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2006.12.27

「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」 大江戸「超」怖い話のお目見え

 「独白するユニバーサル横メルカトル」の推理作家協会賞受賞、そして同作が今年の「このミステリーがすごい」第一位と、あれよあれよという間にメジャーシーンに躍り出た感のある平山夢明先生ですが、怪談ファンの私にとってはやはり「「超」怖い話」が真っ先に浮かぶのが正直なところ。その平山先生の江戸時代を舞台にした怪談集が、この「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」。「「超」怖い話」と同じく竹書房からの発売です。

 一読してみての感想ですが、これはもう良くも悪くも大江戸版「超」怖い話。ほとんどの作品は文章のスタイルもほぼそのままで、一瞬どう受け止めたものかとまどってしまったのも事実ですが、読み進めるうちに、これはこれでいつもの平山節として、安心して読むことが出来ました。
 収録された作品のバラエティの豊かさも、「超」怖い話と同様。ウッとくるようなグロ怪談(さすがに数は少なめですが)あり、怪奇現象よりもむしろ人の心の方が恐ろしくなる物語あり、思わずクスッとしてしまうような奇談あり…現代のみならず、江戸時代の怪談ファンでもある私としては、大いに楽しむことができました。

 試みに特に印象に残った作品を挙げれば――
・「心魚」:中国の仙人譚のような雰囲気から二転三転、悲惨な結末の予兆の描写が見事
・「髪賽銭」:平山作品にしばしば見られる、祟る側を応援したくなってしまうような人間地獄にいい意味でうんざり
・「横綱」:盲目の按摩が、横綱の体を揉んでいく、その描写が巧みで引き込まれます
・「肉豆腐」:怪奇現象よりも、そこに至るまでの土俗的儀式の描写に、もう勘弁して下さいと言いたくなりました
・「萎えずの客」:前半の人間地獄から一転、あっと驚く大物登場に驚かされました
・「狸の駄賃」:まだ人と妖怪の間に暖かい交流があった頃のお話。こういう人情話もいいですね
・「人独楽」:これも祟る側を…なお話。これはひどい。

 短い話ばかりなのであらすじ等は載せません。ぜひご自分の目で確かめてみていただきたいのですが、ほとんどの作品に共通するのは、平山怪談の特長の一つである、度を越した人間の怨念・妄念・執念が呼ぶ怪奇と狂気の世界。こうした平山節の物語は、てっきり現代特有の事象から生まれてくるものかとこれまで思っておりましたが、なるほど、これはむしろ、人が人である限り、時を遡っても(そしておそらくは時が流れても)同様に存在するものかと思わされました。
 そしてその一方で、こうしたドぎつい世界の背後に、同時に、虐げられる者への優しい視線と、世の不条理に対する静かな怒りが感じられるところもまた、現代を舞台にしたものと変わらぬ、平山作品の味わいだなあと感心させられたことです。

 といってところで、個人的には大いに満足できたこの「井戸端婢子」。もちろん、初めての時代もの怪談ということもあって、文体にとまどいが感じられるものや、現代ではちょっと使えないようなベタなお話も混じっていたりはしますが、シリーズ第一弾(らしいです。嬉しいことに)としては、十分及第点なのではないかと思います。
 ちなみに私、平山先生のことはひそかに「現代の鶴屋南北」と呼んでいるのですが、本書が呼び水となり、その呼び名に誰もがうなずいてくれる日が来ることを、心から祈る次第です。


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