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2007.01.19

「魔法半将軍 十四歳の魔王」 魔少年、都の荒れ野を往く

 タイトルだけで題材が分かった方は相当に歴史好きかもしれません。「魔法半将軍」とは、室町時代後期に権勢を振るって半将軍の異名を取り、そして妖しげなる妖術魔法に手を染めた一世の怪人・細川政元のこと。応仁の乱で荒れ果てた京の都を舞台に、少年時代の政元と腹心・司箭院興仙が、皇位簒奪を狙う魔手に立ち向かいます。

 この細川政元、あの応仁の乱を招いた細川勝元の子であり、後に管領として辣腕を振るい、時の足利将軍の首のすげ替えすらやってのけた人物。そしてその一方で、幸田露伴の「魔法修行者」にもあるように、飯綱の法に耽って数々の奇矯な振る舞いを見せ、生涯女色を遠ざけたという(それが結果的に彼の命を縮めたのですが)、実に伝奇者好みな側面をも持っています。

 本作においては、生まれついて奇怪な力を持ち、ついには第六天魔王と契約してその力を得たという魔少年として造形されている政元。いまだ十四歳の少年ながら、その性は苛烈にして傲岸不遜、しかし応仁の乱で灰塵に帰した京の姿に憤りを抱き、己なりのやり方でこの国の在り方を変えようとする大望に燃える人物として描かれています。
 一方、いま一人の主人公である司箭院興仙は、元は宍戸又四郎という武家の生まれながら、政元と同年同日の生まれであったことから、その物霊両面の守りにあたるべき者として修行に出された少年。自分の生はただ政元のためにあると信じ、彼のためにやはり第六天と契約をした術者ですが、政元ほどの冷徹さは持てずにいる…というキャラクターです(ちなみに実在の人物)。

 この二人が立ち向かうこととなるのは、皇位簒奪をもくろむ塵芥丸なる怪人。門外不出のはずの土御門の術を操って禁裏に出没し、御所を、そして京の都に幾度となく怪火でもって火の海に沈めたこの青年、ついには不敵にも帝襲撃を予告して政元らに挑戦状を叩きつけるのですが――

 そんな塵芥丸の跳梁に直面する宮中と幕府周辺の人々たちですが、本作ではそうした人々の姿を、史実を踏まえた上でエッジを立てて描いています。
 傀儡であることに慣れ、都壊滅の危機にも無気力な姿しか見せない将軍と帝。政元を敵視しつつも、大事にあたっては割り切って共にことに当たる畠山政長。一連の怪事を奇貨として己の教義の浸透を図る吉田神道の祖・吉田兼倶…
 いずれも脇役ではあるのですが、アクの強い主人公に負けずかといって食わずのほどよいキャラ立ちで、印象に残ります。
 また、もう一人重要なキャラとして一休宗純も登場。相変わらずの(?)ひねくれ爺ぶりで、さしもの政元も全く頭の上がらない古強者ですが、物語の中心となる宮中・幕府といった雲の上の世界と、庶民の暮らす野の世界を繋ぐ人物として要所要所を引き締めます(個人的には、もう少し帝の子という方面から掘り下げて欲しかったように思いますが)。

 こうした多彩な登場人物が織りなすドラマが展開する一方で、クライマックスの決戦はなかなか派手で私好みの展開でした。
 あえて幕府を挑発し、その気になれば幕府そのものを転覆させることも可能な戦力を集結させた塵芥丸、果たしてその真意は…と思いきや登場したのはあまりにも意外な存在。単純な外見からは想像もつかないその「敵」のパワーは、「戦いは数」という常識を覆してむしろ痛快さすら感じさせますし、そしてまた、「正規軍も歯が立たない=主人公たちが戦うしかない」というエンターテイメントとして誠に正しい展開に繋ぐ役割をきちんと果たしていて、感心させられました。

 このように脇役も舞台も展開も水準以上の本作なのですが、どうも残念なのは政元のキャラクター。
 その(むしろ悪い意味での)エキセントリックさは、読者として感情移入できない――というより敢えて感情移入を拒否させることを計算しているのだと思いますが――キャラクター造形となっており、やはりこの物語を読んだだけでは、いや単純に史実を知っているだけでは「子供が何を言っている」という印象になってしまうのが残念なところです(これは単純に私がじじいだから…ではないと思う)。
 また葛藤を抱えつつも、結局は自分の意志を持たない(それはそれで一つの尊い選択なのですが)興仙のキャラクターも、もう少し踏み込んで欲しかったように思います。

 非常に面白い題材であり、内容的にも楽しめる部分が多かっただけに、これ一冊で終わるのではなく、その先の二人の戦いを見たい思いますし、この先の物語が描かれれば、政元の生きざまがよりはっきりと見えてくれば、おそらく上記の印象はまたかなり変わってくると思うのですが…数年前に登場して以降、続編が出ていないのがまことに残念でならない本作であります。


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