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2007.03.31

「時の行者」 歴史の何たるかを教えてくれた人

 歴史の流れの中で、十年ごとに現れては不思議な能力を見せる少年がいた。人々から時の行者と呼ばれる彼は、どれほどの時が流れようとも、昔と変わらぬ姿で現れ、その時代の人々と関わっていく。戦国時代から関ヶ原の戦、大坂の陣を経て江戸時代…様々な時代をさまよい、時の行者は歴史の動きを目撃していく。

 こんなサイトを作っている以上、もちろん私は日本史好きなのですが、さてそもそも何故日本史が好きになったのだろうと考えてみると、思いつくのは、子供の頃に兄が古本で買ってくれたワイド版の「時の行者」全四巻の存在。
 この作品こそ、私に歴史の面白さというものを教えてくれた先生とも言うべき存在です。

 この作品は、戦国時代末期から江戸時代後期までを舞台とした連作的内容。数十年毎に、昔と変わらぬ姿で現れ、不思議な力を発揮する謎の少年・時の行者を狂言回しに、様々な歴史上の事件が描かれます。
 その題材となる事件がまた、実にバラエティ豊か。本能寺の変や大坂の陣といったメジャーどころのみならず、浄瑠璃坂の仇討ちや天一坊事件など、教科書には載らないけれども時代ものではお馴染みの事件まで、実に様々な事件が、時の行者の目を通して描かれていきます。

 そしてまた、もう一つ忘れてはならないのが、そうした事件に登場する人物たちが、実に生き生きと、血の通った存在として描かれていることでしょう。さすがは大ベテランの横山先生のこと、どの人物も個性的に、また魅力的に描かれています(個人的には、後藤又兵衛が一番印象に残りました…後藤又兵衛ファンはぜひ一読を)。
 もちろん、本当にその人物が本作の描写の通りの人物であるという保証はなく――いや当然ながらかなりの部分でフィクションだと思いますが――しかし、教科書や年表に登場するような事件の陰には、単なる情報の羅列ではなく、まぎれもなく生きている人間がいたのだという、当たり前といえば当たり前のことを、本作は小さかった頃の私に教えてくれました。

 さて、本筋にはあまり大きな影響は与えないと思いますのでバラしてしまいますが、時の行者の正体は、未来世界からやって来た時間旅行者。ある目的を持って過去世界を訪れた彼は、未来の科学力によって、当時の人間から見れば神通力としか思えない力を発揮しますが、しかし、時が来ればまた自分の世界に戻らざるを得ない、存在です。
 横山ヒーローにおいては、その超絶の能力ゆえに局外者として周囲から阻害されることがままありますが、その孤独の度合いは、ある意味、この時の行者が最も大きいかもしれません。なんと言っても、自分はあくまでも過去においてはかりそめの客、そしてどれほど努力したとしても、目の前の歴史を変えることは叶わないのですから――

 しかし、例えば本作の終盤のエピソードにはっきりと現れているように、それでもなお、歴史に残らない無名の人々を救うために精一杯の力を尽くす時の行者の姿には、冷徹な時間の流れに負けぬヒューマニズムの発露が感じられて、ほっとさせられるものがあります。

 歴史上、教科書には登場しないような部分にも様々な事件が、事物が存在すること。そして表に現れる部分も現れない部分も、歴史とは有名無名を問わず人の営みの集合であること。当たり前といってはまったく当たり前ではありますが、この作品を読んで以来、私の歴史を見る目が少し変わったのは間違いのないところです。

 …そして今に至る(笑)


「時の行者」(横山光輝 講談社漫画文庫全三巻ほか) 上巻 Amazon/中巻 Amazon/下巻 Amazon

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