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2007.04.19

「相剋の渦 勘定吟味役異聞」 権力の魔が呼ぶ黒い渦

 勘定吟味役・水城聡四郎が徳川幕府の権力の闇に迫るシリーズも、もう第四巻。権力に媚びず諂わず、たとえ我が身が窮地に陥っても己を曲げない好漢・聡四郎の冒険は、いよいよもって危険域に入って参りました。
 前巻ラストで遂に新井白石に逆らい、己の正義を貫いた聡四郎は、予想通り白石に睨まれてただでさえ危うい地位がさらに危うい状況に。そんな聡四郎に宿敵・紀伊国屋文左衛門が接近、甘言でもって聡四郎を惑わさんとします。
 その一方で、いまだ幼い徳川家継の将軍就任を巡って、幕閣、さらには御三家の間で熾烈な暗闘が繰り広げられ、幾多の犠牲者が生じる状態。そんな中、多大な権力と財を生む長崎奉行の定員削減の動きが表面化し、それに不可解なものを感じた白石は背後を探ろうとしますが…結局人望・人材不足の白石に引っ張り出されて、聡四郎は探索に当たりますが…

 徳川幕府の「権力の魔」を伝奇的手法で描かせたら当代きっての名手たる上田先生ですが、今回はいつにも増して状況は混迷の一途を辿り、主人公たる聡四郎と一緒に、読者たるこちらも途方に暮れるほどです。
 何せ、権力闘争のプレイヤーからして、
・新井白石
・間部越前守と月光院
・柳沢吉保
・井伊掃部頭
・尾張吉通
・紀州吉宗
と大変な顔ぶれ。しかもそのそれぞれが相当の戦闘力の私兵を抱えているのですから、これが無事に済むわけがない。

 一方、我らが聡四郎の側では、聡四郎の師であり、武術面・精神面の後ろ盾である一放流の達人・入江無手斎に対して、前巻で存在が予告されていた数十年来の宿敵である剣魔にして一伝流興主・浅山鬼伝斎が遂に登場。しかもこの鬼伝斎、弟子が柳沢吉保配下で聡四郎の宿敵という因縁から吉保側について、聡四郎は更なる窮地に陥ることとなります。
 この一放流vs一伝流というマニア好みの達人対決が本書の一つのクライマックス、巨大な権力同士の相剋に留まらず、個対個の剣の対決をきっちり描いてくれる辺り、さすがエンターテイメントの骨法をわかっていると膝を打ちたくなります。

 もっとも、あまりに様々な要素を盛り込みすぎたためもあってか、かなりの部分を今後のヒキに回しているところもあり、シリーズ中の一巻としては十分以上に楽しめるものの、一冊の独立した作品としてはちと微妙な点はあります。
 また、本シリーズの特色である経済面からの切り口、この巻で言えば長崎奉行の定員問題が、あまり物語の本筋に絡まず、聡四郎を事件に引き寄せる導入部的役割で終わっているのが残念と言えば残念でありますが、ここまで面白い作品を前にして文句をつけるのも贅沢すぎるというものかもしれません。

 さて、本書の終盤では遂に聡四郎と徳川吉宗が接触。本作の他の人物同様、権力の魔に憑かれた吉宗との出会いが、これから聡四郎の運命に如何に影響することでしょうか(ここで「竜門の衛」とリンクしたら神なんですが…)。
 野暮を承知で年表を眺めれば、おそらくは物語の終幕となるであろう徳川吉宗の将軍就任まであと四年ほど(この巻では、月光院の侍女として歴史に名を残したあの人物も登場、まず間違いなくあの事件が今後の物語の題材となることでしょう)。果たしてそれまでに如何なる死闘が繰り広げられることか…というか、本当に我らが聡四郎は生き延びることができるのか? ちょっと本気で心配になってきました。

 そんな聡四郎さんの数少ない心の安らぎ、ヒロインの紅さんは、いつものことながら天下のお旗本を「あんた」「馬鹿」と呼んだあげく、その相手に見つめられると真っ赤になる見事なツンデレっぷりで、この二人の先行きも心配っちゃあ心配であります。


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