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2007.03.29

「江戸群炎記」 まつろわぬ者の刃は炎となって

 江戸時代前期を舞台としたまつろわぬ者たちの物語である本作は、その題名通りに、江戸の闇の世界に燃え上がった幾つもの炎の如き人々の生きざまを描いた重厚な作品です。
 主人公・早野小太郎は、将軍家光の近習・松平定政(この名前を聞いて、おっと思った方はなかなか歴史に詳しい方と存じます)に仕える青年武士。彼が同門の親友の誘いで遠乗りに出た先で、奇妙な一団を率いる美女と行き会ったのが、物語の始まりとなります。

 その頃、江戸では幕府に主家を取り潰された浪人たちが溢れている状態。そんな中、小太郎は浪人たちに慕われる軍学者・由比正雪、そして町奴たちを束ねる幡随院長兵衛と次々に出会うこととなります。さらに彼は、吉原でその名を誇る霞太夫と巡り会いますが、彼女こそは、かつて小太郎が原野で出会ったあの女・鵺鳥。小太郎の名を知った鵺鳥は、彼に異常なまでに興味を示します。
 何故ならば彼女こそはかつて関東にその名を轟かせた風魔一族の末裔。彼女は一族を導く風魔小太郎の生まれ変わりを探していたのでありました。
 一方、小太郎の主君である松平定政は、浪人に対して同情的な立場を取るが故に、時の老中・松平伊豆守と対立。家光の寵愛厚く、全国に派遣した廻国与力の情報網により隠然たる権力を誇る怪人・中根壱岐守と結んだ伊豆守の前に、定政は孤立を深め、それは遂に思いも寄らぬ行動に彼を走らせることとなります。
 そして柳営と市井と…二つの世界で繰り広げられる暗闘は家光の死により遂に沸点に達し、あの史上有名な事件へと物語はなだれ込んでいくこととなります。

 図らずも吉原の無縁の者や風魔たち古きまつろわぬ者たちと、浪人や町奴ら新しきまつろわぬ者たち――その双方を結ぶ存在となった小太郎は、果たして如何なる生き方を選ぶのか…本作は、家光の死の前後の時代のマクロな動きを描くと同時に、時代の流れに翻弄される一人の青年の魂の遍歴を描いています。
 分量的には、並みの作品の倍近くある作品ですが、伝奇的ガジェットもさることながら、小説的にもなかなかに充実した内容であり、一気に読み通すことができました。

 正直なところ、吉原を無縁の者の砦として描くのは、どうしても「吉原御免状」という大先達が連想されてしまい、マイナスにこそなれあまりプラスにはならないという気もするのですが、その一方で、浪人や町奴を、新たなるまつろわぬ者として無縁の民と等置する視点には大いに感心いたしました。
 思えば、まつろわぬ者という概念自体、人をまつろわせる存在――権力があってこそ成立するもの。とすれば、まつろわぬ者は決して遠い過去の存在ではなく、その時代時代で新たに生まれてくる者なのでしょう。

 さて、結末にいたり、まつろわぬ者の反撃の刃は、文字通り炎と化して江戸を焼き尽くしたことが暗示されますが、しかしそれは単に権力の座にある者のみならず、同時に多くの市井の人々をも傷つけるもの。かつての友の前に姿を現した小太郎の姿からは、その代価の重たさと、彼の往く道の険しさが強く伝わってきて、粛然とさせられたことです。


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