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2007.04.26

「不知火殺法」その二 一瞬の必殺技に照らし出される命と魂

 それでは昨日の続き、残る三作品の紹介です。

バスク流殺法
 突然ですが、本書の中で最大の問題作であります。
 本作の主人公・弥次郎は実在の人物で、作中で語られているようにザビエルを日本に導いたと言われる男。それ故ザビエルが登場する作品にはかなりの頻度で現れ、伝奇ものでも、スピロヘータ氏やら古の邪神やらの来日に一役買っているのですが、それはともかく。
 その弥次郎が日本に誘うこととなったザビエルですが、本作のザビエルは、バスク人の末裔にして、彼らの間に伝わる跳躍術と武術の達人。険しい岩山でも一瞬の間に昇降し、束ねた布で相手の武器を無力化するという怪人であります。そしてそのザビエルが日本を目指した理由というのが、かのアトランティス大陸で用いられていたという伝説の金属オリハルコンを求めてだったという…
 何だか本題そっちのけでそちらのインパクトだけで頭が真っ白になりそうですが、かつて人を殺して日本を捨てた弥次郎が、彼を仇と狙う伸縮自在の伊東流管槍の使い手と対決するクライマックスの決闘シーンはなかなかのもの。日本の槍術vsバスク流跳躍術という異次元の対決は、全く異なる武術同士の激突が生む緊張感に溢れており、また遠近死角なしの管槍の意外な弱点の面白さといい、さすがは、と言ったところでしょうか(ラストにまた妙な不条理感が漂っていて何とも言えないのですが)。


韋駄天殺法
 紀州藩で暗闘を続ける二つの権力の代表として秘事の伝令として走ることとなった長距離ランナー同士のデッドヒートを描いた本作は、手矢vs鼻捻という武術対決もあるものの、むしろ「走る」という行為に焦点を当てることに、作者の意識はあったのかな、と感じられます。
 オチが早い段階で読めてしまい、それがまたなかなか情けないものがあって、読後感は正直なところあまりよろしくないのが残念。


妖異南蛮殺法
 巻末の本作は、蒲生氏郷配下で傭兵として活躍した山科羅久呂佐衛門こと元ローマ兵・ロルテスの姿を描いた作品。全然妖異ではないロルテスの技は、いわゆるフェンシングなのですが、現代の日本人としてはどうしてもスポーツとしてのそれを思ってしまうこの武術を、戦国武士を向こうに回してもひけを取らぬ南蛮殺法として、描くのが本作の面白さでしょう。
 それほどの技を持ちながらも、武士としての栄達を求めず、己の活躍の対価としての金のみを求めるロルテスの一種ドライなキャラクターも面白いのですが、それが彼にとって仇となる幕切れの皮肉さは、最後の決闘のオチがバレバレであることを差し引いても、なかなかに印象的です。


 以上六編いずれも、凄まじい技を持ちながらも時代の流れには勝つことができなかった無名の男たちの命と魂が、一瞬の必殺技の火花で照らし出される様が印象的な作品ばかりです。
 例えば同じ作者の短編集でも、「柳生殺法帳」などに比べると豪華さという点で一歩譲るかも知れませんが、ヒーローなき世界での男たちの生きざまという新宮作品の特色(の一つ)は、むしろ本作のような作品の方がよく現れているのかなと、本書を通読して、改めて感じた次第です。


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