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2006.11.04

「鳳凰の黙示録」(その二) 荒山徹の単行本未収録長篇

 さて、「鳳凰の黙示録」紹介の続き。主人公の前に立ち塞がる妖人集団、魔別抄十人衆の陣容は――

晋陽候・崔魍:魔別抄のリーダー。無敵の刀術を操る仮面の男
権妃:相手の殺意を反射する瞳術使い
火炎獣伯爵:周囲を火の海に変えるプルガサリ使い
虎貌卿婁伯:虎の顔を持つ女剣士
蝙尤旗:恐怖こうもり男
甲賀:カッパ。…カッパ?
蛟伯夫人:伸縮・飛行自在の怪竜ヨンニムを操る美女
月池宮蟇伯:月世界を経由しての瞬間跳躍術と、最大最強の妖獣タルトゥッコビ(月の蟾蜍)使い
四天王寺成典:青龍刀使い。真田十勇士と対決
玻璃鏡伯:変幻自在の変身忍者。真田十勇士と対決

 …と、たぶん荒山徹を知らない人に言っても信じてもらえないような顔ぶれ。ノリとしては、「仮面の忍者赤影」(もちろんTV版)で、こんなの朝鮮はおろか、どこの国を探してもいねえよ! という連中が大暴れするわけで、好きモノにはもうたまりません。
 なにせ魔別抄一番手の権妃からして、自分に向けられた殺意をそのまま跳ね返して相手を自滅させるというどっかで聞いたようなバジリスク。一番最初の敵が時間を止めるオーバースキルを使ってくるくらい無茶なチョイスです。そして彼女とコンビを組む火炎獣伯爵が操るのは、「地底火獣プルガサリ」という、OPの最後に影絵で登場しそうな肩書きが付けられた怪獣で――もう絶望的な頭の悪さです。大好き。
 さらに三番手の虎貌卿婁伯は隻眼の虎面の剣士という、どうみてもタイガージョーなのに体は女性という罪深いキャラ。女体化に比べたら、ネオ歌舞伎町でヤクザの用心棒やってるなんて可愛いものであります。

 と、このように一人一人について語っているとキリがないので止めておきますが、あと一人紹介しておかねばならないのは魔別抄のリーダー・晋陽候。物語中盤で明かされる、壮一鴻やかの宮本武蔵すら戦慄させるほどの刀術を操る彼の正体とは――妖術にて他者の体を奪うことを繰り返し、数百年にわたり生を繋げてきた怪人。そして現在の体は、実は朝鮮に渡っていた伊藤一刀斎のものなのでした!
 …
 …またですか。柳生の次はあの流派が登場するのは時間の問題だったとはいえ、こんな無惨に流祖をファックしてしまうとは、荒山先生のブレイブハートに(以下略)

 まあ、戯言はさておき、さすがに敵側も――というより敵側こそ――怪能力のみならずきちんとドラマを背負っていた「魔風海峡」の壇奇七忍衆には一歩譲るものの、しかしその個性豊かな活躍ぶりの楽しさは、荒山作品でも屈指のものと言ってもよいかと思えるのです、この魔別抄の面々は。


 しかし――本作が素晴らしいのは、単に彼ら個性的なキャラクターの面白さのみならず、そのキャラたち敵味方の、戦力バランス取り方の良さ…というよりバトルシーンの盛り上げ方の匙加減が実に巧みな点であります。

 個人的な話になりますが、最近の荒山作品において些か不満に思っていたのは、戦力のバランスの悪さ。例えば「柳生雨月抄」においては、スーパーコーディネーター並みの厨めいたスペックを誇る主人公が怪人怪獣を蹴散らしていた一方で、「処刑御使」においては、朝鮮側の変態怪獣たちに、日本側はもしかしてそれはギャグでやっているのかと言いたくなるほど一方的に蹂躙されておりました。
 もちろん、それはそれで必然性のあることであり、またバトルばかりが作品の構成要素ではないだろと言われればその通りではありますが、しかし、やはり敵味方のどちらが勝つかわからない、どちらが勝ってもおかしくないシーソーゲームの方が、物語として盛り上がるのは間違いのないところであり、読んでいてそれを期待してしまうというのが人情というもの。

 そこで本作ですが――主人公である碧蓮は、父母譲りの剣の達人ではありますが、身体能力的にはあくまでも常人の範疇であって、超常の力を操るわけではありません。それは共に戦うことになる一鴻も同様ですが、しかしそこで冴え渡るのは、荒山先生の、敵味方の能力設定と、それを活かしまた制限する状況設定双方の妙。
 ある時は知恵で、ある時は技で、またある時は運でもって戦い抜く碧蓮たちと、常人の到底及ばぬ魔人の技を操る(しかし時としてその力が両刃の剣となる)魔別抄の真っ向勝負は、上記の不満を感じさせない、丁々発止という言葉がピッタリはまる、サスペンスフルな名勝負の連続で、大いに楽しませていただきました。ことバトルシーンの面白さという点では、最近の作品ではトップクラスなのではないかと思います。


 もっとも、ストーリー、キャラクターともども、本作は手放しで褒められるわけではないのも正直なところではあります。荒山作品でまま見られる、物語の根幹をなす秘密が一人のキャラの口から延々と語られる構成の不味さは本作にもありますし、また初めは頑なだった碧蓮の心境の変化が十分に描かれているか、そして主人公として碧蓮が魅力的かと言えば、これは――私個人の主観ではありますが――微妙に感じられます。

 しかしながら、いくつかの瑕疵はあったとしても、それを遙かに上回るネタ度魅力の数々でそれを吹き飛ばしてきたのが(最近の)荒山作品。本作もその例外ではなく、面白いか面白くないかと問われれば、大変面白い、とためらいなく僕は答えます。
 ことほどさように(色々な意味で)充実した内容でありながら、いまだ単行本化されていない本作。理由は色々と想像できますが、それはまあ、こちらが気にすることではありますまい。今は少しでも早く――できれば上記の問題点が解消されて――本作が単行本化されて、少しでも多くの方の手に届くことを祈るばかりです。


 ちなみに本作は臨海君や真田十勇士など「魔風海峡」と共通する人物も登場しますが、特に十勇士は相当の扱い(ヒント:ジャガられる)なので、「魔風海峡」ファンは、両作品は繋がりのない別物と思っておいた方が精神上よろしいかと思います。


「鳳凰の黙示録」(荒山徹 「小説すばる」2004年2月号,5月号,8月号,11月号,2005年2月号,5月号掲載)

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コメント

 なんつか出ない理由が分かる気もしま砂。
毎度の如く加筆修正したとしても、
別物に成り果てそうですし喃。
まあ、それはそれで一粒で二度美味しい感が
あるのかもしれんのですが。

晋陽候>
 ついに出てしまった感がありま砂。
薔薇剣での扱いが微妙だっただけに、
遂に巻き返してきたってとこですかのう>某流派

 それにしても以前にも増して無茶スペックの怪人揃いで砂。
荒山先生容赦ねェ…!

投稿: 神無月久音 | 2006.11.04 22:51

神無月様:
荒山作品全チェックとかやってると感覚が鈍ってきますが、やはり色々とアレなんでしょうかね…
まあ、永昌大君と女剣士ネタで「雨月抄」とかぶるのも理由の一つな気もしますが。

某流派は政治性に乏しいので黒さがいまいちという欠点はありますが、それだけに歯止めがかからなくなると恐ろしいことになるかもしれません。

投稿: 三田主水 | 2006.11.05 01:19

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