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2006.12.20

「影侍」 シーボルトを護る影五つ

 旧知の長崎奉行・土方勝政からの依頼により、長崎奉行所の同心にしてタイ捨流の達人・田野辺聞多らと長崎に向かう小野派一刀流の達人・鏡十三郎。彼の地で十三郎を待っていたのは、謎の刺客たちからのシーボルトの護衛だった。異人と因縁浅からぬ十三郎は、複雑な心中を抱えつつも任に当たるが…

 牧秀彦先生の最新作「影侍」は、シーボルトを守る剣士たちの活躍を描いた作品。作品の多くがいわゆる「必殺もの」な牧氏ですが、今回は、正調の(という表現が正しいのかわかりませんが)剣豪アクションとなっています。
 タイトルとなっている「影侍」とは、長崎から小倉に向かうシーボルトの影供(本隊にその存在が明らかにされていない供回り)の任に就く侍という意味でしょう。執拗にシーボルト襲撃を企む謎の一団に、主人公・鏡十三郎をはじめとする五人のチームが影供として挑むのですが…

 しかし十三郎は、長崎の地に、そして異人の存在に複雑な想いを持つ男。詳しくはここでは書きませんが、この時代の有名な事件を背景に持ち、かつまたシーボルトとも因縁を持つ、この十三郎の設定にはなかなか説得力があります。
 そして、十三郎たちの敵に回る刺客一党にも、彼らなりのシーボルトを狙う理由があり、シーボルト一人を討ったところで何があるのか、という疑問に答えつつも、それが上記の十三郎自身の身の上と深く絡んでくるというのは実にうまい設定かと思います。

 十三郎と共に戦う仲間たちも、実戦派の達人だが遊び好きで十三郎とは好一対の田野辺、喧嘩っ早いが腕はからきしの中間・浜吉、親の代から田野辺に仕える口は悪いが気のいい老爺・源造(十手を使った実戦殺法の描写が楽しい)、シーボルトに医学を学び体術の達人でもある美女・楓と、いずれも個性的な面々。この辺りのチームものとしての面白さは、これまでの必殺ものの中で培われたものなのかな、という印象があります。

 もっとも、仲間が個性的な一方で、十三郎のキャラが少し薄くなってしまったかな、という気がしないでもありません。上記の通り彼の背負ったもの自体は、設定としても面白く、物語中でもうまく機能していただけに、もう少しエッジの効いた性格(例えば女性が近寄るだけで嫌がるとか、柴錬チックなニヒルさだとか)であった方が、よりクライマックスの展開がドラマチックになったのではないかと思うのです。

 とはいえ、剣戟描写の精緻さと迫力は変わらず、文章はこれまで以上にこなれてきた感のある本作の面白さは間違いのないところ。一つの戦いは終わりましたが、シーボルトといえば彼に絡んだ大きな事件もあるわけで(それにつながるような描写も見受けられましたし)、影侍チームの活躍も、これで終わらせるにはもったいないですしね。


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