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2006.11.17

「虚無戦史MIROKU」 巨匠のターニングポイント的名作!

 …果たして今こうして石川賢作品の紹介をすることがふさわしいことなのかどうか、私にもわからないのですが、私なりの追悼の意を示すため、これまできちんと感想を書いていなかった「虚無戦史MIROKU」、私にとっても印象深いこの作品について書かせていただきます。

 物語の始まりは、大坂夏の陣直後。服部半蔵が、ある男の首を奪い取り、徳川家康のもとに届けるシーンから始まります。その首こそは真田幸村の首、それを見た家康は、豊臣方の一武将の首を見たと思えぬほどの喜びを示します。がその時、カッと幸村の首が目を見開き、生ある者の如く動き出します。更にそれを待っていたかの如く現れたのは、異形・異能の魔人たち――真田十勇士!
 そしてその頃、十勇士の別動隊は、人里を遠く離れた地に住まう九龍一族の城を襲撃。幸村が唯一存在を恐れる九龍一族を根絶やしにせんと襲いかかる十勇士ですが、彼らに勝るとも劣らぬ異能を持つ九龍一族はこれに真っ向から反撃! そして一族の長の子・夢幻美勒は、「竜の艦」なる存在を復活させ、この世を滅ぼさんとする幸村と真田十勇士に宣戦を布告、かくて九龍一族vs真田十勇士の、忍法vs妖法の凄絶な死闘が始まって――

 というのが、大きく分けて三部構成の本作の、第一部(と、便宜上ここでは呼ばせていただきます)のあらすじ。以降、禁忌の生物兵器ドグラ(小学生の私にトラウマを植え付けたドグラの再登場には驚いたり恐ろしかったり)を巡り、美勒たちが霧隠才蔵配下の六獣衆と激突する第二部、そして美勒と幸村の前に真の恐るべき敵が現れ、美勒たちの、そして人類そのものの存在の意味が描かれる第三部と、これぞまさに石川賢! と言いたくなるほどのアクションとバイオレンス、異界と化け物、伝奇とSFの世界が展開されていくことになります。

 個人的に思い入れがありすぎる作品ゆえ、どこから紹介するか(褒めたものか)悩ましいのですが、まず挙げるべきは、これでもか! とばかりに描かれる山風的トーナメントバトルの面白さでしょう。この作品の少し前に、名作「魔界転生」を描いていた石川賢ですが、本作においては、山風リスペクトの色濃いながらも、脂の乗りきった石川流アクションを炸裂させていて、アクションもの・バトルものとして超一級の面白さでありました。
 個人的には、第二部の、美勒vs六獣衆セムイの対決シーンが強く印象に残っています。宿場町を血で染める一大殺戮戦から、一転、スピード感溢れる空中戦を展開して見せたアクション設計は、今見ても神がかった完成度…というのは言い過ぎかも知れないけれど、コマ割まで思い出せるほど印象に残った名バトルでありました。

 しかし――何よりも石川賢作品として特筆すべきは、その、目眩のするほど巨大なSF的スケール感でありましょう。本作は、伝奇時代活劇であるのと同時に、もう一つの顔を秘めています。それは、希有壮大なるスペースオペラ、後に「虚無戦記」としてまとめられることとなる作品群の根幹を成す、遙か人類誕生以前よりうち続く戦いの記録であります。
 これは物語中、比較的早い段階で明かされるので書いてしまいますが、幸村が狙う「竜の艦」…それこそは、遙か太古に地球に墜落した宇宙戦艦であり、日本列島そのもの(なんとシンプルかつ豪快なイメージ!)でありました。

 幸村一党と九龍一族(そして徳川家康も!)は、みなこの艦に乗って地球に辿り着いた戦士の子孫であったのであり、彼らが繰り広げる戦いは、いわば艦の継承者――そしてそれは同時に日本の命運を握る者であるわけですが――争いという意味を持つものであったのでした。 やがて激しい戦いの中で、太古の血と記憶を甦らせた美勒ですが、その前に現れた最強の敵は、時間と空間をも操る最強最悪の存在。そして、絶望的なまでに強大な力を持つ最後の敵との決戦の中では人類誕生の秘密までもが語られることとなって――リアルタイムで連載を追っていた当時は、その怒濤の展開の前に、ただただ圧倒されるばかりでした。
 ちなみに――本作を含めた「虚無戦記」の執筆のきっかけとなったのが、「幻魔大戦」であることは作者自身が語っていますが、本作においてはそれ以上に半村良先生の「妖星伝」がバックにあることは、まず間違いないと思います(…と、ことあるごとに言っている私)。が、ラストに示される人間存在の意味については、「妖星伝」と正反対の方向をいっているのが何とも石川賢らしく、痛快でありました。

 また、時代伝奇ファン的に見ると、悪役として描かれることが非常に珍しい真田幸村と十勇士を悪役・敵役にしただけでなく、ほとんど完全に化け物として描いているのはほとんど空前絶後であって、この点にも石川賢の視点の斬新さがうかがえるかと思います。

 もっとも、全体を通してみると、連載作品だったこともあり、完璧とは言い難い部分があるのは事実。第二部終盤からの力のインフレーションが凄まじく(もっとも、これはこれで物語的に必然性があるかとは思いますが)、物語全体の構成のバランスがちょっと…なところや、第三部の展開があまりにも急展開すぎて、駆け足になった感が否めないところ(まさに「虚無った」!)はありますし、個人的には十勇士が全員登場しなかったのも大変残念なところではありました。
 …が、そんな細かいとこを気にするのが罪悪に感じられるほどのパワーと魅力に本作が溢れている(そしてそれは石川作品ほぼ全般に共通ではありますが)ことは、間違いありません。ていうかガタガタいうのは野暮だ野暮。

 何はともあれ、時期的に見ると、「魔界転生」と共に、本格的に(この辺り、異論は色々とあると思いますが…)時代伝奇漫画を量産していく始まりの時期に描かれた作品であり、ほぼ同時期に加筆復刊された「5000光年の虎」と共に、「虚無戦記」の中核となる世界観を形作った本作(特に、終盤に登場する仏教世界的デザインのキャラクターたちと、「空間の奪い合い」という戦いの概念が提示されたのは大きいのではないかと)。ある意味石川作品世界のターニングポイントというか、「虚無戦記」に見られるように、その前後の作品が集約されていく契機となった作品としても、大きな意味を持つ作品かと思われます。

 唯一残念なのは、現在「虚無戦史MIROKU」単独として読める版が絶版なことですが(いやもちろん、「虚無戦記」は大好きなのですが、作品単独としても評価していただきたいのです。特に初読の方には)、とにかく未読の方は、現在双葉文庫収録の「虚無戦記」全五巻をご覧になっていただきたいと、心から思う次第です。
 そして一緒に「いよろけん座」に思いを馳せようではありませんか!


 なお、これは蛇足ですが、かつて全六巻のOVAとして本作はアニメ化されております。前半三巻は原作第一部、後半三巻はオリジナル展開でしたが、後半は「ああ、普通の人が石川作品の材料を使って物語を作るとこうなるのか」的な味わいで、微妙と言えば微妙なのですが、原作に登場しなかった十勇士が全員勢揃いしていたりして、これはこれでなかなか楽しめる作品でした(最近徳間のOVAがDVD化されていますが、これもDVD化されないかしら…)。
 ちなみに後半三巻、「家康に仕える猿を操る剣の達人」などというオリジナルキャラが登場したりして、妙なところでマニアックだなあと思っていたら、脚本は會川昇。さもありなん…


「虚無戦記」全五巻(石川賢 双葉文庫)

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