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2006.12.21

「おまけのこ」 しゃばけというジャンル

 文庫化までとても待っていられなかったので「しゃばけ」シリーズ第四弾「おまけのこ」を単行本で紹介。前作、前々作同様、今回も若だんな・一太郎と妖怪たちが活躍する全五話が収録された短編集となっています。以下、収録作品について簡単に紹介と感想を。

「こわい」
 妖たちや仏様にさえも厭い、恐れられるという狐者異という妖怪。ある日一太郎の前に現れた狐者異が持つという、職人の腕を一流にするという薬のため、日限の親分たちは奔走しますが…

 狐者異というのは結構マイナーな部類に属する妖怪ですが、本作においては、仲間であるはずの妖から嫌われ、仏様でさえ匙を投げるという天涯孤独のひねくれ者。折しも親友の栄吉と、彼の菓子作りの腕のことで大喧嘩してしまった若だんなは、彼が持つ薬に興味を持つのですが、それが意外な騒動に展開していく様が描かれます。
 しかし物語の主眼は、この騒動以上に、狐者異という特異なキャラクターに置かれているのは間違いない話。人ではなく、しかし妖怪にも爪弾きにされる、まさに三界に身の置きどころのない狐者異を、寝込むことだけでなくお人好し…いやさ思いやりでも頂点に立つ男な若だんなは救おうとしますが――何とも言えぬ苦さの中に、色濃い哀しみが漂います。


「畳紙」
 祝言を間近に控えて不安を募らせるお雛が、 若旦那のところで拾った印籠は、なんと屏風のぞきのもの。取り返しにお雛のところに行った屏風のぞきは、何故か彼女の心の奥底の悩みを聞かされることになって…

 前の巻に収録された「花かんざし」で脇役として登場したお雛が主役の一篇。 気だてが良く、気持ちの明るい女性ながら、「塗り壁」と陰口を叩かれるくらいの病的な厚化粧という不思議なキャラで印象に残っていたのですが、本作では、彼女自身も気付かない、その厚化粧の真の理由に迫ることになります。
 しかしその謎に挑むもう一人の主役が、屏風のぞきというのが面白い趣向。シリーズ第一作から登場しながらも、どうも頼りないイメージの強い彼の、ほとんど受難と呼べるレベルのお雛との触れ合いがなかなか面白いところです。
 そして何より、若だんなのプロファイリングよりも、既に最初から提示されていた答えを指摘した屏風のぞきのちょっとした言葉がお雛を救うという、一種のどんでん返しが愉快でありました。


「動く影」
 まだ友達がほとんどいなかった子供の頃の一太郎。近所の子供たちと一緒に、町中を騒がす影女の謎に挑みますが…

 若旦那が、まだ人間の友達も、また妖怪の友達もいなかった頃を思い出してのお話。少年探偵団チックな雰囲気の、エピソード0とでも言いましょうか、若旦那が名探偵としての素質を見せて怪事件に挑む様がいきいきと描かれています。
 その事件も、江戸中を騒がす動く影の怪と、また別に現れたという飛縁魔と、一見関係ない、二つの妖怪にまつわるもので、事件を追っていくうちに実は…という謎解きが、いかにも本作らしくて面白いところ。 また、クライマックスで彼らが目撃する悪夢めいた景色は、ホラーとして非常に印象的でした。
 そしてその恐怖を、皆の力を合わせて乗り越える様が、同時に、一太郎の孤独からの解放に重ね合わせて描かれるあたりには大いに感心しました。だから、「みぃつけた」と矛盾が…とかガタガタ言わない。


「ありんすこく」
 吉原の禿を足抜けさせて一緒に逃げると言い出した若旦那。一体なぜ、そしてどうやって吉原から脱出させようというのでしょうか…?

 「ねえ仁吉、佐助、私はこの月の終わりに、吉原の禿を足抜けさせて、一緒に逃げることにしたよ」という冒頭の若旦那の発言があまりにも衝撃的すぎるこの作品。もちろんそれなりの理由はあるのですが、とにかく冒頭のインパクトでおなか一杯です(個人的には仁吉か佐助か、どちらかが真に受けて取り乱せば面白かったのに、と思います。二人とも性格的には同じようなもんだからなあ)。
 その後の展開は、(特に妨害が入るあたり)正直途中で予想がついてしまうのですが、トラブルを生じさせた関係者の誰が悪いというわけでなく、誰もがその立場であれば当然の想いを抱き、行動しただけというのが切ないところです。
 あ、次善の策は予想つかなかったかな。


「おまけのこ」
 とある商家から依頼されて取り寄せた真珠が店の中で奪われ、犯人探しにあたる若旦那。一方、当の真珠を守って屋敷の外に放り出された鳴家の運命は?

 あまりこういう表現は使いたくないのですが、一言で言えば「鳴家萌え」な一編。若旦那による推理の一幕もありますが、やはりどうしても鳴家の方に目がいってしまいます。
 本シリーズのマスコット…という扱いが我慢できなかったか、自分は「おまけのこ」じゃないやい! とばかりに大活躍する鳴家の姿には、作者の手の上で踊らされてるなァと思いつつもやはり目尻を下げてしまいます。
 ラストに描かれる若旦那と鳴家の絆も良いですね。


 以上、これまで以上にキャラクター小説の趣が強く、ミステリ色はかなり薄まっていますが、これはこれで、妖怪人情小説という、本シリーズでしか描けない独自路線になっていると言うべきでしょう。大げさに言えば「しゃばけ」シリーズは、「しゃばけ」というジャンルになっているのかもしれませんね。


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