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2006.11.21

「決戦前後 陸小鳳伝奇」 決戦の地は紫禁城!

 シリーズ第二巻「繍花大盗」を読み終わったときから、いつ出るかいつ出るかと楽しみに待っていた、陸小鳳伝奇第三巻「決戦前後」が遂に刊行されました。武術界を揺るがす二人の達人の決闘が、血で血を洗う怪事件を呼び、遂には驚くべき大陰謀にまで発展する中、快男児陸小鳳が胸のすくような活躍を繰り広げます。

 江湖の話題を独占する世紀の決闘――西門吹雪と葉孤城、天下に冠たる二人の剣の達人の激突――が行われる九月十五日まであと数日と迫り、都には武芸者・盗賊・富豪・僧侶に道士といずれもいわくありげな面々が詰めかけることに。が、西門吹雪はその姿を未だ現さず、葉孤城は宿敵の流派に襲われて重傷を負ったという噂が流れます。
 俄然、不穏な空気が都を包む中にあって、決闘する二人の共通の友人である陸小鳳は、二人の身を案じてその姿を追いますが、そんな彼をあざ笑うかのように次々と引き起こされる怪事件。一連の事件の陰には巨大な陰謀ありと睨んで謎を解かんとする陸小鳳ですが、姿なき敵の魔手は、次々と周囲の人々の命を奪っていきます。
 そしてついに訪れる決戦の日。月円なる夜、紫金の頂にて――すなわち満月の晩、紫禁城(!)の屋根の上で今まさに世紀の大決闘の火蓋が切って落とされんとした時、驚くべき事件が…

 と、相変わらず一ページ先の出来事も予想できないほど目まぐるしく展開する怒濤のストーリーと、いずれ劣らぬ達人・豪傑・怪人たちが次々登場(そして退場)する様がクセになる古龍節は本作でも健在ですが、さらに一ひねり加わっている感があります。
 次々と引き起こされる怪事件に、武術の達人であるヒーローが探偵役として謎解きに挑むのが古龍作品の基本パターンですが、本作では、決闘する当事者探しや姿なき殺人者探しという側面はあるものの、それはむしろ、その二人の決闘の背後で企まれていることはわかるものの、しかしその内容は五里霧中という謎の陰謀探索の一側面でしかないのが面白いところだと思います。いわば、誰が犯人で、誰が被害者で、いつどこでどうやって起こされるかわからない陰謀を止めるための捜査という、物語の基本構造が実に面白く感じました。

 そして、セミレギュラーであっても全く油断できないこのシリーズ、登場人物の誰が、いつ裏の顔を剥き出しにしても、そしていつあっさりと殺害されてもおかしくないのですが、本作でも、ここでこの人物が? というキャラが次々と殺されていったり、実はこいつが大悪人なんじゃ? と疑わされるシチュエーションが次々と現れますし。もう読んでいるこちらまで油断できない気分で、疑心暗鬼にすらなってきますが、しかし、ここで俄然光輝くのが探偵たる陸小鳳の明るい個性。
 どんな苦境にあろうとも、希望を捨てずあきらめない。文章にするとクサいですが、そのクサさが格好良さへと奇跡的な変化を遂げるのが古龍ヒーロー、その中でもおそらく屈指の陽性の人物である陸小鳳の姿を見ているだけで、何とも言えぬ安心感と親しみが沸いてくるのは私だけではないでしょう(キャラのバックグラウンドがほとんど全く書かれていない――現在の姿しか存在しないのにこのキャラ立ちというのは、よく考えてみると奇跡的ですらあります)。
 時に間抜けですらあるほど楽観的で、しかし友や弱き者のためなら命を投げ出すことも厭わない。頭脳明晰で天下屈指の武術の達人で、しかし酒と女と、何よりも奇怪な謎に目がない。そんな快男児・陸小鳳が主人公だからこそ、少なからぬ数の人間が命を落とし、陰険で冷酷な陰謀が張り巡らされる物語であっても、爽やかで痛快な読後感を本作は、本シリーズは与えてくれるのでしょう。

 と、陸小鳳のことばかり書いてしまいましたが、本作では、冷徹な剣鬼…というか剣の求道者だった西門吹雪の心に、ある変化が現れます。それは人間としてみれば慶ぶべきことではあるのですが、剣術者としては命取りともなりかねぬものであり、それがために西門吹雪は悩むのですが――
 そこで彼を励ます陸小鳳の言葉がまた実に格好良い。ちょっと気障で、それでいて男臭さを感じさせる古龍らしい殺し文句で、なかなかよいシーンでありました(…この台詞がむしろ口説き文句に見えた私は心のどこかが汚れているのでしょう)。

 さて、非常に気持ちのよい結末を迎えた本作ですが、シリーズはまだまだ続きます。第一、二巻の時にはあった続刊予告が、この第三巻になかったのは非常に気になりますが、きっとこの先も邦訳が続いてくれることを信じて待ちたいと思います。


 …しかし堅物和尚の可愛らしさは異常だよね、と、むしろお前が異常だよ! と突っ込まれそうなことを書いておしまい。


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