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2007.02.28

「からくり偽清姫」 ゆったりと幽き不思議の世界

 元御庭番の幇間・藤八を主人公とした幕末ホラーの第三作。幕末の江戸を舞台に、奇怪な白蛇にまつわる殺人事件に藤八らが挑みます。
 藤八たちの花見舟に流れ着いた若い武士。気を失ったその青年の首には、白い蛇が巻き付いていたのでした。呆けたようになり出自もわからぬ青年は、安珍清姫から安殿と名付けられ、同席していた旗本の隠居に引き取られますが、以来その周囲で妖しい白蛇の影が出没するようになります。
 旧知の隠居からの依頼もあって事件の背後を調べることとなった藤八は、両国で興行を打つ一座に白蛇を使った手妻を見せる美女がいることを知りますが、時を同じくして、巨大な白蛇によると思しき殺人事件が次々と発生して…

 斯様な内容の本作ですが、良く言えば落ち着いた品格のある、悪く言えば地味な印象があります。これは本作に限らず、藤八が登場するシリーズに共通した――恥ずかしながら私は竹河先生の他のジャンルの作品をほとんど読んだことがないので、これが先生ご自身の作風かはわからないのですが――感覚で、基本的に真っ向から派手に怪異を描くのではなく、静かに雰囲気を盛り上げながら、徐々に怪異を描いていくスタイルであるため、そう感じてしまうのです。

 正直なところ、怪異怪談を描くならもっと派手にスッパリと! と、馬鹿な伝奇ファンとしての私は思わないでもないですが、その一方で、江戸の風物をゆったりと描きながら幽き不思議の世界を浮かび上がらせる手法はなかなか良いな、と時代小説ファンとしての私は思います(一見無関係に見えた事件の数々が、幕末という見えない糸でつながっていく様にも感心いたしました)。この辺りの感覚は、完全に趣味主観の域かもしれません。

 派手な剣戟があるわけでも凄絶な流血があるわけでもないですが、じんわりと恐ろしく、哀しく美しい。これはそんな物語です。

 なお、竹河先生の時代小説(≒藤八もの)の第一作「江戸あやかし舟」は双葉文庫、第二作「異人街変化機関」は富士見書房から発売されましたが、本作「からくり偽清姫」は光文社文庫からの発売。基本的に登場人物を一にするだけで、物語同士の関係はほぼありませんが、なかなかにファン泣かせのシリーズではあります。
 もちろん、この先どのレーベルで次回作が出ようとも、私は追いかけていく所存です。


「からくり偽清姫」(竹河聖 光文社文庫) Amazon bk1

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今日の絶望

http://www.mbs.jp/terra-e/
オワタ\(^o^)/

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2007.02.27

「天保異聞 妖奇士」(漫画版)第一巻 もう一つの妖奇士見参

 現在放映中のTVアニメと平行して「ヤングガンガン」誌で連載中の漫画版「天保異聞 妖奇士」の単行本第一巻が発売されました。基本設定はアニメをなぞりながらも、漫画独自の魅力溢れる、もう一つの「妖奇士」と呼ぶにふさわしい作品です。

 漫画版「妖奇士」の主人公も、三十九歳独身で(妖夷に)ちょいモテオヤジの竜導往壓であることはもちろんなのですが、そのキャラクター描写が、アニメと少々異なっています。
 こちらの往壓は、アニメに比べるとかなり飄々とした、そして年相応の(?)落ち着きを見せたキャラクター。それでいて決める時にはビシッと決める、奇士の切り札的キャラクターとして描かれているため、かなり「カッコイイ」主人公となっています。「炯眼に伏せ!」という決め台詞までありますしね。
 意地悪な見方をすると、この漫画版では雲七もアトルも(まだ)登場していないため、往壓のネガティブな部分が見えないだけかもしれませんが、何はともあれ、万年モラトリアム状態のアニメ版往壓に比べ(もちろんこちらはこちらで魅力的なんですが)、時代漫画の主人公としていい具合にやさぐれていて格好いい往壓、ヒーローとしての存在感十分です。

 ちなみに漫画版では往壓や小笠原の素性・過去、さらに言えば宰蔵やえどげんの性別も漫画中では語られていないのですが(宰蔵は一度だけ「小娘」呼ばわりされていますが、おかげで漫画だけ読んでいてそこに気付かないと小笠原様ラヴの若衆にしか見えない罠)、雑誌の方にはアニメの紹介記事も掲載されているはずですし、アニメの視聴者を対象としている部分も大きいと思われるため、これはこれでよいのかもしれません。

 さて、この第一巻に収録されているエピソードは二つ――アニメの第一話・第二話のアナザーバージョンとも言うべき「山神」と、完全漫画オリジナルのエピソード「人魚」。「山神」では往壓と宰蔵、小河原様が、「人魚」ではそれに加えてえどげんとアビが登場、この第一巻で奇士の顔ぶれが揃うこととなります。
 物語的には、「山神」の方はほぼアニメと同様の展開ながら、妖夷の正体はアニメよりも大分重く、また行動原理が救いのないものとなっているのが特徴的。そんな中で重い真実を一人受け止め、さらりと流してみせる往壓の大人ぶりが印象に残ります。
 一方の「人魚」は、人魚に憑かれ女殺しを繰り返す男を描いた作品。人魚とは、「妖奇士」にしてはずいぶんとメジャーな存在のような気もしますが、もちろんただの人魚であるわけはなく、一筋縄ではいかない奇怪な、そして本作ならではのユニークな存在として描かれており、そしてそれがまた男の凶行の原因としてきちんと機能しているのには感心しました。オチもベタではありますが、これはこれでなかなかよろしい。

 絵柄の方も作品の雰囲気をうまく活かした達者なものですし、アニメの「妖奇士」ファンであればまず読んで損はない、というより是非読むべき作品(熱狂的なアトルファンでもない限り…)と断言させていただきます。連載がいつまで続くかはわかりませんが、これからももう一つの「妖奇士」として楽しませていただきたいものです。


「天保異聞 妖奇士」(漫画版)第一巻(蜷川ヤエコ&會川昇・BONES スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス) Amazon bk1

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2007.02.26

「絵巻水滸伝」第五巻 三覇大いに江州を騒がす

 全十巻予定の絵巻水滸伝も、いよいよ折り返し地点の第五巻。江州を舞台として、前半のクライマックスにふさわしい大激闘が繰り広げられることとなります。
 第四巻終盤で、江州に流刑されてきた宋江。江州に着いた早々、彼が出会ったのは、江州に覇を唱えて対立する三人の顔役――混江竜李俊、没遮闌穆弘、船火児張横。更に神行太保戴宗、黒旋風李逵ら名だたる豪傑と知己を得た宋江ですが、宿星の導きによるものか、はたまた宋江の天然のトラブルメーカーぶりによるものか、あれよあれよという間に江州の豪傑たちは、官軍と激しくぶつかり合うこととなりますが…

 と、この辺りの展開は原作通りではあるのですが、水滸伝ファン、武侠小説ファンとして面白いのは、その最中に差し挟まれる李俊の過去エピソード。開始当初よりオリジナルエピソードを交えて描かれてきた本作ですが、一章丸々割いて描かれるこのエピソード「迷竜」は、原作にはない完全なオリジナル展開ながら、武侠小説の香り高い――というより、この「絵巻水滸伝」はオリジナル展開になると武侠色が強くなる傾向にあるのですが――佳編であります。

 時を同じくして江州に現れた二人の男――一人は一切の記憶を失って河から現れた男・李俊。もう一人は昔年の怨讐を抱いて異境からやってきた剣鬼・鐘剣。暴力と恐怖で江州を支配せんとする鐘剣の凶剣の前に数々の幇会が屈していく中、若き穆弘が、張横が、そして李俊が如何に戦いを挑んだのか?
 完全オリジナルなだけに先の読めない中、ハードなタッチで展開されるこのエピソードは、確かに、比較的原典の流れに沿った展開の中に挿入されると、違和感を感じないでもありません。しかし、「水滸後伝」では主役級の人物な割には、本編でのキャラクターが今一つはっきりしないように思われる(というのは私個人の感覚ではありましょうが)李俊のキャラ立てとしてはなかなか面白い試みだと思うのです。

 と、李俊のことばかりになってしまいましたが、江州を舞台にしての官軍と好漢たちの総力戦は、宋江の放浪の旅の掉尾を飾る――という言い方はおかしいかもしれませんが――戦いだけに、危機また危機の上に、次々と豪傑好漢が登場、活躍してくれて痛快の一言。個人的に一番驚いたのは黄門山一党の活躍ぶりで――特に原作ではチョイ役以外の何者でもなかった摩雲金翅欧鵬が、正子公也氏の美麗な挿絵に飾られて欧鵬史上最高の活躍をしてくれるので欧鵬ファン必見。

 そして本書終盤では新たなる好漢二人、楊雄と石秀(それにしてもこの二人が義兄弟の契りを結ぶ場面の、石さんのいきなり「弟になってもいいぜ」「昔から、あんたみたいな兄貴が欲しかったんだ」発言は…なんというか、こう…)が登場。楊雄夫妻の悲劇的なエピソードを挟んで、ラストには、水滸伝屈指のヒロインである一丈青扈三娘が登場、というところで以下次巻ということになって、何とも気を持たせられることです。

 誠に残念かつ口惜しいことに、シリーズの売れ行きがあまり芳しくないため、第六巻以降は定価を千円値上げとのことですが、水滸伝ファンにとってはそれくらい安い安い。これからも変わらずこの「絵巻水滸伝」を買い続けると共に、力を入れて紹介し続ける所存です(と言いつつ、第六巻が発売されてから第五巻を紹介するというのは誠にお恥ずかしい限りですが…)。


「絵巻水滸伝」第五巻(正子公也&森下翠 魁星出版) Amazon bk1

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2007.02.25

「天保異聞 妖奇士」 説二十「不忍池子守唄」

 二十五年ぶりに母と再会した往壓。往壓の親戚は、家を出た養子往壓の代わりに家に戻るように促し、小笠原もそれに賛成する。一方、土方の手で武士たちの刀を喰らって力を増した竜導家の脇差は、巨大な妖夷・金士と化し、家を捨てた養子往壓を追う。往壓は引き留める母に別れを告げ雲七と合体、駁竜と化して金士を倒し、養子往壓も竜導家に戻るのだった。

 往壓過去篇その二の後編である今回のハイライトは、なんと言っても二十五年ぶりに再会した往壓と母の件でしょう。二十五年ぶりにもかかわらず平然と自分の出現を受け入れ、自分を幼名の「爽也」ではなく「往壓」と呼ぶ母を、少し曖昧になって養子と区別がつかなくなっているのではないかと疑う往壓。
 しかし母は強し…往壓の母は別に惚けたわけではなく、しっかりと往壓は自分の子の往壓、爽也であると見抜いていたのでありました。この辺りの母子の心の触れ合いは、なかなかに感動的で、まずは名シーンと言ってよろしいかと思います。雲七が命を賭けて往壓に教えた言葉をここで引いてくるのはうまい演出。
(また、久し振りに実家に戻った往壓に、それぞれの身の上と引き比べて気遣いを見せる小笠原様と宰蔵がなかなかよろしいのです。その一方で見事に空気が読めないアトルの描写も、らしくて良かった)

 と、そんな母の一緒にいて欲しいという願いを振り切って、その目の前で馬七と合体する往壓はずいぶん思い切ったことをしたものだと思いますが(何だかウルトラマンの最終回みたいですね)、甲虫チックな巨大妖夷と変貌した金士の猛攻に対し、幼名たる「爽」の漢神が――言うなれば親子の絆が――勝利の切り札となるのが、またグッとくる展開でありました。

 この辺りの母子のエピソードは、幾らでも湿っぽく描けたかと思いますが、あまりヘビーな方向に行きすぎず、幕切れも、往壓の姿を、(それぞれの過去を抱えているとはいえ)まだまだお子さまの宰蔵・アトル・狂斎に「最低」と切って落とさせることによって、かえって物語にさっぱりとした印象を与えているラストにも感心しました。

 もっとも、その割りを大いに食ったのは養子往壓と土方歳三の二人往壓。養子の方は、結局なぜ竜導家に戻る気になったのかがよくわかりませんでしたし、土方の方も勝手に暴れて勝手に元の暮らしに戻った感があります(まあ、土方はまだ子供なので、あれはあれで良いのかも知れませんが、土方である必然性が結局薄かったのが何とも惜しい)。どうもこの辺り、本来であれば三話かけて描いた物語を二話に縮めたのでは…と勝手に勘ぐってしまうのですが、いずれにせよ勿体ないことです。

 そうしたキャラクターのドラマが色々あった一方で、大きな物語の本筋に関わるものもちらりと描かれました。往壓の父が、自分の父親(林述斎)の弟子だった縁で、幼少の頃から往壓を知っていた鳥居耀蔵。なるほど、第一話の時点から往壓の存在を知っていた描写があった鳥居様、前回ちらっと林述斎の名前が出てきたのでもしかしたらと思っていましたが、こんなところでつながりが明かされることになりました。その鳥居様、彼は唯一異界に行って戻ってきた往壓の存在が、徳川家を救うと語りますが…以前にも八百万の神と交感できるのは往壓のみ、と言っていたような記憶がありますが、さて蛮社改所は潰そうとしても往壓は必要としているこの辺り、対妖夷の理由以外の理由で漢神の力が必要なのだと思われますが…この辺り、きっちりと最後まで描いていただきたいものです。

 しかし奇士の仲間たちや雲七・アトルは言うに及ばず、鳥居様といい玉兵親分といい、なんかもー往壓は老若男女にモテモテですな。

 何はともあれ、作画的にはこの番組にしてはかなりいまいち感がありましたが、まずはよいお話でした。
 さて次回は異国からの妖夷の登場のようですが…吸血鬼? しかもそれに西の者と鳥居様が絡むという謎の展開。またアホの子の宰蔵はともかく、えどげん非常に美しく描かれていましたが――ついにえどげん主役回?


「天保異聞 妖奇士」第一巻(アニプレックス DVDソフト) 通常版 限定版

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「夢々 陰陽師鬼談」(再録)

 龍王の娘・息長姫を妻とする安倍晴明と、芦屋道満の対決を縦糸に、晴明と彼を慕う橋姫の恋の行方を描いた正編と、少年時代の晴明と龍女の、そして賀茂保憲との出会いを描いた続編(ビフォアストーリー)「星の術者」の二篇から成るコミック。原作は荒俣宏先生の小説「陰陽師鬼談 安倍晴明物語」ですが、原作を知らずに読んでも全く問題ない、ユニークな陰陽師ものでした。

 正編の方では、晴明と道満の男同士の争いがある一方で、息長姫と橋姫の晴明を挟んだ女同士の争いが描かれ、それが元で皮肉でちょっと切ない色模様が展開するのが面白いところ。晴明の洒脱さ、格好良さが描かれる一方で、艶笑譚的味わいもあって、これは歌舞伎にすると面白いような気がしました。

 一方の「星の術者」の方は、少年晴明の天真爛漫さの中に描かれる陰陽師の本質ともいうべきものが楽しい一編。
 陰陽師を敵視し、彼を殺そうとする竜王に、「陰陽道とはあなた方を封殺するものではなく、この世のからくりを見ようとするもの」と言い放つ晴明の言葉には、なるほどと膝を打ちました。
 「叶うまでは夢は無限の異界ですよ」という台詞も深いですね。

 この漫画家さんは以前に紹介した「魔界転生 聖者の行進」を描かれていて、そちらはいささか微妙な作品と感じたのですが、この「夢々」の方はかなり好きですね、私は。


「夢々 陰陽師鬼談」(九後奈緒子&荒俣宏 あすかコミックスDX) Amazon bk1

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2007.02.24

「魔界転生 聖者の行進」(再録)

 まっとうな「魔界転生」ファンを大いに嘆かせていたので、ゲテモノ伝奇好きとしては果たしてどんなものかと半ば楽しみに半ばハラハラしながら読んでみましたが、それなりに楽しめる作品でした。…十兵衛、二十歳くらい年齢間違えてるだろ、という点(と後で触れる点)に慣れさえすれば。

 個人的に感心したのは、十兵衛と四郎の関係の描き方。四郎が何故何のためにこの世に復活したのか、そして何故自分が狙われるのかほとんどわからぬまま闘いながらも、四郎の心の中の悲しみと嘆きを感じ取り、赦しとしての死を与えようとする十兵衛。幕府を滅ぼすために蠢きながらも、望んでいなかった復活による生への諦念と嫌悪の念を心に秘め、その中で出会った十兵衛の強さに畏怖と救いの象徴としての天主の姿を見る四郎。この「魔界転生」は、解り合っているようでいて全く通じ合っていない二人を通して描かれた赦しと救いの物語なのかもしれません。

 …が、どうにも我慢できない点が一つ。アクションシーンの描写が拙いというか、何やってるか全然わからん! もちろん、「何か凄いことが起きている」ということを示すために、わざと粗く描いているのかも知らず(何せこの作者の作品を読むのは初めてなもので)、お前が古い読み手なんだよ、と言われればそれまでかもしれませんが、やっぱり何が起きているのかパッと見でわからないのは漫画としてどうよ、と正直なところ私は思います(十兵衛vs武蔵なんて何やってるかしばらくわかりませんでした)。

 それにしても、(個々の作品の在り方とは別に)いつも感心するのは、原作が発表されて以来、様々な形で発表された各バージョンの「魔界転生」の、そのそれぞれがそれぞれに“魔界転生”というもの(作品、概念etc.)を咀嚼して独自の作品を作り出しているということ。それぞれの作品を生み出すだけの可能性というものが、「魔界転生」という作品には秘められているのでしょう。


「魔界転生 聖者の行進」(九後奈緒子&山田風太郎 角川書店あすかコミックスDX) Amazon bk1

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今日の小ネタ 三月の新刊落ち穂拾いほか

 小ネタというか落ち穂拾いですよ。
三月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュール追加
 大変申し訳ありません。先日掲載した三月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュールに抜けがありまくりでした。いや、抜けはしょっちゅうなんですが今回は大物が…

 まずは20日に荒俣宏先生の「帝都幻談」上下巻が遂に発売。「帝都物語異録」が出てからいったいどれだけ待ったことか…そして「新帝都物語」はいつだ!? という気分であります。そして12日には一部の掲載作品が一部で嵐を呼んだ講談社の「KENZAN!」第二号が発売。今回は平山夢明先生の作品も掲載されるようで楽しみです。また、5日にはおおお久しぶりの花家圭太郎「花の小十郎」シリーズ最新刊も発売です。
 以上はいずれも単行本ですが、文庫の方で風野真知雄先生の「耳袋秘帖 狙われた八丁堀」が登場。根岸肥前守を主人公に据えたこの作品、なんと三ヶ月連続刊行の「耳袋秘帖」シリーズの第二弾です。実用ものメインのだいわ文庫の中にポッと混じっているので非常に見つけにくいかと思いますが、私は好きです。第一巻の感想も今度書きます。

 も一つ大物が。下旬にはあのNHK八犬伝のノヴェライズ「新八犬伝」第一巻が復活します。復刊ドットコム、グッジョブ! もちろん「南総里見八犬伝」がベースではありますが、「椿説弓張月」まで入ってきたりしてもうやりたい放題の痛快な作品です。映像で全体像を観ることはもう不可能なだけに、せめて文章で触れられるのは本当にありがたいことです。
 この勢いでスーパー柴錬大戦こと「真田十勇士」もぜひ。


「柳生十兵衛七番勝負 最後の闘い」制作開始
 もう伝奇時代ファンが楽しめる時代劇はNHKとテレビ東京しかないのか…という印象ですが、何はともあれ「柳生十兵衛七番勝負」第三弾にして完結編の登場です。
 正直村上十兵衛は「…」なので、儂的には和泉元彌の由比正雪と高野八誠の大次郎が全てなのよ! と思ってたらキャストに高野八誠の名がないので絶望しました。が、事務所の公式サイトを見たらちゃんと載っていたので一安心(つまり照英よか並びは後か…)。しかし大次郎、十二年経っても貫禄増してなさそうだな。
 しかし最初が全六回、次が全七回、今度で全八回というのがちょっと面白いですね


「どろろ2&3」製作決定
 何だかネット上で評価が面白いくらい真っ二つになっている「どろろ」なのですが、その続編・続々編が製作決定とのこと。もちろん主役はあの二人で。それはどうでもいいですが、二作目は海が舞台というのはちょっと面白そう。
 一作目はまだ観に行っていないのですが、やっぱり行っておくべきかなあ。私へそ曲がりなので、あんまりボロクソ言っている人がいると、褒めたくなるのよね。

 …あ、もし二作目三作目も正子公也先生が衣装デザインだと、「絵巻水滸伝」に影響がでるんじゃ!? それは大問題。


『ゲームアーカイブス』 に「俺の屍を越えてゆけ」など7本追加
 心の底から「…」という感じのPS3&PSP用ゲームダウンロードサービス「ゲームアーカイブス」のラインナップに、平安時代を舞台にしたカルト的名作RPG「俺の屍を越えてゆけ」が追加されました。久々にプレイしてみるかなあ(いや、私の場合は実機でやるのですが)。
 しかし私が心の底から楽しみにしている(楽しんでいる)Wiiのバーチャルコンソールは時代ゲーが少なくて…「いっき」「影の伝説」だけでは話になりません。というより何故任天堂は時代ゲームにあんなに冷たいのか(も神クラスではあるんだけど…あ、ゴエモンあった)


天外魔境IIIベスト化
 おまけ。「俺屍」とは関係があるようで微妙にない「天外魔境III」がベスト化。…新品が千円で買える状況で、ねえ。


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2007.02.23

「幕末屍軍団」(短編) 屍者から見た幕末

 まだ単行本化されていない長編版を読むことが出来たので、その紹介の前に、プロトタイプというべき短編版の本作を紹介いたします。私の知る限り、菊地秀行先生最初の時代ものかな? 収録された単行本は長らく絶版となっていましたが、少し前に双葉文庫のアンソロジー「妖異七奇談」に収録されたので、比較的簡単に手にすることができるかと思います。

 舞台は幕末。とある長屋に、九日前に神隠しにあった男が還ってくる場面から物語は始まります。何処からか還ってきたその男は、人間的な感情を失い、そして人間離れした力を振るい、心臓は動いていても呼吸は止まっているという何とも奇怪な状態でありました。その謎に挑むのは、岡っ引きの東六親分と、謎の医師・源八の二人。幾たびも襲いかかる謎の武士の集団、そして生きているとも死んでいるともつかぬ奇怪な存在へと変貌した者たちとの戦いを経て、二人が辿り着いた黒幕の、意外な正体とは…

 今の目で見ると――いや正直に言うと当時から感じていましたが――キャラ造形やガジェット(特にラストに主人公二人が使用する武装など)があまりにも「菊地秀行の超伝奇もの」っぽすぎて、時代ものとしては少々違和感を感じないでもありませんが、しかしそれは同時に、エンターテイメントとしての面白さは折り紙つきということ。いま読み返してみても、一気に最初から最後まで読み切ってしまう熱さというものがあります。
 何よりも、日本の幕末にゾンビを真っ正面から出すというコロンブスの卵的アイディアの素晴らしさに留まらず、ゾンビ出現の理由が、あっと驚く意外な、しかし、ゾンビが存在している世界であればなるほどとうなづける不思議なリアリティを持ったものである点については、何度読んでも驚かされます。
 そして――人外の存在を通すことにより、現実世界を通常では有り得ない角度から、そしてそれだからこそより一層深く現実の諸相描いてみせる、菊地伝奇の妙味は、短編といえども本作でも健在でありました。

 この世界観が、果たして長編版でどのように活かされることになるのか、それについては稿を改めさせていただきます。
(そういえば、本作の登場人物と浅からぬ因縁を持つ人物が主人公の「逢魔が源内」の第一話も「還ってきた男」が題材となっていましたが、この辺りはやはり意識されていたのかしら)


「幕末屍軍団」(菊地秀行 双葉文庫「妖異七奇談」ほか所収) Amazon bk1

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 逢魔が源内

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2007.02.22

「幕末機関説 いろはにほへと」 第十九話「赫逆の五芒星」

 遂に箱館上陸を果たした榎本艦隊。耀次郎を斬ってしまったことで心に深い傷を負った赫乃丈は、艦隊に伴われ箱館病院で療養することになる。蒼鉄の言葉に、己の宿命を受け入れる決意をした赫乃丈は己を取り戻し、土方を狙って病院に乱入してきた松前藩士遊軍隊に立ち向かう。その彼女の前に、箱館に到着した一座の仲間たちも集結。遊山赫乃丈一座の新たな舞台の幕が上がる――

 いやはや、今回は面白かった! と素直に言える回でした。なんと言っても恩田作監のお陰で画のクオリティが高く(特にちび二人のちょこまかした動きがまたえらく可愛くて…そりゃあ蒼鉄先生も打算抜きで微笑むってもんです)、安心してみることができました。クライマックスの赫乃丈の踊るが如きステップで振るう剣さばきも実に美しかったですね。

 今回は、赫乃丈復活篇とも言うべき内容。精神的に復活したというのもありますが、物語後半に入って以来、視聴者にとって下がりっぱなしだった(そして前回でドン底になったであろう)座長株もまた復活したのではないかと思います。
 復活のきっかけの一つが蒼鉄先生の言葉ってのがナニですが、病院に乱入してきた松前藩士に対し単身立ち上がり、迎え撃つシーンは、一座の仲間たちの芝居懸かった乱入もあって、実に爽快でカタルシスの感じられる名場面だったかと思います。

 ちなみに今回(も)猛烈に面白かったのは蒼鉄先生。絶望に暮れた座長が断崖絶壁の上に立って、ふっと横を見るとキメキメの位置で立っていた蒼鉄先生のタイミングの良さには爆笑しました。
 しかも「あの男は、秋月耀次郎は生きている」と自信満々に座長に請け合った直後に心の中で「そうであってくれねば困る…この私としてもな」と続ける無責任っぷりには、視聴者全員が、ちょっと待てとツッコミを入れたのではないかと思います。

 ちなみに箱館に入ったということもあって、今回新たに何人か実在の人物も登場しました。その一人、箱館病院の医師・高松凌雲は見るからに好人物の青年医師で実に好感が持てます。持てるのですが、病院に集結した赫乃丈一座を見て、「医者や病院の他にも病人の治療法はある。それを見越して茨木殿は・・さすがだ」と感心してしまう辺り、妙におかしい。
 もう一人、新選組ファンにとってはお待ちかねだったのは、市村鉄之助の登場。京では逆恨みホモに付け狙われていて心配しましたが、無事のようで安心しました(それは別の作品だ)。座長の世話を土方に命じられて不満タラタラになる一方で、座長の横顔にどぎまぎしたり、上記の断崖絶壁シーンの後に、座長が身投げすると勘違いして「生きてる方が戦いだ!」とか利いた風なことぬかして(ぬかしてません)飛びついたりと、おいしいシーンが多かったかと思います。

 そんなこんなで虚実ともども盛り上がった今回ですが、台詞一つもないまま一人完全に出遅れた耀次郎m9(^Д^)プギャー
 まあ、前回あれだけ深く刺された上にずいぶん長い間水に浸かっていたようで、それでも生きてた不死身っぷりはさすがに主人公ですが、レギュラーキャラの誰と出会うでもなく、一人海岸に漂着するところがまたらしいというか何というか…


「幕末機関説 いろはにほへと」第1巻(バンダイビジュアル DVDソフト) Amazon

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2007.02.21

「異聞胸算用」 恐ろしき江戸伝説

 ホラー・ミステリシーンで一躍時の人となった感のある平山夢明先生。先日、このブログでも紹介いたしました「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」が発表されましたが、何と講談社の「KENZAN!」誌での連載も予定されているということで、時代ものファンとしても非常に気になる存在となってきました。そこで、その平山先生が以前、時代伝奇アンソロジー「伝奇城」に発表した短編時代ホラー群「異聞胸算用」をここに紹介いたします。
(本当は「井戸端婢子」発売の直前後の時期に書こうと思っていたんですがタイミングがずれてしまったのが不覚)

 この「異聞胸算用」に収められたのは四つの短編。荒屋の床下から現れた福禄寿めいた存在が招くおぞましい地獄絵巻「福禄童を買い請けんとせむ事」、何もかも厭になって野良犬になろうとした男の物語「けだもの指南」、兄に破れた剣士がおぞましい秘法でもって妹に祟る顛末記「妖産記」、土中の石箱の中から現れたものが呼ぶ奇瑞を描いた「石箱を拾うの事」と、いずれも分量こそは少ないものの――特に「「超」怖い話」読者にとっては――ああ、いかにも平山先生だな、と感じられる作品ばかりとなっています。

 この中で一編、ということになれば、ほとんどの人は「福禄童を買い請けんとせむ事」を選ぶのではないでしょうか。物語の中心となる「福禄童」のフリーキーな姿といい、クライマックスでそれが語る人間地獄といい、ラストのおぞましい幕切れといい――まこと平山節というべき内容であります。
 が、個人的に一番気に入っているのは「けだもの指南」であります。ふとした事から転がるように人生を転落し、人として生きる気力を失った主人公が、「野良犬になりたい」と思う。その、人間がフッと、道を踏み外していく瞬間、人間という殻が壊れてしまう瞬間を切り取って見せた様が、何とも印象的な作品でありました。

 先日の「井戸端婢子」の紹介の際にも触れた、「時代もの」を如何に描くか、という点における試行錯誤は、本作からも強く感じられるものであり、その意味ではまだまだ発展途上の印象はあります。また、異形コレクションに掲載された作品群に比べるとずいぶんとおとなしいものではありますが、それでもなお、いやそれだからこそ、「平山作品」としての味わい、魅力はこの短編群から感じ取れるのではないかと思う次第です。
(個人的には、「時代もの」という制限要素があった方が、平山作品の爆発力がより高まるのではないかと、今後の展開に懼れつつ期待しているところであります)


「異聞胸算用」(平山夢明 光文社文庫「伝奇城」所収) Amazon bk1


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 「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」 大江戸「超」怖い話のお目見え

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2007.02.20

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 山風流妖女ここにあり

 三週連続掲載の三回目であるところの今週の「Y十M 柳生忍法帖」は、前回ラストに登場したバカ施設・会津雪地獄が舞台。雪地獄で作戦会議を始める芦名銅伯と残り三本槍ですが、周囲がアレでよく真面目な顔して密議できるなと思いましたら(原作では真面目に話してないヤツもいましたがな)、もっとアレな人たちがいました。

 バカ殿とおゆらさん、あんたら何やってるの!
 公衆(?)の面前でそんな行為に及ぶとは、破廉恥も甚だしい、士道地に堕ちたり! このバカップルのおかげで今週のお話が頭に入りませんでした。…と書くと、おゆらさんの姿態にばかり目がいっていたに違いないと思われそうでイヤなので何度か読み返しましたが、要するに今回は銅伯様の現状分析と自分語りの回だったようです。

 銅伯の沢庵評と般若侠評は、特に後者については伝聞のみによるものとは言え、なかなかにユニーク。国境で沢庵和尚が打った大博打についても、もちろんしっかりと見抜いておりましたが、やはり後で振り返ってみるとあれは無茶苦茶な勝負でしたな。福本先生ならあれだけで半年は話を保たせそうです。
 そして般若侠に対しては…剣鬼・虹七郎でも危ないと言わしめる(奇しくもこれは十兵衛が虹七郎を評した言葉の裏返しであります)相手に対して、自分が出るかと言い出す自信が恐ろしい。前回見せた銅伯の能力は、なるほど剣士相手には非常に強力、裏を返せば剣士にしてみれば最悪の能力ですが――

 そして幕府にいる味方(になるかも知れぬ者)として天海僧正の名を挙げる銅伯。髪の色を除けば瓜二つの二人は、やはり双子。ですが、生まれたときから好対照で、かたや銅伯は狼の鳴き声のごとき泣き声、かたや天海は法華経を唱えるかのような泣き声と、板垣恵介チックなエピソードを持っていたとか。そんな二人の反りが合うはずもなく、銅伯は兵法の鬼に、天海は仏法の僕になり、完全に道を違えたはずですが…ここで銅伯は天海を己が意に従わせる切り札として、自分が死ねば天海もまた死ぬと語りますが――

 それはさておき(おくな)、やっぱり今回一番印象に残ったのはおゆらさん。事が終わった後のおゆらさんの表情が異常に可愛らしいうえに妖しいことこの上なくて、絵に描いたような山風流妖女・悪女ぶりに感動いたしました。どれくらい凄いかというと、薬師寺天膳ならば一発で罠にはまってまた死んじゃうくらい。
 せがわ先生の画力の凄さは承知していたはずですが、いやはや失礼ながらまだまだ甘く見ていたようです。

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2007.02.19

3月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュール

 東京では初雪もないうちにもう二月も半ば。春の足音も聞こえてきました…というわけで三月の伝奇時代アイテム発売スケジュールです。

 書籍については、小説では目に付くのは戦国サスペンスの「落ちた花は西へ奔れ」文庫化と、久しぶりすぎてちょっとびっくりの「陰陽ノ京」第五巻の発売が目に付くくらいでちょっと寂しいのですが、漫画の方はかなりの充実度です。

 遂に宿命の対決開始の「シグルイ」第八巻、ニュータイプ真田十勇士伝奇「BRAVE10」第一巻、中島かずき原作の「闇鍵師」も久々登場で第三巻、原作者も先行きが読めない「武死道」も第三巻発売です。…あ、第三巻と言えば、二月の新刊予告にも載っていた「BEAST of EAST」が何故か三月の新刊予告にも。
 また、「るろうに剣心」「カムイ外伝」の愛蔵版についても、順調に巻を重ねています(カムイはこれで完結かな)。
 も一つ、「シグルイ」と同日には「ジャイアントロボ 地球の燃え尽きる日」第一巻も発売。一見時代劇に全く関係がないようですが、横山光輝キャラ総出演の本作、とりあえず第一巻の範囲だけでも「伊賀の影丸」の影丸に村雨兄弟、「闇の土鬼」の無明斎が登場するので関係大アリなのです。

 一方映像作品の方では、白土三平の「サスケ」のComplete BOXが発売、「変身忍者嵐」も最終巻の第四巻が発売されます。しかし個人的に一番気になるのは、実相寺昭雄監督の実質遺作たる変態大正浪漫「シルバー假面」だったり…
 また、CDの方では、これまでイーオシバイでのみ発売だった岡崎司の劇団☆新感線ミュージックのベスト版ライブ版が一般発売されるようです。どちらも持っていますが、なかなか手に入りにくい音源ばかりなだけにおすすめです。

 あと、サントラDVD第二巻が発売される「天保異聞 妖奇士」については、後の祭りかも知れませんが買っていただけると私も嬉しいです…面白いんですよ? 一般受けしないけど。


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 今週の天保異聞 妖奇士

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2007.02.18

「天保異聞 妖奇士」 説十九「三人往壓」

 元閥らが町で見聞してきたもう一人の竜導往壓の存在。さらに往壓を名乗る少年が食い逃げ事件を起こす。その少年の持つ脇差が妖夷と化したことを知った往壓らは調査を開始。往壓はかつてその脇差と共に異界に飲まれ、一年の後に帰還、その後、元服の日に家を捨てたのだった。その後に竜導家の養子となり往壓の名を継いだ男から、その名と脇差をもらった少年――土方歳三と対峙した往壓は妖夷の名「金士」を知るが、取り逃してしまう。往壓は事件の根元を求めて、二十五年ぶりに実家に戻るが…

 今回は感想・紹介簡略版。
 えらく重たいエピソードだったアビ編の次は、再度の往壓編。今回は物語の発端とも言える、往壓の異界の往還の有様と、往壓が実家を捨てた理由が語られることとなります。
 というとまた重苦しい話となりそうですが、往壓の周囲のキャラクター描写が生き生きと描かれているため、そちらの楽しさでうまく中和されていたかと思います。

 前回の妖夷の肉の干物を作っているアビ(って、仮にも自分の義兄を…しかも自分の神火でちょっと焦げたから干物にするというブラックなことをさらりと)、往壓が食い逃げを働いたと勘違いして怒りの銭投げ攻撃を見せたり、相変わらず江戸上空を円盤雲七で飛び回るアトルに頭を抱える小笠原様、往壓の過去に興味を抱いたか、羽織に火のしをかけてやったりと何くれと世話を焼く(そしてアビとえどげんに微笑ましい顔をされる)宰蔵…いずれもこれまでの物語の積み重ねから生じた描写であり、コミカルな味付けもあって、キャラクターものとして見ても楽しい回でありました。

 一方、今回のゲストキャラである二人往壓ですが、養子往壓は出番も少なく声も本物往壓と同じため、まだ何とも言い難いものがありますが、少年往壓は色々とインパクト大。声を当てているのは大御所・野沢雅子(ここは孫悟空の、というよりやはり鬼太郎の、と言うべきでしょうか)でまず驚かされましたが、その正体は侍に強く憧れる少年時代の土方歳三だというのですから…
 果たして何故ここで土方が登場したのか、おそらく次回その意味というものがわかるのだと思いますが、現時点でわかるのは少年往壓が――いや、三人往壓全員が、やはり「ここではないどこか」≒「今の自分ではない自分」を求めているということ。本物往壓は言うに及ばず、養子往壓は、「竜導往壓」でもなく、武士でもない自分を、少年往壓は平民ではなく武士である自分を…
 ここまで来ると本当に往壓の名には呪いでもかかってるんじゃないか、という気にもなりますが、いずれにせよ要となっているのは往壓の漢神と同じ形をした妖夷の存在。脇差を異界から持ち帰ったことによるのか、養子往壓の心が招いたか、それとも…この番組の流れからすると往壓の母が怪しい気もしますが、いずれにせよ真実は次回わかることでしょう。
 次回は鳥居様も関わってくるようですし(鳥居様の実家=林家のラインから出てくるのかな)、久々に駁竜も登場するので、さてどうなることやら――


「天保異聞 妖奇士」第一巻(アニプレックス DVDソフト) 通常版 限定版

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 今週の天保異聞 妖奇士

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「明楽と孫蔵」(再録)

 時は幕末。京の倒幕勢力は、幕府の権威を失墜させ世を混乱させるために、江戸に次々と邪悪な怪剣士たちを送り込んだ。餓狼・狂犬の如きその一党に苦しめられる無辜の人々…だがここに、彼らを救うために立ち上がった男がいた。彼こそは公儀御庭番・明楽伊織。忠僕にして鎖分銅遣いの老忍者孫蔵と共に、伊織の一刀が悪を断つ!

 時代劇版「北斗の拳」と評する人もいる本作、確かに登場する悪役は、世が世なら、バイクに乗って、ビョウのついた服きてヒャハハハハって笑いあってるのがふさわしいような連中。そんなバイオレンスな連中を、それ以上の力をもって叩きつぶす主人公・伊織の活躍は、確かにバイオレンスアクションものの常道と言えば常道と言えるかもしれません。

 しかし、この作品を単なるバイオレンス活劇ではなく、時代もの(幕末もの)として成り立たせ、かつ、清々しい読後感を与えているのは、以下の台詞に示される主人公の――そして作者の――姿勢でしょう。
「ものごとは移り変わる…それは確かにあるさ。だがな! 歴史なんて単なる“字”じゃねえか!(中略)おいら歴史とかぬかして町人どもを踏みつけにする連中は…やっぱ……許せねえよ!」
一見、ごく普通のヒーロー発言のようですが、しかしこの作品の舞台背景となる時代を考えれば、字面から感じ取れる以上の重みが生まれるように思います。

 と、中途半端に理屈をこねまわすまでもなく、時代アクションものとして超一流のこの作品。登場する悪役、そして伊織たちが直面する状況のバリエーションも多く、全十二巻という長編ながら、全く飽きさせません。
 終盤、伊織たちに仲間が増えたりして作品の雰囲気が変わったり(孫蔵とたった二人で絶望的なシチュエーションに挑むパターンがほとんどだったもので)、ラストの展開が駆け足でいささか食い足りなかったりという点はあるものの、それが全体の評価を下げるものではないでしょう。
 特に、宿場町一つを占領して要塞化し幕軍さえも退けた敵に対し、伊織と孫蔵がたった二人で死闘を繰り広げる烈風隊編は、意外に珍しい時代劇版ダイ・ハードとして珍重すべきエピソードだと思います。再版を大いに希望します。


「明楽と孫蔵」(森田信吾 双葉社アクションコミックス) Amazon

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今日の小ネタ 伊賀対甲賀勃発

今日の小ネタ。ほとんど言いがかりに等しいお話です。
伊賀と甲賀の市長が手裏剣対決
「伊賀市が甲賀市に“果たし状”を出し実現した」
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 十対十!十対十!
 ⊂彡

ちなみに
伊賀市長
甲賀市長

 それにしてもこの二つの市、数日前はこんなに友好ムードだったのに…
 ちなみにこの悲劇の引き金となった「伊賀上野NINJAフェスタ」はこんなイベントです。見ているだけで鼻血が出そうなイベントですが、誰かレポートしてくれる勇者はいないものか。

 ちなみに伊賀市は三年前に近隣の六つの市町村が合併して誕生したのですが、名張市だけは合併を拒否して寄り合いから抜けたという話を聞いて、勝手に白土チックな光景を思い浮かべて興奮した私。

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2007.02.17

「SAMON 柳生非情剣」 美しき死人の生きざま

 「コミックマスターJ」「アクメツ」など、常に刺激的なエンターテイメントを発表してきた田畑由秋・余湖祐輝コンビが、あの隆慶一郎作品、それも「柳生非情剣」のうち「柳枝の剣」を漫画化するというのは、私にとって青天の霹靂にも等しい報でした。
 時代漫画経験はないはずの作者が、果たしてあの原作をどのように漫画化するのか。当然ただの漫画化ではあるまいと思っていましたが、誕生した作品を読んでみれば、原作の精神を巧みに換骨奪胎した、実に「美しい」作品でありました。

 原作未読の方のために簡単に説明すれば、この漫画版のタイトル「SAMON」というのは柳生宗矩の第二子・左門友矩(柳生刑部)のこと。友矩はその美貌で知られ、男色家であった将軍家光の寵愛を受けながら、若くして不慮の死を遂げた人物であります。一説では兄・十兵衛三厳に勝るとも劣らぬ剣の腕を持っていたと言われ、その突然の死とも相まって、しばしば伝奇時代小説の題材となって来ました(ここでは多くを挙げませんが、例えば菊地秀行先生の伝奇時代小説ではほとんど常連として登場しています)。

 原作「柳枝の剣」は、その友矩の少年時代から二十七歳で命を落とすまでを、兄・十兵衛との相克や家光との愛を絡めて描いた作品。タイトルは、打たれても打たれても決して折れることなく、かえって跳ね返って相手を打つ、そんな柳の枝の如き友矩の剣――そしてそれは友矩自身の生きざまでもあるのですが――を指しますが、さてその原作をこの「SAMON」ではどのように描いたか。

 一言で言えば、本作で試みられているのは視点の逆転。原作では友矩視点であった物語を、本作ではほぼ一貫して家光視点から描いているのです。
 己の存在自体に強いコンプレックスを抱き、それ故に自らの死を極端に懼れる家光。そんな心中を見透かしたように不遜に振る舞う十兵衛を罷免した彼は、新たに稽古役として現れた左門を狂ったように打ち据えます。しかし、平然と打たれるがままの左門に恐れと疑念を抱いた家光は、左門からその真意を聞かされて…
 この先の展開は本作のキモですので伏せますが、原作の内容・魅力を巧みに取り込み残しつつも、上記の視点の逆転を活かして、より大きな感動を生むことに成功していると感じました。

 隆慶一郎の作品に通底するモチーフの一つとして「死人」への憧れ・賛美があることは、ファンの方であれば良くご存知かと思います。
 ここで言う「死人」とはもちろん実際に死んだ人間でもゾンビでもなく、死と常に相対し、己自身と共に当然にあるものと思い定めた――言い換えれば己の意志で生死を乗り越えた――人間のことを指しますが、原作の、本作の左門もまた紛れもなく「死人」の一人。

 しかし――左門に限らず、この隆慶流「死人」の概念は、あまりにも覚悟完了しすぎていて、現代人から見ると強烈な違和感を感じてしまうことがなきにしもあらずなのです。そこを本作では彼に対する者として死を強く懼れるいわば常人の家光を配置し、その家光の目を通して描くことにより、左門の「死人」としての「生きざま」という一種矛盾した概念の放つ美しさを、より鮮烈に見せると同時に、現代に生きる我々にもストレートに伝わるものとして描き上げているのです。

 そこに隆慶一郎という巨人に対する本作の作者たちの姿を重ねてみるのは失礼に過ぎるかもしれませんが、本作に篭められた原作への、原作者への愛は、そのまま左門に対する家光の眼差しに重なるものをやはり感じたことです。

 なお、実はこの「SAMON」は原作のほぼ前半部分までを漫画化しており、友矩と家光の愛と別れを描いた後半部分はオミットされているのですが、常人の目を通して「死人」の「生きざま」を描くという本作の狙いからすれば、この形態でまず問題はないと思います。

 もう一つ付け加えれば、ストーリー構成のみならず、本作のビジュアル面もまた見事の一言。原作そのままのイメージで描き上げた左門、そして十兵衛(特に十兵衛は、奔放不羈な隆慶十兵衛のイメージそのまま!)は言うに及ばず、本作のもう一人の主人公たる家光の、刻一刻と変わっていく表情が実に印象的でした。
 私の記憶では作画の余湖氏は時代ものを描くのは初めてではないかと思うのですが、そんなことを全く感じさせぬ達者な画には、感心させられましたし、何よりもこの他の隆慶一郎作品を漫画化したものも読んでみたいと強く感じた次第です。


「SAMON 柳生非情剣」(余湖裕輝&田畑由秋&隆慶一郎 「コミックバンチ」2007年第12号掲載)

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「鬼神新選 京都篇」(再録)

 戊辰戦争を生き延びた永倉新八は、松前藩帰参と引き換えに、岩倉具視から近藤勇の首級捜索を依頼される。松前藩の少女忍者・篝炎と共に京に向かった新八だが、そこで彼を待ち受けていたのは、生きていた土方歳三、妖術を操る異国の妖尼、安倍晴明の名を継ぐ幼女、女人の肉を喰らう巨大な鬼――いずれもこの世のものならぬ出来事の数々だった。旧友・原田左之助と再会した新八は、ついに近藤の首級の在処を知るが、そこで彼が目にしたのは、おぞましくも恐ろしい魔人たちの姿だった…

 本日読了。挿絵があまりにマンガマンガしていて(実際巻末にはおまけ漫画が)敬遠していたのですが、大失敗。面白いです。いつになったら私は外見だけで物事を判断することを止められるのでしょう。と反省してしまうほど活きのよく力の入った伝奇活劇でした。

 身も蓋もない表現をしてしまえば、幕末・明治版「魔界転生」なわけですが、一気呵成に展開される剣術妖術入り乱れての死闘に怪人魔人の跳梁(“鬼”の正体は全く予想できませんでした。こりゃ一本取られました。新選組ファンは激怒しそうですが…)と、そんなつまらぬツッコミはあっという間に頭から消え失せました。

 何よりも、復活した新選組の魔人たちの圧倒的な力と、そのかつての仲間たちに一人戦いを挑む永倉新八というシチュエーションはやはり非常に熱いものがあります。強大すぎる敵に、一人傷だらけになりながらも命懸けの戦いを挑む主人公というのは、王道ではありますが、それだけにハマればこれ以上面白いものはありません。

 この先、江戸篇、函館篇と構想されているようですが、これから先の展開――同じ新選組ながら、死から怨念をもって甦った魔人たちと、幕末の世を生き残ってしまった新八の生き様の対比もあるのでしょう――が楽しみでなりません。


「鬼神新選 京都篇」(出海まこと メディアワークス電撃文庫) Amazon bk1

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2007.02.16

「夕立太平記」 一歩も二歩も進んだ宮本立川文庫

 青春小説的空気を湛えた、爽やかで、読む者の胸を熱くさせる時代活劇を書かせれば当代屈指の達人である作者が、立川文庫をベースとして描いた本作、いつものことながら気持ちの良い男たちの姿を描いた、痛快な味わいの作品です。

 主人公・勘五郎は、甲斐の山奥で父と二人暮らす野生児。が、ある日、父が何者かに無惨に殺され、勘五郎は仇である左手首のない侍を求めて江戸に旅立ちます。その途中、人々を悩ませていた駻馬・夕立を懲らしたことで、「夕立勘五郎」の勇名を馳せることとなった勘五郎は、松江藩主・松平治郷(後の不昧公)と知己を得、身分を超えた友誼を結びます。
 折しも、松平一門の江戸屋敷ばかりを狙う怪盗・松平小僧が出没。治郷から屋敷の警護を依頼された勘五郎は、それがきっかけで、松江藩を巡る暗闘の渦中に巻き込まれます。一方、勘五郎の仇である剣鬼・大河原源三郎も、数奇な運命の果てに、松江藩壊滅を図る一党に加わり、勘五郎と対峙することになって…

 というあらすじの本作、かの柴錬立川文庫に倣って宮本立川文庫とも言うべきもので、立川文庫の「夕立勘五郎」を下敷きにしているとのことですが…恥ずかしながら、原典の内容を知らない私。が、それでも全く問題なく、楽しむことができました。

 仇討ちに御家騒動が絡み、因果因縁が網の目のように張り巡らされ、善男善女が苦心惨憺した末に、悪は滅んで正義が栄えるという展開は、これはもう立川文庫の定番パターンではありますが、しかし本作はその流れに乗りつつも、きっちりと現代の小説としての――さらに言えば宮本昌孝の作品としての――魅力、味わいといったものをきっちりと備えているのは言うまでもない話。
 例えば人物造形。善人はどこまでも善人で、悪人はどこまでも悪人というステロタイプは立川文庫をはじめとして講談にはしばしば…というよりほとんどの場合に見られることではありますが、本作の登場人物たちは、一人一人がそれぞれに過去を背い、それに基づいた行動原理を持っている、早い話がキャラが生き生きと立っているのです。

 そんなキャラが立った登場人物の最たるものが、勘五郎の宿敵である大河原源三郎でしょう。冷酷無惨でひたすら憎むべき悪の権化のような源三郎ですが、しかし、剣魔剣狂であるはずの彼にも、悲しまれるべき過去と、そして一片の人間性とが隠されておりました。もちろんそれで過去の罪悪が赦されるわけではなく、また本人が悪党であることは変わらないのですが、しかし、彼が単なる書き割りでも木偶人形でもないということが、それだけ物語の奥行きを深める、生きたものとしていることは間違いありません。

 もっとも――その脇を固めるキャラクターたちの豊かさが仇となって、勘五郎のキャラクターの存在感が薄れてしまったきらいはあります。また、ヒロインが相当に没個性ではあるのですが、こちらは主人公の妹という反則めいたキャラ立てがあるのでそれはそれで良いのかもしれません。

 そんな弱点もなきにしもあらずですが、総じて時代小説としてみた場合に水準以上の作品である本作。一見単純な御家騒動ものに見えたストーリーも、一ひねり二ひねりの意外性があり、この点においても、従来の講談から一歩も二歩も進んだ作品となっていると言えるでしょう。
 そして何よりも、宮本作品ならではの嫌みのない爽やかさが全編に流れていて、気持ちよく最後まで読むことができました。 
 そんな魅力ある宮本立川文庫がこれ一作というのはいかにももったいない。是非、第二弾第三弾を読んでみたいものです。


「夕立太平記」(宮本昌孝 講談社文庫) Amazon bk1

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2007.02.15

「異の葉狩り」 夢と現が交差するホテルで

 朝松伝奇時代劇の中でも、極めて特異な位置を占めているのがこの「異の葉狩り」。ホラーアンソロジー異形コレクションの「夏のグランドホテル」に収録された一編ですが…グランドホテル?

 本作の舞台となるのは、ある夜に催された交霊会の席。ひどく陰鬱で、昏くおぞましい空気の漂うその場に居合わせたのは、語り手「私」と、その主君たる「殿」、そして「上人」と、霊媒たる「眠り目殿」の四人…いやもう一人、歳の頃は二十五六の快活な青年僧でありました。
 と、交霊の儀式がうまくいかず小休止となったとき、「私」が青年僧の勧めるままに提案したのは、「異の葉狩り」なるゲーム。各人が一つ、己の「忌み言葉」を決めた上で、「菟玖波集」に収められたある人物の和歌を交互に挙げ、自分の「忌み言葉」の入った歌が詠まれたものが、輪から抜けていくという趣向の、なかなか風流かつミステリアスなゲームです。

 そして開始される「異の葉狩り」ですが、ゲームが進むうちに場の空気はいよいよもって変容し、そしてゲームの脱落者もまた、奇怪にゆがみ変容していくこととなります。
 ここから先の物語で展開されるのはひたすらの地獄絵図。現実が徐々に変容し、待ち受ける破滅にむけてひた走っていくのを描くのは作者の得意とするところですが、本作においては、ゲームの進行と軌を一にして徐々に不穏な空気が高まっていき、この世のものならぬ惨劇につながっていく様がサスペンスフルに描かれています。

 が、本作が収められたのは「夏のグランドホテル」。いわゆるグランドホテル形式の名の通り、一つのホテルを舞台に、様々な人間模様が描かれるという趣向の一冊なのですが――しかし物語の舞台となるのは、現代ではありえない時と場所。さてこれは一体…
 この謎が、交霊会のそもそもの目的が、そして青年僧の正体が一気に明かされるラストは、ある意味反則気味ではありますが、時空に見事に風穴を開け、魔境を描き出してみせた作者の業にはただ感心です。
 ぼかされている部分もあり、きっちりした物語がお好みの方は不満な点もあるかもしれませんが、この夢と現が交差した瞬間の夢魔めいた空気感は、それを補って余りあるものがあると思うのです。


「異の葉狩り」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 夏のグランドホテル」所収) Amazon bk1

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2007.02.14

「天保異聞 妖奇士」 説十八「漂泊者の楽園」

 漢神のないニナイに驚く往壓らの前から、ニナイと妖夷・於偶は姿を消す。一方、小笠原らの働きで山崎屋による鳥居襲撃は失敗。小笠原に捕らえられた米吉は、山崎屋で飼われていた妖夷・涙孥が、ニナイと於偶の間の子と語る。ニナイは、自ら於偶を喚び出して異界に消え、後に涙孥を現世に産み落としたのだ。その涙孥を求めて小笠原邸を襲撃する山崎屋の用心棒たち。混乱の中で山崎屋は於偶に殺され、異界の鬼と化したニナイと於偶も、アビの神火に焼かれるのだった。そしてアビはその場に現れた山の民たちに涙孥を託し、自らは街に残ることを選択するのだった。


○鳥居襲撃にあたり、山崎屋の配置を予測する狂斎。相変わらずの名探偵ぶりですが、無神経な言動も相変わらず。アトルは山の民への同情を口にしますが、「山の民も機の民も、たまたまそこに生まれて、ただ生きるのに必死なだけだ」というマスラオの言葉はいきなり結論のような気がします。

○宰蔵のからくり大活躍。不思議な蝶のようなものを操り、強烈な光を放って妖夷を消すようですが。そこに乱入してくる鳥居様。口上がノリノリです。そして奇士一行の前に現れたソテさんは、妖夷・涙孥が人間と妖夷の間の子と衝撃発言。さらに自分も生んだことがあると衝撃発言その二を。日光編の描写であるいは…と思いましたが、改めて言われるとインパクトがあります

○涙孥がニナイと妖夷の間の子と言われて声を荒げるアビ。そりゃあ、このナマコチックなのが自分の甥っ子(姪っ子?)と言われれば…そしてテレホマン妖夷/´Д`;:::\は義理のお兄さん。そして前回に引き続き、米吉らとアビの過去の物語が。自棄になってアビに襲いかかる米吉ら逃散農民を見たニナイは、妖夷を呼び出して農民たちを殺し、妖夷と共に異界に去っていきます。なるほど、米吉の仲間がどうなったのか、前回微妙にぼかされていましたが、こういうことでしたか。

○往壓が漢神を調べ、小笠原様が解説するというのはナイスコンビ。於偶の名は人に似せて作った人形の意と小笠原様は語りますが…つまりはニナイが妖夷を作った? どうせならもう少し格好良いのを作ればいいのに、私の脳内でニナイ姉さん絵心なかった説浮上。そしてその於偶は、涙孥が傷つけられると出現するということで「食べるだけなら平気ですから、いっそ飼いますか」と不謹慎発言をして小笠原様に睨まれるえどげん。しかし、傷つけるのはダメで食べるのはOKというのはよく考えれば不思議な話であります

○涙孥を求めて小笠原邸を襲う山崎屋の用心棒たち。物騒な得物を持っているとはいえ結局は山の民ワナビー、実戦経験では当代一の奇士たちには敵うべくもありませんが、小笠原様は彼らを斬りつつ、自分はこのような境涯の者たちをこそ救おうとしていたのではないのかと自問自答。お頭らしいっちゃあらしい。

○そんな中、用心棒別働隊の働きで米吉は涙孥ともども逃走。それを待ちかまえていた山崎屋ですが、米吉は涙孥引き渡しを拒否します。そこにアビも追いついて混乱はピークに。アビは、山の民は国津神の末裔などではない、俘囚(!)の末裔だと説得しようとしますが、自分が特別な存在だと思いこみたい山崎屋は聞く耳持たず。文字が刻まれた甲骨(前々回に登場)を持ち出し、これはニナイの真の名が記されていると言い出します。

○涙孥を奪った山崎屋は古事記の一節を口にしつつ、黄泉戸喫よろしくまるかじりといきますが…。黄泉戸喫は、大雑把に言えば黄泉の国のものを食べた者はそちらの住人になってしまうというものですが、黄泉の国=異界=神の国という連想が働いて、神様のもの食べてる自分も神様、という風に考えたのでしょうが…食べ方が悪かったのか、出現した於偶にぬっ殺されます。

○於偶の腹の異界に引きずり込まれた先でアビを待っていたのはニナイ。「山で一番強かったお前と、私は一緒になりたかった」などとさりげなく大変なことを言いつつ、アビも異界の住人になれと勧めます。ここで判明した異界のルールは以下の二つ。
・異界に住むには、妖夷と結ばれなくてはならない
・妖夷は異界に留まれない
…異界に住むために、異界に留まれない妖夷と結ばれなくてはならないというのはどうなんだろうか。そもそも、妖夷は異界の存在ではない?

○厭な感じで誘われるアビを助けに異界に乗り込んできたのは往壓。異界恐怖症はいつの間に克服したのか…というのはさておき、山崎屋が持っていた甲骨の中からニナイの漢神「異」を取り出します。「異」とは鬼の顔をした者が両手を挙げている姿。「この世で懸命に生きる人間を迷わす、それが鬼ってんだ!」とカッコイイ啖呵を切って漢神を叩きつけますが、昔迷いまくっていたのが嘘のようです。いや、迷いまくったからこそそれを煽る奴が許せないのか

○そして「神火」をまとったアビは異界から飛び出して於偶を粉砕。アビの対妖夷戦初勝利(豊川狐の駕籠はカウント外)は、義理の兄というのが何とも。そしてニナイは共に滅んだのか、はたまた異界に残ったのか…

○混乱の中、涙孥を持ち逃げした米吉と仲間たちを待っていたのは南町奉行所の弓隊の一斉射撃。結局山の民にはなれず、無惨に屍を晒した米吉たちを見下ろすのは、本物の山の民…彼らに涙孥と、米吉の武器を形見として託し、アビは奇士として残ることを選びます。涙孥を指したアビの言葉「あれは…ニナイがこの世にかけた呪いだ」が強く印象に残ります。

○俺はもう山の民でも何でもないと語るアビに「お前は山の民さ。例え古き民が一人残らず消えても、お前だけは本当の山の民さ」と答える往壓。この世の軛の外で彷徨い続ける者が古き民だとしたら、その古き民からも外れて流離うアビこそが真の山の民、とでも言ったらよいのでしょうか。名優二人ならではの、重く味わい深い結末でありました。


 何だかもう自分でもうんざりするくらい長くなってしまった今回の紹介ですが、こうしてみると情報量が本当に多いですね。そんな今回の内容を無理矢理一言で表せば――みんな言っていることなので自分も言うのは癪ですが――「隣りの芝は青い」ということになりましょうか。山崎屋、米吉、ニナイそれぞれが別々の方向を見つつ、それぞれの「ここではないどこか」を求めるという想いが、異界の存在により狂わされていく様が(その意味ではニナイもまた「異界の鬼」に狂わされた者ではあります)、重く切なく印象に残ります。
 月並みな考えではありますし、無責任でもありますが、結局は「いまいるここ」を受け容れて、より良く生きていくことしかないのかもしれません。それが永遠に彷徨い流離い続けることであっても。

 一方、ネタ的に色々と心配だった山の民ネタは、アビの「俘囚」の一言でとりあえず解決(?)。俘囚については、こちらのブログで大変わかりやすく解説されていますが、山の民(山の者、サンカetc.)同様、「これ」という結論づけることはやはり難しい存在ではあります。今回のエピソードでは、その辺りを「真実どうであるか」と同時に「それをどう考えるか」という視点から捉えていて、その二つの視点の相違が悲劇を生んだと言えるかもしれません。

 また、今回、妖しい魅力でニナイを演じられた東山麻美さんは、本作とメインライターが同じ「轟轟戦隊ボウケンジャー」に俳優として出演されていました。異世界の妖魔の女性で人間の男性と禁断の恋に落ちて一子を残すという、ニナイとはある意味正反対の設定だったのがちょっと面白いですね。そちらでは子供はイケメンヒーローでしたが…

 そして次回、往壓の名を持つ者が三人登場。しかもそのうちの一人は少年時代の土方歳三…!? もうこうなったら後のことは考えずにロケットでつきぬけて欲しいですね。最後まで見届けます。


「天保異聞 妖奇士」第一巻(アニプレックス DVDソフト) 通常版 限定版

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2007.02.13

「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程

 「しゃばけ」シリーズ第五弾は、久々の長編。湯治のために江戸を離れた若だんな・一太郎が、箱根の地で思わぬ事件に巻き込まれて大騒動となります。

 地震が頻発する中、湯治と避難をかねて箱根に出かけることになった若だんな。お供は仁吉と佐助の兄やんズに腹違いの兄・松之助、あと鳴家三匹で、賑やかながら平和な度になるかと思いきや、旅に出るなり兄やんズが行方不明という異常事態――二人の若だんなへの忠義と、その真の力から考えれば、これは紛れもない異常事態でしょう――が発生します。
 二人と三匹になってしまった道行きですが、そこにさらに襲いかかるピンチの数々。若だんなを狙う正体不明の武士たちに天狗の群。挙げ句の果ては箱根周辺の住人たちまでもが若だんなを追いかけ回すことに。若だんながモテモテなのは今に始まったことではないですが、ちょっと今回は度を超しております。
 が、その中で一人、若だんなを毛嫌いする謎の少女が登場。この少女こそは本作の真・ヒロイン、お比女ちゃんであります。なりは幼いけれども実は彼女、悲しい過去を持つ姫神さまで…

 あまりネタばらしすると興を削ぐので、あまり詳細には書きませんが、何故彼女が若だんなを毛嫌いするか、その理由こそが、一連の大騒動の原因であり、そして本作のテーマにつながってきます。
 中身を知ればその理由、なあんだと拍子抜けするかもしれませんが、当人にしてみれば大問題と言ってよいでしょう。どれほど恵まれた暮らしを送っても、どうしても見つからないもの。自分が恵まれていると自覚しているだけに、そんな悩みを持っていること自体に罪悪感を感じてしまって、さらに気は重く…一緒にするなと言われそうですが、個人的にそういう類の悩みを抱えたことがあるだけに、比女の悩み・辛さには十分共感できます。

 悩みというものは決して絶対的な尺度で量れるものではなく、人それぞれに軽重があるもの。他人からは贅沢な悩みのように思えても、当人にとってみれば本当に辛いものであるかもしれない。
 心優しいだけでなく、比女とはどこか似たもの同士である若だんなが、彼女のそんな悩みを理解して、その心を開き、力になろうとする姿が、なんとも微笑ましく、かつ頼もしく思えました。

 そしてまた、若だんなや比女に限らず、誰もが悩みや望みを持ち、それぞれの形でその想いの重さに惑う姿が、本作では時にユーモラスに、時に大まじめに描かれていくこととなります。そのそれぞれの想いが重なって、一つのクライマックスを迎えるわけですが…
 そこで比女が見せた行動は、全てを解決する唯一絶対の解答ではないものの、一生をかけて訪ね求めていく長い道のりへの、その第一歩として、大いに尊重されるべきものでしょう。

 久しぶりの長編、そして舞台が舞台ということで、これまでの作品に比べて違和感を抱く方もいるかもしれませんが、しかし、このシリーズらしい、賑やかで楽しい外見の中の苦い現実と、それに対する優しい眼差しは、本作でも健在と自信を持って言えます。

 まだまだ若だんながうそうそと訪ね求める道のりも長く険しいものかと思いますが、それでも若だんなが、そして登場人物・妖物みんなが、どんな風にこの先歩んでいくのか、これからも見つめていきたいと思います。

 それにしても…やっぱりお似合いだと思うんだがなあ。
 上で紹介しそびれましたが、おそらく本作での好感度ナンバーワンの大人キャラ・雲助の新龍さんともども、比女ちゃんにも再登場していただきたいものです。


「うそうそ」(畠中恵 新潮社) Amazon bk1


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2007.02.12

今日の小ネタ 復活二題

 今日は小ネタで失礼しますよ。微妙に出遅れた復活二題。
ONI零復活
 プレイステーションで発売された「ONI零~復活~」から約六年、エンディングで続編を予告しながら(カルチャーブレーンみたいね)諸般の事情で幻と消えていた「ONI零」がゲーム化とのこと。まだ内容やプラットフォームは未定であり、そもそも「復活」の続編となるかもわかりませんが、これは実にめでたいお話であります。
 正式発表はもう少し先のようですが、飯島ファンのはしくれとして、これからも注目していきたいと思います。
 とりあえず前作をもう一回プレイして紹介記事書くかな…


必殺仕事人復活
 スペシャルドラマで中村主水の「必殺仕事人」が復活、というお話。記事にあるとおり、ジャニーズと大々的に手を組むようで、ゲスト仕事人(?)三人はいずれもジャニーズから。ジャニーズかよ…とか、「主水死す」の立場は? とか色々と複雑な向きもあるかと思いますが、マニアには評判悪いとはいえファミリー路線も必殺の流れの一つとしてありましたし、シリーズ通しての時代設定などの整合性も正直ナニなので、ここは素直に楽しみたいと思います。
 ジャニーズって時代劇に若手を結構送り込んでくれるから、その意味ではありがたいです。しかし今回、四十代・三十代・二十代と三つの年代層に目配りしてあって、この辺はさすがだなあ。

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「幽冥の刺客鬼門 屍蝋変幻」(再録)

 大利根河原の血闘を終えて江戸に帰った鬼門を待っていたのは、寛永寺から前将軍家斉の木乃伊が盗まれたとの報だった。寛永寺の墓守であり、そして家斉の隠し子とも言われる鬼門は、早速木乃伊の行方を追うが、彼の前は幾多の怪人物、怪事件が待ち受けていた…。

 無事二巻目が書き下ろしで発表された鬼門シリーズ。大衆時代小説の王道を行きながらも、どこか奇妙ないびつさがアクセントとなっている加野厚志の文体・ストーリー運びはここでも健在です。
 今回は木乃伊の行方探し・犯人探しという一種のディテクティブ・ストーリーなわけですが、作中にちりばめられたミスリードさせる仕掛けに主人公の鬼門がことごとく引っかかるという展開。加野作品は主人公の主観と地の文がほとんど一体となって描写されることが多いことも相まって、読んでいるこちらの側も鬼門と一緒に振り回されまくりです。ハードボイルドを気取る割には周囲に騙されまくる鬼門(まあ、ハードボイルドの主人公も騙されやすいような気もしますが)に、むしろ萌えに近いものを感じました。

 ラストはほとんど反則技で犯人を突き止め一騎打ちとなるわけですが、しかしその犯人も捨て台詞的にとんでもない言葉を残して絶命。果たして続きがどうなるのか、楽しみでしょうがありません。いや、ホントに。


「幽冥の刺客鬼門 屍蝋変幻」(加野厚志 学研M文庫) Amazon bk1

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2007.02.11

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 自決ショーと新しい地獄

 前回は久々に登場した般若侠十兵衛が芦名衆三人相手に大立ち回りしたところで終わった「Y十M 柳生忍法帖」、今回は一人生き残った如月左衛門似の芦名衆が皆のところにたどり着いたシーンから。慌てて皆がらの持ち場に行ってみれば、そこに残されたのは「蛇ノ目は三つ」の短冊付きの包み一つ…言わずと知れた廉助の生首であります。

 さて、般若侠が「俺で曲者八人目」と申告したのが功を奏し、七つの駕籠は、その中身を見せることなく国境を通過に成功。してやったりの沢庵和尚ですが、そこに銅伯が意外な行動を…
 無礼なことをした自分の罪は万死に値すると存ずる、などと言いつつ、銅伯は刀を抜いて己の左胸にずぶり。種も仕掛けもございません、正真正銘の真剣を心臓に突き立てて――それも鍔元までしっかりと押し込んで。普通の人間であれば致命傷間違いなしのはずが、ちょっと痛いかな、程度の表情で平然としているのには、さすがの沢庵も驚きを隠せません。
 そりゃあそうでしょう、始めるか俺の自決ショー、とばかりにいきなり自分の胸に刀を突き刺すだけでも驚くのに、そのまま平然と話しかけてこられたら…
 こんなアブナイ奴にこれ以上関わってはおれぬと去っていく沢庵を見送りつつ、「不死身の化け物を相手にしておるということを…腹の底から思い知らせてやるためよ」と自分の行動の理由を語る銅伯。これァ確かに今までの敵とはまったく格が違います。沢庵は相撲に勝って勝負に負けた、というところでしょうか。

 それにしても山風忍法帖で不死身というと、「バジリスク」(甲賀忍法帖)のドジっ子天ちゃんこと薬師寺天膳が浮かびますが、あちらは心臓を刺されたら死ぬ(活動停止する)のに対し、銅伯の方は平気の平座なのが違うところでしょうか。何よりも、油断とか慢心とは無縁そうだしなあ。
 何にしても刀が通じないというのは十兵衛にとって相性は最悪と言うべきですが…

 さて、場面は変わって会津城内。ようやく文字通り自分の城に帰ってきた明成を待ち受けていたのは…大広間の壁一面を覆う、女性女性、全裸の女性。しかも二段三段と段を組んで、本当に壁一面の肉の壁です。…よく考えついたなこんなもん。
 江戸の加藤屋敷が花地獄ならば、こちらは雪地獄。そしてこれをプロデュースしたのはなんとおゆらさん、というところで次回に続く。同性を平然と自分の愛人(と言ってよいのやら)の贄として差し出してくるとは恐ろしいというか呆れたというか…

 しかし、原作を読み返してみるともっととんでもないことになっている雪地獄。原作の方では、壁のみならず床や天井(!)まで一面に全裸の美女…いや、全裸の美少年、美少年がみっしりという、何だかもう考えたヤツの正気を疑いたくなる空間となっています。
 原作に忠実なことでは屈指のせがわ忍法帖ながら、今回この辺りがずいぶんとすっきりしているのは不満…というわけではないのですが少し不思議には感じました。まあ、ただでさえ拉致監禁…とまずいことをやっているわけで、これ以上アレなことになってコンビニで封印シールを貼られてしまっても困るので、まあそれはそれで仕方ないのかな。

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「新版丹下左膳」(再録)

 「コミック乱TWINS」で連載されていた作品の単行本。もちろん丹下左膳といえば林不忘先生のあの丹下左膳なのですが、今作の原作というか原案は巨椋修氏の同名小説。そのため左膳やお藤、ちょび安の設定は不忘先生のものとは異なりますが、作品の中で縦横に暴れる左膳のキャラクターは、怪奇性こそ大幅に薄れているものの、我々の頭の中にある豪快な自由人の左膳のそれとさほど違わないように思えます。

 しかし何よりも特筆すべきは、米良仁(またの名を白井影二と言えば、古くからのゲームファンならわかっていただけるでしょう)氏の画。ペンの繊細さと筆の力強さを合わせ持った線で描かれる登場人物や江戸の風景は、時代物としてのラインを抑えながらも、どこか洒脱でモダンなセンスを感じさせて、そういうところも何だか不忘先生の作品を感じさせるのでした。

 と、私は大好きなこの作品なのですが、今回の単行本には大きな問題が一つ。
 実はこの単行本、連載されていたものの完全収録ではなく、そのうちの9話8エピソードを収録したもの。実際には30回近い話数があったので、あと2巻は出せる計算なのですが、何故か(何となく想像はつきますがね)このような不思議な形での単行本化で、個人的には非常に納得のいかない話。
 この単行本の売れ行き次第では続刊があるかもしれないので、私としては大いにプッシュさせていただきます。コンビニに並んでいたりもするので、もし見かけることがあったら、ぜひ。


 …というか、こんな中途半端なやり方をするのであれば、事前に通知していただきたい。そうすれば雑誌をスクラップしておくのに<無茶言うな


「新版丹下左膳」(米良仁 リイド社SPコミックス) Amazon bk1

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2007.02.10

「幕末機関説 いろはにほへと」 第十八話「宿命哀れなり」

 榎本を襲撃した左京之介らは、榎本の底知れぬ力の前に撤退。土方はその榎本の軍に加わる決心をし、続々と榎本艦隊に旧幕府軍が集結する。そこを再び襲撃する左京之介たちだが、覇者の首の力に憑かれたような兵たちの反撃に再度撤退、その混乱の中で耀次郎と赫乃丈は榎本に近づくが、赫乃丈の月涙刀が貫いたのは、耀次郎の体だった。

○ようやく榎本が姿を現した艦上を襲うチェス部隊…でも蒼鉄先生にはただのネズミ呼ばわり。にしても前回艦砲射撃をやったのは本当に祝砲だったのでしょうか。

○榎本の目前まで迫るも、ナイフ使いのルークは一睨みで硬直。一刀両断されかかった時に彼の命を救ったのは左京之介の銃弾でした。おお、すごく隊長っぽいよ! が、その後左京之介も榎本の眼力の前に引き金を引けず…

○そして土方は榎本の元へ。「将たる者の腹の底がわからなければ兵は命を賭けられない」、と言いますが、そりゃあ、あなたのところの大将はわかりやすい人だったでしょう。

○「お話があります」と言い出すので何か新事実があるのかと思ったら、また「秋月様の宿命は私の宿命でもあるのです」としか言わない座長。耀次郎はそんな座長と一刀を合わせてOKを出します。何だかよくわからないですが、納得されたようです。

○またどこかで特訓している左京之介とチェス部隊。ルークは榎本に怯えた自分が許せないようですが…さりげに死亡フラグだそれは。そして「God save the Queen」を合い言葉に戦闘へ。…微妙な発音だが気にしない

○各地から榎本艦隊に合流する兵の中に混じって潜入しようとする耀次郎たち。みんな普通にちょんまげ結ってる中で、一人いつもの髪型で混じってる耀次郎に吹きました。何か策でもあるのかと思ったら、速攻で土方に見つかってるのでまた吹いた。

○と、まさにその時突っ込んでくる左京之介の艦。が、榎本はまったく慌てず騒がず、応戦を命じます。そして乱戦になりますが…この辺りの戦闘描写は相変わらずいまいちなんだなあ。榎本に一直線に突っ込むルークですが、ナイフは尽くかわされ、兵士たちから滅多刺しに。ああ、やっぱり。しかし、恵比須とルーク、同じ声とは気付きませんでした。どちらも短命ね。

○その隙に耀次郎と座長が榎本に肉薄。何度か目の「覇者の首、封印!」の言葉と共に突っ込む耀次郎ですが、その背に刺さったのは座長の月涙刀。座長の目は覇者の首と同じ赤い光に…

○ここで何か古文書を読んでいる聖天様。どうやら関係のアイテムには、「覇者の首封印のための陰之大太刀」「首納めしカイチ紋徐福之壷」「その封印を破らせんがための陽之小太刀」があるようですが、しかし陽之小太刀が覇者の首を前にする時に…って先生、そういう大事なことは早く言って下さい!

○さすがの蒼鉄先生もこの事態は予想していなかったようですが、よろめく耀次郎の傍らにわざわざやって来て「哀れなり永遠の刺客」と囁いてしまうドSっぷりがたまりません。 そして耀次郎は海中へ…

○榎本は勝ち鬨を上げると、蝦夷へ進路を取るよう、艦隊に命じます。土方もそんな榎本に将の器を見ていよいよ舞台は蝦夷地へ…そして座長の絶叫で〆。


 前回の予告時から何となく予想していましたが、やっぱり座長に刺された耀次郎。足手まといという言葉では済まないほどのマイナス要因っぷりですが、時代劇のヒロインはそうじゃなくちゃな!<無茶言うな
 あ、重傷を負って水中に落ちたりして画面からフェードアウトするのも時代劇の主人公のお勤めなので耀次郎も心配していません。むしろ今まで無傷過ぎたんだ彼は。
 問題は誰が彼を救うかですが…太夫あたり?

 それにしても座長を凶行に走らせた白い月涙刀について、「その封印を破らせんがための陽之小太刀」という台詞がありましたが、つまりは覇者の首の封印を破らせないための刀という意味なのでしょう(最初「破らせるため」かと思った俺アホス)。だからこの小太刀は覇者の首が封印されていた東照宮にあったと。しかしそれが封印の解かれた覇者の首の間近にあるときは、逆に覇者の首を守る方向に向かうようで…ん、それ以前にこの小太刀があっても封印が解かれていたような。

 それはさておき次回予告では、しばらく出番のなかった一座の面子が勢ぞろい。座長、芝居してる場合じゃないよ! まあ、座長の心には一番の薬だと思いますが…恩田作監で絵の方は期待できそうかな。


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「サムライスピリッツ」(内藤泰弘版)(再録)

 長らく探した末、ついに発見した「トライガン」の内藤泰弘版「サムライスピリッツ」。ネットオークションなどではプレミア付き(と言ってもだいぶ安めですが)なのですが、近所の古本屋で300円くらいで買えて非常にラッキー。

 さてこの作品、内容的には一作目を基にしていますが、登場する敵キャラクターは、ボスの天草四郎を除きほとんど全てオリジナル。ストーリー展開も(…って、ゲーム中のストーリーはあって無きがごとしなのですが)オリジナルで、覇王丸と共に旅を続ける少年・小綱(オリジナルキャラ)の視点から物語を描いていくのがなかなか面白いところでありました。

 が、敵のデザインやら敵の所業が非常にグロテスク、悪趣味で、ちょっと、いやかなりインパクトがありました(よく小学生も読むゲーム雑誌上でやったもので…)。さらに作中の死者も尋常ではなく、一言でいえば、「先生、殺しすぎです」。とても不殺のガンマンが主人公の漫画と同じ作者とは思えない。

 とはいえ、初連載作品(?)でありながら絵柄やキャラクター描写についてはかなりの完成度であり、特に主人公の覇王丸については、その豪快さをうまく描き出せていたのではないでしょうか。
 また、クライマックスの決戦でピンチに陥った覇王丸たちの前に、かつて覇王丸が闘った剣士たちが駆けつけるシーンも、お約束ではありながら(というか、作中では皆このシーンがほとんど初登場なのですが、それが逆にインパクト大)実に格好良く描けていたと思います。惜しむらくは単行本わずか一冊であったためか、ラストが盛り上がってきたところでプツン、となってしまっており、これがせめてもう一巻多ければ、と思わずにはいられません。

 …それにしても小綱、もしかしてシリーズ第3作の「斬紅郎無双剣」で初登場した緋雨閑丸の元ネタ(の一つ)になったのでは、と、いらん勘繰り。


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2007.02.09

「殺しはエレキテル 曇斎先生事件帳」 美しき幻の大坂

 東北生まれで関東育ちの私にとって、関西、なかんずく大阪は、大げさに言えば異界に等しい世界。ましてや、江戸時代の大坂においてをや…といったところなのですが、そんな無知極まりない私に、フィクションながら大坂の町人の心意気と豊かな文化の姿を教えてくれたのが本書であります。

 本書の探偵役となるのは、曇斎先生こと橋本宗吉。傘屋の職人から身を起こしてかの大槻玄沢に蘭学を学び、語学、医学、それに電気学で知られた、大坂における本格的蘭学の祖と呼ばれた方であります(もちろん、実在の人物)。
 エレキテルと聞くと、やはり真っ先に浮かぶのは平賀源内先生ではありますが、あちらがエレキテルを見せ物的に扱ったのに比して、曇斎先生は科学的な研究対象として扱ったとのことで、本書のタイトルも、その辺りに絡んでおります。

 物語の基本的なパターンは、曇斎先生の蘭学塾「絲漢堂」の隣の寺子屋の師匠・平田箕四郎青年、あるいは箕四郎憧れの唐高麗物屋の一人娘・真知が持ち込んできた怪事件を、曇斎先生がその蘭学の知識を活かして快刀乱麻の名推理で解決するというもの。
 作者自らあとがきで「NHK金曜時代劇」のノリと言っているだけあって、軽い気持ちで楽しめる、肩の凝らない読み物となっています。
 毎回、事件を蘭学に絡めるという縛りがあるせいか、推理ものとしてはちょっとライトなテイストではありますが、あたかもミイラが動き出して被害者を一角獣の角で突き殺したかのような不可解な状況下の殺人事件を描いた「木乃伊とウニコール」のような、密室ものとしてなかなか面白い作品もあり、この辺りはさすが芦辺先生と思わされます。

 が――本書で何よりも目を引くのは、そして魅力となっているのは、江戸後期の大坂に暮らす人々の、明るくおおらかな姿でしょう。
 本書でも繰り返し述べられているとおり、当時、江戸城を中心に数多くの武士が居住し、大きな力を持っていた江戸に比して、大坂は人口に武士が占める割合も相当小さく、まさに町人の町、商人の町という状態。自然、武士に頭を押さえられることなく自由闊達に市民文化を生み出してきた当時の大坂の姿が、随所に描かれています。

 上で書かなかった、本書で描かれる事件の基本パターンとして、見当違いばかりするふんぞり返った奉行所の役人に無実の人が囚われ、彼らを救うために曇斎先生が乗り出すというものがあります。
 無能で事件をややこしくする権威主義の官憲というのは、探偵ものの――なかんずく素人探偵ものでは――定番ではありますが、本書ではそうした定番としての意味以上に、町人の武士に対する勝利の象徴として、描かれている感があります。

 これはもちろん、あまり露骨にやられるとかえって引いてしまいかねないスタイルではありますが、もちろんその辺りの匙加減は心得たもの。
 何はともあれ、どんな時でも自由で明るい精神を失わず、自分たちの文化と暮らしを誇りに思う姿には、町人の町・大坂の善き姿が現れていて、もちろんそれはあくまでも架空の、理想の姿ではあるのですが、本書の言葉を借りるならば「それは必ずしも幻想とばかりはいえなかった」という印象を受けました。

 さて、最後に触れておかなければならないのは、本書のもう一人のレギュラーである、東町奉行所の与力見習いのこと。上記の、見当違いばかりするふんぞり返った奉行所の役人というのはこの人物のことですが、これが実は歴史上有名な人物の若き日の姿であります。
 後に大坂の町で大事件を起こしたこの人物ですが(ってバレバレですな)、本書においては相当「黒い」人物。武士による支配を当然のものとして疑わず、蛮夷の学問である蘭学を軽んじる姿は、何だか鳥居耀蔵を思い出すほどですが、事件で失敗する度に、町人が幅を利かせる大坂に憎悪の念を募らせていくという、かなりの危険人物として描かれています。

 正直なところ、この人物の晩年の行動については、多くの書物において義挙と呼ばれ、悲劇の人物的扱いされることが多いのですが、本書の視点は非常に斬新で、衝撃を受けました。
 しかし、冷静に考えてみたら、大義名分をかざしたとはいえ、この人物が大坂の町を滅茶苦茶にしたのは間違いない話。もしかして大坂ではこの人物、かなり人気がないのかしら…と、今更ながらに思わされました(この辺りは地元の方に意見をうかがいたいところです)。

 こうした点も含めて、一冊で終わらせるにはもったいなさ過ぎる曇斎先生の活躍記。いずれまた、曇斎先生の名推理と気持ちよい大坂の姿に出会えることを楽しみにしております。


「殺しはエレキテル 曇斎先生事件帳」(芦辺拓 光文社文庫) Amazon bk1

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2007.02.08

「闇鏡」 室町の闇を映す物語

 ファンタジーノベル大賞の優秀賞として話題になった本作。室町初期の京の都を舞台に、一人の不幸な女性の死から始まって次々と引き起こされる奇怪な事件が鏡のように、時代の、人の闇を映し出していきます。

 検非違使庁の放免・清輔らが行き倒れた女性の死骸を見つけたところから物語は始まります。夫を捜して都に出たものの、不幸な運命のうちに逝ったその女性の死体には、しかし、毒殺の兆候が現れていたのでした。
 それから半月、清輔の上司である清原龍雪は、妖が出るという鬼殿で、奇怪な歌声を耳にします。その歌に予言されるかのように発生する、京随一の遊女の惨殺事件。捜査に当たる龍雪は、その現場に、以前自分に行方不明となった夫・猪四郎捜しを依頼してきた着草という女がいたことを知りますが、その着草こそは、半月前に毒殺されたはずの女で…
 果たして遊女を殺したのは着草の怨霊なのか。龍雪に夫捜しを依頼してきた着草は何者なのか。彼女が追い求める夫・猪四郎は何処にいるのか。そして一連の事件と、鬼殿の怪には如何なる関連が…

 本作の最もユニークな点は、何よりも、その良くも悪くも歪んだ部分を抱えたキャラクターたちの人物造形でしょう。
 強面で腕っ節は強いが霊にはからっきし弱い龍雪、何やら過去を背負った、寡黙ながら頭の切れる清輔、彼の弟分で無邪気な性格の元スリの蚕児、龍雪の親友の漏刻博士で、実は××癖のある義時…数多い登場人物の一人一人が、単なるステロタイプな人物像に留まることなく、エッジの効いた描写で、それぞれの個性を主張しています。
 本作は、生者・死者を問わず人間の思惑が絡み合って引き起こされる怪奇な事件を描く物語でありますが、キャラクターの人物造形は、その原因であり、結果であり、背景であり、主役でもあるという大事な要素。そこがしっかりと描かれていることが、本作の最大の魅力ではないかと思います。

 一方、物語については、一連の怪事が怨霊の仕業なのか、はたまた人間の仕業なのか、混沌とする中で少しずつ提示されてきた様々な構成要素が、終盤でぴたりぴたりとはまって一つの真実を浮かび上がらせる様が、なかなかに面白く感じられます。
 が…一件落着したかのように見えた事件の影に、やはり○○の××が――というオチは、物語に意外性というよりもかえってありがちなものという印象を与えてしまったかに見えます。

 もう一つ、個人的には何よりも、舞台となる京のアンダーグラウンドの世界の事物とその描写が、――もちろん極めて無知な立場からの印象なのですが――別に平安時代が舞台でもいいんじゃないかなあ…と思えてしまうのが、極めて残念であります。
 ストーリーの中心に位置するある人物の設定については、室町初期のこの時代でなければ成立しないものではあるのですが、京のアングラ世界は平安時代を舞台にしても成立し得るのではないかな、とこれは暴言ではありますが正直な感想であります。

 と、厳しいことも色々と書いてしまいましたが、それでもなお、上記のキャラクター描写等、魅力的な点もまた多い本作。作者の堀川アサコ氏にとってはデビュー作であることですし、これからの作品には大いに期待できるのではないかと思います。本作のキャラクターたちにももう一度会ってみたいですしね。


「闇鏡」(堀川アサコ 新潮社) Amazon bk1

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2007.02.07

今日の小ネタ 「柳枝の剣」漫画化

 何だか書きたいことがいろいろあった気がするのですが思い出せないので一つだけ。
「SAMON 柳生非情剣」 隆慶一郎「柳枝の剣」を漫画化
 「コミックマスターJ」の、「アクメツ」の田畑・余湖コンビが隆慶先生の「柳生非情剣」から「柳枝の剣」の剣を漫画化。既に「コミックバンチ」で描くことは発表されていましたが、掲載号も明らかになりました。それにしてもよりによってあの短編集の中で「柳枝の剣」――柳生友矩と徳川家光の禁断の愛を描いたあの作品を漫画化とは。
 私が最初に読んだときには、家光が友矩への愛に目覚める(というよりムラムラする)シーンが妙に迫力があって、それ以降のストーリーがさっぱり頭に残らなかったくらいなのですが、果たしてその辺りをどのように描き出すのか。何だか大変なことになりそうです(個人的にはむしろまた平井和正と関わるのが気になるんですが)。

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「妖愁」から(再録)

 菊地秀行先生の時代ホラー短編といえば、もちろん「幽剣抄」が浮かびますが、そちらに収録された以外にも、時代ホラー短編は存在します。今回は、短編集「妖愁」に収録された三作品を紹介。

「不敗剣」
 剣を取らせては並ぶ者のいない男。数十人を斬って得られたもの思しきその技だが、時は天下太平、そのようなことができるわけもない。ある事件をきっかけにこの男と係わることになった剣士が知ったその真相は…

 ここで扱われている○○○という現象はさほど(?)珍しい題材ではありませんが(菊地先生の作品でも主役を張っているキャラもいますし)、それに一ひねり加え、剣豪小説としてもホラーとしても水準以上の作品に仕立て上げた作者の技は見事と言うほかありません。
 それにしても○○○の男は何を考えていたのか…想像してみると、その心理が一番恐ろしいかもしれません。


「切腹」
 さる北国の離島で、侍が立て続けに変死する事件が起きる。いずれも切腹していたその死骸は、しかし、みな作法に外れて腹の上の方を切っていたのだ。侍たちは何故切腹したのか、そして何故奇妙な作法で腹を切ったのか?

 と、この作品もネタ的にはさほど珍しくなく(作者自身、何編か過去に扱っています)、他の時代・場所で描かれてもおかしくないようにも一瞬思えるのですが、それに切腹という「風習」を絡めることによって、一気に異常かつ奇怪な「時代小説」を紡ぎあげているのには驚かされました。
 まさにこの時代でなければ描けないホラーと言ってよいでしょう。三作の中では一番気に入りました。


「ある武士(もののふ)の死」
 ある「もの」に愛されたかのような快男児の一代記。

 岡本綺堂で言えば「青蛙堂鬼談」というより「三浦老人昔話」的作品であり、作者自身も述べている通り、ホラーという印象は薄い作品ではあります。が、そんなことは作品の善し悪しに関係ないのは言うまでもないところ。
 ある意味ラストの一発が全ての作品なので、ここではあまり内容に触れることができませんが、この不思議に美しいラストシーンは、是非ビジュアルで見てみたいと感じました。


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「くもはち。」 くもはちもう一つの物語

 恥ずかしながら大塚英志氏の「くもはち」にもう一つ漫画版があることを先日知りました。単行本版「くもはち」のイラストを担当した西島大介氏が「メフィスト」誌に掲載した「くもはち。」です。

 掲載されたのは全六編(特段最終話という記載はなかったように思いますがですが、とりあえず現時点では、ということで)。「衝立の乙女」「耳なし芳一」「草ひばり」「鮫人の恩返し」「夢を食うもの」「団子をなくしたおばあさん」と、いずれも小泉八雲の怪談を題材としたエピソードとなっています。原作者である大塚氏は、本作において「原案」としてクレジットされており、つまりは物語の基本設定を使って西島氏がある程度自由に物語を作ったものなのかな、という印象で、大塚作品お得意の伝奇性、偽史観といったものは、ほとんど影を潜めています(もっとも、「くもはち」自体、そういった要素は表面的には希薄ではあるのですが)。
 しかし、それがかえって、くもはちとむじなのコンビの、呑気でのほほんとした、妙に親しみやすいムードを強めている印象があり、物語性を弱めたことで、キャラクターものとしての本作の姿がより浮き彫りになったのかな、という印象を受けた次第です。

 実はイラストはともかく、西島氏の漫画を読んだのは初めてだったのですが、可愛い中にも毒一滴垂らされているような絵柄はそのままに、漫画として不思議な躍動感があって、なかなか楽しく読むことができました。
 そういった点からすると、サメ少女の暴れぶりが楽しい「鮫人の恩返し」と、様々な悪夢の奔流が吹き出すシーンが不思議な味わいを見せる「夢を食うもの」が、個人的には強く印象に残ったところです。

 初めは食い合わせが悪いのではと思った組み合わせですが、いやはやこれは嬉しい誤算でした。諸手を上げて傑作! というわけではありませんが、原作とは少し違ったベクトルで、不思議な魅力のある作品です。


「くもはち。」(西島大介 「メフィスト」2003年5月~2005年1月)


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2007.02.06

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 嘘も方便…?

 一週おいての今週の「Y十M」、あろうことから自分から駕籠の中に七人の女人がおわすと言い出した沢庵和尚ですが…なんと次に言い出したのはとんでもない内容。 どこかの誰かさんのように荒淫が過ぎた将軍様、そのご寵姫の中でも特に色好みの七人の御手付きの御中臈を、松平伊豆守らと計らって出羽まで連れてきたと…いやはや、吹きも吹いたり、将軍様をダシにしての恐るべきはったりです。嘘も方便とはいえ、「さかりを落とす」とまで言われたほりにょたちの心中や如何に。あと、引き合いに出された伊豆守様も。

 が、そんな沢庵和尚ならではのはったりを銅伯は無視。そりゃあそうでしょう、家光と言えば衆道一直線、柳生は柳生でも次男坊の友矩ラヴの家光様が…あ、いや、それはともかく、銅伯は七つの駕籠の垂れを斬って落とせと言い出します。会津四十万石と引き替えにする覚悟で。

 江戸時代と言えば葵の御紋を粗末に扱っただけで大変なことになってしまう時代。たとえ嘘の確率が99%であっても、将軍様にご寵愛を受けた女人たちに無礼を働けば、冗談ごとではなく四十万石吹っ飛んでもおかしくはない。もちろん、これは裏を返せばはったりをかました沢庵和尚の方も同じで、これが嘘とバレればただでは済みますまい(まあ、この人のことだから「これは冗談冗談」と笑ってごまかしかねませんが)。

 そんなリスクの高すぎるバクチで両老雄がにらみ合っていた頃、般若侠十兵衛も活動開始。無闇に個性的なビジュアルの芦名衆三人組にちょっかいを出しますが、これが意外な強敵。十兵衛に「!!」とエクスクラメーションマークを出させた上でも大したものです。というより…江戸で倒された連中よりも強いのではないかしら(これはまあ、修羅の国の名も無き修羅みたいなもんだと思います)。

 それでも何とか三人を倒したと思いきや、最後の力を振り絞った芦名衆は狼煙に点火。異変は銅伯たちの知るところとなりますが、さてこれが吉凶いずれに転じますか。というより、元から十兵衛は狼煙に火をつけようとしていたわけで…

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2007.02.05

久々に小ネタ集ですよ

 今日は諸般の事情で小ネタ集でございます。
テレ朝“火7時代劇”今秋終了
 いきなり悲しいお話から。うーん、さすがにゴールデンタイムに流すには厳しかったのかもしれないですが、スペシャル番組ではなかなか冒険もできないだろうし、実質テレ朝時代劇の火は消えたようなものか…もう期待できるのはNHKとテレビ東京のみのようです(関東圏では)。


「超忍者隊イナズマ!!SPARK」キャスティング発表
 と、嘆いていても仕方がない。テレ朝時代劇の火はこんなところに飛び火していました。昨年発表されたコミカルSF時代劇ムービー「超忍者隊イナズマ!」の続編「超忍者隊イナズマ!!SPARK」に、「轟轟戦隊ボウケンジャー」ボウケンレッド役・高橋光臣さんと、風のシズカ役・山崎真実さんが登場。それぞれ江戸時代のモノホン忍者と未来世界の新人アイドル役ということですが、ボウケンレッドの中の人は私生活でも赤フン締めてそうなイメージ(あくまでも勝手なイメージ)があるので、絶対時代劇似合うよ!
 いや、これをもって時代劇を云々するのは本当にどうかと思いますが、こういう形で若い役者さんが時代劇の世界に触れてくれればなあ…と個人的には思う次第。


「オルタナティブ戦国メディア」がわかる「太秦戦国祭り」を開催
 そんな時代劇って言ったら怒られそうだけどやっぱり時代劇な作品も増えている中で、そういうメディアを一括りにした概念が登場。「ネオ時代劇」なみに奇っ怪なワードですが、これはこれで面白い見方ではあると思います。TVや小説など既存の時代もの業界(?)では掬いきれない潜在的時代ものファン層というのは、確かにあるわけで――実を言えば、拙サイトもそういう層を向けて頑張っていきたいと思っているのですが――なかなかよい着眼点だと思います。ぶっちゃけ、時代ものオンリーイベントとどこが違うのか、というつっこみはあるかと思いますが。
 ちなみに公式サイトブログもあります。…うむ、実に香ばしい。


「無双OROCHI」発売決定
 上記のような「オルタナティブ戦国メディア」の一つとも言える「無双」シリーズの最新作は、「真・三国無双」+「戦国無双」の特別編ということで…
 あー、「ガンダム無双」といい、色々と大変なんだなあと思います。だからいつになったら「水滸無双」をやってくれるのだ! もちろん絵は正子公也先生で!<無茶言うな


「絵巻水滸伝」第六巻以降値上げに
 正子公也先生と言えば悲しいお話が。本ブログでも新刊が出るたびに取り上げてきた「絵巻水滸伝」全十巻のうち、これから刊行される第六巻以降は千円値上げとなるというお話です。いや、個人的には何円になろうが必ず買うので、それはそれで別にいいのですが、ブログの告知記事に書かれた赤裸々な販売状況の話がなんとも切なくて…。先着千名のはずの全巻予約特典トランプの告知がいつまでも入っている時点で微妙な雰囲気だったのですが、やっぱり…orz
 イラスト・ストーリーともに日本屈指の「水滸伝」物語であると自信を持って断言できるこの「絵巻水滸伝」が、これほど不遇な状況にあるというのは、本当に悲しいことです。
 本朝時代伝奇の遠祖とも言うべき「水滸伝」が、日本のクリエイターの手で絵物語として甦るというのは、なかなかに素晴らしいこと。この労作を、少しでも多くの方に手にとっていただけるよう、この拙サイトでも微力ながら、いやいや大いに力を込めて応援していきたいと思います。

 と、悲しいお話で始まって悲しいお話で終わるヤな小ネタ集、おしまい。


 おっともう一つ、Web拍手へのお返事です。上にもあるとおり、ちゃんと最近のも見ていますよ! 時代もの絡みでないとこのブログで記事を書かない(書けない)のが残念ですが…


関連記事
 「絵巻水滸伝」第1巻 日本水滸伝一方の極、刊行開始
 「絵巻水滸伝」第2巻 正しきオレ水滸伝ここにあり
 「絵巻水滸伝」第3巻 彷徨える求道者・武松が往く
 「絵巻水滸伝」第四巻 宋江、群星を呼ぶ

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2007.02.04

「天保異聞 妖奇士」 説十七「幽世」

 マスラオが山崎屋に気砲を売ったことを知ったアビと往壓。一方、用心棒として先に寮に入り込んでいた元閥と宰蔵は、平田篤胤に心酔する山崎屋から、国津神=古き民の世を取り戻すため、障害となる鳥居耀蔵を暗殺すると聞かされるのだった。暗殺計画を見過ごすことを良しとせず、寮に侵入したアビと往壓は二人を救出。山崎屋が隠匿していた妖夷を探すが、そこに異界の扉が開き、アビの姉ニナイが現れる…

○天井に張り付いていたキモい妖夷に新兵器の仕掛け扇子を放つ宰蔵。独楽のように回転し竹とんぼのように飛んで、骨から鉤つきの糸を放って妖夷を絡め取ります。が、するりと逃げられて…

○奉行や老中を呼び捨ての往壓を叱りながら手当てしてくれる小笠原様はいい人。そういえば往壓は小笠原様は「さん」付けして、呼び捨てにしないようです。

○何故か吉原で酒盛りしている狂斎・マスラオ・アトル。狂斎は縛られるものがない古き民をうらやましがりますが…こういうところがお子ちゃまなんですね、この人は。所詮アトルたちの気持ちは分かっていないわけで…と、一気飲みしたアトルはダウン。「二十一世紀では未成年者の飲酒は禁じられています。」のテロップが愉快です。

○部屋に押し入ってきた何やら物々しい得物の連中に妖夷の肉を食べさせられるえどげんと宰蔵。これは妖夷の肉と言いかけた宰蔵の顔面にヒジ打ち叩き込むえどげんヒドス。顔はやめて! 私役者なんだから。そして山崎屋は二人に秘匿していた妖夷を見せますが、それは天井に張り付いていた妖夷。食べても再生していくというのは視肉を思い出させます。

○差別されている古き民たちの境遇を憤る山崎屋。その手には本居宣長の「古事記傳」がありました。実は山崎屋は宣長の弟子(正確には没後の弟子ですが)の平田篤胤に学んでいたのでした。蘭学も国学も、というのはちょっと面白いような気がします。

○山崎屋にえどげんと宰蔵に掛け合う往壓とアビですが、二人はいなくなったと言われるばかり。姉捜しに逸るアビは寮に潜入しますが、そこに現れたのは変態ブーメラン鎌の遣い手で用心棒のリーダー格らしい米吉。前回の狙撃犯の一人でもあります。アビのことを知っているらしく、自分も「山の民」と言いますがアビはこれを否定…はて。

○一方、得々と平田神学を講義する山崎屋。プロのえどげんはフン、という表情の一方で、アホの子モードに入った宰蔵は百面相。それはともかく、国津神が天津神に世界を譲って去った先が幽冥界。そして幽冥界を古き民の住む地の隠喩だと考えた山崎屋は、山の民こそが国津神だと言い出します。そして国津神に再びこの世を支配させる第一歩として、江戸を追放された平田篤胤を呼び戻そうとします。そのために、追放を命じた鳥居を暗殺するのが最終目的で…

○実は逃散した農民だった米吉。仲間たちと逃げた先で見つけた小屋の食べ物を口すれば、実はそこはアビたちの集落で…この後仲間を失った米吉は、以来「山の民」になりたいと願い、ニナイにすがってきたと言いますが…と円盤雲七に乗って来た往壓にアビ

○二人を妖夷中毒にして自分の手足として使おうとする山崎屋。残念! すでに二人とも中毒です。中毒患者のフリをするえどげんが楽しそうだな。それはさておき、えどげんはプロ(?)の立場から山崎屋の説を一笑に付し、むしろ妖夷が国津神の末裔でないかと語りますが、まあこちらの方がどちらかというと説得力があります。

○山崎屋の狙いを知った小笠原様は跡部に報告。が、跡部様は山崎屋を利用して、自分たちにとっても邪魔者である鳥居を除こうとしますが…相手が妖夷に関わっている以上、自分たちの敵。それに狙われる者を放ってはおけないと、小笠原様は跡部に反論します。この辺りの良い意味の青臭さが小笠原様の魅力ではありますが、そのうち幕府を敵に回しそうで恐ろしい。

○往壓とアビに救い出された二人ですが、そこに現れたのは白い微妙に人型の妖夷。あ、何かに似ていると思ったらテレホマンだ。なつかしー

○ついに姉をさらった妖夷と対面しエキサイトするアビは、往壓を押しのけてまで自分が倒そうとしますが…姉さんはどこだ! と叫びながら銛を刺したら、妖夷はしなびてしまいました。これはアビが悪い。

○と、そこに現れたニナイは、なんと漢神を操ってしなびた妖夷をあっさりと復活させますが…そしてニナイに気を取られていたアビは妖夷にバックを取られて格好悪いところで次回に続く。


 アビ篇の第二回目は起承転結の承と転とでも言うべき内容。一見、奇士の任務には関係ないように見えた老中・勘定奉行狙撃事件の真の狙いが示されると共に、そこに妖夷が思わぬ形で絡んで奇士の扱うべき事件になるというストーリー展開には納得。
 さらに、漂泊を余儀なくされる者と、それに憧れる者の姿をそこに絡め、物語全体を貫く「ここではないどこかを求める心」というテーマにつなげてくる構成の妙には唸らされました。

 さて今回の目玉は妖夷と「古事記」の思わぬ関わり。ものがものだけにうるさ方も多く、下手に扱うと大変になりそうな題材ではありますが、なるほど、狂信的な人間が勝手に言っていることという扱いにしているのは、えどげんによるフォローも含めてうまい処理です。

 とはいえ、妖夷が出現して、それにニナイが絡んでいるのは間違いのないところ。公式サイトの次回予告を見ると、衝撃的な事実が書かれてしますが…相変わらず容赦ないな、この番組。予告ナレーションの「人はそれを自由と呼ぶのだろう。のたれ死にの自由、と」という言葉にも震えました。


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2007.02.03

「幕末機関説 いろはにほへと」 第十七話「議無用なり」

 耀次郎と別れて仙台に入った土方は、弱腰の諸藩の態度に業を煮やすが、その場に榎本の名代として参加していた蒼鉄の笑みが印象に残るのだった。一方、耀次郎は赫乃丈を巻き込まないために行動を別にしようとするが、赫乃丈は自分も耀次郎と同じ宿命があると一手指南を求める。その頃、土方の来訪を受けた蒼鉄は、土方が新たに仕えるべき主君、新たに戦うべき戦場を提示する…

○島田ごついよ島田。耀次郎や土方と同じ世界の住人とは思えません。土方はあっさりと耀次郎と別れて島田たちの方へ行ってしまうのが残念。

○荒事の似合う歌舞伎者を欲しいという榎本の言葉(蒼鉄談)に従い、土方たちを乗せようとする蒼鉄。榎本は引きこもりとのことですが、蒼鉄に「君の書いた台本を写しているのではあるまいな?」って鋭い言葉を投げかけたブリュネに対する蒼鉄先生の顔が悪すぎて愉快です。

○食道楽つながりの師匠の口利きでお寺に厄介になる耀次郎。と思いきや和尚は「しょくはしょくでも色の方じゃがの」と。耀次郎逃げて逃げてー(そっちか)と思っていたら、突然機嫌を悪くしたような顔で耀次郎はどこかに行ってしまいます。カップル扱いに腹を立てた?

○青葉城の軍議にいつの間にか加わっている蒼鉄先生。弱気過ぎる東北人たちに業を煮やして立ち上がる土方が脇を通った時に「さすがは土方様…」と呟いて土方の注意を引く蒼鉄先生がいやらしすぎます。それにしてもこのシーンの恭順派の重臣たち、妙にカリカチュアしてあって東北出身者としては見ていてあまり気分良くないシーンです

○一方、何だか久々感のあるチーム神無(と、公式サイトに書いてあった)。チェス部隊は榎本艦を自分たちだけで落としてみせると豪語していますが、それって失敗フラグだと思います

○やたら気の利く和尚さんに食べ物を持たされて耀次郎を追う座長ですが、耀次郎はものっそ不機嫌そうなツラ。「巻き込みたくない」「道が違う」「思いこみ」「帰ってくれ」とたたみ掛けるように座長に言い放ちますが、単に拗ねているようにしか見えないのは耀次郎の人徳。一方、説得が効かぬと見るや手鞠唄を歌い出す座長ですが、こちらも効果なし。端から見ていたら面白いカップルだな…

○一方、城から帰って稽古に汗を流しながらも蒼鉄先生のことが頭から離れない土方。そりゃあ蒼鉄先生は魔性の男だからな。思わせぶりな態度で人の気を引くことでは天下一品です。

○血相変えて刀を掴んで飛び出す座長に慌てる和尚。それはさすがに勘違いでしょう…と思ったら、一手御指南をと言いつつ耀次郎に白刃を向けたのでこっちも驚きました。一方、ついに蒼鉄のところにやってきた土方。主君のために死ぬと言い切る土方に、蒼鉄先生は「徳川は滅びますよ」と断言して土方を激昂させますが…。この辺り、二組のカップル(違 の対峙を交互に描く演出がちょっと面白いですね。

○土方の一撃をかわして文字通り懐に飛び込んだ蒼鉄先生は、なおも徳川は滅ぶと繰り返し、土方の心を揺さぶります。一方、滅茶苦茶に突っ込んできた座長をかわしたら勢い余って崖から落ちかかったので抱き留める耀次郎。この辺りの対比が蒼鉄と耀次郎の人物の違いを表しているようで愉快です。

○チェス部隊の攻撃が続く中、いきなり艦砲をブッ放す榎本。煙の中に傲然と立つ姿は、貫目が違います。

○白月涙刀を持ったストーカーに弱っていますという耀次郎の手紙に「まずいぞ…」と呟く聖天様。やはりOP映像のように、二人が対峙することになるのでしょうか。

○榎本が撃った大砲を、土方を迎えるための祝砲と言い、さらに榎本艦隊への参加者リストを見せた上に、「あなたには直にご署名を」と筆を差し出す蒼鉄先生の口説きテクニックにはもうなんと言ってよいのやら…このシーンの蒼鉄先生は、大げさに言えば、ファウスト博士を誘うメフィストフェレスのようでありました。


 さて、もう今回はひたすら蒼鉄先生のたらしっぷりが全てと言ってよいように思いました。思わせぶりな態度で引き寄せて、いきなり相手の信じていたものを完全否定した上で、動揺したところにその代わりとなるものをちらつかせて誘うというのは、実際に宗教の勧誘等であるテクニックですが、天下の土方相手にそれをしれっとした顔でやってしまうのが恐ろしい。覇者の首なんぞよりもよっぽどこちらを封印する必要があると思います。
 それに比べて、おぼこい座長一人の扱いに困ってわたわたする耀次郎ときたら…らしいと言えばらしいのですが、人間の格が違いすぎて可哀想にすらなってきます(まあ、部下からハブられて出番なくなるヤツの方がもっと可哀想ですが)。
 そして次回、何だかよくわかりませんが耀次郎はひどい目に遭うようですが…白月涙刀に斬られた?


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2007.02.02

「平安陰陽奇譚 天狗変」 若き陰陽師、天狗の怪に挑む

 若き日の賀茂光栄と安倍晴明の姿を描く「平安陰陽奇譚」の第二弾が本作「天狗変」。怪異が頻発するという八坂寺で、光栄と晴明が再び師・賀茂保憲からの課題に挑むことになります。

 高僧・浄蔵大徳に招かれて八坂寺に行くこととなった保憲に強引に同行しようとした晴明の巻き添えで、自分も行くこととなった光栄。そこで光栄と晴明は、保憲から八坂寺で頻発するという怪異――天狗の跳梁により、幾人もの僧が傷つけられ、ついには死者まで出たという――の原因究明を課題として出されます。
 師にいいところを見せんと勇躍捜査にあたる二人ですが、その前に待っていたのは、陰陽師への冷たい視線(これは晴明が悪い)でありました。そして浄蔵の結界に護られたはずの寺院に出没する天狗の正体を探るうちに二人が目の当たりにした、寺院内の複雑な人間関係は、事件を思わぬ結末に導くことになるのでした。

 前作同様、陰陽道や、それが立ち向かう怪異について、独自のロジカルな解釈を見せる本作。この中で描かれる陰陽の術は――少なくとも光栄や晴明のものは――決して万能でも無敵でもないのですが、それだけに、怪異の奥に潜んだ人の心の恐ろしさと、一方それに立ち向かおうと、たとえ今は及ばずとも努力する心の尊さが伝わってくるように思えます。

 もっとも、怪異を引き起こしていた犯人については、ちょっと面白いミスリーディングもありはするものの、はっきり言って途中で容易に想像はついてしまうのは残念なところではあります。
 しかし犯人像としては、なるほどこの時代のこういう立場の人間であれば、こうなる奴も皆無ではあるまいと思わされると同時に、現代にも絶対いるなこういう奴…と言いたくなるような存在感があり、なかなかうまい造形であったと思います。
 また、犯人探しの過程で二人が出会う、寺院内の様々な人間関係についても、妙にリアル…というより生々しく書き込まれていて、それがまた、天狗やら陰陽師やらが活躍する物語に、地に足が着いた安定感を与えていると言えるでしょう。

 その一方で、光栄と晴明の凸凹コンビぶりは相変わらず実に愉快。特に、才能と素質はあるけれども、学問と努力は大嫌いで、ヒマさえあれば色事に血道を上げる本作の晴明は、既存の「カッコイイ」イメージとは一線を画した、こんな晴明見たことねえ! と言いたくなるようなキャラで、その存在自体が本作の見所の一つと言っても良いかもしれません。
 また、その朴念仁ぶりを遺憾なく発揮した光栄の生真面目さも、晴明の暴走ぶりとは好一対で、この二人の全く異なる、しかし共に何とも好ましいパーソナリティーがあるからこそ、一歩間違えれば相当に後味の悪くなりかねないこの物語を、ユーモラスな青春物語に変えているのだと思わされます。

 と、陰陽師という手垢の付いた題材を扱いつつも、本作ならではの独自の視点で楽しませてくれる本作なのですが、もう一つ、本作ならではの点があります。それは…男色という要素が前面に押し出されていること。
 前作でもこの要素はありましたが、本作では舞台が寺院ということもあってもう大変。美童を巡る坊主たちの醜い争いも重要なファクターになっていることもありますが、何よりも晴明に歯止めが利かなくなっております。
 元々男女を問わず色好みな晴明ですが、師であり光栄の父である保憲に並々ならぬ憧れを抱く晴明。そもそも今回の事件に二人が巻き込まれることになったのも、坊主ばかりの寺に保憲様を一人で送り込むなんてとんでもねえ! と晴明が一人でエキサイトした結果であって…いや、ここまで突き抜けられるとかえって笑えるのでいいのですが。
(実際にコトに及ぶシーンはありませんし、ノーマルな恋愛もありますので念のため。まあ、ラストは超ショタエンドですが)

 というわけで、必ずしも万人におすすめできると言い難い部分もあるものの、総じて水準以上の作品と言える本作。是非続編を…と思うのですが結局、現時点に至るまで本シリーズは二巻で(つまり本作で)中絶している状況です。
 最後に挙げた点も含めて、ハードカバー書き下ろしではなく、例えば女の子向けライトノベルレーベルからのリリースであれば、また全く違った展開もあったのではないかと思うと、残念でなりません。


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2007.02.01

「魔京」第一篇「さまよえる京」 ゆらぐ世界の中心に

 「SFマガジン」誌上で隔月連載されている朝松健先生の「魔京」。連載第一回のプロローグを読んで、これはある程度まとまるまで読むのを我慢しよう、と決めていたのですが、ついつい堪えきれずに読んだ第一篇(連載第二、三回)が実に面白く、驚かされました。
 古代から近未来に至るまでの、この国の「京都(みやこ)」の姿を巡る物語である本作の実質上の始まりとなるのは、大化の改新後の大津宮を舞台とした物語です。

 天智天皇(中大兄皇子)を支える藤原鎌足配下の密偵・角鹿漢人が、鎌足の命で高句麗から盗み出した二体の像。それこそは、鎌足の言によれば「京都(みやこ)そのもの」「神のごときモノ」でありました。
 世界の中心が存在がために、時空が定まらず混沌とした倭国。倭国に中心を与え、時空を安定させることが大化の改新以降の鎌足の政の真の目的であり、この像こそが我が国における世界の中心となるべきものなのでした。
 中臣氏に伝わる秘法により、鎌足の、中臣氏の蓄積してきた知識・秘儀の全てを授けられた漢人は、その像に選ばれた中大兄の娘(後の持統天皇)に仕え、その教育係となりますが、それがやがて、鎌足の思惑を超えて事態を動かすことに――

 この第一篇を一読して、何よりもまず驚かされたのは、「世界」の中心が存在しないために、その存在する時空が安定しないという、古代日本の「世界」観。
 それぞれの氏族がそれぞれの神を信奉していたが故に、世界を統べる法が定まらず、それ故に天皇家以外の有力豪族は平らげられ、そして仏教が導入される必要が――そして更に「京都」が定められる必要が――あったという古代史観には、頭をガツンとやられた気分になりました。
 かつて作者は傑作アクション・ホラーシリーズ「魔術戦士」の中で、古代日本が世界中の邪神が封じられた、悪の流刑地であったという説を示しましたが、今回のインパクトは、それを遙かに上回るものがあったかと思います。
 そして――世界を、時空を確たるものとして規定するために、世界を客観化する存在の必要性を描いた点からは、宇宙のゆらぎの中から悪夢めいた超常現象が生まれるというメカニズムを提示した、作者のライフワークたる逆宇宙理論と表裏一体のものを感じたことです。

 このような魅力的なアイディア、それだけで優に長編一本分はありそうなガジェットが詰め込まれているものの、分量的には短編であるため、この第一篇は展開的にはかなり圧縮された姿となっています。が、それがかえって物語に年代記的味わいと、淡々と歴史が紡がれていく一種の凄みを与えているかに思える…というのは褒めすぎかもしれませんが、正直な感想であります。

 さて、この第一篇は、それ自体独立したものとして読むことができますが、一つの巨大な物語としては、まだまだその全貌は見えない状態です。
 第一篇の結末で誕生した「日本」という国が、如何なる運命の中でその都を移すこととなったのか。「京都」の、「世界」の中心たる一対の存在、コワスミヤコとツクルミヤコとは何者なのか。そして、いかなる歴史と運命を経て、序章で描かれた近未来の東京を襲った惨劇につながっていくのか。謎は無数に存在しています。
 現在中編までが掲載されている第二篇では、平安末期の源平の争いの中で、都の生命の争奪戦が描かれています。この先、伝奇というフィルターを通して、どのように「京都」という存在が描かれることとなるのか、楽しみでなりません。
 そしてそれは同時に、日本という「国家」の、そしてその歴史の、正体を探る試みになるのではないかと感じている次第です。


「魔京」第一篇「さまよえる京」(朝松健 「SFマガジン」2006年9月号、11月号掲載)

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