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2006.12.31

「朧の森に棲む鬼」プレビュー 赤い舌が生み出す地獄絵図

 昨日、劇団☆新感線の最新作「朧の森に棲む鬼」のプレビュー公演に行って参りました。市川染五郎が徹頭徹尾純粋な悪人となってどんな世界を造り上げるのか、期待して行ったのですが…何というか、凄いものを見せられた、という気分です。

 いつともどことも知れぬ戦乱の時代、主人公ライは、弟分のキンタとともに放浪を続けるうちに、鬼が棲むという朧の森に迷い込みます。そこで三人の魔物に出会ったライは、己の命と引き替えに、王となる運命とオボロの霊力を持つ剣を手に入れることになります。魔物の予言通り、その場に現れたエイアン国の四天王の一人・ヤスマサを殺したライは、その名を騙り、エイアン国と敵対するオーエ国の長・シュテンと盟約を結びます。
 エイアンの都に入り込んだライは、今度はヤスマサの遺言を携えた部下という触れ込みでヤスマサの妻であり同じく四天王のツナに接近、その信頼を得ていく一方で、暗黒街の顔役・マダレと手を結び、力を蓄えていくことに。そしてミカドの愛人・シキブと通じたライは、謀計を重ね、四天王の一人に収まります。が、それでもなお治まることのないライの野心は、二つの国を飲み込むほどに膨れ上がって――

 というわけでジャンルで言えばピカレスク・ロマンということになるのでしょうか。原案としてシェークスピアの「リチャード三世」を根底に据えつつも、登場人物名を見ればわかるように、日本の平安時代、源頼光と四天王の物語に材を採った本作(野暮を承知で書けば、ライの名は嘘のlieと頼光の名のダブルミーニングとなっているわけですね)、ライ役の染五郎の悪役ぶりがとにかく凄まじく印象的でした。歌舞伎には「色悪」という言葉がありますが、色悪ってレベルじゃねーぞ! という人間悪の固まりのような役柄で、いい意味で共感できないキャラクターを見事に演じておりました(後半、あるキャラクターをボコボコにするシーンは素で引きましたよ…)。
 特に終盤の狂乱シーンは…人間の業といいますか、一番見たくない部分というものを凝縮した凄まじさがあって、むしろ感心すらしてしまいました。三寸不爛の赤い舌が生み出す地獄絵巻、まったく恐れ入りました。

 演じると言えば、脇を固める面子もまた好演。阿部サダヲは、いつもの無闇な勢いでライの可哀想な弟分を、ツナ役の秋山菜津子さんは、「SHIROH」の時とは全く異なる、しかし女の哀しさを漂わせるという点では同じ役柄を、それぞれきっちりと演じ切っておりました。また高田聖子さんのシキブは、ツナとは異なるベクトルの女の哀しさで場を圧しておりましたし、古田さんは素晴らしくドスの利いた(ちょっと勝新入った?)マダレ役を実に格好良く演じており、終盤はほとんど主役状態。粟根さんは…何か考えているようで何も考えてなかった最期に泣いた(´Д⊂
 ただ、シュテン役の真木よう子さんの滑舌だけは、役作りの一環なのだとは思いますが、何だか不安感がつきまとっていてちょっと気になってしまいました(しかし真木さん、すンごい頭身高くて綺麗なの)。

 また――舞台上のギミックでちょっと気になった点もあったのは事実。本作、舞台上でじゃんじゃんと本物の水を使っていて大いに感心させられるのですが、まだ芝居と水の使い方に噛み合わせが悪い部分が多く、例えば冒頭の三人の魔物の歌や台詞など、水音が強すぎてちゃんと聞こえなかったのは問題かと思います。また、ラストシーンでは思いっきり裏方さんが見えてしまったり、あるギミックの動きが悪くて絵的にだいぶまずかったり…(よく考えたら冒頭とラストでこれではかなりマズいのでは)。これは、今後の改善を強く望みます。
(も一つ、これは今回だけのトラブルだと思いますが、オオキミが断末魔でのたうち回るシーンで、スッポリとカツラが脱げるという椿事が発生。その後のシリアスなシーンの間ずっと外れていたのにみんな何ごともなかったように演技しているのには感心しました)

 と、幾つか気になる点もあったものの、総じてプレビューとは思えないほどレベルの高かった公演でありました。スタート時点でこのクオリティなのですから、これから公演を重ねていくにつれてどれだけレベルアップしてくれるのか、楽しみでなりません。終盤にもう一回見に行くので、その時にまた感想を書いてみたいと思います。


 …あと、いきなり光と水と土とか言い出すのでスサノオ噴いた。

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2006.12.30

ブログで振り返る今年一年(後編)

 さて、ブログ記事で今年を振り返るの続き。下半期分です。

七月
 「るろうに剣心」完全版刊行開始によせて

 以外と平和だった(?)七月ですが、この月より「るろうに剣心」の完全版単行本が刊行開始。良い機会なので、これまで「るろ剣」に感じていた想いを書かせていただきました。それにしても和月先生の今の画による表紙は色々と興味深いですね。


八月
 「旗本花咲男」 幻のヒーローここに復活!

 八月も平和。強いて挙げるとすれば、幻の作品だった「旗本花咲男」がまさかの復活、それも完全版で、というのがトピックでしょうか。いやこれは予想できなかったです。


九月
 「朝松健作家デビュー20周年記念」オフ怪に行ってきました

 以前からファンの&お世話になっている朝松健先生のデビュー20周年オフ会が開催、この頃オフ会はさぼっていましたが久々に参加してきました。デビュー当時から読者ですが、もうそんなに経つのですか…いずれにせよ、朝松先生がいなければうちのサイトはここまで続かなかったでしょうね。
 あと、哉井さんがえらく格好良くて驚いた。

 また、ブログには書いていないのですが、同じ月には細谷正充さん主催の時代小説オフ会にも参加して非常に楽しい時間を過ごしました。私以外全員業界人でハラハラしましたわ。
 あと、黒崎先生がえらく美人で驚いた。

 舞台「魔界転生」 死者の転生と生者の再生の物語

 また、この月には新橋演舞場で舞台版「魔界転生」を観てきました。正直観る前はあまり期待していなかったですが、チャンバラがナニなことを除けば、よい舞台でした。


十月
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「天保異聞 妖奇士」 説一「妖夷、来たる」

 そして十月からはなんと週二本も時代伝奇アニメが放送開始という夢のような事態に。牧秀彦先生も参加の「いろはにほへと」、會川節全開の「妖奇士」と、どちらも非常に面白い作品で、毎週嬉しい悲鳴を上げながら感想を書いています。
 が、「どちらも面白いと思っている儂とか非常にマイノリティなんじゃなかろうか」と心配しているところなのですが――


十一月
 新雑誌「KENZAN!」の荒山徹作品に一読三噴
 「柳生百合剣」第一回 …これはひどい

 そして十一月からはなんと新雑誌「KENZAN!」の巻頭に荒山作品が掲載という悪夢のような事態に。さらに十二月には「小説トリッパー」誌でも連載開始、俺十兵衛も登場の「柳生大戦争」、十兵衛陵辱全開の「百合剣」と、どちらも非常に恐ろしい作品で、冷や汗をかきながら感想を書きました。
 が、「どちらも面白いと思っている儂とか非常に時代小説ファンとしてマズいんじゃなかろうか」と心配しているところなのですが――

 石川賢先生逝去

 と、そんな日々に飛び込んできた訃報。まさかあの石川賢先生が突然、あまりにも突然に亡くなられるとは――本当にこの時は一日虚脱してしまいました。

 先生の最後の原稿は翌月無事(?)掲載されましたが、これがまた実に石川作品らしいラストで…石川賢先生は、最後まで「石川賢」を全うされたのだな、としみじみ感じたことでした。
 最後の「戦国忍法秘録 五右衛門」ほか


十二月
 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ただ呆然の大技炸裂

 そして十二月…よりによって最後のトピックがこれか。
 花地獄以上に原作ファンの注目を集めていたあの「女人袈裟」がついに「Y十M」に登場。あまりといえばあんまりなビジュアルを臆することなく真っ正面から描ききったせがわ先生の偉業に感服しました。


 というわけで今年一年を振り返ってみましたが、まあ本当に色々なことがあったものです。もちろん、今回採り上げた以外にも、たくさんの優れた作品に出会うことができました。
 個人的にはこのブログで一年間毎日連続更新達成&記事千件突破などということもありましたが、それはまだまだ通過点。来年もこれまで以上に伝奇時代劇を楽しんで、またその楽しさを紹介していきたいと思います。

 …と、すっかりまとめモードになりましたが、今晩は劇団☆新感線の「朧の森に棲む鬼」のプレビュー公演を観劇予定。その感想が、本年最後の更新になるかと思います。

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2006.12.29

ブログで振り返る今年一年(前編)

 今年もあとわすか数日。そこで当ブログの記事を見ながら、今年一年を振り返ってみたいと思います。まずは一月から六月まで(各月のリンクは、その月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュールに飛びます)

一月
 「天下騒乱 徳川三代の陰謀」を観ましたよ
 「新選組!! 土方歳三最期の一日」に泣かされました
 八犬伝特集その四 TVドラマ「里見八犬伝」前編
 八犬伝特集その五 TVドラマ「里見八犬伝」後編

 新年のお楽しみの一つといえばTVの時代劇特番ですが、今年はかなりの豊作。時代も舞台もバラエティに富んだ大作を楽しませていただきました。誠に個人的な話ですが、昨年末から高熱を発して正月中ずっと寝込んでいた僕にとっては実にありがたい話でしたよ。


二月
 今月の「シグルイ」 狂星墜つ

 二月の事件といえば、虎眼先生死去…というより闘死。「シグルイ」という作品の顔とも言うべき虎眼先生の死は、原作読者なら当然わかっていたことではありますが、それでも大きな衝撃でありました。それから一年近く経って、物語のテンションが全く落ちていないのも凄いことです。


三月
 「嵐山スターウォーズ」 SUPER REAL FICTION復活!?

 べつに今年の三月に発表された作品ではないのですが、このブログ始まって以来のアクセス数を記録した記事として挙げておきます。

 「怪~ayakashi~ 化猫」序の幕 ポップでカラフルな凄玉
 「怪~ayakashi~ 化猫」二の幕 やっぱり深夜アニメ…
 「怪~ayakashi~ 化猫」大詰め もしかして神作品?

 一月から放送されていた時代怪談アニメ「怪~ayakashi~」ですが、三作目のこの「化猫」で文字通り大化け。和風ポップとでも言いましょうか、一度見たら忘れられないカラフルな世界で描かれる地獄絵巻はホラーファンであれば必見であったかと思います。今でも時々ビデオを出してきて見直します。


四月
 妖異聚成はじめました

 あんまり大した話ではないんですが、このブログの親サイトのメイン企画であった年表とデータベースをwiki形式で公開しましたよ、というお話。しかしこれ以降ほとんど更新できていないのには大いに反省します。

 「柳生雨月抄」 これ何て民明書房?
 「柳生雨月抄」の単行本が発売。モスラにアンドレ・オスカル、チャングムの歌の替え歌と、あらぬ方向にパワーを発揮した荒山先生に一般読者はドン引き、一部読者は大喜び。

 ちなみに七月には遂に荒山作品は時を超えました。
「処刑御使」速報 今度は朝鮮ターミネーター


五月
 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 そして道は続く

 実に七年間の長期連載となった「SAMURAI DEEPER KYO」がこの月に完結。「こんなの時代伝奇じゃねーよ」といつ言われるかドキドキしながら追いかけてきた作品ですが、連載当初とは見違えるほどクオリティアップしての大団円でした。

 七月に発売された単行本がまたえらく気合いが入っていて好感度高し。
 「SAMURAI DEEPER KYO」 これが最後の限界突破


六月
 「金鵬王朝」 四本眉毛の男見参!
 「繍花大盗 陸小鳳伝奇」 姿なき怪盗を追え!

 武侠だって伝奇です! と、武侠も大好きこのブログ、まさかの全巻(だよな?)邦訳が開始された古龍の「陸小鳳伝奇」を喜び勇んで取り上げています。

 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 勝利の女神見参!

 「Y十M 柳生忍法帖」連載開始時より、一体どうするんだろうと思われていた花地獄での女般若面登場シーンですが、この月についに登場。蓋を開けてみたらけっこう仮面×3というシュールな絵面になりましたが、真っ正面から逃げることなく原作を描ききるせがわ先生のセンスは、今年の暮れにもう一度爆発することに。

 「影風魔ハヤセ」最終回 平和という名の大忍法

 非常に面白かったのに世間的知名度が低いのが残念で仕方ない「影風魔ハヤセ」がこの月完結。忍者バトルと戦国大名のぶつかり合いが見事に交錯した末の大団円には唸らされました。そういえばこれ以来森田作品を読んでいないような…来年に期待します。


 というわけで下半期に続きます。

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2006.12.28

「平安風雲伝」 時代シミュレーションRPGの隠れた名品

 今から約十年前の1995年に発売されたスーパーファミコン用ソフトがこの「平安風雲伝」。平安時代を舞台としたシミュレーションRPGですが、発売当時からさして知名度も高くなく、攻略本も(私の知る限り)未発売、今に至るも攻略サイトもなく、2chのスレすらないというマイナーぶりですが、いざプレイしてみるとなかなかによくできた隠れた名品であります。ここしばらくちょこちょことプレイし直していたのが一応終わったので、ここに紹介いたします。

 舞台となるのは、平将門の乱から六十年を経た西暦一千年。安倍晴明が、呪いを生業とする伝説の一族・山童一族の不穏な動きを知るところから始まります。山童一族は、歴史の陰にあって、朝廷の権力争いにも力を貸し、それが故に弾圧された一族。その彼らが、かつての晴明の弟子・芦屋道摩と手を組み、禁断の死人返しの術法により、あの藤原純友と平将門を甦らせようとしている――その巨大な陰謀の前に、晴明は、複雑な出生の秘密を持ち、晴明の手により熊野に預けられた育てられていた少年・神楽(主人公)を呼び出します。かくて、神楽と仲間たちは芦屋道摩と山童一族、そして復活した藤原純友と平将門を倒すため、旅に出る――というのがあらすじであります。

 さて、シミュレーションRPGと言えば、そのジャンルの代表とも言うべき「ファイアーエムブレム」も「スーパーロボット大戦」も、シナリオクリア型、すなわちショートシナリオの一面一話ずつをクリアして物語を進めていくタイプですが、本作においてはその点が大きく異なっています。つまり、本作においては小さめの戦闘マップをクリアしていくのではなく、北陸から九州に至るまでの大きなマップの中を歩き回って、敵と遭遇すると戦闘マップとなって、お馴染みの、各キャラクターを動かして戦闘していくこととなります。

 そういう意味では、普通のRPGの戦闘場面がシミュレーションバトルになっただけ、という印象もありますが、しかし本作をシミュレーションとして成立させている要素が別にあります。本作におけるゲームオーバー条件は、主人公の死亡だけでなくもう一つ、本拠地たる京の都に敵の部隊が侵入すること、という条件があるのです。
 本作に登場する敵部隊は二種類、マップ上から動かない固定敵と、その固定敵が生み出す移動してくる敵がいます。そのため、プレイヤーは進軍――それも複数の方面から――してくる敵の部隊から都を守りつつ、自分たちもその敵を生み出す敵の本隊を叩き潰していくことが必要になります。
 つまり進軍ルートと部隊編成――書き忘れましたが、本作では主人公の他に部隊長キャラが何人かおり、その部隊長を含めて一部隊最大八人まで配属することができます――を考えて、いかに効率よく敵を倒していくか(しかしあまり効率よく倒しすぎると経験値が稼げないので、適度に攻撃の手を緩めることも必要だったりして)頭を使う必要があり、それが最大のキモのように感じられます。

 と、システム面の話ばかりしてしまいましたが、伝奇ものとして見た場合でもなかなか面白い本作。シミュレーションRPGといえば、登場するキャラの顔ぶれが楽しみな魅力の一つでありますが、本作においては虚実取り混ぜて多士済々、将門純友は上に述べたとおりですが、源頼光と四天王や安倍晴明、そして敵役の芦屋道摩と、平安ファンタジーでお馴染みの面子が登場します(特に晴明は、この当時はかなり珍しかった老人としての登場で、和製ガンダルフの趣があります)。
 また、ストーリーの方も、その異能故に公の権力に利用され、また弾圧されてきた山童一族(鬼や天狗の原イメージとなった人々、という印象)の悲劇を描き、また、単純な悪役に見えた芦屋道摩にも、戦うのに深い理由があったことがラストのどんでん返しで示されるなど、一ひねりが加えてあって、唸らされる部分もありました。

 もっとも、褒めるべき点ばかりでもなく、登場キャラの大半が、台詞もない単なるコマ扱いだったり、ゲーム展開に慣れてくると敵との戦いが作業になってきたりと、色々残念な点もあって、あまり長時間ブッ続けでやる作品ではないな、という印象はありますが、これはまあ十年前の作品だったということでスルーすべきことかもしれません。
 何よりも、まだまだ数少ない時代もののシミュレーションRPG、それも先行作品とは異なる方向性を目指した作品として、本作は珍重すべきものがあるかと思います。流石に続編やリメイクを、とまでは申しませんが、本作の流れを汲む作品があってもいいのではないかなあと、時代ゲームファンとしては思うのでありました。

 そして――誰もやらんのなら、うちで攻略サイト(コーナー)作ろうかなあと、密かに思っている次第。

 と、偉そうなことを言いつつも、まだ真のエンディングを見れていないので、どなたか情報をお持ちの方は是非ご一報をお願いいたします(あと、助けられそうなのに助けられない天海にも助け方がありそうな気がするのでこちらも)。


「平安風雲伝」(KSS スーパーファミコン用ソフト) Amazon

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2006.12.27

「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」 大江戸「超」怖い話のお目見え

 「独白するユニバーサル横メルカトル」の推理作家協会賞受賞、そして同作が今年の「このミステリーがすごい」第一位と、あれよあれよという間にメジャーシーンに躍り出た感のある平山夢明先生ですが、怪談ファンの私にとってはやはり「「超」怖い話」が真っ先に浮かぶのが正直なところ。その平山先生の江戸時代を舞台にした怪談集が、この「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」。「「超」怖い話」と同じく竹書房からの発売です。

 一読してみての感想ですが、これはもう良くも悪くも大江戸版「超」怖い話。ほとんどの作品は文章のスタイルもほぼそのままで、一瞬どう受け止めたものかとまどってしまったのも事実ですが、読み進めるうちに、これはこれでいつもの平山節として、安心して読むことが出来ました。
 収録された作品のバラエティの豊かさも、「超」怖い話と同様。ウッとくるようなグロ怪談(さすがに数は少なめですが)あり、怪奇現象よりもむしろ人の心の方が恐ろしくなる物語あり、思わずクスッとしてしまうような奇談あり…現代のみならず、江戸時代の怪談ファンでもある私としては、大いに楽しむことができました。

 試みに特に印象に残った作品を挙げれば――
・「心魚」:中国の仙人譚のような雰囲気から二転三転、悲惨な結末の予兆の描写が見事
・「髪賽銭」:平山作品にしばしば見られる、祟る側を応援したくなってしまうような人間地獄にいい意味でうんざり
・「横綱」:盲目の按摩が、横綱の体を揉んでいく、その描写が巧みで引き込まれます
・「肉豆腐」:怪奇現象よりも、そこに至るまでの土俗的儀式の描写に、もう勘弁して下さいと言いたくなりました
・「萎えずの客」:前半の人間地獄から一転、あっと驚く大物登場に驚かされました
・「狸の駄賃」:まだ人と妖怪の間に暖かい交流があった頃のお話。こういう人情話もいいですね
・「人独楽」:これも祟る側を…なお話。これはひどい。

 短い話ばかりなのであらすじ等は載せません。ぜひご自分の目で確かめてみていただきたいのですが、ほとんどの作品に共通するのは、平山怪談の特長の一つである、度を越した人間の怨念・妄念・執念が呼ぶ怪奇と狂気の世界。こうした平山節の物語は、てっきり現代特有の事象から生まれてくるものかとこれまで思っておりましたが、なるほど、これはむしろ、人が人である限り、時を遡っても(そしておそらくは時が流れても)同様に存在するものかと思わされました。
 そしてその一方で、こうしたドぎつい世界の背後に、同時に、虐げられる者への優しい視線と、世の不条理に対する静かな怒りが感じられるところもまた、現代を舞台にしたものと変わらぬ、平山作品の味わいだなあと感心させられたことです。

 といってところで、個人的には大いに満足できたこの「井戸端婢子」。もちろん、初めての時代もの怪談ということもあって、文体にとまどいが感じられるものや、現代ではちょっと使えないようなベタなお話も混じっていたりはしますが、シリーズ第一弾(らしいです。嬉しいことに)としては、十分及第点なのではないかと思います。
 ちなみに私、平山先生のことはひそかに「現代の鶴屋南北」と呼んでいるのですが、本書が呼び水となり、その呼び名に誰もがうなずいてくれる日が来ることを、心から祈る次第です。


「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」(平山夢明 竹書房文庫) Amazon bk1

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2006.12.26

「SUSANOH 魔性の剣」 黄金トリオ見参!

 今から十年近く前に上演された劇団☆新感線の「SUSANOH 魔性の剣」を、ビデオで観ることができました。この作品、現在「takeru」のタイトルでコミカライズされ、このブログでも単行本が発売されるたびに紹介しているところでありますが、DVD化されていないこともあり、これまで観る機会がありませんでした。まあ、「takeru」が完結してから探しても遅くはないか、いやむしろ完結するまで観ない! と思っていたのですが、この度ビデオを見せて下さるという素晴らしい方が現れたのであっさり宗旨替えして観てしまいました。いや、観てよかった。

 舞台は遙か古代の日本(を思わせる国)。イズモノタケル、クマソノタケル、オグナノタケルの三人のタケルが、伝説の神の剣クサナギを守る蛇殻国と、この地に覇を唱えんとする天帝国の戦場で偶然顔を合わせる場面から物語は始まります。
 能天気なイズモに豪快なクマソ、寡黙冷徹なオグナと、個性も生まれ育ちも全く異なる三人が、イズモの言葉によりクサナギを求めて蛇殻国に向かうことになるのですが、そこで彼らを待ち受けていたのは裏切りと血の過酷な運命(中島かずき節全開!)。奇怪な預言者サグメの手のひらの上で踊らされるが如くいよいよ戦は激しさを増し、その果てにクマソは魔剣に取り憑かれて魔軍の長となってしまいます。唯一クサナギに抗する力を持つ真の神の剣を求め、イズモとオグナは秘境・鬼住国を目指すのですが――
 というのが物語半ばまでのあらすじ。だいぶ前の舞台とあって、舞台装置・ギミックなどは最近の舞台に比べるとさすがに見劣りする部分はあり、また、キャラやストーリー描写についても食い足りない部分が些かありますが、しかしそんなものを吹き飛ばすほどの勢いが、当時の新感線にはありました。前年の97年に快作「髑髏城の七人」でもメインを張った古田新太・橋本じゅん・粟根まことの黄金トリオが、本作では三人のタケルを演じて大活躍。

 能天気で女好きで、しかし決めるところはバッチリ決めるイズモは、もちろん古田新太ならではの痛快なキャラクター。実は他の二人に比べると、脚本・演出上、キャラの陰影という点では突っ込みが足りない部分もあるのですが、それを補って余りあるハマりぶりでした。また、前半は単純ながら豪快で気のいい漢、そして後半では魔剣に憑かれ血に飢えた狂戦士と化すクマソという振りの広い役を、橋本じゅんはお得意の目ン玉ヒン剥いた表情で熱演。これァもう、じゅんさん以外演じられないハマり役と申せましょう。
 この二人が対決するクライマックスは、一撃が命取りになる真剣勝負の緊迫感が横溢、チャンバラ巧者の二人だけに今日日TVや映画でも滅多に見られないような白熱した殺陣を堪能させていただきました。

 が――この二人以上に爆発しているのが、オグナを演じる粟根まことの、アニメや漫画から抜け出してきたようなクールな美形キャラぶり。例えるなら、気になる女の子から誕生会の招待状をもらったのに、それをその子の目の前でひっちゃぶきつつ「お前を殺す」とか耳打ちしちゃいそうな?(わかんねえ)
 物語中でもオグナは、登場した時には、人を表情一つ変えずに殺す冷徹な男ながら、ある事件をきっかけに人を殺すことができなくなってしまいます。そしてまた、戦いの中で明かされるその正体は実は…! と、おいしいところ押さえまくりのキャラクターなのですが、冷徹なだけに感情のわずかな動きも重要な役柄を粟根氏は好演。見るからに大変そうな長物を使っての殺陣も見事で、喧嘩が強くて男前のそのキャラは、前年の「髑髏城」の無界屋蘭兵衛に続き強烈なインパクトがあって、女性ファンが多いというのも頷けます。

 そんな黄金トリオの活劇が、冒頭からラストまで一気呵成に繰り広げられる本作。冒頭のちょっとしたシーンがこんなところで活きてくるなんて! 的展開もクライマックスにはあり、そしてまたラストに登場するもう一つのタケルの名というサプライズもありと、最初から最後まで爽快なアクション活劇を味合わせていただきました。
 上記の通り、決して百点満点ではなく、残念な点もあるのですが、脂の乗り切った役者のパワーはそれを些末なことに思わせるほどのものがありました。やはり舞台は生き物、なのでしょう。

 冒頭に述べたとおり、いまだDVD化されていない本作ですが、来年、イーオシバイから新感線の過去作を集めたDVDボックスが発売されるとのこと。その中には間違いなく本作も収録されることでしょう。その時にまた、本作を見返してみたいものです。

 ちなみに「takeru」(まだ完結していませんが)と本作を見比べてみると、本作で見ていて気になっていた点がきっちりフォローされていることに驚かされました。その辺りについては、「takeru」完結の際に触れたいと思いますが、いま再演するとこうなるんだろうなあ…と考えさせられたことです。


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 「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第三巻 神剣めざめる

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2006.12.25

「幕末機関説 いろはにほへと」 第十二話「龍馬之言伝」

 品川で覇者の首と永遠の刺客の物語を上演する赫乃丈一座。そして再会した赫乃丈は、耀次郎におりょうから託された龍馬の最後の言葉を伝える。耀次郎は耀次郎の道を行けと…。一方、実は大英帝国の密偵であった左京之介は、蒼鉄から覇者の首の在処を聞き出そうとするが、その場に耀次郎が駆けつけ、三つ巴となる。が、そこに幻影兵士が出現、蒼鉄は姿を消す。そして一座に届けられた台本には、耀次郎と中居屋の名が…

○大当たりを取る赫乃丈一座の芝居。お芝居とはいえ、覇者の首の存在を公にするというのはかえってまずいのでは…と思いましたが、例えるならば劇団☆新感線の舞台を見て、「実は信長は三人いたのか!」とか言うのと同じレベルなのでかえって大丈夫か。しかし舞台上での覇者の首のギミックが面白いですね。変化とか宙を舞ってくるところとか…

○実は首が自分を狙っていたことを知り、それを楽しんですらいた龍馬。しかしその首に引き寄せられ、自分の用心棒となっていた耀次郎を危険な目に遭わせ、死なせないため、自らの意志で首を遠ざけたのでありました。そのため耀次郎は龍馬から離れ、そしてそれが龍馬暗殺につながったというわけですが――幾ら本人たちは違うと言っても、結果的には耀次郎の存在が龍馬の死を招いたと言えないこともなく、これは確かに切ない。

○そして語られる龍馬の言葉――耀次郎は耀次郎の道を行けと。それがおりょうの、そして龍馬の願い…(でも、引っぱったわりには全然意外性がなくてちょっと残念)。そして今日は色々な表情を見せる耀次郎。普段が無表情だからちょっと表情変えただけではっきりと違いが表れるのは面白いなあ。そして龍馬の遺志を知って男泣き。

○さて榎本サイドでは、「ラストサムライ」のモデルの人、ジュール・ブリュネ氏が登場。民間人、それも商人や物書きは信用するなと榎本に語りますが…ちなみに声が高橋良輔作品で半ば常連の広瀬正志氏! さすがにキレたキャラにはならないと思いますが。

○蒼鉄をつけて覇者の首の在処を聞き出そうとする左京之介。そして彼を大英帝国の密偵と見破る蒼鉄。本当に何者なんだあんたは。そして無駄に派手な登場をしながらも、発した言葉は左京之介と同じな耀次郎。これは格好悪い。

○再び登場した幻影兵士。こういう時は銃で不利ですが――しかしその場に巻き込まれた赫乃丈をかばうのはさすが英国紳士。でも赫乃丈ビジョンには耀次郎しか映っていなくて左京之介無惨。

○ちょっとわかりづらかったですが、首は蒼鉄には取り憑いていなかったと(それなのに首の力を操る蒼鉄恐るべし)。あくまでも第三者として歴史を動かしていくつもりなのでしょうか…そしてそれぞれの役割を見切ったと称して消えた蒼鉄は、悪そうな表情で芝居の第二幕の台本を書いて…今週はオシマイ


 というわけで龍馬の最後の言葉が語られたわけですが――上にも書いたように、意外性や具体性がなくてちょっと残念。正直なところ、物語の折り返し地点目前まで来て、ちょっとまずいくらい薄い耀次郎のキャラを補強するくらいのインパクトが欲しかったですが…
 それはさておき、次回で前半終了。いよいよ耀次郎(ついでに中居屋も)舞台デビュー!? 中居屋は次回でお別れになりそうな雰囲気ですが、さてどうなることやら。

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2006.12.24

「天保異聞 妖奇士」 説十二「駁竜、月に吠える」

 雲七の力で窮地から逃れた一行。しかし小笠原は、老中より身の証を立てるため加納を斬れと命じられる。一方謎の集団「西の者」は、殺生石の力を用いて巨大な貘の妖夷を生みだし、東照宮に封じられていた数々の妖夷を目覚めさせていた。そして雲七の中のケツアルコアトルまでもが目を覚まそうとする中、それを制御し、力とするため、往壓は自分を雲七に喰わせようとする。一つに合わさった往壓と雲七の力は駮竜と化し、加納と小笠原のサポートもあって貘を粉砕。が、加納は小笠原に刃を向け、遂に小笠原は加納を斬ってしまうのだった…

○前話のあらすじは、アビとえどげんによる久々の視聴者への語りかけスタイル。賛否あるようですが、私はこのスタイル好きだなあ。そしてアビげんは今回の出番これまでorz そしてあらすじ終了直後の往壓の微妙な表情がステキ

○円盤形態に変形してアソベを吹き飛ばし、往壓たちを乗せて一度は逃走した雲七たち。喋るだけでなく変形能力まで残っていたのかあ。

○十傑集チックな走り(腕ェ組めば完璧だったのにな!)を見せる仮面の男たち。公式サイト等によれば「西の者」ということですが、さて…「西」で陰陽師チックな格好をした人間がいるところといえばやはり京の都。奇士が幕府側とすれば、西の者は要するにあちら側ということなのでしょうか。貘が倒された後の「地の神はまだいる」という言葉や今回の行動からすると、封じられた古の神々の封印を解くのが目的ということかしら。おお、伝奇ものだ。

○小笠原様裏切り者説を聞いて豪快に泣く宰蔵。随分感情豊かに…というより情緒不安定気味だなあ(というより演出が不安定)。よっぽど過去から解放されたのが嬉しかったのか…

○往壓も小笠原も、異国も異界とか言ってるヤツって、ありもしないものに憧れて、それ以外の人間を見下してるみたいでキライ!(意訳)と言ってのける本庄。一見正論に見えて、相手の言うことに「自慢」という言葉を使ってしまう辺り、色々と屈折しているもおが感じられます。

○東照宮の堂に貼られた無数の御札。そこに書かれた神名は、東照大権現以外に家康に下されるかもしれなかった別の神の名。それによって家康の神としての力を奪い去ろうという企てとは…さあ、いよいよもって伝奇ものらしくなってきました! 「まつろわぬ者」とか言ってるしな。

○蘭学の力で妖夷を倒すことにより、お上に蘭学の力を認めてもらおうとする小笠原様。…蘭学の力? 妖夷を倒す? いや、小笠原様が言うと色々とツッコミを入れたくなって困る。

○と、沈む夕日の中に浮かぶ漢神…? 往壓以外に漢神を操る者がいたとは。西の者の頭領、意外と安直なビジュアルの割りには(?)実力者です。そして、草間に日が沈む意味を持つ「莫」の漢神にムジナを合体させて「貘」を誕生させる様はほとんどメガテンです。

○…ムジナはあくまでも「狢」であって、宰蔵篇に登場した「無慈儺」とは別物という理解でよいのでしょうね。

○日光東照宮には、徳川幕府安泰のため、平和のため多くのまつろわぬ者の魂が、妖夷が封じられていたと語る老中。そして誕生した貘の妖夷の力で復活し始める妖夷の群れ…というか円盤やら怪獣やら、もうすっかり怪獣もののノリに。というより夜空をバックに光線が飛び交う様は時代劇史上空前絶後だろうなあ…素晴らしい。

○そこに飛び込んできた往壓&雲七。雲七は竜に変化して往壓を乗せて妖夷の群れに突っ込みますが、殺生石の力で雲七もケツアルコアトルの力を押さえるのはもう限界。。雲七の力も限界に達しようとしていたその時、俺を喰えという往壓…って、どういう発想なのか(いや、雪輪雲七誕生の経緯を考えれば、十分アリだと思うのですが)。

○どうやって喰われるのかと思ったら漢神を自分たちから取り出して、その力をケツアルコアトルにぶつけた、という理解でいいのかな? 往壓+ケツアルコアトル(+雲七)の妖夷合体で生まれたのは高田裕三チックなデザインの、ちょっとコワイ顔をした駮竜。
しかし、早く元に戻らないとこのまま往壓は完全に妖夷になってしまうという時間制限付き。何だか最終回のようになって参りました!

○貘を倒すため、ライフルで殺生石を打ち抜こうとする小笠原様。彼に協力するため、スコープを取り出し、距離を算出しようとする加納。おお、ここで共に算学&砲術を学んだという伏線が! そしてここでまた笑いを取りにかかるかのような宰蔵。

○あれは駁! と驚く配下に対し、「あれは首のうちの一本。この時代に現れようとは」と謎めいた言葉を吐く西の者の頭領。うーん、首を複数持っていそうな竜の眷属ときたら、日本だとやっぱり…

○小笠原スナイパーカスタムの超遠距離射撃で殺生石を粉砕したところに駮竜の一撃で引き裂かれる貘。駮竜は最後の力で往壓と雲七を吐き出しますが…往壓尻見せ。あと一緒に落ちてきたのは、貘を貘たらしめていたムジナかな

○がっちり手を握り合う小笠原様と加納。が、武士の一分でやむなく刃を向け合う二人。闇の中で鈍く光る刀身と瞳の画、決闘のシーンの(意図的に)不安定な線と相まって印象的なシーン…だったんですが斬られた瞬間の加納の表情が凄すぎて、一瞬別人を斬ったのかと思ってしまったのは内緒。真面目な話、この二人の決闘シーンには、かつての往壓と雲七の斬り合いが重なって見えました

○ハナチョーチンと、最後の最後まで愉快キャラで押し通す宰蔵。

○友を斬ったことを悔やむ小笠原をそっと一人にする往壓。まあ、こういう優しさもあります。小笠原様の魂が救われたわけではなく、かえって重いものを背負ってしまったわけですが、やはり年月を重ねてきた分だけ、大人が救われるには時間がかかるということなのでしょう。でも小笠原様は生足サービス。

 と、往壓の新たな力に謎の集団「西の者」の存在、小笠原様の過去と、前回同様、ずいぶんと詰め込みすぎの上に、時代劇とは思えぬような大怪獣空中決戦で、最終回と言われても信じてしまいそうな展開でした(まあ、第一クールの事実上最終回ですが)。が、これはこれで大いに面白かったと思います。エンターテイメント的な充実度もさることながら、ラストの小笠原と加納の決闘の顛末など、いかにもこの番組らしい重い部分もきっちりとありました。

 さて、駮竜の登場で、今まで以上に往壓が桁外れの力を持つことになりますが――これは以前からずっと思っていたのですが――往壓=ウルトラマン、蛮社改所=防衛チームと考えると、この番組は構図的にスッキリするのですね(いやむしろ剛神と蘭学攘夷隊だろ、というのはまあ置いておくとして)。もちろん、一つ前の番組からの連想ではあるのですが。

 そして次回、あの河鍋暁斎(の若い頃)が! しかも美形!(なんというか、最近色々と足りなかったものを補おうとしている感じだなあ…)。個人的に暁斎の絵は好きですし、物語のネタとしても面白い人物なので、ナイスチョイスと言えましょう。
 メインとなる舞台は吉原のようで、こちらも果たしてどう描かれますか。そしてねじり鉢巻のえどげんが男前でこれも気になります。というより、タイトルやあらすじからするともしかして次回は総集編なんでは…


「天保異聞 妖奇士」第一巻(アニプレックス DVDソフト) 通常版 限定版


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2006.12.23

1月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュール

 さあもう幾つ寝ると年も明けて平成19年の2007年。新年一発目の時代伝奇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。特に書籍方面でなかなかの充実ぶりになっています。

 まず、まだ松の内の6日には、徳間文庫の幻の時代小説復活シリーズ第二弾(第一弾は「風流奉行」)として村上元三の「顔のない侍」が登場。貴重な、そして何より今の目で見ても十分に面白い絶版作品を復活させるユニークで重要な試みだけに、大いに応援したいところです。
 また、上田秀人の勘定吟味役異聞シリーズと、牧秀彦の辻風弥十郎シリーズの最新刊が同時に登場。かたや経済&伝奇、かたや剣豪&必殺という全く異なるテイストの二作品ではありますが、どちらも大いに楽しみです(ちなみに牧先生はその他にも学研から新シリーズ第一巻が登場予定のようですが、いまだタイトルが不明なのが心配)。
 なお、私が大いに応援している沢田黒蔵先生の新刊も出るのですが、題名を見た限りでは、どーもお得意のフィールドからかけ離れた内容になりそうでちょっと心配…

 また、漫画の方では、室町怪奇アクション「ガゴゼ」の第二巻が登場、全く先が読めない作品だけにこれは楽しみです。コミック文庫では諸星大二郎先生の「諸怪志異」シリーズが刊行されるのも嬉しいニュースです。
 その他、つい先日雑誌連載が堂々の完結を迎えた岡村賢二&笹沢左保の「真田十勇士」最終巻も要チェック。

 DVDの方では、このブログでも毎回紹介している「幕末機関説 いろはにほへと」の第一巻が登場。GyaOだとちょっと見づらくてねェ…と敬遠されていた方も、この機会にぜひぜひご鑑賞を。
 CDではなんと「妖術武芸帳」のサントラが登場。これ、DVDの方も出してくれないかしら…絶対買うのに。

 最後に、カレンダーに載せなかった時代伝奇以外の作品として、25日には雑誌連載もいよいよ佳境の「おとぎ奉り」の最新刊が登場しますよー(と、愛媛に向かってアピール)。
 また、下旬としかわかりませんが、創元のキャプ・ン・フューチャー全集の最終巻も遂に刊行。嬉しいような寂しいような…しかし内容はほとんど幻と化していた短編全訳(これがまたえらく湿っぽい話ばかりなんだ…)&初訳コラム! という素晴らしさなので長生きしていて良かったですよ。そして同じ創元からは、芦辺拓先生の「明智小五郎対金田一耕助」も登場するのでこちらも買わなくては。

 って…創元のサイトみたらもっと幻のCF長編が! 本当にヤケになってアレしなくて良かったですよ(まあ、全部既読ではあるんですが)。って時代伝奇ブログの記事では完全になくなってしまいましたが、こんなところで。

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「攘夷 幕末世界」(再録)

 血気盛んな青年侍、関谷幸四郎は、藩の英語教師スチイネルが実は醜怪な怪物であったことを知り、これを斬ってしまう。幸四郎は追われる最中、宇津々木神の顕現と出会い、世界の真実と、怪物=夷狄の正体を知る。その頃、富士山麓では怪人大神忠光が、大地の邪気を汲み上げるからくり「あるむすとろん」により、日本を夷狄の国にしようとしていた。日本を守るため、幸四郎は「攘夷」の言葉を胸に戦う。

 …一言で言えば、風忍と諸星大二郎を足して、粘液まみれにしたような電波ゆんゆんの内容。それでいてチャンバラシーン自体はいつものリアル指向のアクションのため、そのギャップはかなりのもの。もう真剣に作者の正気を疑いました(一応これより後に描かれた「明楽と孫蔵」はまともだったので、一安心)。
 そりゃ確かに開国直後は外国人を化け物みたいに思っていた人々がいましたが、それを本当に化け物(それも触手や粘液だらけで「グァッギキョェェ」とか言ってるようなやつ)にしてしまったのはいかがなものか。おまけに宇津々木神は何故かキリストを抱いた聖母の姿だし、連れているヤタガラスは天使の姿。ラストでは唐突に第二次大戦時のチベットに舞台が移って…もう最高です。

 それにしてもこの作品、上記のような部分を除いて冷静に読めば、存外真っ当な侵略ものSFという気がします。異世界からの侵略というものを当時の人間の視点から描けば、この作品のような世界となるのかもしれませんし、何よりもこの作品、「あるむすとろん」の地下で蠢く邪神といい、現世を侵食する(すり替わっていく)異界の触手持てるイメージといい、実はクトゥルー神話だったんじゃないか!? という気が非常にしているのですが…。
 いずれにせよ異次元の邪神vs地球の古き神というモチーフは非常に魅力的であり、それを時代劇でやってしまったのは賞賛に値すると申せましょう。


「攘夷 幕末世界」全二巻(森田真吾 秋田書店グランドチャンピオンコミックス) Amazon

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2006.12.22

「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」を見終えて

 それでは全話を視聴した上での感想まとめ。真っ先に結論を書いてしまえば、本作は「もったいない」の一言に尽きるかと思います。
 あの名作「獣兵衛忍風帖」の続編(実際には世界観を一部共有する作品、といった態でしたが)ということで、オリジナルのファンからずいぶんと期待された本作ですが、いざ放送が始まってみれば、オリジナルとは獣兵衛と濁庵のキャラクターのみが共通で、ストーリーや設定のテイストも大きく異なり、期待が大きかった分、反発も強かったように記憶しています。

 この方向性の違いについては、第一話の感想においても触れているので繰り返しませんが、単発の映画と、全十三話のTVシリーズでは構成も描き方も変わるのは当然の話。全体で一本の筋を通しつつ、毎回ゲスト忍者を迎えてのアクションで押していくという路線自体は、間違っていないと思いますし、作品世界を広げることとなったかと思います。

 もっとも――オリジナルのファンに不評だったのは、そうした方向性の違いから来る違和感に帰せられるもののみではないのも確かなところ。これまで各話の感想の中で再三述べてきたように、脚本や演出に詰めが甘い部分が散見され、豪華なキャストの熱演でかろうじて救われている部分があったのは間違いありません。

 また、全体の構成としても、本筋である宝玉争奪戦の盛り上がりが微妙(折角二つに宝玉を分けたのに、一方は終盤まで鬼門側の手にあるなど)であったり、単発エピソードの挟み方が今一つでかえって混乱を招くなど、十三話という長さをうまく使えてなかったように感じられます。これはやはり、シリーズ構成の井上敏樹の責任によるところ大ではありますが(この辺りは散々巻物争奪戦やってきた父君の方がさすがに上かなあ…)、しかし同時に、氏が第一、二話のみならずその後も脚本を担当していればまた印象の変わった部分もあるのではないかと個人的には感じています。

 もちろん、クオリティ的にこれを下回る作品はそれこそ山とあるわけであり、いやむしろ冷静に見れば上出来の部類であるとは思いますし、私も何のかの言いながら最後まで楽しく見ることができたのは紛れもない事実。見て損になることは全くありませんが、いかんせん看板が逆に重荷になってしまった感は否めません。

 スタッフも、キャストも超一流でありながら、何ともすっきりしない評価となってしまう本作は、やはり「もったいない」作品であるというほかありません。せめてもう一シリーズ、あるいは予告のみされていまだ日の目を見ないオリジナルの続編が製作されれば、また違った評価がなされる気もいたしますが、さてそれはいつになることか――その日を辛抱強く待ちつつ、この稿を終わります。


「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第4巻(アミューズソフトエンタテイメント DVDソフト) Amazon

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 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第一話 「かくれ里無惨」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第二話 「旅立ち」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第三話 「邪恋慟哭」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第四話 「割れた宝玉」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第五話 「金剛童子」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第六話 「雨宿り」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第七話 「蕾」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第八話 「煉獄昇天」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第九話 「はらわたに龍」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十話 「ヒルコの真心」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十一話 「柳生連夜」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」 第十二話「王朝復活」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」 第十三話「青天飄飄」

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「バイオレンスジャック 戦国魔人伝」(再録)

 個人的には「手天童子」と並んで最も好きな永井豪作品であるところの「バイオレンスジャック」の外伝的作品。“戦国”というのは、乱世の譬えかと思っていたら、本当に戦国時代が舞台でした。

 発端は現代(?)の日本。暴走族のメンバーである稲円(いなまる)が、夜の街で雲突くような巨人(=ジャック)を目撃した直後、仲間たちと共にタイムスリップ。辿りついたその先は、血で血を洗う戦いが繰り広げられる戦国時代。が、そこでは武士も農民も皆殺しにする機械兵を操る武士・斬牙(ざんが)が覇を唱えていた――というわけで、今回の元ネタは「戦群」と「機神」。相変わらず豪快に元ネタをいじってみせるセルフパロディぶりは健在で、その辺りは楽しめたのですが…

 今回のエピソードが単発なのか、今後も引き続き掲載されていくのかは全く不明なのであまり大声では言えないですが、単発なのであれば、はっきり言って「失敗作」の一言。ラストの「たたかいだ! ゆくぜ!」パターンはまあお家芸みたいなもんで驚きませんが、しかし今回はあまりに唐突で、ページが尽きたから放り出したという感が強いのです。ジャックのジャックたる由縁である、周囲の者を否応なしに暴力の渦に叩き込む点はよく描かれていたと思いますが、しかしマニアはともかく、ジャックに初めて触れた読者であればなんと思うことでしょうか(まあ、下手にジャックを知らない読者の方が素直に楽しめ…るかなあ)。

 「バイオレンスジャック」という作品世界の重要なモチーフとして時代劇があることは言うまでもありませんが、その世界で生まれたジャックのいわば里帰りとも言える今回のエピソード。それだけに(今のところ)中途半端で途絶してしまったのが残念でなりません。

 …まあ一番納得いかないのは、ライアがあれじゃ裸身剣もへったくれもないってことなんですが。


 以下、マニアの自問自答。
 ジャックの世界というのは一端××した後、○○○によって△△された世界だったわけで、その世界での戦国時代というのはどういう時間軸になるのだか(××する前の世界の戦国時代まで飛んだのか? △△された世界にも戦国時代があったのか?)。というより冒頭の世界ってどうみても関東地獄地震以前の世界で、そこにジャックが存在しているってのは…(いや、いていけないことはないんだけども)。しかしあのラストで飛んだ稲円たちの辿りついた先が、壊滅した関東であればジャック本編にキレイにつながるわけで、それはそれで良いのかもしれません。
 …いまふと思ったけど、永井豪キャラ総登場の戦国ものってのも面白そうですネ。というか戦国時代で暴れ回る門土&竜馬が見たい(当然、戦国時代でもバズーカ)。


「バイオレンスジャック 戦国魔人伝」(永井豪 別冊ヤングジャンプ第14弾掲載)

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2006.12.21

「おまけのこ」 しゃばけというジャンル

 文庫化までとても待っていられなかったので「しゃばけ」シリーズ第四弾「おまけのこ」を単行本で紹介。前作、前々作同様、今回も若だんな・一太郎と妖怪たちが活躍する全五話が収録された短編集となっています。以下、収録作品について簡単に紹介と感想を。

「こわい」
 妖たちや仏様にさえも厭い、恐れられるという狐者異という妖怪。ある日一太郎の前に現れた狐者異が持つという、職人の腕を一流にするという薬のため、日限の親分たちは奔走しますが…

 狐者異というのは結構マイナーな部類に属する妖怪ですが、本作においては、仲間であるはずの妖から嫌われ、仏様でさえ匙を投げるという天涯孤独のひねくれ者。折しも親友の栄吉と、彼の菓子作りの腕のことで大喧嘩してしまった若だんなは、彼が持つ薬に興味を持つのですが、それが意外な騒動に展開していく様が描かれます。
 しかし物語の主眼は、この騒動以上に、狐者異という特異なキャラクターに置かれているのは間違いない話。人ではなく、しかし妖怪にも爪弾きにされる、まさに三界に身の置きどころのない狐者異を、寝込むことだけでなくお人好し…いやさ思いやりでも頂点に立つ男な若だんなは救おうとしますが――何とも言えぬ苦さの中に、色濃い哀しみが漂います。


「畳紙」
 祝言を間近に控えて不安を募らせるお雛が、 若旦那のところで拾った印籠は、なんと屏風のぞきのもの。取り返しにお雛のところに行った屏風のぞきは、何故か彼女の心の奥底の悩みを聞かされることになって…

 前の巻に収録された「花かんざし」で脇役として登場したお雛が主役の一篇。 気だてが良く、気持ちの明るい女性ながら、「塗り壁」と陰口を叩かれるくらいの病的な厚化粧という不思議なキャラで印象に残っていたのですが、本作では、彼女自身も気付かない、その厚化粧の真の理由に迫ることになります。
 しかしその謎に挑むもう一人の主役が、屏風のぞきというのが面白い趣向。シリーズ第一作から登場しながらも、どうも頼りないイメージの強い彼の、ほとんど受難と呼べるレベルのお雛との触れ合いがなかなか面白いところです。
 そして何より、若だんなのプロファイリングよりも、既に最初から提示されていた答えを指摘した屏風のぞきのちょっとした言葉がお雛を救うという、一種のどんでん返しが愉快でありました。


「動く影」
 まだ友達がほとんどいなかった子供の頃の一太郎。近所の子供たちと一緒に、町中を騒がす影女の謎に挑みますが…

 若旦那が、まだ人間の友達も、また妖怪の友達もいなかった頃を思い出してのお話。少年探偵団チックな雰囲気の、エピソード0とでも言いましょうか、若旦那が名探偵としての素質を見せて怪事件に挑む様がいきいきと描かれています。
 その事件も、江戸中を騒がす動く影の怪と、また別に現れたという飛縁魔と、一見関係ない、二つの妖怪にまつわるもので、事件を追っていくうちに実は…という謎解きが、いかにも本作らしくて面白いところ。 また、クライマックスで彼らが目撃する悪夢めいた景色は、ホラーとして非常に印象的でした。
 そしてその恐怖を、皆の力を合わせて乗り越える様が、同時に、一太郎の孤独からの解放に重ね合わせて描かれるあたりには大いに感心しました。だから、「みぃつけた」と矛盾が…とかガタガタ言わない。


「ありんすこく」
 吉原の禿を足抜けさせて一緒に逃げると言い出した若旦那。一体なぜ、そしてどうやって吉原から脱出させようというのでしょうか…?

 「ねえ仁吉、佐助、私はこの月の終わりに、吉原の禿を足抜けさせて、一緒に逃げることにしたよ」という冒頭の若旦那の発言があまりにも衝撃的すぎるこの作品。もちろんそれなりの理由はあるのですが、とにかく冒頭のインパクトでおなか一杯です(個人的には仁吉か佐助か、どちらかが真に受けて取り乱せば面白かったのに、と思います。二人とも性格的には同じようなもんだからなあ)。
 その後の展開は、(特に妨害が入るあたり)正直途中で予想がついてしまうのですが、トラブルを生じさせた関係者の誰が悪いというわけでなく、誰もがその立場であれば当然の想いを抱き、行動しただけというのが切ないところです。
 あ、次善の策は予想つかなかったかな。


「おまけのこ」
 とある商家から依頼されて取り寄せた真珠が店の中で奪われ、犯人探しにあたる若旦那。一方、当の真珠を守って屋敷の外に放り出された鳴家の運命は?

 あまりこういう表現は使いたくないのですが、一言で言えば「鳴家萌え」な一編。若旦那による推理の一幕もありますが、やはりどうしても鳴家の方に目がいってしまいます。
 本シリーズのマスコット…という扱いが我慢できなかったか、自分は「おまけのこ」じゃないやい! とばかりに大活躍する鳴家の姿には、作者の手の上で踊らされてるなァと思いつつもやはり目尻を下げてしまいます。
 ラストに描かれる若旦那と鳴家の絆も良いですね。


 以上、これまで以上にキャラクター小説の趣が強く、ミステリ色はかなり薄まっていますが、これはこれで、妖怪人情小説という、本シリーズでしか描けない独自路線になっていると言うべきでしょう。大げさに言えば「しゃばけ」シリーズは、「しゃばけ」というジャンルになっているのかもしれませんね。


「おまけのこ」(畠中恵 新潮社) Amazon bk1

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 しゃばけ
 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
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 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界

 公式サイト

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2006.12.20

「影侍」 シーボルトを護る影五つ

 旧知の長崎奉行・土方勝政からの依頼により、長崎奉行所の同心にしてタイ捨流の達人・田野辺聞多らと長崎に向かう小野派一刀流の達人・鏡十三郎。彼の地で十三郎を待っていたのは、謎の刺客たちからのシーボルトの護衛だった。異人と因縁浅からぬ十三郎は、複雑な心中を抱えつつも任に当たるが…

 牧秀彦先生の最新作「影侍」は、シーボルトを守る剣士たちの活躍を描いた作品。作品の多くがいわゆる「必殺もの」な牧氏ですが、今回は、正調の(という表現が正しいのかわかりませんが)剣豪アクションとなっています。
 タイトルとなっている「影侍」とは、長崎から小倉に向かうシーボルトの影供(本隊にその存在が明らかにされていない供回り)の任に就く侍という意味でしょう。執拗にシーボルト襲撃を企む謎の一団に、主人公・鏡十三郎をはじめとする五人のチームが影供として挑むのですが…

 しかし十三郎は、長崎の地に、そして異人の存在に複雑な想いを持つ男。詳しくはここでは書きませんが、この時代の有名な事件を背景に持ち、かつまたシーボルトとも因縁を持つ、この十三郎の設定にはなかなか説得力があります。
 そして、十三郎たちの敵に回る刺客一党にも、彼らなりのシーボルトを狙う理由があり、シーボルト一人を討ったところで何があるのか、という疑問に答えつつも、それが上記の十三郎自身の身の上と深く絡んでくるというのは実にうまい設定かと思います。

 十三郎と共に戦う仲間たちも、実戦派の達人だが遊び好きで十三郎とは好一対の田野辺、喧嘩っ早いが腕はからきしの中間・浜吉、親の代から田野辺に仕える口は悪いが気のいい老爺・源造(十手を使った実戦殺法の描写が楽しい)、シーボルトに医学を学び体術の達人でもある美女・楓と、いずれも個性的な面々。この辺りのチームものとしての面白さは、これまでの必殺ものの中で培われたものなのかな、という印象があります。

 もっとも、仲間が個性的な一方で、十三郎のキャラが少し薄くなってしまったかな、という気がしないでもありません。上記の通り彼の背負ったもの自体は、設定としても面白く、物語中でもうまく機能していただけに、もう少しエッジの効いた性格(例えば女性が近寄るだけで嫌がるとか、柴錬チックなニヒルさだとか)であった方が、よりクライマックスの展開がドラマチックになったのではないかと思うのです。

 とはいえ、剣戟描写の精緻さと迫力は変わらず、文章はこれまで以上にこなれてきた感のある本作の面白さは間違いのないところ。一つの戦いは終わりましたが、シーボルトといえば彼に絡んだ大きな事件もあるわけで(それにつながるような描写も見受けられましたし)、影侍チームの活躍も、これで終わらせるにはもったいないですしね。


「影侍」(牧秀彦 祥伝社文庫) Amazon bk1

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2006.12.19

「柳生百合剣」第一回 …これはひどい

 「小説トリッパー」誌でいきなり連載が始まって一部で騒然となった荒山先生の最新作「柳生百合剣」。「柳生薔薇剣」の直接の続編たる本作、薔薇の次は百合ってどうよ…とか思いつつ読み始めたら、そんなことが頭からスッ飛ぶほどの作品でした。これはひどい(ほめ言葉)。

 第一回で描かれるのは、「薔薇剣」の後、柳生の里に隠棲した十兵衛の姿…なのですが、この十兵衛、もう姉萌えが脳に回って、人として男としてダメすぎる域に達しています。
 ネタバレになりますが、「薔薇剣」ラストで最愛の姉であり主人公である柳生矩香に手酷く裏切られた(十兵衛ビジョン)十兵衛、わかりやすくいえば「姉上でなきゃダメ」状態。あと夢の中に矩香が出てきた次の朝起きると(以下自粛)。先生、うら若い女性読者もいるんですから(いや本当に)、こうなんと言うか手加減というか…(と、ここで第一章のタイトルに気づいて憤死しかける)。
 特に、冒頭から延々と詳細に描かれる輝…じゃなかった褌にまつわる諸描写の企図するものについては、色々と作者に問いつめたい。いややっぱりいいです。

 本当に荒山先生は、なぜ俺十兵衛には「好漢」とか「始祖神」とか甘いのに、本当の(?)十兵衛にはあんなに辛く当たるのか。デレとツンが極端に分化しているということでしょうか(そういえば、「薔薇剣」の中で、十兵衛が矩香に無理矢理女装させられたシーンがあったような気がしていて、さすがに幻覚だろうと思いつついま読み返してみたら本当にあって驚きました)。
 何はともあれ、韓人妖術師に精神交換されたのなど、今回に比べればぬるいぬるい(と、ここで「十兵衛両断」は「薔薇剣」の系列…すなわち柳生友景系列の物語とパラレルであることが見えてきます。おかげで短編集としての「十兵衛両断」がややこしいことに)。

 しかし、「十兵衛両断」の十兵衛がどちらかと言えば冷徹な剣人である五味康祐先生の描く十兵衛の面影があったのに対して、今回の十兵衛像は、どこまでも人間臭くてどこか微笑ましい、山田風太郎先生描くところの十兵衛的味わいが…いや、いかに山風とて十兵衛を漫画版「餓狼伝」の藤巻十三みたいに描いたりはしませんが、雰囲気的に。実はこういう十兵衛も嫌いじゃなかったり…

 それはさておき、既にダメ人間の烙印を柳生の里の者たちからも押された十兵衛が巻き込まれるのは、奇怪な一団による柳生石舟斎の遺骨奪取事件。未熟とはいえ、柳生の剣士たちをものともせず斬り伏せる「忠也」なる剣士らを要し、謎の老人・太祖様に率いられるこの一団の狙いは? そしてその一団とは対立するもう一つ別の一団が存在するようなのですが、さてこれは一体…
 柳生と互角以上の剣力を持つ、江戸時代初期の剣士で「忠也」と言えば、これァもう忠也派一刀流の小野忠也が真っ先に思い浮かぶわけで、その上に立つ太祖さまはやはり一刀流の始祖たるあの人物なのかなあ(朝鮮妖術師に体奪われた…のは別の話)という気もするのですが、さてどうなのでしょう。何やら石舟斎の遺骨を使って、大がかりな妖術を用いようとしているようですが…

 と、本筋の方ではかなり真っ当な時代伝奇活劇になりそうなのですが、ここで神妙にしていられないのが荒山先生。謎の一団の犠牲となる柳生剣士の一団のネーミングが、柳生青年隊、略して「柳青(りゅうせい)隊」で…それだけ見ると別にどうということもないのですが、この方々、自分たちのテーマソングまで持っていて、その歌詞が、かつて存在したという「家学特槍隊」なる一団のテーマソングの替え歌で…「柳青 柳青 柳青」とか「戒重 戒重 戒重」って「実のところ、これは替え歌で」じゃないって!
 本文で戒重、いや怪獣が登場しないと思って安心していたらこの始末。先生はこちらのハートを射止めるために小説を書いているのではないかという気がしてきました(妄想にもほどがある)。

 というわけで色々な意味で今後の展開が気になる本作。展開的には、十兵衛が第一回の汚名返上とばかりに活躍してくれるのではないか、と期待しているのですが、またいいところで姉上(と旦那)、もしくは友景さんに持っていかれそうな不安感がヒシヒシと…。今回は登場しなかった朝鮮妖術も、まあそのうち登場するのでしょう(というより今回チラッと描かれていた妖術が朝鮮原産なのだと思いますが)。
 なお、掲載紙は季刊誌ということで、年三回刊行らしい「KENZAN!」とは微妙にタイミングをずらしながらの柳生波状攻撃、来年も大変なことになりそうです。

 また、この第一回が掲載された「小説トリッパー」誌には、関川夏央氏による「故郷は「忘じがたい」か「忘じたい」か――司馬遼太郎と荒山徹の間の歳月」と題する評論が掲載されており、荒山作品に対する真っ当な評論として非常に興味深いものがあります。


「柳生百合剣」第一回(荒山徹 「小説トリッパー」 2006年冬季号) Amazon

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2006.12.18

「闇を斬る 孤剣乱斬」 まずは大団円

 これまで六巻に渡って繰り広げられてきたシリーズもこの第七巻で遂に完結。好漢・鷹森真九郎と、暗殺結社・闇の頭領・鬼心斎との最後の戦いが描かれます。

 真九郎に協力して闇を追っていた香具師の元締め・浅草の甚五郎の手下が殺害されるという事件が発生、時を同じくして、全く接点のない若い男女の死体が心中姿で発見されます。さらに、旗本を狙った辻斬りと火付けが続発、一連の事件の背後に闇の策謀を感じ取った真九郎は、同心・桜井琢馬と共に事件を追うことになります。

 基本的なストーリー展開は、きちんと日数を区切っての日常パートとチャンバラパートの繰り返しという、何だか育成ゲームみたいなこれまでと同様の展開(これで全七巻押し通したのはちょっとスゴいなあ)。しかしこれまでと異なるのは、真九郎と琢馬が、徐々に闇の一味を追いつめていくこと。
 堅固な堤防が蟻の一穴から崩れるように、一つの綻びから次々と崩壊していく闇の組織の姿は、シリーズ当初から読んでいて、闇のしぶとさを知っている読者としては、何だか感慨深いものがあります。
 そして次々と真九郎に襲いかかる刺客の中には、意外な、そしてあまりに悲しい顔を混じっており、シリーズのラストに一波乱を用意しています。

 しかし――正直なところ、残念なところも見受けられる本作。特にようやく明かされた鬼心斎に関しては、その狙いは(ある程度予想できたとはいえ)なかなか面白いものであったのに対し、正体の方は思ったほど迫力がある存在ではなかったのが今一つ。
 そして何より、あれだけ真九郎に粘着してきた理由が…これだけ引っ張ってオチがこれというのはさすがにどうかと思いました。その気になればもう一巻、いやもう一シリーズくらいはできそうですし、もしかしてそれを計算に入れての展開かも知れませんが、その前にきっちりとまとめて欲しかったな、と強く思います。

 とはいえ、まずは大団円。全七巻、それなりに楽しませていただきました。本シリーズでの経験を活かした、作者の新作を楽しみにしたいと思います。


「闇を斬る 孤剣乱斬」(荒崎一海 徳間文庫) Amazon bk1

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「影忍・徳川御三家斬り」(再録)

 江戸城での死闘を終えた最強の伊賀忍者コノハズクは、一介の職人竹次として、江戸で平和に暮らしていた。だが富士講に出かけた同じ長屋の男たちが、富士で偶然に武田信玄の隠し金を発見、口封じのために惨殺されてしまう。苦しむ長屋の住人たちを救うため、再び立ち上がるコノハズク。だが彼の前には、幕府と尾張の熾烈な暗闘が待ちかまえているのだった。

 「刺客、江戸城に消ゆ」の続編。閉鎖空間での忍者同士の死闘が魅力の前作に比べると、舞台が江戸から尾張、そして富士山へと移っていく分、ストーリー展開が拡散してしまった部分があるのが少々残念。
 とはいえ、戦いを捨てていた伝説の男が、やむを得ず再び戦いの場に…というシチュエーションはやはり燃えますし、また、誰が敵で誰が味方かわからない(というより主人公がどちらについて何をするかわからない)点はなかなか面白く、それなりに楽しむことができました。

 しかしなによりも驚いたのはラストの大どんでん返し。前作のそれにも驚きましたが、今回のラストはそれを遙かに上回るインパクト。冷静に考えると大いに無理があるのですが、もうこれはやったもの勝ち。脱帽しました。是非続編をお願いしたいと思います。

 が、一つ気に掛かるのが、新刊予告段階でのこの作品のタイトル。「刺客、富士に立つ」というもので、前作のタイトルを引き継いでなかなか良い感じだったのですが、いざ発売されてみればタイトルはこの通りに。正直、このタイトル変更の意図が何処にあったか(…は何となく想像がつきますが)、そしてそれを作者と出版社側とどちらが決めたものか、少々気になりました。


「影忍・徳川御三家斬り」(風野真知雄 廣済堂文庫) Amazon bk1

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2006.12.17

「天保異聞 妖奇士」 説十一「日光怪道」

 将軍日光参拝の先触れとして、日光街道の妖夷退治の旅に出た小笠原と往壓。同じ目的で鳥居配下の本庄たちも動くが、彼らは道中にある殺生石を手に入れようとする。更に、本庄を師の仇と狙う小笠原の旧友・加納も彼らを追う。数々の妖夷を討った往壓たちは、利根川で鰻の妖夷と対決。その頃、殺生石の欠片を手に入れた本庄たちを、仮面の男たちが襲う。その混乱の中に、江戸から往壓を追ってきた宰蔵・アトル・雲七たちも加わって…

 今回から箇条書きで感想を。

○道中でろくろ首を退治しようとする往壓&小笠原。ろくろ首の弱点は、夜に首が離れているうちに体を隠すこと、というのは古来から伝わる手法ですが、このろくろ首は、自分の体を鋼線で寝床にくくりつけていたのでした。…って、こんな対処法を用意してたろくろ首なんて初めて見たよ! それにしてもデザインを除けば妖夷というより普通の(?)妖怪ですね。

○一仕事終えて、またもや野郎の入浴シーン超連発。小笠原様なんて堂々と尻見せ。花井も地道に危険な角度で自分をアッピール。風呂の中でも本を手放さない小笠原様ですが、諸国の妖について書かれたというその書物、是非題名を教えていただきたいものです。

○一方、鳥居の配下のソテの入浴シーンもござったがほんの一瞬&湯気。というか手下の量産型妖夷・アソベの幼生と一緒にご入浴という趣味はいかがなものか。赤ちゃん妖夷はいきなりお湯に入れられて煮上がらないのかしら

○往壓の行方を知るためアトルから送られた宰蔵への手紙は…フォーマットが恋文。ほっぺた膨らます宰蔵も愉快だな。この二人、前回のエピソードでも一緒にいましたが、年の近いコンビで実に面白いです。…と、笑わせておいて、ここで芸人の手形いらずという史実を使ってくるのがうまい!

○妖夷とはいえ、いきなり女の後頭部に斧振り下ろす往壓ヒドス。しかし人間型の妖夷は食べたくないね。

○蛮社の獄と、それに対する小笠原様の関わりをわかりやすくまとめて語ってくれる如何にもいわくありげな老人が…と思ったら老中その人。その人はこんな人だそうです。

○と、殺生石(!)の欠片を手に入れた本庄・花井たちをいかにも怪しげな一党が襲撃…陰陽師姿の赤影ご一行?(というかむしろ変態仮面)

○一方鰻の怪に襲われる小笠原様。岡本綺堂もびっくりの巨大さで襲いかかる魚妖を、往壓は流の字の漢神で粉砕。これならおいしく食べれそうだなあと思っていたら、殺生石に反応して暴走したアソベたちが…

○食い意地が張って飛び出したばかりにアソベに追いかけられ、駆けつけた少女二人の間に挟まって馬(元親友)に乗って逃げ出す主人公というえらくシュールな展開で以下次週。


 いつになく盛りだくさんだった今回。展開が早いうえに、メインキャラたちが二手、三手に分かれて物語が進行するため、ちょっとガチャガチャした印象はありましたが、しかしそれでも物語がとっちらかる前にきちんとまとめているのはさすがです。
 個人的には、登場する妖夷が、ろくろ首、再度の怪、岩魚の怪(ここでは鰻の怪でしたが)いう、江戸時代の諸国怪談話的空気が濃厚なネタを使いつつ、この番組ならではの味付けとパワーアップでアレンジしてあったのが良かったですね。ちゃんと(?)怪獣チックな奴も出てきましたし。

 ネタ的にも、宰蔵とアトルのコンビ(雲七も入れてトリオ)が、普通に会話しているだけで漫才状態で愉快でした。宰蔵は次回もいじられるみたいで、この方面でも期待。

 あ、アビとえどげんが全く出ていなかった…


「天保異聞 妖奇士」第一巻(アニプレックス DVDソフト) 通常版 限定版


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「新時代劇アクション 羅刹の剣」(再録)

 時は天明期、幕府御用金を載せた船の失踪、生死人の出没、奇怪な妖虫の跳梁など、某藩を巡って次々と発生する怪事に、放浪の剣士・小太郎と幕府の女隠密・りんが立ち向かうというアクションアドベンチャーです。別名「ブシドーハザード」(命名:私)。

 要するにゾンビとチャンバラなわけで、こう書くと非常に安直な印象を受けるけれども、いざプレイしてみると、銃で遠距離から攻撃するバイオハザードなどと違い、間合いを測って近づき、相手の攻撃を防ぎつつ斬りかかるというスタイルとなっていて、かなりプレイ感覚は異なります。基本的に相手の攻撃はほとんど防御できるので、防御しながら近づいてバッサリとか、相手に一撃加えてすぐさま反撃を防御、というように攻撃と防御のキャッチボールがあるのが面白いのです。

 もっともストーリーが章立てになっているためにブツ切り感が生じてしまう点や、体力制にもかかわらず一発死のトラップがある点(1,2ヶ所ですが…)、一度出会った敵からは逃れられず、必ず倒さなくてはならない点など、不満点も色々あります。
 特に最後の点は、敵との余計な戦いを避けつつ先に進むことが出来ないため、著しくゲームのスピード感を削いでいるのが残念なところ。せめて隠密であるりんぐらいは、「天誅」(コナミだから「メタルギア」と言うべきでしょうか)チックなプレイを出来るようにしてあれば、キャラのプレイスタイルの差別化も出来て面白かったのではないかと思います。

 とはいえ、それ以外の点はなかなかに面白いゲームで、謎解き要素は少な目でサクサク進めていくことができますし、一本のストーリーを二人の主人公により両面から見ていくことが出来るというのも楽しい点。
 全体としてのプレイ時間も短めなので(その代わり両方の主人公でクリアしないと真のエンディングは見れませんが)、気楽に楽しむことができます。豪勢な超大作というわけではないが、良く出来た2時間ドラマ的作品、とでも言いうべきでしょうか。


 しかしこのゲーム、企画的に「チャンバラアクション作りたいなあ」「でも、人を斬って血が出たりすると色々ウルサイですよ」「ん~人じゃなくてゾンビにしよう。ゾンビなら斬ってもいいだろ」的な流れで生まれたんじゃなかろうか…


「新時代劇アクション 羅刹の剣」(コナミ プレイステーション用ソフト) Amazon

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2006.12.16

「幕末機関説 いろはにほへと」 第十一話「一座ふたたび仮櫓」

 剣の鍛錬に励む耀次郎に襲いかかる、幻影の兵士。刃も効かない敵に耀次郎も苦戦する。一方、蒼鉄の新作台本を上演するため、赫乃丈一座は、品川にやって来る。新門辰五郎の協力で仮設舞台を完成させた一座にも幻影兵士が襲いかかるが、敵の弱点が火であることに気付いた耀次郎に撃退されるのだった。そして品川沖に停泊する榎本艦隊を訪れた蒼鉄の前には、左京之介の、そして生きていた中居屋の姿が――

○いきなり耀次郎セミヌード爆発。GyaOのアニメトップページでも編集部のイチオシ!!に。と思ったら一座の男衆までもがセミヌードに! おっさんの裸や褌がやたら多い「妖奇士」への対抗策か!?<違います

○榎本武揚に敬語を使われる蒼鉄先生。「噂通りだ」ってどの界隈の噂ですか。

○平然と榎本の船でお茶飲んでる中居屋。それを見て蒼鉄が狼狽えたら笑えるのですが…って台本に生きてるって書いたんだからそれはないですね。

○そして相変わらず惜しげもなく半裸を晒す耀次郎の元には、以前登場した幻影の兵士たちが…

○本体は斬れないが、手にした得物は実体があるらしい幻影兵士。攻撃を避けて屋根の上に登る耀次郎ですが…一歩間違えたら半裸で屋根の上で刀を振り回す変な人です。

○ほんとに何者なんだ蒼鉄先生。新時代のゲームマスターたらんとしているのか――いずれにせよ、蒼鉄と中居屋がいることで、実質榎本が覇者の首と共にあることとなりましたが…

○今度は赫乃丈一座を狙う幻影兵士。一体誰が操っているのか…しかし実は火に弱かった幻影兵士。元が霧だから? しかし耀次郎、ここではちゃんと服着てて安心したよ。

○そして新しい仇討ち舞台に臨む赫乃丈一座――って先生も中居屋も船上にいるわけですが…

○蒼鉄先生、予告でさりげなくネタバレしないで下さい。左京之介、いよいよもってサムライガンみたくなってきました。しかし全十三話かと思ってハラハラしましたが、公式ブログ見たらちゃんと十四話以降もあって安心しましたよ。


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「三万両五十三次」(再録)

 時は幕末、通商条約勅許のための公家懐柔の費用として京へ送られんとする三万両を巡り、堀田正睦の懐刀の昼行灯家老馬場蔵人、美剣士矢柄誠之介をリーダーとする倒幕の志士たち、侠盗牛若の金五に妖婦陽炎お蓮、怪人背虫の吉三等々…様々な人々が熾烈な争奪戦を繰り広げるロードノベルです。

 三万両を守る者と攻める者の知恵比べに加え、敵討ち、恋の逃避行と、物語を盛り上げる要素が山盛りのうえ、登場するキャラクターが皆個性的で、長いはずの文庫本四冊があっという間の快作でした。まさに大衆文学の王道を行く作品と言うべきでしょうか。

 が、個人的には、主役の一角を担う志士たちが、尊皇攘夷の青臭い理想を奉じて周囲を傷つけるはた迷惑な連中にしか見えず、今一つ感情移入できなかったのが残念なところ(これはまあ、作品の成立年代から考えてしょうがないのかもしれませんが)。
 これに比べれば、旅が終わった暁には自分を仇と狙う少女に首を差し出す約束をしながら、自分の務めを淡々と果たそうとする馬場蔵人の方が何倍も人間的に魅力がありました(戦後製作された映画・TVの主役がみな蔵人なのもよくわかります)。

 しかし、それ以上に愉快だったのが、ただひたすら己の欲望に忠実に物語を引っかき回した陽炎のお蓮姐さんの存在。気が向けば盗みはおろか、人殺しさえ平気で行うようなとんでもないキャラクターですが、周りが自分の大義名分(≒タテマエ)で動いている中、逆にそれがかえって実に人間的で気持ちよく感じられました(というより、一番この物語で得をしたのはこの人だと思います)。


「三万両五十三次」(野村胡堂 中公文庫全4巻) Amazon bk1

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2006.12.15

最後の「戦国忍法秘録 五右衛門」ほか

 あまりに突然の石川賢先生の死から約一ヶ月。ファンにとって気がかりだったのは、「コミック乱ツインズ」誌で連載中だった「戦国忍法秘録 五右衛門」の行方でしたが――最新号には、先生の絶筆となった最新最終話が掲載されておりました。

 秀吉・家康・光秀の三巨頭会談に乱入し、城を破壊しながら暴れ回る石川五右衛門と服部半蔵の前に、果心居士出現――というのが前回のヒキでありました。
 それを受けての今回は、果心居士と五右衛門たちの対決がメイン。実は不吉な予感を覚えていたねねに招かれて現れた果心居士、つまりは秀吉方の人間であって、五右衛門たちの敵ということになります。

 見かけは剽げた男ながら、その幻術の力は絶大。秀吉配下の忍びたちをあたるを幸いなぎ倒す五右衛門と半蔵(半蔵が予想以上に強くて、二人の活躍にはちょっとリョウとハヤトの面影を見てしまいましたよ)の前に現れた果心は、五右衛門には自分の体から蟲がはい出す幻覚を、半蔵には斬れば斬るほど果心が増えていく幻覚を見せて苦しめます。

 そして幻覚に苦しむ五右衛門が、救いを求めて飛び込んだのは、城外で用意されていた――油の煮立った大釜! 五右衛門が釜ゆで、というのは言うまでもなく史実での五右衛門の最期ですが、ここで釜ゆでが登場するとは、心憎いセンスです。
 さしもの五右衛門も、いささかどころでなく時期は早いものの史実同様釜の中でお陀仏か? と思いきや、常識はずれのパワーで脱出。さらに自分の何倍もある大釜を持ち上げて果心・秀吉たちめがけてぶん投げたおかげで城は大崩壊、その隙に半蔵ともども逃げ延びるのでした。

 そして大火傷を負った五右衛門が着物を脱いだその背中に浮かび上がっていたのは! というところで以下次号――で読めることは永遠に無くなってしまったのですが…

 しかし、ご覧いただければ何となくわかっていただけるかと思いますが、不慮の死であったとはいえ、最後の最後まで、石川先生は石川先生のまま、石川作品は石川作品のままであって――その痛快なまでのアクションセンスは健在でありました。
 そしてラスト一ページは、これは是非ご自分の目で確かめていただきたいのですが実に印象的な絵。物語の流れ的に一区切り、という感じだったこともあり、ここで物語が中絶していても、不思議に違和感は感じませんでした。

 伝奇物語は、終わらないのが一番面白い、という言には、個人的には肯きかねるものではありますが、本作に限っては、決して意図したものではないとはいえ、その永遠の中絶が、伝奇物語としての強い輝きを与えてくれたという感があります。
 最後の作品がこの作品のこの回で良かった…というのはもちろん負け惜しみではありますが、しかし半分くらいは、ファンとして正直な気持ちであります。
 改めて、石川賢先生に、心よりの感謝と、追悼の想いを捧げる次第です。


 なお、同じ最終回でもこちらは円満な完結ですが、同じ号では岡村賢二先生の「真田十勇士」が堂々完結。
 十勇士もののマスターピースである、笹沢左保先生の決して少ない分量ではない原作を、余すところなく劇画化してみせた業前には、心から敬意を評します。ベタではありますが、やはりラストの幸村&十勇士の見開きにはグッとくるものがありました。
 これで「乱ツインズ」で読む漫画がだいぶなくなってしまったな…と思ったら、岡村先生は早くも次号から新作の連載を開始。しかも今度は吉川英治先生の、あの「私本太平記」を劇画化! これは非常に楽しみであります。


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2006.12.14

「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」 第十三話「青天飄飄」

 火口に転落した獣兵衛は、操られていたふりをしていた濁庵の手で辛くも命拾いしていた。一方、しぐれに王朝の秘宝への道を開かせた闇泥らを、柳生連夜率いる裏柳生が猛追。獣兵衛はその混乱の中、しぐれを追って遺跡の深奥に踏み込む。そして遺跡の深奥で、過去のヒルコの巫女の遺骸と対面するしぐれ。しかし彼女は、それ自体が秘宝と思われるほどの巫女としての超常の力を捨てることを決意する。それに応えるように遺跡が崩壊していく中、しぐれを逃がして獣兵衛は連夜と死闘を繰り広げる。…そして月日は流れ、しぐれはつぶてやヒルコの生き残りと、隠れ里で平穏に暮らしていた。彼女の見上げる青空の下――獣兵衛もまた、一人旅を続けるのだった(完)

 遂にこの「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」も大団円。ヒルコはやはり前回でほぼ壊滅してしまったようですが(悲惨…)、鬼門衆と裏柳生が激突、そこに獣兵衛や濁庵も乱入して、クライマックスらしい大活劇は見応えがあって楽しめました(さすがに鬼門のどすこい侍部隊はどうかと思いましたが…「ライジング・ザン」かい)。
 ゲスト忍者の出番は前回まででしたが、それに代わって(?)闇公方のアンドロイド小姓コンビが大暴れ。終盤の登場でなかなか強さをアピールする機会がなかった柳生連夜が、正当派剣術でもってこれに立ち向かうのがひそかに嬉しかったですね。その連夜と獣兵衛の最後の対決も、無闇にテンションとパワー溢れる作画でインパクト十分でした。

 もっとも、冷静に見れば何も解決していないと言えばいない結末であるのは事実ではあります。倒されたかに見えた闇公方は影武者、残った鬼門衆頭領・闇泥と唐突に溶岩の中から復活したヒルコの長・無風(実はこの二人は兄弟であったというおまけ付き)の対決の結果は不明。そして何よりも獣兵衛と連夜の死闘の行方もまた、同様に崩れ落ちる遺跡の中でどうなったかは語られずじまい。
 さらに言えば、巫女の力を捨てたとしても、しぐれがこの先狙われないという保証はなく、投げっぱなし(個人的にはこの表現は大嫌いですが)と感じる方もいるかもしれません。

 しかし個人的には、これはこれで良い結末であったと感じています。運命の渦の中で翻弄され尽くした末に、自分が誰であっても、自分が何処にいても――自分は自分、それ以外の何者でもないと悟ることができたしぐれ。その彼女の表面的な立ち位置は何も変化していないようであっても、あたかも螺旋階段を上ったかの如く、大きな成長を遂げたと言えるでしょう。そしてまた、それが、物語の冒頭で獣兵衛が語った「どこまで行っても人は人、空は空」という言葉に呼応しているのは言うまでもありません。
 闇泥と無風、獣兵衛と連夜の対決の結果!? まあ、はっきり描かない方が想像力が働いていいじゃないですか。これは獣兵衛サーガの一ページに過ぎないのですから(個人的には、畑で働かされるつぶてが、ちゃんと金剛童子辰之助のことを思い出してくれたのがポイント高かったかな)。

 作品全体のまとめも合わせて書こうと思いましたが、長くなってしまったので稿を改めます。


「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第4巻(アミューズソフトエンタテイメント DVDソフト) Amazon

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 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十話 「ヒルコの真心」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十一話 「柳生連夜」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」 第十二話「王朝復活」

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「美男城」(再録)

 徳川の侍大将として数々の武勲を挙げた御堂主馬之介は、しかし、関ヶ原の合戦の直後に軍を捨てる。彼の向かう先は実の父、伊能盛政の治める揖斐郡日坂。自分と母を捨てた上に母を斬殺し、さらに関ヶ原では親友たる石田三成を裏切った破廉恥漢たる父を、自らの手で斬ろうとする彼が知ったのは、父の人知れぬ懊悩と、自らの意外な出生の秘密だった…

 柴錬比較的初期の、いわゆる戦国三部作の一つ。宿業を背負った美剣士というのは柴錬お馴染みの主人公ではあるけれども、この作品の主人公たる主馬之介の背負ったものは、柴錬作品の中でも屈指のヘビーさでありましょう。自らの父を斬る、斬らねばならぬという主馬之介の決意と懊悩を主軸に展開するこの作品は、伝奇性は薄め(主人公の出生は相当伝奇してますが)ですが、柴錬の持つロマンチシズムが満開で色々と唸らされました。
 柴錬作品の第一ヒロイン(ひどい言い方ですが…)としては結構珍しいタイプのヒロイン朝路と主馬之介の心の触れ合いもほほえましく、柴錬が単なる鬼面人を驚かす作品書きではないことを示す、格好の証拠と言えるでしょう。

 しかしこの作品のラストで主人公が選んだ道と、それが結果的にもたらした結末は、他の柴錬作品の主人公が選んだ道と比べると、色々と考えさせられるものがあります。

 と、この作品、「主婦の友」連載だったのか…。


「美男城」(柴田錬三郎 新潮文庫) Amazon bk1

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2006.12.13

「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界

 大妖の孫ながら虚弱体質で心優しい若旦那と、彼を取り巻く妖たちが難事件に挑むシリーズ第三弾が文庫化されました。シリーズ第三段ということで基本設定はほとんど完全に固まり、登場するのも既にお馴染みの顔ぶれ。ファンタジックな要素を内包しながらも世界観が安定しているため、全く違和感なく安心して物語を楽しむことができます。
 以下、収録作品について簡単に紹介と感想を。

「茶巾たまご」
 何故か元気一杯、食欲一杯の一太郎。その頃、彼の兄に縁談話が持ち上がっていたが、その相手が変死したという知らせが入って…

 一見何も関係のなさそうな一太郎の健啖ぶりと、商家の娘の死が意外なところで結びつくお話。何と言っても、ゲストである謎の男のキャラクターが秀逸で、何とも微笑ましい気持ちになります。事件の動機(というか引き金となったもの)も、この時代を背景としたユニークなもので感心しましたが、犯人像については「本当に怖いのは人間」というのを出そうとする気持ちが強すぎてちょっと違和感がありました。


「花かんざし」
 鳴家を抱いて離さない迷子の少女・於りん。家に帰ると殺される、という彼女の言葉が気になった一太郎は、彼女の家の様子を密かに探りますが。

 コミカルなようでいて実は非常にヘビーな展開も多いこのシリーズですが、本作もそんな一編。家に帰されるのを怯える少女、というと、昨今流行りの厭な厭な事件を連想しましたが、その背後の真実は、ある意味それ以上に重く哀しいもの。しかし、そんな重い事件もそっと包み込んでくれる優しさもこのシリーズにはあると再確認させてくれました。ゲストキャラのお雛さんのキャラクターも印象に残ります。


「ねこのばば」
 広徳寺に捕まったなりかけの猫又を請け出しに行く一太郎たちですが、折しも寺ではたくさんの美しい袋が木にぶら下がるという怪事が。さらには寺僧が殺害される事件まで発生、一連の事件の背後には…

 ミステリとして見た場合、本書の中で一番完成度が高い作品と言ってまず間違いのない本作。物語を構成する、それぞれ一見無関係に見える要素が実は陰で密接につながりあって一つの事件を作り出している、というだけでも面白いですが、それがこのシリーズならではの、このシリーズでなければ成立し得ない必然性を持っていることに大いに感心いたしました。師弟関係ということで、都筑道夫先生の「なめくじ長屋捕物さわぎ」シリーズと比較する方もいらっしゃいますが、それもむべなるかな、です。
 そしてまた、本作で示される犯人像も、物語の時代背景を押さえたものであると同時に、極めて現代的な――現代に通じる――ものであって(いるいる、こういう人間! と思いました)、唸らされました。
 ある意味、本シリーズの一つの完成型かもしれません。

「産土」
 ふとした縁で、若旦那の父の店で働くこととなった犬神の佐助。折からの不況で経営難に陥る店が増える中、佐助は自分の店の中で出所不明の金を見つけますが、それには思わぬ裏が――

 ミステリとしての完成型が「ねこのばば」とすれば、ホラーとしての極は本作、という印象のある作品。一太郎の兄やの一人である佐助の出生や一太郎の祖母との出会いも描かれますが、本筋は、商人たちを次々と毒牙にかける恐るべき妖魔と佐助との対決であります。物語の内容と密接に関わるのであまり詳しくは書けませんが、人の心の透き間に忍び込み、人の命を、魂を蝕んでいくその魔物の存在は、決して派手なものではないのですが、しかしそれだけにある意味身近で、そして極めて危険で恐ろしいもの(そしてそれは、人間の弱さ愚かしさと表裏一体のものなのですが…)。魔物の正体が描かれる場面の不気味さ、おぞましさはシリーズでも白眉かと思います。
 それだけにオチは工エエェェ(;´Д` )ェェエエ工という気がしないでもないですが、これはこれでスタイル的にミステリということでアリかな。

「たまやたまや」
 一太郎の幼馴染・栄吉の妹・お光に持ち上がった縁談。栄吉に代わって、一人相手の素性を確かめに行く一太郎ですが、その相手ともども思わぬ事件に巻き込まれることに。

 内容的にはキャラクターもの、人情ものとしての色彩が強い本作、これまでも物語の端々に顔を出していたお光の存在を遠景に、献上品を巡るどたばたが描かれます。
 お話的にはそれほど凝ったものではないのですが、しかし、幼なじみである異性の結婚という、甘酸っぱくてどこか切ない出来事に触れた一太郎の心の揺れが、細やかに描かれていて印象に残りました。


 というわけで、以上五篇のバラエティに富んだ物語、ご覧の通り時代ものファンもミステリファンも妖怪ファンもそれぞれに楽しめる作品ばかり。間口が広いだけでなく奥も深い、まこと理想的な物語世界として、いよいよ脂が乗りきってきた印象があります。続巻も非常に楽しみですね。


「ねこのばば」(畠中恵 新潮文庫) Amazon bk1

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2006.12.12

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 初めての犠牲者

 各地で大反響を呼んだ女人袈裟披露から一週間…ただでさえ鉄壁の守りの上に柔肌の守りを重ねた鷲ノ巣廉助をいかに破るか、興味津々たる今週の「Y十M 柳生忍法帖」。ここで名乗り出たは沢庵和尚の弟子二人・雲林坊と多聞坊ですが…

 刀など生まれてこの方持ったことがないような、みかけはごくごく普通のおじさんな坊さん二人。いかに打つ手がないとはいえ、さすがにこれは無茶だと坊さんたちの身を案じる十兵衛ですが、坊さんたちは上泉伊勢守の故事を引き合いに出して十兵衛を煙に巻きます(もちろん坊さんたちが知っているとは思いませんが、この故事、かつて十兵衛が修行の際にほりにょに語ったお話であります)。

 確かにあの故事では、僧形で相手を油断させた隙を突きましたが、しかし相手が悪すぎる。それにあれは上泉伊勢守という大剣人なればこそ、一瞬の隙を活かすことができたわけで…さて、山の斜面を降りるのも一苦労な中年坊主二人でどうこうできるとは到底思えません。
 と、刀を口にくわえてひょこひょことやってきた坊さん二人、 さすがの廉助も、坊さん二人のあまりに意表を突いた行動に驚き呆れて阿呆呼ばわりしますが…ここで(σ・∀・)σ「阿呆はオマエ」(σ・∀・)σと、坊さんたちのあまりに身も蓋もない、誰もが思っていたけど言いにくかった痛罵が炸裂!

 次の瞬間、地面に持参の刀二振りを突き刺して、お品お鳥に刀を持ってきたと呼びかけますが、当然のことながら二人は女人袈裟、刀には遠く手が届かないはずが、頭に血が上った廉助の方から突っ込んできます。
 頭にくれば後先考えずに廉助が突っ込むのは花地獄回し蹴り自爆事件で立証済み、しかしあの攻撃をかわすことができたのも十兵衛だったからこそ――どうして武芸の心得がない坊さんがかわせましょうか、廉助の喩えでなしに岩をも砕く剛拳が、左右それぞれ坊さんの顔面に直撃。目を背けたくなるほどの一撃の前に、二人とも即死間違いなしではあるのですが…

 しかし! 肉体の最期の力か、はたまた一念貫いた魂の奇跡か、坊さん二人は廉助の腕を掴んで離さない! さしもの廉助も、女人袈裟二人に加え、両腕にさらに二人ぶら下げては自由に動けず――そして、その時、坊さんたちが地面に刺した刀をお品お鳥が掴み、不自由な姿勢ながら、二人の至近距離からの渾身の一撃は、見事廉助の両足を切り落とした!

 いやはや、前回の感想に書きましたが、その阿呆みたいなビジュアルに反して、鉄桶の守りであった女人袈裟。堀の女たちを防具兼人質としたこの技(?)に対して、真っ向から立ち向かうのはほとんど不可能であったわけですが…まさかその女人袈裟が、攻守逆転、廉助を破る勝利の鍵と化すとは…
 本作、これまでも幾度となく、絶対攻略不可能、逆転不可能に思える状況を提示しては、それを奇想天外な、しかしそれ以外は確かにないと思える手段で打ち破ってきましたが、今回はその最たるものでありましょう。

 が…その逆転劇も、しかし、二人の坊さんの犠牲あってのこと。二人の女人を救うことはできましたが、しかしそれと同じだけの命が失われたわけで、単純に勝利とはもちろん喜べません。そしてこれは、(般若賊のとばっちりを受けた人々を除けば)味方側の初めての犠牲者。
 直前まで飄々と、いやむしろコミカルなまでに振る舞っていた二人の坊さん。自分たちの行動の結果がどうなるか、分かりきっていたに違いないのに、それなのにただ二人の女人を救うため笑顔で死地に赴く――百戦錬磨の武者でも難しいような行動を平然と行ってみせた、このお坊様たちの行為をなんと評すべきでしょうか。剣禅一如の真髄と呼ぶにはあまりにも凄まじいその姿に、ただただ合掌。
(今回は、原作未読の方がどう感じたか知りたいですね)

 と、両手を封じられ、両足を失って、さすがに戦闘能力をほぼ失った廉助。しかしせめてお品お鳥ののど笛だけは食いちぎってやろうとイヤな執念を見せているところで以下次号…いや来年。
 よ、よりによってお鳥さんのお尻のアップで越年とは!(しかしのど笛ってよりお尻に噛みつきそうでヤなアングルだね、どーも)

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2006.12.11

「踊れ!いんど屋敷 古田新太之丞東海道五十三次地獄旅」 おバカ全開!

 一度告知されたDVD化が突然流れて、もう一生観ることができないのかと思っていたこの作品、運がよいことにNHK-BSで放映された時のビデオを観ることができました。内容的だけであれば戯曲が出版されているので把握できるのですが、いや、音と動きがつくとつかないでは、当たり前ながら大違い。思う存分バカでバカでバカな(もちろん褒め言葉)世界を楽しむことができました。

 大江戸三馬鹿男こと三人の泥棒稼業の古田新太之丞・からくり戯衛門・ふぃっとねす小僧半次が、悪徳商人・曇屋丸兵衛の元から盗み出した密書。南蛮歌舞伎一座の阿国から、当の密書探しを依頼された新太之丞たちは、大坂にその密書があると口から出任せを言って彼女たちと東海道の旅に出ます。
 が、その密書に隠されていたのは、実は幕府転覆の大陰謀。かくて、密書を狙い、丸兵衛に雇われた闇の死売人チーム、風魔忍者一党、天草四郎の忘れ形見の三姉妹に、実は生きていた由比正雪らが、新太之丞たちの前に立ち塞がります。果たして密書の秘密とは? 丸兵衛と陰謀を弄する仮面侍Xの正体は? そして幾度も新太之丞たちの窮地を救う謎のでか顔侍・糸引納豆之介とは? 江戸から大坂、果ては地獄まで股に掛けて、破天荒な大冒険活劇が繰り広げられます。

 …と、もっともらしいストーリーはあるのですが、開幕以降ひたすら展開されるのは、新感線のオールスターが次から次へと飛び出し、俺が俺が私が私がでバカの限りを尽くすという、いい意味で本当にしょーもない世界。何せ主役の新太之丞からして、初登場の時点から股間に天狗の面一丁のはだか侍スタイル。以降、脳天気で享楽的でそして痛快なヒーロー(?)を、実に気持ちよさそうに演じています。
 からくり戯衛門役の粟根さんは、いつもながらのエセ冷徹眼鏡ですが、意外な過去を抱えた実は熱いキャラクター。でもクライマックスで変態ぶりが露呈されて台無しに。また、謎の風来坊・糸引納豆之介は、池田成志さんが演じているにしては珍しく結構カッコイイところもあるキャラで(まあ、それはそれでいつもながらにうさんくさいんですが)、ラストで明かされる正体には大いに驚かされました。…というか、登場した時からヒントが提示されていたのに正体に気づかなかったことを、伝奇者として大いに恥じる。

 このように、一人一人のキャラクターについて語っていくとキリがないのですが、もう一人えらく印象に残ったのが、逆木圭一郎演じる由比正雪です。もちろんあの由比正雪、慶安の変で死んだはずの正雪なのですが、これがもう本作屈指の変態。初お目見えからして、井上陽水の「ホテルリバーサイド」(に限りなく近い曲)に乗って、お付きの呪寝美坐成丸(じゅねびざあるまる)と妖しく絡み合いつつ登場という、イヤすぎるインパクトで、その後も事ある毎に脱ぐ。出番の度に脱ぐ。しかも自称田村正和に似ているとほざく。何だかもう色々と罪深いキャラクターですが、いや、正直なところ逆木さんのギャグを初めて面白いと思いましたよ(失礼な)。

 そしてまた、キャラに並ぶ本作の魅力が、その微妙に…いやかなりマズい音楽と歌。どっかで聞いたことがあるんだけど、微妙に音程を外してある曲が山ほど使われているのですが、外し方が微妙すぎてほとんど替え歌状態。これはマズい。マズいんだけど面白すぎる。でも本当にマズいのは、時々本当にオリジナルそのまんまの曲(さすがにインスト)が流れることで――気づいただけでも闇の死売人登場シーンに必殺の殺しテーマ連発、クライマックスの乱戦時に何故かゲッターロボのエンディング「合体!ゲッターロボ」(ところがこれがまたなぜか時代劇に合うんだ…)、さらに同じく乱戦時に「ジャンボーグA」の主題歌まで(なぜ!? いい曲だけど)、いくら何でもやり過ぎなんだけど、観ている分には違和感がないのでまあいいか(別なところで問題発生しているとは思うけど…)

 そんなこんなで、真面目に考えたら負けの世界なのですが、しかし無粋を承知で敢えて言えば、やっぱりキャラを詰め込みすぎたおかげで、個々のキャラやらガジェットの切れ味が薄まったというか、突っ込み不足になった面は否めないなあという印象を強く感じてしまったのもまた事実。こういう個性が強すぎる面々をぎゅっとまとめあげるストーリーや世界観の強さが欲しかったかな…と生意気なこと考えていたら、ラストでいきなり史実とファイヤーオンしたのでびっくりしました。ごめんなさい、やっぱり面白すぎます。

 何はともあれ、これだけ面白い芝居がDVD化されそうにないのは本当に残念。やっぱり色々とマズい曲がいけなかったのかしら…というかむしろクライマックスで登場する邪武暴魔神駄衛門(じゃんぼましんだーえもん)とデビルマン侍が、色々と版権的に厳しいアソコに怒られたのかなあと勝手に想像しています(あくまでも勝手な想像。バリンガーZ事件とかもありましたが)。
 今はただ、ビデオを観ることができた幸運に感謝するのみです。NHK-BSグッジョブ!


 ちなみに本作、オールスターキャストなのに私の大好きな橋本じゅんさんがいないと思ったら、94年版はじゅんさんが糸引納豆之介役だったのですね…orz(ちなみに私が観たのは2000年版)
 でもやっぱり納豆之介役は成志さんの方が合ってるんじゃないかなと思います。うさんくささ的な見地から。

 あと、「SHIROH」観た後にこれ観ると泣けますね。いろんな意味で。


「踊れ!いんど屋敷 古田新太之丞東海道五十三次地獄旅」(中島かずき 論創社) Amazon bk1

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2006.12.10

「白浪五人男 徳川の埋蔵金」(再録)

 「正義とは自分に恥じずに生きること」とうそぶき、一味を率いて東海道を荒らし回る義賊・日本左衛門。向かうところ敵なしとなった日常に倦んでいた彼の前に現れた弁天小僧菊之助は、家康が遺したという埋蔵金三千万両の鍵を握っていた。幕府を敵に回しての戦いに俄然燃える日本左衛門は、幾多の犠牲を払いつつも、ついに家康の秘宝を目の当たりにするが――

 本を読んでいて、自分の目が信じられなくなることはまれにあるのですが、この本ほど読んでいる最中に自分の正気を疑った本はありませんでした。上のあらすじにあるとおり、基本的に設定はまあ普通のピカレスク・ロマン(日本左衛門が波動拳使ったりしますが)。展開的にもまあ可もなく不可もなく、大盗としての自分を演出する自らの姿に自嘲の念を抱いているという左衛門のキャラクター造形がこの作品の面白さであり、かつ足かせでもあるな、などとの感想を抱いていたのですが…終盤大暴走。

 家康の秘宝の正体が現れてからの展開は、どんなに読解力と洞察力のある人間でも絶対予想がつかないであろう、ある意味神の領域。まさかピカレスク・ロマンが○○小説になろうとは――最初からそういうノリであればこれほどは驚かなかったのですが、上に述べたように大衆娯楽時代小説としてはまあ普通の作品だっただけに、それまでとのギャップに凄まじい衝撃を受けました。実はこの本の後半は真っ白で、私が見たい話を勝手に妄想しているんじゃないか、今日本を閉じて明日開いてみたら別の内容に変わっているんじゃないか…という感じの。

 それでも何とか話は収束して史実通りの結末に落ち着いて、ラストはまあ形を整えたかな…と思ったところに、またとてつもないどんでん返しが待ち受けていて、油断していた出会い頭にボディブローを食ったような気分でページを閉じました。

 恥ずかしながらこの作者の作品を読んだのはこれが初めてなのですが、いつもこんな感じなんでしょうか…んなわけないか。何はともあれ、真面目な時代小説ファンであれば真っ赤になって怒り出しそうな作品ではありますが、私のサイトを面白がってくれるような方は、笑って(あるいは唖然としつつ)楽しんでいただけるのではないでしょうか。個人的には殿堂入りの一冊。


 …にしても(鳴海丈の魔狼次シリーズ読んだ時にも思いましたが)この手の小説の中の男色シーンって、ニーズあるんですかねえ。


「白浪五人男 徳川の埋蔵金」(鈴木輝一郎 双葉文庫) Amazon bk1

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「幕末機関説 いろはにほへと」 第十話「上野陥つ」

 ついに火蓋が切られた上野戦争。そこに死に場所を求めて行こうとする沖田を、耀次郎は止めようとする。沖田は人生の最後に耀次郎と剣を交わし、土方への伝言を託して逝くのだった。そして上野戦争も、アームストロング砲の投入により決着する。一方、復讐という目的を失い、解散しようとしていた赫乃丈一座に、おりょうの手により届けられたのは蒼鉄の新作台本。そこに描かれていたのは中居屋の生存…

 感想の書き方を試行錯誤しております。今回は箇条書き形式で。

○今回は史実の方に描写の焦点が置かれていて、耀次郎はほとんど傍観者の役割。物語の本筋はほとんど進んでいませんが、たまにはいいかな。

○上野戦争の詳細については、こちらのblogで詳細に解説されているのでおすすめです。

○今回印象に残ったのは、アクションの動きよりもキャラクターの表情。特に特に沖田を気絶させた時の耀次郎の哀しみの表情など実に良く描けているなと思っていたら、なるほど、作監は恩田尚之氏でありました。恩田絵になりすぎていなくて良かった。

○しかし耀次郎の腕に抱かれた画での沖田のヒロインっぷりはもの凄いものがありました。赫乃丈も負けてはいられん。

○そんな赫乃丈に自分の気持ちを気付かせるのはおりょうさん。声を当てていたのは「武士の一分」でヒロイン役の檀れいさんだったんですね。しかし耀次郎と赫乃丈が似ているって、実は兄妹というオチだったらどうしましょう(同じ子守歌知ってるみたいだしな)

○沖田が残す土方への伝言。榎本もちらりと登場したことですし、やはり最終的には舞台は蝦夷地になるのでしょうか。オープニングの最後、耀次郎と赫乃丈が対峙する地がそれっぽいなと以前から思っていましたが…

○つまらないことなんですが、沖田を殺そうとして後ろからがっちりとスリーパーかけた官軍兵、あのまま相方が刀振り下ろしたら自分もばっさりだよな…気になる。

○すっかり燃え尽き症候群状態のところに、中居屋生存の報を知らされていきなり元気になる赫乃丈一座。言いたかないが、あなた方ちょっとマズいんじゃ…君たちはあれか、ルパンが死んだと聞かされた後の銭形のとっつぁんかね。

○さて次の赫乃丈一座の演目は、覇者の首を封じるための刺客の物語…って耀次郎のことですが、蒼鉄がわざわざこんな台本を書いたことにはもちろん意味があるはず。今の時点では全く想像がつきませんが、さて――


 あー、このスタイルは書きやすいな。しばらくこの形でいこう(「妖奇士」の方も)


「幕末機関説 いろはにほへと」第1巻(バンダイビジュアル DVDソフト) Amazon

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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第五話「守霊鬼放たる」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第六話「楽日燃ゆ」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第七話「蒼鉄動く」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第八話「仇討本懐なる」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第九話「黒猫哭く」

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「柳生魔斬刀」(再録)

 徳川と豊臣の緊張高まる慶長12年、ハレー彗星が地球に接近した。その直後、隕石が落ちるという柳生の庄を訪れた柳生宗矩は、斬っても死なぬ怪人に襲撃され、かろうじて逃げ延びる。史上、彗星が近づき、隕石が落ちる度に凶事が起きていたこと、そして父・石舟斎もかつて不死身の鬼と出会い、これと戦ったことを知った宗矩は、石舟斎がその鬼を斬ったという魔斬刀を手に、この世を地獄と化すという蒼き鬼たちに孤独な戦いを挑む。

 「平成の魔界転生」という派手な煽り文句が目を引くこの作品、常人を遙かに超えた力と不死身の肉体を備えた怪物と剣豪の対決、というのは確かに魔界転生チックですが、(ネタバレになりますが)敵が隕石の落下と共に現れた謎の寄生生物という辺り、むしろ5,60年代の侵略テーマのSFを思い起こさせます。つまり単純な二番煎じではなく、題材的には時代小説上なかなか珍しいもので、この手の作品が大好物である私としては一抹の不安も感じつつ大いに楽しみに読ませていただいたのですが…むしろ不安の方が当たった(涙)。

 実際、これほど読んでいる最中に「勿体ない」と感じた回数の多い作品もありませんでした。その理由は色々とありますが、一番大きいのはその文体と構成。これはまあ、好みというものもあるのかもしれませんが、文章とその内容がいささか回りくどい。歴史上の人物が登場する度に1ページ前後使ってその人物を解説してくれるのですが、これが物語の本筋に関係ないものも多く、物語のテンポを削ぐことがおびただしい。肝心の剣戟シーンでもこのテンポの悪さはついて回っていて、主人公である宗矩の心象描写が多すぎてアクションのリズムと緊張感にマイナスとなっています(これは作者が剣豪ものはほとんど初めて(みたいです)なのも大きいと思いますが)。

 また歴史上実際に起こった怪事件や人物の死に結びつけようとするあまり、物語の流れがいささか不自然になったり、(さらにこれの点が大きいのですが)タイムスパンが妙に長くて、世界の危機が迫っているというのにいまいち緊迫感が盛り上がらない。しばしば伝奇時代小説がやってしまう、年表上の出来事・事件の間に物語が挟まっている、という状態にこの作品も陥ってしまっているようです。この状態になると、出来事と出来事の間にストーリーを消化するという感じになって、話の流れは不自然になるは(なんでここで1年も間が時間が流れるんだよ、とか)先は読めるはで(例えば本能寺以前に主人公が信長を襲っても決して勝てないとか)非常に悲しい。ベテランの方も結構やってしまうことではありますが…

 その他、内容的にも突っ込みどころは色々とあるのですが、このくらいにしておきましょう。色々と作者には失礼なことを書いてしまいましたが、非常にユニークな、面白い題材であるのに本当に勿体ない、という無念の表れと思っていただければ。思えば、題材のぶっ飛び方に比して、あまりにまっとうな、一種歴史小説的なアプローチを取ってしまったのが違和感の種だったのかもしれません。もっとバカに徹していればカルトなアクション時代劇として快作となっていたと思いますし、サスペンスにもっと気を配れば、光瀬龍の後継ともいえる侵略テーマの時代SFの傑作になっていたのではないかと思うにつけ、非常に勿体ない、としか言いようがありません。


「柳生魔斬刀」(近衛龍春 小学館文庫) Amazon bk1

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2006.12.09

「天保異聞 妖奇士」 説十「弥生花匂女神楽」

 妖夷に憑かれ、芝居小屋を破壊しようとする宰蔵。が、彼女の前に現れた往壓の漢神が、言葉が宰蔵の心を動かし、妖夷「無慈儺」は宰蔵から離れる。そして小笠原の前で宰蔵から取り出された漢神の意味…それは「罪」ではなく「王を支える腹心」だった。己の漢神が変じた刀を持ち、笑顔で舞う宰蔵が、巨大化した無慈儺を討つ。そして蛮社改所に下された次の命は、将軍の日光参詣に先立つ日光街道の妖夷退治。しかしその道中を、鳥居の配下により師を無実の罪に陥れられた小笠原の旧友が狙っていた…

 いきなり親父と美男役者が舞台上で絡み合う姿を見せられて凍り付く三年前の宰蔵。というか視聴者みんなも凍り付きましたよこのシーンは。ある意味、一番見たくない自分の父親の姿を見せられて動転した宰蔵は、近くの芝居小屋から火が出たことを知らせずにその場を離れ、結果、父は死んだ…というわけで、宰蔵が火を付けたという最悪の事態は避けられて一安心――したのはこちらだけで、宰蔵の心には消えない傷は残るでしょう、あれはさすがに。

 それに対して、心の傷と過去の後悔じゃ負けないぞとばかりに叫ぶ往壓。さすが、わかったようなわからないような、そしてダメ人間の心に突き刺さることを言わせたら最強の男だけあって、本当の顔はどこにもないと無数の仮面を操る宰蔵に向かって、これが全部お前の顔だと、そしてそんな自分を認める「大人の顔」を選ばなければいけないと呼びかけます。

 なるほど、まさしく無数の仮面は宰蔵の中にあるペルソナということなのでしょう。即物的すぎますが、しかし宰蔵の元役者という属性から考えればむしろうまい使い方かもしれません。
 何はともあれ、父を見捨てたという過去の罪悪感と、そんな父の期待に応えられず、役者になれなかったという悔しさが、今回の事件の源であったわけですが、そんな自分自身の心のうちを、「嘘を付いている」と断罪してしまうのは宰蔵の若さであり、また好もしいところでもあるのですが、しかしそれで周囲を、自分自身を損なってはやはり本末転倒。ここでやはり彼女を救ったのは、そんな心の葛藤においては大先輩の往壓だった、というのはそれなりに説得力があります。

 そして宰蔵を縛っていた自分の名前に対するコンプレックスも、小笠原様が俗説に惑わされていたというオチでした。宰蔵の父は、彼女が「誰かを支える」立派な存在になることを期待していたようですが、なるほど、脇役でも立派な役者であり、舞台にはなくてはならない存在。趣味がアレでしたが、いかにも芝居人らしいいい父親だったんじゃないでしょうか…でも、宰蔵、とりあえず自分と倍以上年の離れたダメ人間を支えるのは大変そうだからやめとけ。あと小笠原様は反省しる。

 何はともあれ、復活した宰蔵が、己の漢神から生まれた刀で巨大化した無慈儺を粉砕。もちろん、物理的には宰蔵の刀が妖夷を破壊したことになるのでしょうが、しかし「自分自身であること」を受け容れて、奇士として笑って舞うことができるようになったことが、宰蔵の心から生み出された妖夷を打ち倒す大きな力となったのだと思います。もちろん、妖夷を倒したことで宰蔵の心の中の迷いや悩みが消えたわけではなく、また現実が変わるわけでは全くないのですが、しかし現実とそれに対する自分の心を直視できるようになったのは、何よりも大きく貴い第一歩ではないでしょうか。

 で、宰蔵暴走問題も、たまたま宰蔵の活躍を、隠れて芝居見物に来ていた時に目撃した大奥のお女中が取りなしでおとがめなし、というより幕府での存在感アップ。ご都合主義という気がしないでもないですが、これはこれでこの時代であればあり得る展開であって、むしろこうもってきたかと感心しました。

 普段であればここでめでたしめでたしなはずですが…ここで小笠原様の過去がクローズアップ。蘭学者であることは最初から示されていましたが、蛮社の獄で捕らえられるところを、鳥居の計らいで見逃されたらしいなど、「おっ」と思わされる事実が少しずつ語られていきます。そして、高島秋帆が鳥居に讒訴されて失脚したという史実に絡めて、そのまま次の物語が始まっていきます。これはちょっと意外な展開。

 自分の旧友が将軍参拝の先触れ道中に斬り込もうとしていることを知って、己の身で止めようとする、冷徹なふりして熱血漢で突っ走りがちな小笠原様。それを放っておけない往壓は小笠原様の家来として道中に参加、旅のスタートは二人の明るい笑い声…って楽しそうだな、何だか。

 そしてもちろん仲間たちも黙っていられるわけもなく、あとを追いかけるようですが…いや、差別するわけじゃないが素顔で行くのはまずいだろう、アトルは。色々奇っ怪な連中も出没しそうで、次回は賑やかになりそうです。


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「風魔の牙 黄金の忍者」(再録)

 秀吉の元で働くこととなった江ノ市之丞と配下たちだが、かつて切腹させられたはずの家康の嫡子・信康が存命であることを知る。信康の身柄確保に向かう市之丞らだが、彼らを待っていたのは何者かに惨殺された半蔵配下の伊賀忍軍の屍のみだった。その下手人が、北条家に仕える風魔忍軍であることを知った市之丞らは、かつて今川家に仕えていた山伏忍軍と共に箱根に向かう。復讐の念に燃えて同じく箱根に向かう服部半蔵と伊賀忍軍、風魔忍軍と三つ巴の死闘を繰り広げる市之丞一行だが、その戦いの背後には恐るべき陰謀が蠢いていたのだった。

 黄金の忍者シリーズ第三作。物語のパターン的には前作に似ていて、市之丞と配下たちが、服部半蔵率いる伊賀忍軍、そして第三の忍者集団と三つ巴の争闘を繰り広げ、その背後には…という展開。
 市之丞のライバル?の左近も健在…というかあからさまに間違った方向にパワーアップして大暴れしてくれるのですが、この左近の存在がかなり物語から浮いていて(いきなりファンタジーの世界から乱入してきたという感じでしょうか)少々残念。本作単独ではなく、今後のシリーズ展開も含めて考えればいいのかもしれませんが、おそらくまっとうな時代小説ファンからは強い拒否反応が出るでしょう。終盤、電波も感じられますし。

 が、そういった聊か座りのわるい部分以外を見れば、一級の忍者ものであることも間違いない話。本作のフォーマットは、時代小説というよりもむしろアリステア・マクリーンなどの軍事冒険小説の味わいが強く感じられるもので、無理にジャンルを名付けるとすればいわば忍者冒険小説。
 軍事冒険小説と時代小説は、意外と親和性が高いにもかかわらず、そのテイストをもった時代小説は数えるほどしかないのが残念だったのですが、その溜飲を下げることができました。終盤で明かされる陰謀も、意外かつ説得力があるものでなかなかに唸らされました。

 ハードな忍者冒険小説と、その中にあるファンタジックな黄金の忍者という存在。うまく絡めてまとめていくのは難しい面もあると思いますが、今後のシリーズ展開を期待します。


「風魔の牙 黄金の忍者」(沢田黒蔵 学研M文庫) Amazon bk1

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2006.12.08

「死への霊薬 菅原幻斎怪異事件控」 血の因果を見つめて

 菅原道真の子孫であり、今は市井にあって奇怪な事件に巻き込まれた人々の救済に当たる霊能者・菅原幻斎の活躍(というとちょっとイメージが違うかな)を描くシリーズ第二弾です。
 普段は一人気ままに暮らす幻斎ですが、祈祷所の近くを流れる神田川の流れに奇妙な影が映るとき、彼のもとに持ち込まれるのはいずれも霊やあやかしにまつわる奇妙な事件ばかり。この巻でも、冥界の女に恋した男や、土地神に封じられていた女の怨念、絵の中の女に魅せられた武士、美しい花の精に憑かれた青年などなど、常識では計り知れない霊異と因縁の物語が、彼の前に現れることとなります。

 正直なところ、ごくごく当たり前に(?)霊異の数々――霊魂やら祟りやら地獄やら神仏やらが現れる本作は、(普段伝奇ものばかり読んでいるくせに)私にはちょっと違和感があり、題材的には江戸時代等の諸国怪談・霊異譚から持ってきていることもあって、(前作同様)良くも悪くも微妙に感じられるのですが――
 しかし、それでも決してつまらないわけではなく、何となくスルスルと読めてしまうのは、陰惨な事件も少なくない中、それでも飄々と、どこか達観した空気を漂わせて一人往く幻斎の人柄によるところが大きいのかも知れません。

 御霊・菅原道真の血を引くが故に、己の血を後世に残すことを懼れ、女性には引いた立場をとり続ける幻斎ですが、そんな彼が扱う事件の多くは、受け継がれる血の因果が招くもので――しかも、男女の情愛が引き金となるもの。
 そんな事件、時に彼の力を持ってしても傍観者役にしかなれぬこともある事件に対した時、彼が見せる厳しくも優しい態度は、しかし、そんな彼の背負った因果があればこそなのでしょう。

 何だかんだと言いつつも、そんな幻斎が次に出会う事件が気にかかってしまう、そんな不思議な魅力のあるシリーズであります。


「死への霊薬 菅原幻斎怪異事件控」(喜安幸夫 徳間文庫) Amazon bk1

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 「菅原幻斎怪異事件控」 水面に映る彼岸の影

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2006.12.07

「最後の間者」 岡田秀文に外れなし!?

 まだ数作しか読んでいないのですが、「この作者の作品であれば大丈夫」的な安心感を最近抱いているのは岡田秀文先生。ハードな展開の時代ミステリを書かせると一級品ですが、この「最後の間者」も期待に違わぬ逸品であります。

 主な舞台となるのは織田信長支配下の安土。本願寺との長き戦も終結間近な時期ながら、各地で起こる不穏な事件の背後に他国の間者の存在を見た信長は、配下の村井貞成に間者一掃を厳命します。
 そしてその貞成に追われる立場となるのが本作の主人公・市平。毛利の間者として数々の工作に当たり、密やかながら確かな成果を上げてきた市平ですが、徐々に迫る捜査の手に神経をすり減らしていきます。さらに、他国の間者や正体不明の敵までもが現れ、己の隣人や恋人にすら心を開けぬまま追いつめられていく市平ですが、彼の孤独な戦いの背後には、思いも寄らぬ巨大な陰謀が――

 というのが本作のあらすじ。市平の視点から、そして時に貞成の視点から描かれる乾いたタッチの物語は、優れた時代ミステリであると同時に、忍者――いやスパイ小説としても一級の作品と言って良いのではないかと思います。
 正体が暴かれれば無惨な死が待ち受ける状況、恋人はおろか間者仲間にも油断ができぬ状況の中で、巨大な謀略に巻き込まれて孤独な戦いを続ける市平には、古今の名作スパイ小説の主人公の姿が重なって見えるのです。

 特に前半のクライマックスである、佐久間信盛の陣に輸送される煙硝を巡る市平らの作戦と、それに対する貞成の捜査という、一連の攻防のサスペンスフルな味わいは、出色と言えるでしょう。
 そしてまた、仲間を殺され、徐々に包囲網が狭まる中、遂に発動する謀略の姿とその背後に在ったある人物の意志、そしてその中で市平の行動にどのような意味があったかが描かれる終盤の展開は、まさに圧巻の一言であります。
 謀略の帰結と、その真犯人については、正直なところこの時代の伝奇小説ではお馴染みのネタではあるのですが、そんなことは全く些末なこと。何よりも、謀略の全貌が明かされたその時、これまでの物語が全く別の、裏に隠されていた真の姿でもって立ち現れるそのインパクトには舌を巻きました。そして――それと共に語られる「最後の間者」の正体に何とも言えぬ感慨を抱かされたことです。
 結末、時代の流れと権力者の謀略に翻弄され尽くされた登場人物たちが見た小さな希望。それがやがて一つの幸福となってくれることを願ってやまぬ気持ちとなりました。

 そしてまた――「岡田秀文に外れなし」の思いを新たにさせられた次第。決して多作な作家ではありませんが、次回作を楽しみに待っているところです。 


「最後の間者」(岡田秀文 ハルキ時代小説文庫) Amazon bk1

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2006.12.06

「陰陽の城 吉宗影御用」 江戸城大変!

 「吉宗影御用」シリーズ第二弾が文庫で登場、タイトルを「江戸城大変」から「陰陽の城」に改め、老虎・植畠喜平の跡を継いだ四ツ目屋呆庵が、幕府を壊滅させんとする魔人が引き起こした江戸城大変に挑みます。

 表の顔は薬屋、裏の顔は若き田沼意次の相談役として暮らす呆庵を襲うようになった夜毎の悪夢。海の向こうへ去った師からの警告とも取れるその悪夢を裏付けるかのように、意次は江戸城で続発する怪事について語ります。幕府の威信の象徴であり、徳川将軍家の最後の砦である江戸城内で日夜怪事が起こるということは、これすなわち幕府の権威が侵されているということ。
 悪夢のこともあり、容易ならざる事態と探索に乗り出す呆庵ですが、謎の敵の精神攻撃を受け、己の身までもが危機に陥ることになります。更に、影御用の同志であるが奇怪な女に誘われて姿を消し、いよいよ事件は混迷の度合いを深めます。師にも匹敵する気の力を持つ謎の老人・無斎の協力を得て、敵の正体を知った呆庵ですが、既に敵の陰謀は成就寸前、遂に呆庵は陰陽の魔界と化した江戸城内に突入しますが――

 と、シリーズ第二弾ではありますが、主人公は前作の植畠喜平に替わり、その弟子・呆庵が務める本作。主役交代が物語をパワーダウンさせるのではないかと少し心配はしましたが、敵の陰謀のスケール…というか手段が非常に面白く、それは杞憂でありました。
 敵の正体や陰謀の内容についてはここでは伏せますが、江戸城自体を人体に見立てて…という仕掛けは、これはうまいアイディアだと感心いたしました。
 また、終盤、呆庵が江戸城内に突入してから見ることとなる狂宴の描写もなかなかに迫力があり、敵の陰謀の異常性を際だたせていたかと思います。

 もちろん、必ずしも絶賛できる部分ばかりではなく、例えば敵周辺の描写が、如何にも往年の「超」伝奇小説チックであまり新味が感じられなかったのは残念なところ。
 また、残念といえば、終盤の江戸城内が奇怪に変貌していく辺りは、もう少し時系列を追って書けば、さらに緊急事態の緊迫感が増しただろうにと思います(これに対する幕閣の対抗手段もなかなか面白かっただけに)。

 とはいえ、この辺りは個人の感じ方も大きいかも知れません。主人公自体の正体の謎を追うという第一作とはがらりと趣向を変えて描かれる本作は、単純な続編ものではない楽しさがありますし、上記の通り、敵の陰謀(の描写)はユニークで得難いものでありました。
 また、少しネタバレになりますが、呆庵が、全く偶然に事件に巻き込まれたかに見えながらも、そこに一つの必然があることを示したラストには、シリーズに一本背骨を通すという意味からも感心しました。

 本シリーズは三部作ということで、残るはあと一冊。こちらもおそらく文庫化されることでしょう。それを楽しみに待ちたいと思います。
 なお、本作は単行本時には「江戸城大変」のタイトルで刊行されていましたが、それから文庫化に当たって大幅に加筆修正されているとのこと。機会があれば、単行本の方にも当たってみたいと考えているところです。

「陰陽の城 吉宗影御用」(磐紀一郎 ベスト時代文庫) Amazon bk1

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2006.12.05

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ただ呆然の大技炸裂

 さて今週の「Y十M 柳生忍法帖」は、原作読者であれば誰もが危惧したり期待したり心配したりしたあの大技が登場。何だかもう、色々な意味で大変なことに…立ち読みはしない方がいいな、今回。

 倒れる馬からジャンプ一番、片手で気にぶら下がるという原作よりも派手なアクションで体勢を立て直した廉助に、無謀にも二人斬り込むお品お鳥ですが、廉助はそれを真剣白刃取り…と言っていいのか、むしろ二指真空破に近いスタイルで、指の間で白刃を受け止めてあっという間に二人の戦闘能力を無効化。

 素手ゴロ最強の廉助を前に、二人の命は風前の灯…と思いきや、何やらロクでもないことを思いついたらしい廉助。丈之進もそうでしたが、余計なエロ妄想は死亡フラグだぞ? 莫妄想、喝!(←誤った用法)とか思っていると――突然二人の衣装をはぎ取り始めた廉助、瞬く間に二人を赤裸にすると、ゲェーッ、二人の足を結んで背中合わせにして、自分は二人の間に入った?
 文章にして書くとわかりずらいですが、喩えるならば二枚の看板の間に入ったサンドイッチマン状態、自分の肩で、束ねたお品お鳥の足を支えて――これぞ廉助流女人袈裟。

 …原作でも相当ひどい技でしたが、改めて絵にしてみると、これはもっとひどい。けっこう仮面×3もたいがいでしたが、この無惨さと馬鹿馬鹿しさといやらしさの三重奏の前には、ただ呆然とするしかありません。と、女人袈裟完成にご満悦の廉助、ノリノリで二人の体を振り回したり持ち上げたりのパフォーマンスを展開、十兵衛たちをおびき出そうとします。この辺りのパフォーマンスは、原作にはない漫画オリジナルですが…ただでさえナニな描写の火に油を注ぐようなアクションにただただ呆然。

 だいたい、「普通考えてもやらねえよ」というレベルのネタであれば、まあそれなりに見かけるものですが、これは原作の時点で「普通考えつかねえよ」というレベルの、天下の奇ネタ。それを更にパワーアップさせて「誰もやらねえよ!」レベルにまで昇華させてしまったせがわ先生こそおそるべしと言うべきでしょう。
 もちろん、ラブコメやってたその直後にこんな破天荒エロ展開に持ち込んだ山田風太郎先生もおそるべし…っていうか時々この方がわからなくなります。

 それはさておき、無茶苦茶なようでいて、実は恐るべき鎧であるこの女人袈裟。何せ前後左右どこから斬りかかってもお品さんお鳥さんを傷つけかねないわけで、ただでさえ高い廉助の防御力がアップしています。しかも、使われている本人はもちろんのこと、十兵衛たちにとってもその心理的ダメージは計り知れないものがあり、戦意をかなり喪失させられるでしょう(それに、いざとなったら武器として振り回しかねん…)
 まあ、かなり動きは制限されるので、人質を見殺しにできるような敵が相手だと不利な気もしますが、もちろん十兵衛にそんなことができるわけもない。
 こう考えると、見かけのとんでもなさの割に(比例して?)実はとんでもない難敵であります。同じエロ発想でも、丈之進のようにそれで隙を生むのではなく、むしろ力に変えてしまう。おそるべし、会津七本槍・鷲ノ巣廉助!

 さて、この窮地において、十兵衛ではなく自分たちが行こうと言い出す沢庵BONZ(の二人)。前回冗談で言っていた、剣難を自分たちで引き受けるという言葉を現実にするつもりなのでしょうか…というところで以下次号。

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2006.12.04

「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊

 「しゃばけ」シリーズの最新作は、番外編ともいうべきビジュアル・ストーリーブック…つまり絵本。幼い頃、兄やたちとも出会う前の、五才の一太郎と、鳴家たちとの出会いが描かれます。

 ストーリー的にはいたって単純。熱を出して寝ていた一太郎と、そこに現れた鳴家たちとの隠れ鬼が、一冊使って描かれるのみ。
 この隠れ鬼で鬼役となるのは一太郎、彼は鳴家を捕まえて、友達になってもらおうとするのですが、もちろん鳴家はすぐに捕まるわけもない。冷静に見るとおやじ顔のくせに妙にかわいい鳴家たちが、きゅわきゅわ言いながら逃げまどう様は、なかなか愉しく、心和むものがあります(あと、お医者さんの真似するシーンのかわいらしさは異常)。

 この本を眺めていて思い出したのは、小学生の頃、熱を出して寝込んでいた時のこと。こういう時って、苦しいながらもちょっと退屈で――そして何よりも寂しいもの。みんなが楽しく外を駆け回っているのに自分だけ…と思いながら天井を見上げると、天井の模様が何だか人の顔のように見えてきて、それはそれで空想を刺激したりして。
 そんな、誰にでもあるような記憶を、本書は思い出させてくれて、そういう意味でも心温まるものがあります。

 本当に絵本であって、シリーズのミステリ要素は全くありませんので、シリーズファン全てにおすすめ…というわけにはいきませんが、柴田ゆう氏の挿絵は本当に美しく、「しゃばけ」シリーズのキャラクターものとしての側面が好きな人であれば、絶対楽しめると思いますし、シリーズを離れた純粋な絵本としても楽しめる一冊であります。


 …にしても、兄やたちよりも先に鳴家の方が一太郎と出会っていたというのはちょっと意外に感じたりして。


「みぃつけた」(畠中恵&柴田ゆう 新潮社) Amazon bk1

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2006.12.03

「天保異聞 妖奇士」 説九「面と怨」

 宰蔵篇(?)第二回の今回は、前回が起承転結の起とすれば、今回は承と転、狐たちの本当の狙いと、宰蔵の暴走、そして奇士たちの葛藤が描かれます。

 目の前で面に憑かれた宰蔵を止めようとする往壓、やけに堂に入った拳銃捌きで(色々とやんちゃしてた頃の経験が…ってことはないか)宰蔵を文字通り足止めしようとしますが、宰蔵は見事それをブロック。そして、宰蔵にそんな超人的能力を発揮させたのも、そして前回からの面事件も、狐さんたちの仕業ではなく、「無慈儺」なる妖夷のせいでありました。これはミスリーディングでしたが、既に物語の焦点が宰蔵の方に移っていたのでちょっとぼやけてしまったかな。

 それにしても、劇中でも言及されていたように妖夷にも怪獣みたいなのから妖怪みたいなの、神様みたいなの色々いるようで、ちょっとややこしい。あんまり入り組んだ設定だと後で自分の首締めたりするんじゃ…などと余計な心配はしないで、いろんな妖夷がいるんだなーくらいに思っていた方が心穏やかに番組を楽しめるようです。でも雲七は確かにややこしすぎる存在だ…
 ちなみにここで入る化猫の話は、確か「耳嚢」からのエピソードだと思いますが…やけに可愛らしい狐(が演じる猫)の声、どこかで聞いた声かと思ったら、番組放映開始前の特番に登場した山崎バニラの声でちょっとびっくり。

 さすがに江戸中のお稲荷さんを相手には出来ぬと一時退却した往壓は、宰蔵を救うべく行動開始――と思いきや、突然、いなり寿司を作ることに。一体どうして!? と思いきや、いなり寿司をお稲荷さんにお供えして、あの狐の妖夷のリーダー格の豊川狐を呼び出して何と協力を持ちかけます。
 さすがに神様と崇められる存在だけあって、己の片腕を喰われたにもかかわらず(もっとも、最初に宰蔵を巻き込んだのはこちらの方の方ではありますが)、協力してくれる豊川狐さんですが…やっぱり本当に豊川稲荷のお使いだったのか。
 東京の豊川稲荷は今の赤坂駅・赤坂見附駅の近くにあるお寺で、劇中ではさらっと言及されただけですが、かの大岡越前が愛知の豊川稲荷から分院して(大岡越前の領地は愛知)祀ったもの。246沿いながら今なお緑が多く、参拝客の絶えないところで、実は私も年に何度かお参りしていますが、さすがにこんな美人に出会ったことはなくて残念(当たり前)。

 そんな個人的な話はともかく、上役たる跡部様に呼び出された小笠原様は、江戸中の妖夷が宰蔵の力で活性化していることを知らされます。いかに蛮社改所がアウトローの集まりとはいえ、その上にあるのは要するに官僚機構、お偉方の言うことには逆らえぬ、逆らえば蛮社改所解散!(またか)…というわけで小笠原様は宰蔵抹殺を請け負うことに。もちろん往壓がそれに従うわけもなく、「幕臣風情が!」と妙な啖呵の切り方をして飛び出しますが――
 ちなみにこの妖夷の活性化現象、江戸各地の七不思議に加えて、お菊さんやお岩さんのような半分フィクションな存在までも実体化させられるとは…何だかこの辺り、ちょっと朝松健先生の逆宇宙ものチックでで興味深いところです(稲荷の妖夷増殖の理屈も、それっぽいしね)。

 そして往壓たちは、捜査の過程でかつて宰蔵の父がいた永楽座の役者だった男から宰蔵の過去、かつての中村座の火事について話を聞き始めますが、というところで以下次回。父を殺したと呟く宰蔵の真意は、果たして――やはり宰蔵が火を付けたということなのでしょうか。火付けは正直なところ、往壓の雲七殺しなどとは比べもつかない重罪であって――今回の狐たちと同様、ミスリーディングの可能性をむしろ期待したいところです。次回予告を観た感じでは何となく次で宰蔵篇完結な印象ですが…さて。


 それにしてもこの番組で一番大人なのってアビだなあ。みんなのお父さんって印象です。そしてお母さんが誰かは言うまでもなく。


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 「天保異聞 妖奇士」 説二「山の神堕ちて」
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 「天保異聞 妖奇士」 説八「狐芝居」

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「黄金の忍者2 根来忍軍の野望」(再録)

 絶対の死地で伝説の「黄金の忍者」の奥義に触れた青年忍者・江ノ市之丞は、不思議な魅力を持つ男、秀吉の元に身を寄せる。一方、市之丞の宿敵にして戦友・鳶尾左近は、服部忍軍との死闘で重傷を負ったところを、謎の忍者たちにより拉致される。この二人の周囲に次々と起こる怪事件。その背後には、根来忍軍の邪悪な野望があった…。

 前巻のラストシーンから始まる続編たるこの作品、以前は周囲の思惑に振り回されまくっていた市之丞君も配下を背負い込むこととなってリーダーとしての苦労を味わうのに加えて、我がものとしたはずの黄金の忍者の境地も…と、相変わらず悩みは尽きず。お人好しぶりも相変わらずで、今回も窮地に陥りまくっています(こりゃもう一種の芸風ですな)。

 と、ストーリー運びは相変わらず達者なのですが、物語の中核となる仕掛けの方もひねってあって楽しめます。
 ネタバレになりかねないので詳しくは書けませんが、この作品の中で示された秀吉像は、なかなかに斬新で、おそらくは今までなかったアイデア。そのインパクトは、今回の敵である根来忍軍の存在が一歩間違えるとぼやけかねないほどのものでしたが、その根来忍軍の方にも色々とひねった仕掛けがあり、一筋縄ではいかないクライマックスが用意されていて楽しめました。

 思いっきりラストは後に引いていますので、続編も期待しましょう。


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 「黄金の忍者」(再録)

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2006.12.02

「幕末機関説 いろはにほへと」 第九話「黒猫哭く」

 「幕末機関説 いろはにほへと」第九話は新展開序章というべき展開。第八話までが第一部横浜篇とすれば、これからは第二部江戸篇ということになるのでしょうか?(もちろん根拠レスの妄想ですが) ストーリー自体はさほど動いたわけではありませんが、その分、背景となる時代の動きはなかなかうまく描けていたように思えます。

 前回すったもんだの末に江戸無血開城の運びとなり、徳川慶喜も江戸から去ったわけですが、しかしそれで全てが無事に収まったわけではないのは歴史が語る通り。むしろ幕府新政府双方重しが取れてしまったということなのか、彰義隊は上野に立て籠もり(彰義隊を一方的に被害者に描いていないのは面白いと思います)、薩長はそれに対する掃討を企て…
 と、そんな大所高所の動きは別として、したたかに力強く生きるのは庶民の皆さん。武士同士の争いに巻き込まれて石鶴楼を焼け出された琴波太夫は、廓でも再建しているかと思ったら…何とメイド喫茶カッフェーを開店してママに収まっていました。ああ、何だか楽しそうでいいなあ。こばこも可愛らしいし不知火も無駄に嬉しそうだ。

 しかしそんな時代の流れに背を向けて…あるいはしがみついて生きようとする顔色の悪いイイ男が一人。何だかちょっと斬新な髪型をした、しかし目にはどうしようもなく昏い光を湛えたこの人こそ沖田総司――。実は耀次郎とは多摩時代に顔を合わせていた仲だった沖田さん、久し振りに再会した耀次郎から近藤局長が斬首されたことを聞かされ、焦りに身を焼きますが体は言うことを聞かず。その目には、耀次郎には見えない黒猫の姿まで映っていて、かなりマズげな印象です。あれだ、あの黒猫は若い頃に殺してしまったぬこが沖田の後悔の念と結びついて妖夷に

 それにしても今まで何故耀次郎が竜馬の護衛についていたのか、そして竜馬を護れなかったのか(あんなに強いのに)と思っていましたが、今回で一気に謎が解けました。前回、竜馬が覇者の首の力を拒絶した云々とありましたが、その残り香(?)でもあったということでしょうか? そして実は首が新選組にあった! とかいうと面白いのですが、そういう展開ではないようでチト残念(しかし土方とか、あったら喜んで使いそうね)。

 一方、本懐遂げて燃え尽き症候群の赫乃丈一座のもとには、おりょうさんが登場。おりょうさんの言葉が、耀次郎にとって何らかの指針となればいいのですが…さて。あと、赫乃丈ビジョンの耀次郎はやっぱりすごいことになってるなあ。

 そして次回予告…やっぱり中居屋は生きているのでしょうか。前回のはあんまり影武者っぽくはありませんでしたが、果たして(いやそもそも中居屋とは一言も言っていませんでしたが)。一度死んだことになっているから、二度死んでもおかしくはない…かな。


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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第五話「守霊鬼放たる」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第六話「楽日燃ゆ」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第七話「蒼鉄動く」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第八話「仇討本懐なる」

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2006.12.01

「泣く侍」第一巻 侍と人間の狭間で

 最近すっかりおとなしくなってしまった感のある「コミック乱ツインズ」誌で、エッジの効いた描写で読ませてくれる数少ない作品、「泣く侍」。連載開始以来待ちに待っていたこの作品の単行本第一巻がようやく発売されました。

 主人公・物辺総次郎は、姪の沙絵を連れて江戸へ旅する青年武士。しかし、彼の身には、藩の跡目相続の妨害を図った上、実の姉夫婦と甥を斬り、沙絵を連れ去った嫌疑がかけられていたのでありました。その嫌疑を晴らし、亡き義兄の無念を晴らすため、旅を続ける総次郎ですが、藩からの追っ手は次々と二人を襲うことになります。さらに、最強の敵として総次郎を追うのは、かつての彼の親友であり、今は狂気に陥った剣鬼・伊藤清之進。
 四面楚歌の状況の中、一縷の希望を込めて江戸に向かう総次郎は、たとえ相手が追っ手でも悪人であっても斬ろうとはしませんが、しかしそんな彼の気持ちが踏みにじられ、罪なき者たちの命が奪われたとき――怒りと悲しみが頂点に達した総次郎の涙ながらの剛剣が、相手の命を容赦なく奪うことと相成ります。

 と、ストーリー自体はさほど珍しくない、むしろ正統派の物語の本作。しかしながら、画からほとばしる情念においては、当代で五本の指に入るのではないかという凄まじさで、読んでいる間、重く大きな鉛の玉を、ズドンと腹に飲み込んでしまったような気分になります。

 そんな本作の情念と重さを体現するのは、もう一人の主人公と言うべき伊藤のキャラクター。総次郎の姉夫婦を斬った犯人であり、その際に総次郎の木刀に両目を潰された彼は、経文が隈無く書かれた覆面で顔を覆い、藩を捨てて一人総次郎を斬るために追います。そしてその異形の姿同様、精神も異形と化した伊藤は、行く先々で関係のない人々を次々と刃にかけていくのですが――しかし、彼が総次郎を追うのは復讐のためなどではなく、また彼が狂気に陥ることとなったのも理由あってのもの。
 その彼の狂気の淵源を描いた、単行本第一巻のラストに収録された第六話は、彼もまた総次郎同様の犠牲者であり、そしてまた一個の血の通った人間なのだと強く感じさせます。

 侍は人前で涙を流さぬ者。そうであるならば、泣きながら侍の証である刀を振るう総次郎は、矛盾した存在であり、また異端者と呼ばれるべきなのかもしれません。
 しかし同時に、それは、侍の世界の権謀術数に巻き込まれながらも、せめて正しい道を守り、進みたいとあがく、哀しくも尊い、人間の姿でもあります。
 侍と人間の狭間でもがき苦しみながらも歩み続ける――そしてその意味では、伊藤もまた「泣く侍」であります――総次郎の行方を見つめていきたいと思います。


 …当代、スゴい時代コミックというとまず「シグルイ」の名が上がるかと思いますが、なかなかどうして、この「泣く侍」も、そのスゴさではおさおさ引けを取るものではありませんぞ。


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