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2007.02.08

「闇鏡」 室町の闇を映す物語

 ファンタジーノベル大賞の優秀賞として話題になった本作。室町初期の京の都を舞台に、一人の不幸な女性の死から始まって次々と引き起こされる奇怪な事件が鏡のように、時代の、人の闇を映し出していきます。

 検非違使庁の放免・清輔らが行き倒れた女性の死骸を見つけたところから物語は始まります。夫を捜して都に出たものの、不幸な運命のうちに逝ったその女性の死体には、しかし、毒殺の兆候が現れていたのでした。
 それから半月、清輔の上司である清原龍雪は、妖が出るという鬼殿で、奇怪な歌声を耳にします。その歌に予言されるかのように発生する、京随一の遊女の惨殺事件。捜査に当たる龍雪は、その現場に、以前自分に行方不明となった夫・猪四郎捜しを依頼してきた着草という女がいたことを知りますが、その着草こそは、半月前に毒殺されたはずの女で…
 果たして遊女を殺したのは着草の怨霊なのか。龍雪に夫捜しを依頼してきた着草は何者なのか。彼女が追い求める夫・猪四郎は何処にいるのか。そして一連の事件と、鬼殿の怪には如何なる関連が…

 本作の最もユニークな点は、何よりも、その良くも悪くも歪んだ部分を抱えたキャラクターたちの人物造形でしょう。
 強面で腕っ節は強いが霊にはからっきし弱い龍雪、何やら過去を背負った、寡黙ながら頭の切れる清輔、彼の弟分で無邪気な性格の元スリの蚕児、龍雪の親友の漏刻博士で、実は××癖のある義時…数多い登場人物の一人一人が、単なるステロタイプな人物像に留まることなく、エッジの効いた描写で、それぞれの個性を主張しています。
 本作は、生者・死者を問わず人間の思惑が絡み合って引き起こされる怪奇な事件を描く物語でありますが、キャラクターの人物造形は、その原因であり、結果であり、背景であり、主役でもあるという大事な要素。そこがしっかりと描かれていることが、本作の最大の魅力ではないかと思います。

 一方、物語については、一連の怪事が怨霊の仕業なのか、はたまた人間の仕業なのか、混沌とする中で少しずつ提示されてきた様々な構成要素が、終盤でぴたりぴたりとはまって一つの真実を浮かび上がらせる様が、なかなかに面白く感じられます。
 が…一件落着したかのように見えた事件の影に、やはり○○の××が――というオチは、物語に意外性というよりもかえってありがちなものという印象を与えてしまったかに見えます。

 もう一つ、個人的には何よりも、舞台となる京のアンダーグラウンドの世界の事物とその描写が、――もちろん極めて無知な立場からの印象なのですが――別に平安時代が舞台でもいいんじゃないかなあ…と思えてしまうのが、極めて残念であります。
 ストーリーの中心に位置するある人物の設定については、室町初期のこの時代でなければ成立しないものではあるのですが、京のアングラ世界は平安時代を舞台にしても成立し得るのではないかな、とこれは暴言ではありますが正直な感想であります。

 と、厳しいことも色々と書いてしまいましたが、それでもなお、上記のキャラクター描写等、魅力的な点もまた多い本作。作者の堀川アサコ氏にとってはデビュー作であることですし、これからの作品には大いに期待できるのではないかと思います。本作のキャラクターたちにももう一度会ってみたいですしね。


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