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2007.02.21

「異聞胸算用」 恐ろしき江戸伝説

 ホラー・ミステリシーンで一躍時の人となった感のある平山夢明先生。先日、このブログでも紹介いたしました「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」が発表されましたが、何と講談社の「KENZAN!」誌での連載も予定されているということで、時代ものファンとしても非常に気になる存在となってきました。そこで、その平山先生が以前、時代伝奇アンソロジー「伝奇城」に発表した短編時代ホラー群「異聞胸算用」をここに紹介いたします。
(本当は「井戸端婢子」発売の直前後の時期に書こうと思っていたんですがタイミングがずれてしまったのが不覚)

 この「異聞胸算用」に収められたのは四つの短編。荒屋の床下から現れた福禄寿めいた存在が招くおぞましい地獄絵巻「福禄童を買い請けんとせむ事」、何もかも厭になって野良犬になろうとした男の物語「けだもの指南」、兄に破れた剣士がおぞましい秘法でもって妹に祟る顛末記「妖産記」、土中の石箱の中から現れたものが呼ぶ奇瑞を描いた「石箱を拾うの事」と、いずれも分量こそは少ないものの――特に「「超」怖い話」読者にとっては――ああ、いかにも平山先生だな、と感じられる作品ばかりとなっています。

 この中で一編、ということになれば、ほとんどの人は「福禄童を買い請けんとせむ事」を選ぶのではないでしょうか。物語の中心となる「福禄童」のフリーキーな姿といい、クライマックスでそれが語る人間地獄といい、ラストのおぞましい幕切れといい――まこと平山節というべき内容であります。
 が、個人的に一番気に入っているのは「けだもの指南」であります。ふとした事から転がるように人生を転落し、人として生きる気力を失った主人公が、「野良犬になりたい」と思う。その、人間がフッと、道を踏み外していく瞬間、人間という殻が壊れてしまう瞬間を切り取って見せた様が、何とも印象的な作品でありました。

 先日の「井戸端婢子」の紹介の際にも触れた、「時代もの」を如何に描くか、という点における試行錯誤は、本作からも強く感じられるものであり、その意味ではまだまだ発展途上の印象はあります。また、異形コレクションに掲載された作品群に比べるとずいぶんとおとなしいものではありますが、それでもなお、いやそれだからこそ、「平山作品」としての味わい、魅力はこの短編群から感じ取れるのではないかと思う次第です。
(個人的には、「時代もの」という制限要素があった方が、平山作品の爆発力がより高まるのではないかと、今後の展開に懼れつつ期待しているところであります)


「異聞胸算用」(平山夢明 光文社文庫「伝奇城」所収) Amazon bk1


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