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2006.12.10

「柳生魔斬刀」(再録)

 徳川と豊臣の緊張高まる慶長12年、ハレー彗星が地球に接近した。その直後、隕石が落ちるという柳生の庄を訪れた柳生宗矩は、斬っても死なぬ怪人に襲撃され、かろうじて逃げ延びる。史上、彗星が近づき、隕石が落ちる度に凶事が起きていたこと、そして父・石舟斎もかつて不死身の鬼と出会い、これと戦ったことを知った宗矩は、石舟斎がその鬼を斬ったという魔斬刀を手に、この世を地獄と化すという蒼き鬼たちに孤独な戦いを挑む。

 「平成の魔界転生」という派手な煽り文句が目を引くこの作品、常人を遙かに超えた力と不死身の肉体を備えた怪物と剣豪の対決、というのは確かに魔界転生チックですが、(ネタバレになりますが)敵が隕石の落下と共に現れた謎の寄生生物という辺り、むしろ5,60年代の侵略テーマのSFを思い起こさせます。つまり単純な二番煎じではなく、題材的には時代小説上なかなか珍しいもので、この手の作品が大好物である私としては一抹の不安も感じつつ大いに楽しみに読ませていただいたのですが…むしろ不安の方が当たった(涙)。

 実際、これほど読んでいる最中に「勿体ない」と感じた回数の多い作品もありませんでした。その理由は色々とありますが、一番大きいのはその文体と構成。これはまあ、好みというものもあるのかもしれませんが、文章とその内容がいささか回りくどい。歴史上の人物が登場する度に1ページ前後使ってその人物を解説してくれるのですが、これが物語の本筋に関係ないものも多く、物語のテンポを削ぐことがおびただしい。肝心の剣戟シーンでもこのテンポの悪さはついて回っていて、主人公である宗矩の心象描写が多すぎてアクションのリズムと緊張感にマイナスとなっています(これは作者が剣豪ものはほとんど初めて(みたいです)なのも大きいと思いますが)。

 また歴史上実際に起こった怪事件や人物の死に結びつけようとするあまり、物語の流れがいささか不自然になったり、(さらにこれの点が大きいのですが)タイムスパンが妙に長くて、世界の危機が迫っているというのにいまいち緊迫感が盛り上がらない。しばしば伝奇時代小説がやってしまう、年表上の出来事・事件の間に物語が挟まっている、という状態にこの作品も陥ってしまっているようです。この状態になると、出来事と出来事の間にストーリーを消化するという感じになって、話の流れは不自然になるは(なんでここで1年も間が時間が流れるんだよ、とか)先は読めるはで(例えば本能寺以前に主人公が信長を襲っても決して勝てないとか)非常に悲しい。ベテランの方も結構やってしまうことではありますが…

 その他、内容的にも突っ込みどころは色々とあるのですが、このくらいにしておきましょう。色々と作者には失礼なことを書いてしまいましたが、非常にユニークな、面白い題材であるのに本当に勿体ない、という無念の表れと思っていただければ。思えば、題材のぶっ飛び方に比して、あまりにまっとうな、一種歴史小説的なアプローチを取ってしまったのが違和感の種だったのかもしれません。もっとバカに徹していればカルトなアクション時代劇として快作となっていたと思いますし、サスペンスにもっと気を配れば、光瀬龍の後継ともいえる侵略テーマの時代SFの傑作になっていたのではないかと思うにつけ、非常に勿体ない、としか言いようがありません。


「柳生魔斬刀」(近衛龍春 小学館文庫) Amazon bk1

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