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2006.12.07

「最後の間者」 岡田秀文に外れなし!?

 まだ数作しか読んでいないのですが、「この作者の作品であれば大丈夫」的な安心感を最近抱いているのは岡田秀文先生。ハードな展開の時代ミステリを書かせると一級品ですが、この「最後の間者」も期待に違わぬ逸品であります。

 主な舞台となるのは織田信長支配下の安土。本願寺との長き戦も終結間近な時期ながら、各地で起こる不穏な事件の背後に他国の間者の存在を見た信長は、配下の村井貞成に間者一掃を厳命します。
 そしてその貞成に追われる立場となるのが本作の主人公・市平。毛利の間者として数々の工作に当たり、密やかながら確かな成果を上げてきた市平ですが、徐々に迫る捜査の手に神経をすり減らしていきます。さらに、他国の間者や正体不明の敵までもが現れ、己の隣人や恋人にすら心を開けぬまま追いつめられていく市平ですが、彼の孤独な戦いの背後には、思いも寄らぬ巨大な陰謀が――

 というのが本作のあらすじ。市平の視点から、そして時に貞成の視点から描かれる乾いたタッチの物語は、優れた時代ミステリであると同時に、忍者――いやスパイ小説としても一級の作品と言って良いのではないかと思います。
 正体が暴かれれば無惨な死が待ち受ける状況、恋人はおろか間者仲間にも油断ができぬ状況の中で、巨大な謀略に巻き込まれて孤独な戦いを続ける市平には、古今の名作スパイ小説の主人公の姿が重なって見えるのです。

 特に前半のクライマックスである、佐久間信盛の陣に輸送される煙硝を巡る市平らの作戦と、それに対する貞成の捜査という、一連の攻防のサスペンスフルな味わいは、出色と言えるでしょう。
 そしてまた、仲間を殺され、徐々に包囲網が狭まる中、遂に発動する謀略の姿とその背後に在ったある人物の意志、そしてその中で市平の行動にどのような意味があったかが描かれる終盤の展開は、まさに圧巻の一言であります。
 謀略の帰結と、その真犯人については、正直なところこの時代の伝奇小説ではお馴染みのネタではあるのですが、そんなことは全く些末なこと。何よりも、謀略の全貌が明かされたその時、これまでの物語が全く別の、裏に隠されていた真の姿でもって立ち現れるそのインパクトには舌を巻きました。そして――それと共に語られる「最後の間者」の正体に何とも言えぬ感慨を抱かされたことです。
 結末、時代の流れと権力者の謀略に翻弄され尽くされた登場人物たちが見た小さな希望。それがやがて一つの幸福となってくれることを願ってやまぬ気持ちとなりました。

 そしてまた――「岡田秀文に外れなし」の思いを新たにさせられた次第。決して多作な作家ではありませんが、次回作を楽しみに待っているところです。 


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