« 「Destiny 桜子姫悲恋剣」 変転する運命の中で | トップページ | 先週の「Y十M 柳生忍法帖」 まさに外道! »

2006.10.22

「蘭剣からくり烈風」(再録)

 からくり師蘭剣シリーズの最新作。実に5年ぶりの新作、しかも長編ということで、果たして「蘭剣してる」か、蘭剣が出つつも別の作品になってしまうのではないかと、少々心配な面もありましたが、ご免なさい、(やはり)私が馬鹿でした。蘭剣(の物語)の蘭剣たる由縁はしっかりと残しつつ、長編に相応しい伝奇的ネタを盛り込んで、伝奇エンターテイメント人情話という難しい物語を見事に成立させていました。短編の「蘭剣」がTVシリーズとすれば、これは劇場版という印象でしょうか。

 それにしても――菊地ファンの方であれば、よくご存じだと思いますが――菊地作品は、どれほど凄惨な世界、どれほど哀切な物語を描きながらも、その中に、人間への肯定的視線、別のよりこっ恥ずかしい表現で言ってしまえば人間という存在の善き面への希望というものが、程度の差こそあれ感じられ、そこがまた菊地作品の魅力の一つだと私は思っています。今作においてもそれは健在――というか蘭剣がああいう奴だからして尚更際だっていると言いますか――でして、やさぐれで極めて人間的な言動を見せつつもやっぱり…という今作の主人公の姿に、蘭剣ともども嬉しい気分になってしまうのでありました(それだけにラストは一層切ないのですが)。

 ひどく生意気な言い方になるのを承知を上で言わせていただければ、菊地秀行の時代小説は、「幽剣抄」前後から確実に一皮むけた、というか菊地秀行の持っていたピースが時代小説の中でピタリとはまった、という感があるのですが、今回の「蘭剣」も正しくその延長線上にあるな、と思わされました。あとがきで予告されている二つの(!)続編が、今から楽しみです。


 …と、蛇足ながら気になったのはやはり蘭剣の正体。実は今作は、これまでの蘭剣ものから相当の時間が流れていることが読みとれるのですが(「しびとの剣」も含めるとさらに蘭剣もののタイムスパンは広がるわけで)、その辺りのことや、人間に向けるまなざし、この世のものならざるものへの態度を見ていると、なんとな~く蘭剣という存在について浮かんでくる(あくまでも朧げに、ですよ)のですが、それはまあマニアの妄想ということで置いておきます。


「蘭剣からくり烈風」(菊地秀行 光文社カッパノベルス) Amazon bk1

|

« 「Destiny 桜子姫悲恋剣」 変転する運命の中で | トップページ | 先週の「Y十M 柳生忍法帖」 まさに外道! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/12376895

この記事へのトラックバック一覧です: 「蘭剣からくり烈風」(再録):

« 「Destiny 桜子姫悲恋剣」 変転する運命の中で | トップページ | 先週の「Y十M 柳生忍法帖」 まさに外道! »