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2007.02.02

「平安陰陽奇譚 天狗変」 若き陰陽師、天狗の怪に挑む

 若き日の賀茂光栄と安倍晴明の姿を描く「平安陰陽奇譚」の第二弾が本作「天狗変」。怪異が頻発するという八坂寺で、光栄と晴明が再び師・賀茂保憲からの課題に挑むことになります。

 高僧・浄蔵大徳に招かれて八坂寺に行くこととなった保憲に強引に同行しようとした晴明の巻き添えで、自分も行くこととなった光栄。そこで光栄と晴明は、保憲から八坂寺で頻発するという怪異――天狗の跳梁により、幾人もの僧が傷つけられ、ついには死者まで出たという――の原因究明を課題として出されます。
 師にいいところを見せんと勇躍捜査にあたる二人ですが、その前に待っていたのは、陰陽師への冷たい視線(これは晴明が悪い)でありました。そして浄蔵の結界に護られたはずの寺院に出没する天狗の正体を探るうちに二人が目の当たりにした、寺院内の複雑な人間関係は、事件を思わぬ結末に導くことになるのでした。

 前作同様、陰陽道や、それが立ち向かう怪異について、独自のロジカルな解釈を見せる本作。この中で描かれる陰陽の術は――少なくとも光栄や晴明のものは――決して万能でも無敵でもないのですが、それだけに、怪異の奥に潜んだ人の心の恐ろしさと、一方それに立ち向かおうと、たとえ今は及ばずとも努力する心の尊さが伝わってくるように思えます。

 もっとも、怪異を引き起こしていた犯人については、ちょっと面白いミスリーディングもありはするものの、はっきり言って途中で容易に想像はついてしまうのは残念なところではあります。
 しかし犯人像としては、なるほどこの時代のこういう立場の人間であれば、こうなる奴も皆無ではあるまいと思わされると同時に、現代にも絶対いるなこういう奴…と言いたくなるような存在感があり、なかなかうまい造形であったと思います。
 また、犯人探しの過程で二人が出会う、寺院内の様々な人間関係についても、妙にリアル…というより生々しく書き込まれていて、それがまた、天狗やら陰陽師やらが活躍する物語に、地に足が着いた安定感を与えていると言えるでしょう。

 その一方で、光栄と晴明の凸凹コンビぶりは相変わらず実に愉快。特に、才能と素質はあるけれども、学問と努力は大嫌いで、ヒマさえあれば色事に血道を上げる本作の晴明は、既存の「カッコイイ」イメージとは一線を画した、こんな晴明見たことねえ! と言いたくなるようなキャラで、その存在自体が本作の見所の一つと言っても良いかもしれません。
 また、その朴念仁ぶりを遺憾なく発揮した光栄の生真面目さも、晴明の暴走ぶりとは好一対で、この二人の全く異なる、しかし共に何とも好ましいパーソナリティーがあるからこそ、一歩間違えれば相当に後味の悪くなりかねないこの物語を、ユーモラスな青春物語に変えているのだと思わされます。

 と、陰陽師という手垢の付いた題材を扱いつつも、本作ならではの独自の視点で楽しませてくれる本作なのですが、もう一つ、本作ならではの点があります。それは…男色という要素が前面に押し出されていること。
 前作でもこの要素はありましたが、本作では舞台が寺院ということもあってもう大変。美童を巡る坊主たちの醜い争いも重要なファクターになっていることもありますが、何よりも晴明に歯止めが利かなくなっております。
 元々男女を問わず色好みな晴明ですが、師であり光栄の父である保憲に並々ならぬ憧れを抱く晴明。そもそも今回の事件に二人が巻き込まれることになったのも、坊主ばかりの寺に保憲様を一人で送り込むなんてとんでもねえ! と晴明が一人でエキサイトした結果であって…いや、ここまで突き抜けられるとかえって笑えるのでいいのですが。
(実際にコトに及ぶシーンはありませんし、ノーマルな恋愛もありますので念のため。まあ、ラストは超ショタエンドですが)

 というわけで、必ずしも万人におすすめできると言い難い部分もあるものの、総じて水準以上の作品と言える本作。是非続編を…と思うのですが結局、現時点に至るまで本シリーズは二巻で(つまり本作で)中絶している状況です。
 最後に挙げた点も含めて、ハードカバー書き下ろしではなく、例えば女の子向けライトノベルレーベルからのリリースであれば、また全く違った展開もあったのではないかと思うと、残念でなりません。


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