« 新雑誌KENZAN! | トップページ | 「鳳凰の黙示録」(その二) 荒山徹の単行本未収録長篇 »

2006.11.03

「鳳凰の黙示録」(その一) 荒山徹の単行本未収録長篇

 新雑誌での作品掲載も決まったことだし(?)、荒山徹の長編中、現時点で唯一単行本化されていない「鳳凰の黙示録」を紹介。江戸時代初期の朝鮮と日本を舞台に、朝鮮王家の御家騒動が、やがて太古から相争う二つの民族の命運を賭けた戦いに発展していく、希有壮大な伝奇ロマンです(基本的にネタバレですが、あまりにもマズい部分は白色で書かせていただきます)。

 暴君・光海君は、自らの王位を脅かす永昌大君を弑せんとして、かつて同様の命を受けて臨海君を暗殺した王朝直属の女剣士集団・琴七剣を派遣します。が、琴七剣のリーダー・紅蓮は幼い永昌大君を殺害するに忍びず、王命に反抗、逃亡します。が、彼女たちは、追っ手として派遣された王家の諜報機関・魔別抄の妖獣・妖術使いたちに次々と倒され、残ったのは、メンバー中最年少の碧蓮のみ。果たして碧蓮は永昌大君を守り抜くことができるのでありましょうか!?

 というのが全体の三分の一までのあらすじ。その後、碧蓮は、母である紅蓮の遺言に従い、永昌大君を連れて白頭山の山頂湖・天池に向かうことになります。そこで彼女を待っていたのは、王家の血筋のみが封印を解くことができるという鳳凰の鍵。しかし魔別抄の怪人軍団の襲撃は続き、さらに琴七剣とは不倶戴天の間柄である義賊・洪吉童とその片腕・壮一鴻までもが現れて事態は一気に複雑化。
 共通の敵である魔別抄を倒すため不承不承壮一鴻と手を組んだ碧蓮ですが、なんと一鴻は彼女たちを日本に――それも徳川と開戦間近の大坂城に誘います。実は大坂城の地下に眠るのは、一千年間眠り続ける鳳凰の卵。天湖で碧蓮が手に入れたのは、その封印を解くカギの一つだったのでありました…!

 この辺りから物語は異常にスケールアップ、古代より千数百年にわたる、アジア秘史が語られていきます。実は、日本民族こそは、太古、大陸で平和に暮らしながらも戦に敗れて日本列島に渡ってきた、調和を重んじる鳳凰族の末裔。そして、朝鮮の宗主国たる中華民族こそは、かつて鳳凰族を大陸から放逐した、戦いと力を重んじる龍族の末裔だったのです(この辺りで一度呆れる)。
 実は明朝から送り込まれた龍族の一員・徳川家康は(今度は明か!)、大坂城を奪ってその下の鳳凰卵を手中に収め、アジアを龍族の支配する地としようとしていたのでありました。この野望を挫くには、二つある鳳凰の鍵を手に入れなければいけないのですが、未だ鍵は碧蓮の持つ一つだけ…
 碧蓮と一鴻は、果たして豊臣と徳川の決戦の前にもう一つの鍵を見つけることができるのか。そして徳川と手を組んだ魔別抄との死闘の行方は…

 と、ダラダラあらすじを書いてしまいましたが、ご覧の通り波瀾万丈にも程がある本作。荒山作品で先の展開がが読めないのはいつものことですが、ここまで主人公の、物語の向かう先が二転三転するのも珍しいのではないかと思います。


 さて、そんなダイナミックな物語ではありますが、本作はそれに負けないだけのキャラが目白押し。
 まず主人公たる美貌の女剣士・碧蓮ですが、彼女は、実は臨海君と琴七剣のリーダー・紅蓮との間の子(!)であり、父から譲られた村正を持つ剣の達人という見事に立ったキャラ設定。任務とはいえ、何の躊躇いもなく臨海君を斬った紅蓮にわだかまりを持ち、その母が救った――そしてそのために仲間が全滅することとなった――永昌大君の存在にも複雑な想いを抱く彼女が、数々の死闘を経て、どのように成長を遂げていくのかは、彼女が決して万能な人物でないだけに一層、興趣をそそります。

 そしてその彼女とは殺し合うべき立場にありながらも、やがて…という立ち位置の快男児・壮一鴻の正体は、なんと薄田隼人という、これまた荒山度の高いキャラクター。更にその主である洪吉童こそは、実は豊臣秀頼その人であった! とくれば、いつもの、書き手の正気を疑わざるを得ない荒山ワールド全開であります。
 何というか、秀頼がホイホイと朝鮮まで出かけて義賊やってるのはいいとして(よくないよくない)、よりによって朝鮮の実在の(黄山哲の創作でないという意味。ただし史実では本作の約100年前の人物)伝承中のヒーローたる洪吉童の正体を、よりによってあの人物の息子とするとは、相変わらずのブレイブハートにもうウットリです(しかし、こんな豪快な設定の秀頼、朝松健先生の「闘・真田神妖伝」以来です)。

 そして――そんな味方陣営以上に魅力的で個性的なのは、敵役たる魔別抄十人衆のキャラクター。その陣容は…というところで長くなってしまったので続きます。


「鳳凰の黙示録」(荒山徹 「小説すばる」2004年2月号,5月号,8月号,11月号,2005年2月号,5月号掲載)

|

« 新雑誌KENZAN! | トップページ | 「鳳凰の黙示録」(その二) 荒山徹の単行本未収録長篇 »

コメント

 前にあらすじだけ読んだ時は、
「おお、今度は朝鮮オンリーですか」とか思ったのですけど、
まさか斯様な展開になろうとは。
まさに荒山先生の妄想力は天下一で砂。

 つか、本作の臨海君は
魔風とはまた別のアナザー臨海君なんでしょうか喃。
もしそうなら、義足になったあの人物が出張ってきたり、
あるいは、臨海君の剣の師がおいでます可能性もあって
こちらの妄想もいやますばかりで砂。
楽しみであります。

投稿: 神無月久音 | 2006.11.03 22:25

ただいま我が家の魔風の文庫下巻が行方不明なのでアレなのですが、基本的に別物と思ってよいのではと。
というか(その二に書こうと思ってましたが)魔風ファンは愕然とするくらいのジャガられ方をする連中がおるので、心情的に別物と思いたいです。

投稿: 三田主水 | 2006.11.03 23:29

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/12540655

この記事へのトラックバック一覧です: 「鳳凰の黙示録」(その一) 荒山徹の単行本未収録長篇:

« 新雑誌KENZAN! | トップページ | 「鳳凰の黙示録」(その二) 荒山徹の単行本未収録長篇 »