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2006.11.10

「織江緋之介見参 散華の太刀」 真の剣豪ヒーローへの道を

 剣の道のサラブレッドでありながら、独り吉原に居を定め剣を振るう孤愁のヒーロー、織江緋之介の活躍を描くシリーズ第四弾は、煙硝蔵爆発にまつわる陰謀に、緋之介が立ち向かうこととなります。

 当主・正信が家禄返上を申し出たことにより領地を没収され、家名の存続も危うい堀田家の江戸屋敷で、煙硝蔵が爆発、その裏に松平伊豆守の影があることを知った緋之介は探索に当たります。一方、伊豆守は己の命が尽きる前に怨敵たる緋之介を倒さんと刺客を放ち、伊豆守の政敵たる老中・阿部豊後守も、己に従わぬ緋之介を討つため、邪悪な陰謀を巡らせることになります。
 そんな中、ある事件が基で戦う心を失った緋之介。生ける屍と化した彼の復活の時は…

 という展開の本書、無双の剣士が権力による陰謀の影に切り込むというシリーズの、いや上田作品の基本パターンはそのままながら、より力点が置かれるのは緋之介の絶望と復活という人間ドラマであります。
 小野派一刀流と柳生新陰流を極め、剣士としてはほとんど向かうところ敵なしでありながら、純粋な心を持つが故に、傷つき、苦しんできたのが緋之介という青年。かつて己を愛した三人の女性を失い、それ故にその剣は女性を、弱き者を救うため振るうと誓った彼ですが、しかしそれ故、彼を襲ったアクシデントは、彼の戦う心、いや生きる気力を奪うのに十分であったのでした。
 そして、絶望の淵に沈んだ彼を救ったのが誰か――それはここでは書きませんが、しかしその人物の放つ言葉は、読者であるこちらの目をも覚ますほど鋭く、熱く、そして暖かいもの。この言葉が緋之介にもう一度戦う意味を考えさせ、そして立ち上がらせる件は、本作のハイライトであるとともに、人を殺める武器でもって人を守り、救うという一種矛盾した存在である剣豪ヒーローが如何にあるべきか、ということをも示した名シーンかと思います。

 そして再起した緋之介の前に立ちふさがるのは、掛け値なしに最強最大の敵。前の巻からこの対決を楽しみにしつつ、一体どうやってそのシチュエーションに持っていくのか案じていましたが、その戦いに二重の意味を持たせ、そして緊迫感溢れる決闘を描いてみせた作者の手腕には脱帽です。

 シリーズ全体としては一つのクライマックスを迎えた本作。大きな試練を乗り越えた緋之介が、時の権力という強大な敵に如何に立ち向かい、守るべき者を守っていくのか、再生した剣豪ヒーローのこれからの戦いを楽しみにしている次第です。


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