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2006.11.15

「落ちた花は西へ奔れ」 巨大な意志に一矢を

 名作「太閤暗殺」の岡田秀文による、大坂夏の陣秘史とも言うべき時代冒険アクションです。
 タイトルはおそらく「花のようなる秀頼様を、鬼のようなる真田が連れて、のきものいたり鹿児島へ」という有名な歌(?)から取られたもの。壊滅した大坂城から落ちのびた「花」である豊臣秀頼を鹿児島に逃すため、真田大助が苦闘を繰り広げることとなります。

 既に豊臣方の敗北は時間の問題となった大坂夏の陣。華々しく討ち死にを覚悟した真田大助に、しかし父・幸村は、秀頼を守って大坂城から落ちのびるよう命じます。かつて関ヶ原の戦での壮絶な退却戦で徳川家康の心胆を寒からしめた島津義弘が、落城の際には薩摩に秀頼を迎えることを、あらかじめ幸村に約していたのです。
 かくて、大野治長の家士・平山長十郎、淀の方付きの腰元・茜らと共に秀頼を守り、一路薩摩へ向かう大助ですが、本多正純と片桐且元はそれを察知し、追っ手を放ちます。更に、彼らが頼るべき島津の家内も一枚岩ではなく、繰り広げられる暗闘の数々。それでも幾多の危機を乗り越えて薩摩へ向かう秀頼主従ですが、その背後には、更に驚くべき陰謀が――

 というのが本作のあらすじ。時代伝奇ものにおいては、秀頼薩摩落ちというのは非常にポピュラーなネタではありますが、そこに一捻りも二捻りも加えて、ミステリやポリティカル・スリラーの趣向を加えたのが本書の特長であります。
 何せ登場人物の大半が裏の顔、裏の裏の顔を持つ本作。敵かと思えば味方、味方かと思えば敵と――状況の皮肉による意図せざる変転を含めて――目まぐるしく入れ替わり、果たして誰を信じるべきか、一寸先は闇の状況に大助と秀頼は翻弄されることになります。
 そしてまた、繰り返される死闘の陰にあって、彼ら全てを駒として操るのは、ある人物の巨大な意志の存在。「太閤暗殺」においても、最後の最後に、事件の全てをひっくり返すかのような、ある人物の妄執を描き出して驚かされましたが、本作においてもそのどんでん返しの裏にまたどんでん返しという構成で、最後まで気の抜けない物語となっておりました。

 正直なところ、主人公たる大助が受け身一方で翻弄されっぱなしな点、そして物語の視点が様々な登場人物に渡りすぎて、一部物語の興が削がれるように感じられる面もあるのですが、しかしそれらが物語の緊迫感等を高める効果を挙げているのも確かであり、これは個人の感じ方というものでしょう(また、後で最初から読み返してみたのですが、初読では気付かないミスリーディングの嵐で感心いたしました)。
 むしろ翻弄され続けたからこそ、巨大な意志に一矢を――今は小さくとも巨大な一矢を――酬いるラストが、不思議な解放感が感じられるのかもしれません。

 何はともあれ、冒頭からラストまで、緊迫感とテンションの衰えることない、興趣に満ちた佳品と言うべき本作。やはり岡田氏は、サスペンス色とミステリ色に満ちた時代ものを書かせれば屈指の存在であると、今更ながらに再認識させられた次第です。


「落ちた花は西へ奔れ」(岡田秀文 光文社) Amazon bk1

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