下の性魔(女天狗)・大鏡を送り込み、妖虫に憑かれて暴走する二代将軍頼家の乱行を加速させます。

 が、それ以上に複雑怪奇なのは、鎌倉で蠢く人間たちの権謀術数の有様。権力の座が空白となった今、その跡を継ぐのは我らと暗躍を開始したのは、北条政子とその弟・義時。鎌倉を北条家の掌中に収めるべく、息子や父と決別してまでも修羅の道を行く彼らをはじめとする幕府の人々が実に生き生きとした様子で(?)、陰謀を巡らせていて、むしろ爽快感すら感じさせてくれます。
 もちろん、本作においては、怨霊や天狗たちの悪意が彼らの運命を狂わせていくのではありますが、人物描写を見ていると、「この人たち天狗に操られなくてもいずれ同じようなことやったよなあ…」的な、不思議な説得力があり、何よりもこれが本作の最大の魅力なのではないかと常々思っています(もっとも、頼家だけは悪い意味で漫画チックで陳腐なキャラなのが残念…狙って書いているのだとは思いますが)。

 さて、そんな中で一人我が道を往くのが鬼一法眼。冷静に考えると初めて彼の身に危機が迫ったような気もしますが、それもあっさりと切り抜け、後はちょこちょこと活躍するくらいで、相変わらず基本的に傍観者(上記の頼朝の魂救出の下りは実にユニークでしたが)に徹しています。
 周りでは大事件が起きている時だけに、周囲の状況や人物に食われかねないところではありますが、しかし、それでは終わらないのが本作の面白さ。切千役の正体から語られていく、鬼一法眼の鬼一法眼たる所以は、実に斬新かつ納得のいくもので、まさに本作ならではの法眼像として、感心させていただきました。

 さて、頼朝亡き後の鎌倉の混乱の模様は、それこそ日本史の授業で必ず習うメジャーな内容でありますが、その中で「正体」を現した法眼と彼の力がいかなる役割を果たすのか。最後まで見守りたいと思います。

 以下蛇足。本シリーズ、この巻からナンバリングが無くなっております。これはたぶん営業上の理由によるのではないかと思いますが、却って混乱するように思うのですが…(連作長編ならば知らず、完全に続きものなので)
 あと、ウザい猿の出番があんまりなくて本当によかったです。

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