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2006.11.08

「今昔物語 世にもふしぎな物語」 まだまだ面白い物語の宝庫

 小沢章友先生と言えば幻想小説の名手、特に土御門クロニクルをはじめとする平安幻想譚は私も大好きなのですが、その小沢先生が、子供向けにあの「今昔物語集」をリライトしたのがこの「今昔物語 世にもふしぎな物語」。「今昔物語集」のうち、幻想・怪奇要素の強い物語全18篇が収められています。

 「今昔物語集」といえば、些か下品な表現をすれば平安ものの元ネタの宝庫(例えば夢枕獏の「陰陽師」などがその典型ですね)。本書においては、「ふしぎな物語」に焦点が合わせられているだけに、そうした作品でお馴染みの物語、例えば瓜売りと幻術使いの老人の話、安義橋の鬼の話、源博雅と玄象なる琵琶の話、そして安倍晴明の物語等々が収録されています。
 しかし…個人的にはそういったメジャーどころ(?)の物語の印象が強かったため、「今昔物語集」については、勝手に大概の話を読んだ気になっていましたが、それが大間違いであったことに気づかされたのは本書の収穫。不勉強でお恥ずかしいのですが、まだまだ面白い――愉快な意味の「面白い」もあれば、一風変わっている、あるいは興味深いという意味の「面白い」も含めて――物語の宝庫だわいと、今更ながらに気づかされました。

 例えば「虫男がくるみ酒でとける話」(本書でのタイトル。以下同)など、寄生虫が変化した男が信濃の国守となって任地に向かうも、饗応の席で苦手な胡桃酒を飲まされて溶けてしまうという奇想天外なお話。また、「力持ちの美女の話」は、美人ながらもとてつもない怪力の持ち主である女性を人質に取ってしまった盗賊の悲喜劇で、その怪力描写の無茶っぷりが漫画チックで愉快なお話(すぐに清水あすか様の姿が脳裏に浮かんだのはナイショ)。
 この他にも、そんな話あるかい! と突っ込みたくなってしまうような話から、あまりにすっとぼけていて唖然としてしまうような話まで様々で、怪異というものを(畏れつつも)あっけらかんと受け容れていた当時の空気が伝わってきて、実に面白く感じた次第です。
(なんでえ三田の野郎、こんな話も知らなかったのかよ、と笑われそうですが、それは甘んじて受けまする)

 さて、正直なところ小沢先生の名前だけを見て手にした本書、対象年齢は小学上級からなのですが、原典自体が平易な文章ということもあり、原典の持つ一種のバイタリティをより明確にしたリライトと作品チョイスの巧みさもあって、子供向けという印象はほとんどありませんでした。もちろん、高いクオリティで書かれているとはいえ、子供向けの本を大々的に薦めるというつもりはありませんが、しかし入門書としては非常によく出来ている部類であることは間違いありますまい。
 清水耕蔵先生のイラストも、時に可笑しく、時に迫力があって物語世界によくマッチしておりますし、これをきっかけに古典の面白さに目覚める子供がいてくれれば、それはとても喜ばしいことだと思います。
 ちなみに小沢先生は、他にも同じ青い鳥文庫で御伽草子や雨月物語をリライトされているようで、こちらも探してみようと思っているところであります。


「今昔物語 世にもふしぎな物語」(小沢章友編訳 講談社青い鳥文庫)Amazon bk1

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