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2006.12.16

「三万両五十三次」(再録)

 時は幕末、通商条約勅許のための公家懐柔の費用として京へ送られんとする三万両を巡り、堀田正睦の懐刀の昼行灯家老馬場蔵人、美剣士矢柄誠之介をリーダーとする倒幕の志士たち、侠盗牛若の金五に妖婦陽炎お蓮、怪人背虫の吉三等々…様々な人々が熾烈な争奪戦を繰り広げるロードノベルです。

 三万両を守る者と攻める者の知恵比べに加え、敵討ち、恋の逃避行と、物語を盛り上げる要素が山盛りのうえ、登場するキャラクターが皆個性的で、長いはずの文庫本四冊があっという間の快作でした。まさに大衆文学の王道を行く作品と言うべきでしょうか。

 が、個人的には、主役の一角を担う志士たちが、尊皇攘夷の青臭い理想を奉じて周囲を傷つけるはた迷惑な連中にしか見えず、今一つ感情移入できなかったのが残念なところ(これはまあ、作品の成立年代から考えてしょうがないのかもしれませんが)。
 これに比べれば、旅が終わった暁には自分を仇と狙う少女に首を差し出す約束をしながら、自分の務めを淡々と果たそうとする馬場蔵人の方が何倍も人間的に魅力がありました(戦後製作された映画・TVの主役がみな蔵人なのもよくわかります)。

 しかし、それ以上に愉快だったのが、ただひたすら己の欲望に忠実に物語を引っかき回した陽炎のお蓮姐さんの存在。気が向けば盗みはおろか、人殺しさえ平気で行うようなとんでもないキャラクターですが、周りが自分の大義名分(≒タテマエ)で動いている中、逆にそれがかえって実に人間的で気持ちよく感じられました(というより、一番この物語で得をしたのはこの人だと思います)。


「三万両五十三次」(野村胡堂 中公文庫全4巻) Amazon bk1

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自称天下の舐め犬調教師、Mr,バターと舐め犬との交流を描いた心温まる物語風日記! [続きを読む]

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