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2007.01.11

「外法師 孔雀の庭」 過去の陰を乗り越えて

 重くもしっかりとした人間ドラマが魅力だった外法師シリーズも遂に最終巻。災いを招く青い蓮の秘密に挑む玉穂が、京の壊滅を企む最強の敵との戦いに挑みますが、彼女の身にも重大な変化が現れることとなります。

 眼病を患ったという藤原道長の甥・隆家の治療を依頼された玉穂。気が進まないまま隆家邸を訪れた玉穂は、邸の庭で青い蓮の蕾を目撃します。折しも都では殺人事件が続発、その被害者の邸にも、同様の青い蓮が目撃されていたことを知った玉穂は、隆家の治療にあたっていた呪禁師の少女・広音と共に調査にあたります。
 そして調査の先に浮かび上がってきたのは、庶民に絶大な人気を誇る「孔雀さま」なる宗教団体の中心人物・真由利と、彼女を支える謎の僧・妙見。玉穂の父を知るという妙見の術により、十歳のまま成長が止まっていた体が急激に成長を始め、苦しむ玉穂。そして妙見は、己の野望――平安京壊滅に向けて最後の詰めに取りかかりますが…。

 このシリーズの主人公・玉穂は、過去の事件がもとで、年齢上は二十代ながら、肉体的には十歳のままで成長が止まってしまったという特異なキャラクター。しかし本作においては、敵の術で元の――年齢相応の肉体に変貌(?)させられてしまい、いよいよシリーズがラストであることを否が応でも感じさせられます。
 敵の狙いも、貴族社会への復讐と、その具現である平安京の壊滅とスケールは大。その背後では、その貴族の筆頭である藤原道長のある意志も働いていて、官制陰陽師でない外法師である玉穂が、決して負けられない戦いに赴かなければらない必然性が生まれているのには唸らされます。

 そして人の心の――特にダークサイドの――細やかな襞をきっちりと描いてきたシリーズの姿勢は、もちろん本作でも健在。陰謀を巡らす妙見や、彼に利用されつつもその対局の存在である真由利、血塗られた過去を持ちながらも彼女に献身的に仕える青年・王岻王丸…玉穂と対立するサイドのキャラクターたちにも、それぞれの想い、行動原理がありる存在であって、単なる書き割りではなく――その彼らが心の中に抱える(過去の)ネガティブな想いが、彼らの現在に影を落とし、悲劇を再生産することとなるのです。

 一方、心の中に己の過去から来るネガティブなものを抱え、それが現在の在り方を歪めているという意味では、玉穂も同様の存在。本作では、これまでさらっとしか触れられてこなかった、玉穂が少女の姿であるわけが、初めて真っ正面から、掘り下げられ――そして彼女はそれを乗り越えることとなります。
 確かに、そのきっかけとなったのは、妙見の術――それも玉穂を害せんとした――であり、受動的な契機ではあるのですが、しかし、そうであってもやはり彼女が自分の未来を掴んだのは、嘆くばかりでなく、自分と、自分を支える者たちのために立ちあがって現在を乗り越えることを玉穂の心が望んだからであり、ダークサイドに墜ちた者たちとは、その点で大きく異なるということなのでしょう。

 その意味では、同じく妙見の術の脅威に晒され、また自身に多大な問題を抱えながらも、自分自身の意志で戦い、周囲の者たちを救う道を選んだ藤原隆家も、玉穂と並ぶ存在と言ってよいでしょう。藤原隆家と言えば、花山法皇に弓を射かけた事件がやはり印象に残っており、バカ殿という印象が強かったのですが、そのイメージを踏まえつつも独自のキャラを提示した本作の隆家には感心させられました。

 もっとも、本作に欠点がないわけではなく、特に終盤の展開は、やはりどうにも詰め込みすぎという印象は否めません。妙見の過去はもう一つ二つ掘り下げて欲しかったところですし、シリーズを通じての敵である謎の女との決着も、それなりに描かれはするのですが、いま一歩、食い足りない感が個人的にはありました。
 それとも一つ、蛇足を承知で言えば、シリーズ当初からのレギュラーである渡辺綱が登場しなかったのは、やはりシリーズ通して読んできた身としては残念なところ(キャラクター配置的に厳しいのはわかりますが…)。少女姿の玉穂でも構わず求婚していた綱が、大人になった玉穂を見てどんなリアクションを取るのか、見てみたかった気がします。

 とはいえ、本作がシリーズで質・量ともトップクラスの作品であるのは間違いのないところ。妙見とは別の形で過去に囚われて現在を歪めることとなった真由利に、玉穂が与えた救いの形は、本作の締めくくりに描かれるにはふさわしいものであったと思いました。
 もちろん、ここで終わるのはもったいない、幾らでも続編は書けるではないですか、という思いも同時にあるのですが――


「外法師 孔雀の庭」全二巻(毛利志生子 集英社コバルト文庫) 上巻 Amazon bk1/ 下巻 Amazon bk1

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