« 「天保異聞 妖奇士」 説六「竜気奔る」 | トップページ | 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 げにおそろしきは… »

2006.11.13

「平安陰陽奇譚 愁恋鬼篇」 陰陽師への遙かな道程を

 以前紹介した「外法陰陽師」の如月天音氏のデビュー作。そちらにも登場する賀茂光栄と安倍晴明の修業時代を描いた、一種ビフォアストーリーとなっていますが、作者独自の視点から描かれた、他の陰陽師ものとは一味違うなかなかユニークな作品となっています。

 大陰陽師・賀茂保憲の子で陰陽寮の暦生の光栄は、ある日同僚から、急につれない態度を見せるようになった恋人の「占」を依頼されます。恋人が鬼に憑かれているのではないかと言うのですが、単なる心変わりやもしれず、恋に疎い光栄にとっては頭の痛い話。仕方なく彼は、十八歳上の弟弟子で、色事の達人・安倍晴明に相談、二人でその恋人から事情を聞き出そうとするのですが、鬼が憑いたのは彼女ではなく実は彼女の父で…と、事態は意外な方向に展開していきます。

 このように、本作で描かれる事件は、少なくともその発端はある意味ささいなことで、主人公二人も、才能こそは十二分にあるものの、身分的には正式な陰陽師ではなく、いってみれば研修生レベル。ビジュアル的にも美形というわけでもなく、ごく普通の人間として描かれています(まあ、その他にとんでもない人がいるのですがこれは後述)。晴明なんて妻子ある三十路男ですからね。
 しかしそれでは本作が地味で面白くないか、などというととんでもなく、こうした舞台背景・登場人物だからこそ描ける、地に足の着いた物語展開が本作の最大の魅力なのではないかと思います。
 光栄に「占」を依頼してきた男もその恋人も、言ってみれば中流~下流貴族の身分。平安ものでは今ひとつスポットライトが当たりにくいこうした階層の人々の生活・人生設計といったものが本作では丁寧に描かれており、そしてそれが一つの必然性となって、物語を生み出していくことになります。

 そしてまた、光栄と晴明もまた、修行中の身であることを抜きにしても、単純に超絶の力を持ったスーパーヒーローなどではなく、平安時代の社会制度・行政制度としての陰陽師(見習い)という、一定の枠の中で行動しなくてはいけない身分として描かれます。確かに、陰陽師は一般人から見れば畏るべき力を持ってはありますが、しかし同時にその力を好き勝手に使うことはできず、むしろ厳しく己を律しなければいけない存在。そんな陰陽師への道程を、術者としても一個の人間としてもまだまだ発展途上の光栄が、どのように歩んでいくか、という一種の青春小説的な味わいもここにはあり、それが決して明るい内容ばかりではない本作の読後感を、爽やかなものにしていると言えます。

 というように、なかなか個性的で面白い本作なのですが、もう一つ、本作を語る上で避けては通れない特徴というか何というかが。それは、光栄の父であり、光栄と晴明の師である賀茂保憲がほとんど本作のヒロイン…というより女神様状態であること。この保憲、陰陽師としての才が卓越しているのは言うまでもありませんが、何よりも目立つのはその美形ぶり。もう周囲の女性はおろか男性もメロメロで、実は晴明自身があわよくば…と思っているという、凄まじくBL風味の設定であります。
 まあ、あくまでも作品の賑やかしとしての設定であり、また、江戸時代はともかくあまり馴染みのない平安時代の男色というものについて解説されているのがなかなか面白かったので別によいのですが、これはこれで本書の一つの特徴ということで一応。


「平安陰陽奇譚 愁恋鬼篇」(如月天音 学習研究社) Amazon bk1

関連記事
 「外法陰陽師」第1巻 最強の外法使い登場
 「外法陰陽師」第2巻 外法陰陽師vs姫君?
 「外法陰陽師」第3巻 これも一つのハッピーエンド!?

|

« 「天保異聞 妖奇士」 説六「竜気奔る」 | トップページ | 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 げにおそろしきは… »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/12664540

この記事へのトラックバック一覧です: 「平安陰陽奇譚 愁恋鬼篇」 陰陽師への遙かな道程を:

« 「天保異聞 妖奇士」 説六「竜気奔る」 | トップページ | 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 げにおそろしきは… »