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2007.02.15

「異の葉狩り」 夢と現が交差するホテルで

 朝松伝奇時代劇の中でも、極めて特異な位置を占めているのがこの「異の葉狩り」。ホラーアンソロジー異形コレクションの「夏のグランドホテル」に収録された一編ですが…グランドホテル?

 本作の舞台となるのは、ある夜に催された交霊会の席。ひどく陰鬱で、昏くおぞましい空気の漂うその場に居合わせたのは、語り手「私」と、その主君たる「殿」、そして「上人」と、霊媒たる「眠り目殿」の四人…いやもう一人、歳の頃は二十五六の快活な青年僧でありました。
 と、交霊の儀式がうまくいかず小休止となったとき、「私」が青年僧の勧めるままに提案したのは、「異の葉狩り」なるゲーム。各人が一つ、己の「忌み言葉」を決めた上で、「菟玖波集」に収められたある人物の和歌を交互に挙げ、自分の「忌み言葉」の入った歌が詠まれたものが、輪から抜けていくという趣向の、なかなか風流かつミステリアスなゲームです。

 そして開始される「異の葉狩り」ですが、ゲームが進むうちに場の空気はいよいよもって変容し、そしてゲームの脱落者もまた、奇怪にゆがみ変容していくこととなります。
 ここから先の物語で展開されるのはひたすらの地獄絵図。現実が徐々に変容し、待ち受ける破滅にむけてひた走っていくのを描くのは作者の得意とするところですが、本作においては、ゲームの進行と軌を一にして徐々に不穏な空気が高まっていき、この世のものならぬ惨劇につながっていく様がサスペンスフルに描かれています。

 が、本作が収められたのは「夏のグランドホテル」。いわゆるグランドホテル形式の名の通り、一つのホテルを舞台に、様々な人間模様が描かれるという趣向の一冊なのですが――しかし物語の舞台となるのは、現代ではありえない時と場所。さてこれは一体…
 この謎が、交霊会のそもそもの目的が、そして青年僧の正体が一気に明かされるラストは、ある意味反則気味ではありますが、時空に見事に風穴を開け、魔境を描き出してみせた作者の業にはただ感心です。
 ぼかされている部分もあり、きっちりした物語がお好みの方は不満な点もあるかもしれませんが、この夢と現が交差した瞬間の夢魔めいた空気感は、それを補って余りあるものがあると思うのです。


「異の葉狩り」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 夏のグランドホテル」所収) Amazon bk1

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