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2006.12.19

「柳生百合剣」第一回 …これはひどい

 「小説トリッパー」誌でいきなり連載が始まって一部で騒然となった荒山先生の最新作「柳生百合剣」。「柳生薔薇剣」の直接の続編たる本作、薔薇の次は百合ってどうよ…とか思いつつ読み始めたら、そんなことが頭からスッ飛ぶほどの作品でした。これはひどい(ほめ言葉)。

 第一回で描かれるのは、「薔薇剣」の後、柳生の里に隠棲した十兵衛の姿…なのですが、この十兵衛、もう姉萌えが脳に回って、人として男としてダメすぎる域に達しています。
 ネタバレになりますが、「薔薇剣」ラストで最愛の姉であり主人公である柳生矩香に手酷く裏切られた(十兵衛ビジョン)十兵衛、わかりやすくいえば「姉上でなきゃダメ」状態。あと夢の中に矩香が出てきた次の朝起きると(以下自粛)。先生、うら若い女性読者もいるんですから(いや本当に)、こうなんと言うか手加減というか…(と、ここで第一章のタイトルに気づいて憤死しかける)。
 特に、冒頭から延々と詳細に描かれる輝…じゃなかった褌にまつわる諸描写の企図するものについては、色々と作者に問いつめたい。いややっぱりいいです。

 本当に荒山先生は、なぜ俺十兵衛には「好漢」とか「始祖神」とか甘いのに、本当の(?)十兵衛にはあんなに辛く当たるのか。デレとツンが極端に分化しているということでしょうか(そういえば、「薔薇剣」の中で、十兵衛が矩香に無理矢理女装させられたシーンがあったような気がしていて、さすがに幻覚だろうと思いつついま読み返してみたら本当にあって驚きました)。
 何はともあれ、韓人妖術師に精神交換されたのなど、今回に比べればぬるいぬるい(と、ここで「十兵衛両断」は「薔薇剣」の系列…すなわち柳生友景系列の物語とパラレルであることが見えてきます。おかげで短編集としての「十兵衛両断」がややこしいことに)。

 しかし、「十兵衛両断」の十兵衛がどちらかと言えば冷徹な剣人である五味康祐先生の描く十兵衛の面影があったのに対して、今回の十兵衛像は、どこまでも人間臭くてどこか微笑ましい、山田風太郎先生描くところの十兵衛的味わいが…いや、いかに山風とて十兵衛を漫画版「餓狼伝」の藤巻十三みたいに描いたりはしませんが、雰囲気的に。実はこういう十兵衛も嫌いじゃなかったり…

 それはさておき、既にダメ人間の烙印を柳生の里の者たちからも押された十兵衛が巻き込まれるのは、奇怪な一団による柳生石舟斎の遺骨奪取事件。未熟とはいえ、柳生の剣士たちをものともせず斬り伏せる「忠也」なる剣士らを要し、謎の老人・太祖様に率いられるこの一団の狙いは? そしてその一団とは対立するもう一つ別の一団が存在するようなのですが、さてこれは一体…
 柳生と互角以上の剣力を持つ、江戸時代初期の剣士で「忠也」と言えば、これァもう忠也派一刀流の小野忠也が真っ先に思い浮かぶわけで、その上に立つ太祖さまはやはり一刀流の始祖たるあの人物なのかなあ(朝鮮妖術師に体奪われた…のは別の話)という気もするのですが、さてどうなのでしょう。何やら石舟斎の遺骨を使って、大がかりな妖術を用いようとしているようですが…

 と、本筋の方ではかなり真っ当な時代伝奇活劇になりそうなのですが、ここで神妙にしていられないのが荒山先生。謎の一団の犠牲となる柳生剣士の一団のネーミングが、柳生青年隊、略して「柳青(りゅうせい)隊」で…それだけ見ると別にどうということもないのですが、この方々、自分たちのテーマソングまで持っていて、その歌詞が、かつて存在したという「家学特槍隊」なる一団のテーマソングの替え歌で…「柳青 柳青 柳青」とか「戒重 戒重 戒重」って「実のところ、これは替え歌で」じゃないって!
 本文で戒重、いや怪獣が登場しないと思って安心していたらこの始末。先生はこちらのハートを射止めるために小説を書いているのではないかという気がしてきました(妄想にもほどがある)。

 というわけで色々な意味で今後の展開が気になる本作。展開的には、十兵衛が第一回の汚名返上とばかりに活躍してくれるのではないか、と期待しているのですが、またいいところで姉上(と旦那)、もしくは友景さんに持っていかれそうな不安感がヒシヒシと…。今回は登場しなかった朝鮮妖術も、まあそのうち登場するのでしょう(というより今回チラッと描かれていた妖術が朝鮮原産なのだと思いますが)。
 なお、掲載紙は季刊誌ということで、年三回刊行らしい「KENZAN!」とは微妙にタイミングをずらしながらの柳生波状攻撃、来年も大変なことになりそうです。

 また、この第一回が掲載された「小説トリッパー」誌には、関川夏央氏による「故郷は「忘じがたい」か「忘じたい」か――司馬遼太郎と荒山徹の間の歳月」と題する評論が掲載されており、荒山作品に対する真っ当な評論として非常に興味深いものがあります。


「柳生百合剣」第一回(荒山徹 「小説トリッパー」 2006年冬季号) Amazon

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コメント

「薔薇剣」も未読なので比較には成らないかも知れませんが、
シスコンの十兵衛なら山風にも有りましたね。
たしか「伊賀の聴恋器」でした。
あれの姉上もかなり××でした。

投稿: 冬至楼均 | 2006.12.20 21:38

か、完璧に忘れていました…
と、今読み返してみましたがこれはひどい(ほめ言葉)。やっぱりひどさでは山風先生の方が大々先輩ですね<ですね、じゃない

ちなみに「薔薇剣」の姉上は、人間としてはかなり真っ当な人であります。

投稿: 三田主水 | 2006.12.20 23:58

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