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2007.01.25

「鬼喰う鬼」 鬼と人、武士と貴族の狭間で

 酒呑童子伝説をベースとした時代伝奇活劇たるこの「鬼喰う鬼」、初めて触れる作者の作品だったので、果たしていかがなものかと思いましたが、個性的なアイディアとドラマチックな展開が光る良作でありました。

 源頼光と頼光四天王による酒呑童子退治の物語は、演劇や小説等の現代のエンターテイメントは言うに及ばず、古典芸能や絵草紙の世界でも扱われてきたもにであって、あまりいい表現ではありませんが、手垢にまみれた題材であります。そしてそれは同時に、なまなかな趣向では先行作品を超えることは困難ということも意味するわけですが、本作では源頼光ならぬ源雷光というキャラクターを主人公に据えることにより、極めて個性的な物語を描き出すことに成功しています。

 渡辺綱(一般には頼光四天王の一人として知られるあの綱)の子である隻眼隻腕の青年雷光は、元服の日に、彼が綱の実の子ではなく、赤ん坊の頃に何者かに殺されかけていたところを拾われたことを知ります。更に不思議な因縁に導かれて、自らが、源頼光に嫁いだ藤原道長の姪が、鬼に憑かれて生んだ子だったと知った雷光は、生まれたばかりの自分から眼と腕を奪い、今また命を狙おうとしている源頼光と源氏一門に復讐の一戦を仕掛けることとなります。
 目覚めた鬼の力、そして実は雷光同様鬼の力を持つ綱の力により、並みいる源氏の武者たちを粉砕した雷光は、藤原道長の計らいで、頼光に代わって源氏の頭領の座に就きます。

 ここまでが丁度物語の前半部分、ここまででも意表を突いた展開の連続ですが、後半に至って物語はますますパワーアップ。かつて幾度となく都を騒がせた強力な鬼・朱天童子が、鬼の軍団を引き連れて再来、雷光たちと死闘を繰り広げることとなります。
 都の闇に紛れて狼藉を働くに飽きたらず、遂には大胆にも内裏を襲撃した朱天童子。無数の鬼を率い、更に自身も恐るべき神通力を持つ朱天に、源氏の総力を結集して挑む雷光ですが、朱天の前には己の鬼の力も通じずに破れ去り、内裏(の建物)そのものを奪い去られて(!)しまいます。
 大枝山に築かれた鬼たちの居城を攻略するには、都の軍勢では、人間の力ではあまりにも不足。しかし――少数の鬼たちによる奇襲攻撃ならば!? というわけで編成されるのが、人に味方する鬼たちのチーム。雷光と綱、代々王城守護に当たってきた鬼・太郎坊、そして綱が東国で見出した怪童・坂田金時…

 かくてクライマックスで描かれるのは一騎当千の、まさに「鬼喰う鬼」たちと朱天童子一党との、血で血を洗う総力戦。詳しくは書きませんが、無双の力を持つ鬼たちですら窮地に陥る、逆転また逆転の大殺陣は、迫力・アイディアともになかなかに見事で、久しぶりにド派手なアクション・エンターテイメントを堪能させていただいた気分です。

 しかし本作の優れているのは、単に良くできたエンターテイメントであるというに留まらず、鬼と人間、武士と貴族の相克と、その果てに生まれる歴史の巨大なうねりまでも描き出している点でしょう。
 時あたかも藤原道長の絶頂期、すなわち少数の貴族たちがこの国を支配し、武士はその下で、力を蓄えつつも、態の良い番犬としか扱われなかった時代であります。
 そして雷光は、表向きは源氏の長者と藤原氏の娘の間に生まれたものの、真の父は何処のものともしれぬ鬼であり、本人もその血を色濃く引いた青年。いわば武士と鬼という、共に強大な力を持ちつつも、この国の支配層からは一段も二段も低く見られた、まつろわぬ者の化身とでも言うべき存在であります。

 そんな雷光は物語の中で幾度となく差別され、現実を突きつけられては、鬱屈と悲哀の中で、それでも武士として、鬼として戦いの中に飛び込んでいくこととなります。その果てに彼が得たもの、そして同時に失ったものは、とてつもなく大きいのですが、しかしそのものたちが、そこに至るまでに彼が経験したことどもが、後の歴史を動かす巨大な力となったことを示すラストは、 それだけに大きな感動を呼びます。

 あまりに多くの者が血と涙を流し、数限りない死と暴力が撒き散らされる物語ながら、本作の読後感が悪くない――いやむしろ大変に爽快ですらあるのは、武士としての、まつろわぬ鬼としての雷光の意気地と生き様が、決して無駄ではなかったことを示すこのラストがあるからでしょう。

 久々に時代伝奇小説のダイナミズムというものを感じさせていただきました。満足です。


 蛇足ながら、本作で最も格好良いキャラクターは、頼光の弟の頼信でしょう。雷光の命を幾度となく狙う酷薄な男に見えながらも、武人として綱と激突する中で真の交誼を結び、それがやがて歴史の中で大きな意味を持つことになる…鬼として、武士として雷光が切り開いた運命を、人として、同じ武士として継承する存在として、彼が本作で果たした役割は、決して小さなものではありません。


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