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2007.03.09

「御隠居忍法 亡者の鐘」 御隠居、山中の陰に迫る

 何だか久しぶりな気もする「御隠居忍法」最新作は、元御庭番の御隠居・鹿間狸斎が、排他的な山中の寺領で起きた僧侶の死の謎に挑みます。
 今回の舞台は、御隠居の住まいのある村から山一つ向こうの天領。その山中で、江戸東叡山(寛永寺)から派遣された住持が、鐘つき堂の吊り鐘の下敷きになって死に、それ以来、その怨霊が夜中に鐘を鳴らすという噂が流れます。狸斎はかつての上役の紹介で江戸からやって来た青年武士に協力して、その「亡者の鐘」の謎と、住持の死の真相を追うこととなるのですが…

 江戸から遠く離れた地を舞台とするためか、これまでも地方特有の(?)閉鎖性が物語の随所に現れ、御隠居の手強い敵として立ち塞がってきた本シリーズですが、それは本作でも健在。
 天領に棲みながらも、極めて排他的で外界の人間に冷たい住人たちから、時に間接的に、時に直接的に妨害を受けて、御隠居は今回も孤独な戦いを強いられることになります。誰が本当の敵なのか、誰が本当のことを言っているのかわからないまま暗中模索を続ける御隠居の姿からは、本シリーズに共通の、乾いた味わいというべきものが感じられます。

 が…正直なところ、本作はかなり地味な印象があります。御隠居のアクションはいつもよりも抑え気味に感じられますし、結末で明かされる真相も、これまでのシリーズに比べるとかなり地味で…エンターテイメント的にはもっと盛り上げられるだけの材料があっただけに、少々残念です(もっとも、この盛り上がりをあえて避けるような流れも、高橋作品の味わいではあるのですが)。
 さらに付け加えれば、上記の印象には、今回御隠居が本来であれば四面楚歌の状況にも関わらず、危機感がいささか薄い点が影響を与えているようにも思えます。これはどの辺りから来ているのかな、と考えてみると――直接的にではなく、あくまでも間接的であるにせよ――御隠居が今回はほとんどの場面において幕府や代官所といった権威の側に立っていることから来ているのかな、と思わないでもありません。

 シリーズ自体の安定感は言うまでもないことなのですが、あまり主人公の立場に安定感が出てくるのもちょっと考え物なのかもしれませんね。


「御隠居忍法 亡者の鐘」(高橋義夫 中公文庫) Amazon bk1

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