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2006.12.09

「天保異聞 妖奇士」 説十「弥生花匂女神楽」

 妖夷に憑かれ、芝居小屋を破壊しようとする宰蔵。が、彼女の前に現れた往壓の漢神が、言葉が宰蔵の心を動かし、妖夷「無慈儺」は宰蔵から離れる。そして小笠原の前で宰蔵から取り出された漢神の意味…それは「罪」ではなく「王を支える腹心」だった。己の漢神が変じた刀を持ち、笑顔で舞う宰蔵が、巨大化した無慈儺を討つ。そして蛮社改所に下された次の命は、将軍の日光参詣に先立つ日光街道の妖夷退治。しかしその道中を、鳥居の配下により師を無実の罪に陥れられた小笠原の旧友が狙っていた…

 いきなり親父と美男役者が舞台上で絡み合う姿を見せられて凍り付く三年前の宰蔵。というか視聴者みんなも凍り付きましたよこのシーンは。ある意味、一番見たくない自分の父親の姿を見せられて動転した宰蔵は、近くの芝居小屋から火が出たことを知らせずにその場を離れ、結果、父は死んだ…というわけで、宰蔵が火を付けたという最悪の事態は避けられて一安心――したのはこちらだけで、宰蔵の心には消えない傷は残るでしょう、あれはさすがに。

 それに対して、心の傷と過去の後悔じゃ負けないぞとばかりに叫ぶ往壓。さすが、わかったようなわからないような、そしてダメ人間の心に突き刺さることを言わせたら最強の男だけあって、本当の顔はどこにもないと無数の仮面を操る宰蔵に向かって、これが全部お前の顔だと、そしてそんな自分を認める「大人の顔」を選ばなければいけないと呼びかけます。

 なるほど、まさしく無数の仮面は宰蔵の中にあるペルソナということなのでしょう。即物的すぎますが、しかし宰蔵の元役者という属性から考えればむしろうまい使い方かもしれません。
 何はともあれ、父を見捨てたという過去の罪悪感と、そんな父の期待に応えられず、役者になれなかったという悔しさが、今回の事件の源であったわけですが、そんな自分自身の心のうちを、「嘘を付いている」と断罪してしまうのは宰蔵の若さであり、また好もしいところでもあるのですが、しかしそれで周囲を、自分自身を損なってはやはり本末転倒。ここでやはり彼女を救ったのは、そんな心の葛藤においては大先輩の往壓だった、というのはそれなりに説得力があります。

 そして宰蔵を縛っていた自分の名前に対するコンプレックスも、小笠原様が俗説に惑わされていたというオチでした。宰蔵の父は、彼女が「誰かを支える」立派な存在になることを期待していたようですが、なるほど、脇役でも立派な役者であり、舞台にはなくてはならない存在。趣味がアレでしたが、いかにも芝居人らしいいい父親だったんじゃないでしょうか…でも、宰蔵、とりあえず自分と倍以上年の離れたダメ人間を支えるのは大変そうだからやめとけ。あと小笠原様は反省しる。

 何はともあれ、復活した宰蔵が、己の漢神から生まれた刀で巨大化した無慈儺を粉砕。もちろん、物理的には宰蔵の刀が妖夷を破壊したことになるのでしょうが、しかし「自分自身であること」を受け容れて、奇士として笑って舞うことができるようになったことが、宰蔵の心から生み出された妖夷を打ち倒す大きな力となったのだと思います。もちろん、妖夷を倒したことで宰蔵の心の中の迷いや悩みが消えたわけではなく、また現実が変わるわけでは全くないのですが、しかし現実とそれに対する自分の心を直視できるようになったのは、何よりも大きく貴い第一歩ではないでしょうか。

 で、宰蔵暴走問題も、たまたま宰蔵の活躍を、隠れて芝居見物に来ていた時に目撃した大奥のお女中が取りなしでおとがめなし、というより幕府での存在感アップ。ご都合主義という気がしないでもないですが、これはこれでこの時代であればあり得る展開であって、むしろこうもってきたかと感心しました。

 普段であればここでめでたしめでたしなはずですが…ここで小笠原様の過去がクローズアップ。蘭学者であることは最初から示されていましたが、蛮社の獄で捕らえられるところを、鳥居の計らいで見逃されたらしいなど、「おっ」と思わされる事実が少しずつ語られていきます。そして、高島秋帆が鳥居に讒訴されて失脚したという史実に絡めて、そのまま次の物語が始まっていきます。これはちょっと意外な展開。

 自分の旧友が将軍参拝の先触れ道中に斬り込もうとしていることを知って、己の身で止めようとする、冷徹なふりして熱血漢で突っ走りがちな小笠原様。それを放っておけない往壓は小笠原様の家来として道中に参加、旅のスタートは二人の明るい笑い声…って楽しそうだな、何だか。

 そしてもちろん仲間たちも黙っていられるわけもなく、あとを追いかけるようですが…いや、差別するわけじゃないが素顔で行くのはまずいだろう、アトルは。色々奇っ怪な連中も出没しそうで、次回は賑やかになりそうです。


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