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2007.02.26

「絵巻水滸伝」第五巻 三覇大いに江州を騒がす

 全十巻予定の絵巻水滸伝も、いよいよ折り返し地点の第五巻。江州を舞台として、前半のクライマックスにふさわしい大激闘が繰り広げられることとなります。
 第四巻終盤で、江州に流刑されてきた宋江。江州に着いた早々、彼が出会ったのは、江州に覇を唱えて対立する三人の顔役――混江竜李俊、没遮闌穆弘、船火児張横。更に神行太保戴宗、黒旋風李逵ら名だたる豪傑と知己を得た宋江ですが、宿星の導きによるものか、はたまた宋江の天然のトラブルメーカーぶりによるものか、あれよあれよという間に江州の豪傑たちは、官軍と激しくぶつかり合うこととなりますが…

 と、この辺りの展開は原作通りではあるのですが、水滸伝ファン、武侠小説ファンとして面白いのは、その最中に差し挟まれる李俊の過去エピソード。開始当初よりオリジナルエピソードを交えて描かれてきた本作ですが、一章丸々割いて描かれるこのエピソード「迷竜」は、原作にはない完全なオリジナル展開ながら、武侠小説の香り高い――というより、この「絵巻水滸伝」はオリジナル展開になると武侠色が強くなる傾向にあるのですが――佳編であります。

 時を同じくして江州に現れた二人の男――一人は一切の記憶を失って河から現れた男・李俊。もう一人は昔年の怨讐を抱いて異境からやってきた剣鬼・鐘剣。暴力と恐怖で江州を支配せんとする鐘剣の凶剣の前に数々の幇会が屈していく中、若き穆弘が、張横が、そして李俊が如何に戦いを挑んだのか?
 完全オリジナルなだけに先の読めない中、ハードなタッチで展開されるこのエピソードは、確かに、比較的原典の流れに沿った展開の中に挿入されると、違和感を感じないでもありません。しかし、「水滸後伝」では主役級の人物な割には、本編でのキャラクターが今一つはっきりしないように思われる(というのは私個人の感覚ではありましょうが)李俊のキャラ立てとしてはなかなか面白い試みだと思うのです。

 と、李俊のことばかりになってしまいましたが、江州を舞台にしての官軍と好漢たちの総力戦は、宋江の放浪の旅の掉尾を飾る――という言い方はおかしいかもしれませんが――戦いだけに、危機また危機の上に、次々と豪傑好漢が登場、活躍してくれて痛快の一言。個人的に一番驚いたのは黄門山一党の活躍ぶりで――特に原作ではチョイ役以外の何者でもなかった摩雲金翅欧鵬が、正子公也氏の美麗な挿絵に飾られて欧鵬史上最高の活躍をしてくれるので欧鵬ファン必見。

 そして本書終盤では新たなる好漢二人、楊雄と石秀(それにしてもこの二人が義兄弟の契りを結ぶ場面の、石さんのいきなり「弟になってもいいぜ」「昔から、あんたみたいな兄貴が欲しかったんだ」発言は…なんというか、こう…)が登場。楊雄夫妻の悲劇的なエピソードを挟んで、ラストには、水滸伝屈指のヒロインである一丈青扈三娘が登場、というところで以下次巻ということになって、何とも気を持たせられることです。

 誠に残念かつ口惜しいことに、シリーズの売れ行きがあまり芳しくないため、第六巻以降は定価を千円値上げとのことですが、水滸伝ファンにとってはそれくらい安い安い。これからも変わらずこの「絵巻水滸伝」を買い続けると共に、力を入れて紹介し続ける所存です(と言いつつ、第六巻が発売されてから第五巻を紹介するというのは誠にお恥ずかしい限りですが…)。


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