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2007.04.25

「不知火殺法」その一 ヒーローのいない世界で

 新宮正春先生と言えば、かの柴錬先生の後継者とも目された時代伝奇小説と、剣豪小説の名手。しかしながら私が見たところ、明らかにお二人の作風を隔てているのは、作中のヒーローの有無ではないかと思います。柴錬ヒーローについてはここで語るまでもありませんが、新宮作品においては、大袈裟に言えば、主人公はいてもヒーローはいないといったところで、そこが作品の味わいを大きく異ならせているのではないかと思います。
 この短編集「不知火殺法」も、そんなヒーローのいない世界で、己の術技に命をかけて決闘に臨む男たちの物語。彼らは皆、ヒーローでない、等身大の人間ではありますが、それだからこそ彼らの見せる必殺技は、彼らの生きざまを示す一瞬の光芒として、強く読者の胸に残るのではないかと思います。
 以下、収録の各作品についての紹介。

不知火殺法
 竿につけた糸と鉤針で巧みにムツゴロウを獲る有明海の漁師・げんざを主人公に、捨ててきた己の過去に、己の現在を傷つけられた男の怒りが描かれます。隠された過去を抱えて生きる男、というのは、時代ものに限らず様々なエンターテイメントにしばしば登場するモチーフ。大抵そのようなキャラは、実は滅法強いというのが定番ですが、本作ではその辺りに一ひねりが加えられていて、それだけにクライマックスの主人公の行動が、より印象的なものとなっています。
 ちなみにゲストとして晩年の宮本武蔵が登場。なかなか面白い立ち位置で、本作のスパイスとなっています。


少林寺殺法
 おそらくは本作がこの短編集の中で最もメジャーな人物を主人公とした作品でしょう。主人公は明から亡命し、尾張義直の客分として暮らす少林寺拳法の達人・陳元贇。その彼と対決するのは柳生十兵衛、そして二人を取り巻く登場人物の顔ぶれもなかなかに豪華であります。
 しかし単純な技比べの剣豪もので終わらず、明という祖国を失って異郷で暮らす元贇の索莫たる心中を描き出すのが味わいと言うべきでしょう(元贇と対比される存在として、朝鮮から日本に帰化し、柳生家に仕えた佐野主馬を持ってきたのが見事あります)。
 元贇と十兵衛の対決は、意外な、そして伝奇ファンとしてはニヤリとさせられる結末を迎えますが、その背後にもう一つの意志の存在をほのめかす結末が、また何とも言えぬ味を出しています。


紀州鯨銛殺法
 鯨取りの銛投げを得意とするしび六とともに、あの支倉常長を主役として描いた本作。常長の不思議な人物像が印象に残るのと同時に、祖国を捨てて海外に赴き、そこに留まることを余儀なくされた者の哀感が強く胸に残ります(その意味では丁度前の作品と対をなすものと言えます)
 常長は言うまでもなく、彼らが呂宋で出会う日本から追放された高山右近の一党もまた、帰るところを失い、ただ利用されて磨耗されていくだけの存在。その運命に、己の意地をかけて逆らおうとする常長と、クライマックスにその常長のために立ち上がるしび六の姿は、重い物語の中にあって、いやそれだからこそ、爽快とすら言えるものを見せてくれます。


ちょっと長くなってしまったので二回に分けます。


「不知火殺法」(新宮正春 集英社文庫) Amazon bk1

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