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2007.01.12

「陰陽師 鬼一法眼 ときじく之巻」 異形の源氏三代記ついに完結

 「陰陽師 鬼一法眼」シリーズも最終巻。三代将軍実朝の運命の瞬間に向けて、物語は複雑怪奇な様相を呈することに。そしてまた、法眼にも宿命の精算の時が訪れます。

 次第に孤立の度合いを高めていく実朝。頼みとする古くからの家臣たちは、次々と北条義時・政子の謀略の前に滅ぼされていき、実朝自身は歌の世界への逃避を強め、同時に京の朝廷へと近づいていくことになります。これに危機感を覚えた周囲の思惑により、遂に暗殺される実時ですが、しかしその時に彼の前に現れたのは安倍泰俊と「ときじく」なる物体――

 ときじくと聞けば、やはり田道間守が探し求めた「非時の香菓」のことが頭に浮かびますが、ここで登場するのは思いも寄らぬ、SF的存在で、この辺りは作者一流のひねりといえるでしょう。
 そのときじくの力で死を免れ…いや死ぬ前の時の流れに戻った実朝は、己の非業の死から逃れるため、すなわち歴史を変えるために手を尽くすのですが――さてその結末がどうなるか、ここでは伏せますが、これまで物語の中でその生きざまが描かれてきた実朝であれば、なるほどそうであろうという選択を行う姿には、静かな感動がありました。

 と、大きな流れである源氏最後の将軍実朝の物語は見事に完結した一方で、鬼一法眼の物語も完結。新たに陰陽寮の長となった泰俊が、己の息子である竜元までも狙うに至り、遂に対決を決意するのですが…
 が、これがちょっとこれまで引っ張ったわりにはあっさりとしすぎ、というのが正直な印象。特に泰俊の秘めた想いは、言われてみればなるほどなあと思えるのですが、そこまでの積み重ねがないので、あまりにも唐突な感じが否めません。
(しかも泰俊、「勝負はまだ一回の表だ」とか言ってたら後ろからスペシウム光線を喰らわされたようなオチだったしなあ…)
 その他、牛若天狗も後白河天狗も、登場人物それぞれに決着は付けられますが、みなどこか性急なイメージがあって…あくまでも一応の決着と思えば良いのかもしれませんが。

 結局、物語を構成する一つ一つのネタはとても面白いのに、物語全体として見るとどうにも…という印象は、シリーズ全体を通して拭うことはできなかったのが残念なところでした。
 とはいえ、鎌倉時代初期を描いた異形の源氏三代記としては、実に面白い作品ではありました。続きは幾らでも書けるスタイルではありますし、いつかこの鎌倉時代の終焉たる太平記の時代を藤木先生には描いていただきたいな、と思う次第です。


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